はじめに
現代のビジネス環境において、マーケティング思考はマーケティングやプロダクト職に限らず、セールス、CS、開発、コーポレートなどのどの職種においても非常に重要な思考法となっています。本記事では、マーケティング思考の中核となるWho/What/How思考について詳しく解説し、これを活用してビジネスを改善する方法をご紹介します。
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マーケティング思考とは何か
まず、マーケティングとは単なる販売促進活動ではなく、「自社商品が顧客から選ばれ続ける仕組み作り」を意味します。これは本質的にビジネスそのものであり、以下の3つの要素から構成されています。
Who:誰のどんなJOB(欲求)に対して
What:競合や代替手段がある中でどんな便益と独自性を
How:どのように提供するのか
この3つの要素を明確にして実行していくことことがマーケティング思考で、効果的なマーケティング戦略を立てることができます。
Who/What/How思考の詳細
Whoの詳細
Whoは、ターゲット顧客とその顧客が持つJOB(欲求)を明確にする部分です。
- どんな人:
- 性別、年齢、職業、家族構成、居住地域、価値観など
- 企業の場合は、売上、業種、規模、役職、役割など
- どんなJOB(欲求):
- きっかけ:その欲求が生まれる状況や背景
- 欲求:達成したいこと、解決したい課題
- 抑圧:欲求の実現を妨げている要因
- 報酬:欲求が満たされた時に得られる利益や満足感
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
Whatの詳細
Whatは、顧客に提供する価値と、競合との差別化要素(独自性)を明確にする部分です。
- 提供できる便益:
- 顧客が商品やサービスを利用することで得られる具体的な効果やプラスの状態
- 機能的、情緒的、社会的な観点から考える
- 提供できる独自性:
- 他の代替手段や競合他社と比較して持つ唯一無二の要素 ※トレードオフ&顧客が求めるのが必須
- 製品機能だけでなく、顧客体験、ブランド価値なども含む
- RTB(Reason To Believe):
- 便益と独自性が実現できる根拠
- 技術、実績、第三者評価など
便益や独自性についてはこちらの記事もご確認ください。
Howの詳細
Howは、顧客に価値を届ける具体的な方法を明確にする部分です。
- コミュニケーション:
- どのような訴求内容で
- どのような手段(広告、PR、営業活動など)を通じて
- どのようなタイミングで顧客に届けるか
- プロダクト:
- 具体的な商品やサービスの特徴
- 機能、デザイン、使い勝手など
- 場所:
- どの販売チャネルで提供するか
- オンライン、オフラインの選択
- 価格:
- 価格設定
- 課金方法(サブスクリプション、従量制など)
Howについてはこちらの記事もご確認ください。
Who/What/Howの現状チェック表
Who/What/Howの現状チェック表を作成しましたのでご利用ください。
カテゴリ | 質問 | はい | いいえ | 点数 |
---|---|---|---|---|
Who | ターゲットは誰で、どんなシーンでどんな課題を抱えているかは明確か | |||
Who | その量、シェアは明確か | |||
Who | 複数のターゲットと課題が明確か | |||
Who | Whoのそれらは社内で共通認識がとれているか | |||
What | 自社商品・サービスを使うとどんな効果があるか明確か | |||
What | 競合や代替手段がある中でなぜ自社商品・サービスを選ばれているのか明確か | |||
What | Whatのそれらは社内で共通認識がとれているか | |||
How | ターゲットとその課題、自社の便益、独自性にマッチした形でターゲットとコミュニケーションが取れているか | |||
How | ターゲットとその課題、自社の便益、独自性にマッチした形でプロダクトが開発、改善されているか | |||
How | ターゲットとその課題、自社の便益、独自性にマッチした形で価格設定がされているか |
使用方法:
- 各質問に対して「はい」または「いいえ」で回答してください。
- 「はい」の場合は1点、「いいえ」の場合は0点を点数欄に記入してください。
- すべての質問に回答後、点数を合計してください。
合計点数が高いほど、Who/What/Howが明確になっていることを示します。低い場合は、改善の余地があることを意味します。
Who/What/How思考の重要性
1. ビジネスの根本であるから
Who/What/How思考は、ビジネスの根本的な構造を表しています。顧客のJOB(欲求)を解決するために、企業が解決策を提供し、その対価を得るという基本的な取引の流れを明確にします。
2. 世の中の解決手段が多いから
現代社会では、顧客の問題を解決する手段が数多く存在します。そのため、自社の商品やサービスが「これが今の自分たちのJOBに合う最善の手段だ」と顧客に思ってもらうことが重要です。
3. 限られたリソースで効果的にターゲット顧客にアプローチするため
- リソースの最適配分:
- Who、What、Howを明確にすることで、限られたリソース(時間、資金、人材)を最も効果的な領域に集中投下できます。
- ターゲティングの精度向上:
- 明確なWho(ターゲット顧客)の定義により、マーケティングや営業活動の無駄を減らし、効率を高めます。
- コミュニケーションの最適化:
- What(価値提案)とHow(提供方法)を明確にすることで、顧客に最も響くメッセージと手段を選択できます。
- PDCAサイクルの効率化:
- 明確な指標を持つことで、施策の効果測定と改善のサイクルを迅速に回すことができます。
- スケーラビリティの向上:
- 成功モデルを明確にすることで、効果的な施策を素早く横展開し、事業規模を拡大しやすくなります。
4. 組織の一貫性と効率性の向上
- 共通言語の確立:
- Who/What/How思考を組織全体で共有することで、部門間のコミュニケーションが円滑になります。
- 意思決定の迅速化:
- 明確な基準があることで、新規施策の判断や既存施策の改善判断が迅速になります。
- 組織の方向性の統一:
- 全員が同じ顧客像、価値提案、提供方法を理解することで、組織全体の方向性が統一されます。
このように、Who/What/How思考は、ビジネスの根本を明確にし、競争の激しい市場で差別化を図り、限られたリソースを最大限に活用するために非常に重要な役割を果たします。さらに、組織全体の一貫性と効率性を高めることにも貢献します。
Who/What/Howの明確化がもたらす効果
Who/What/Howを明確にすることで、以下のような効果が期待できます:
- 顧客に選ばれる確率が高くなる
- コスト対効果が向上する
- 持続的な成長が可能になる
これらの効果により、限られた予算やリソースで、顧客に「これが今の自分たちの状況に合う手段だ」と思ってもらう率(数)を継続的に増やすことができます。
Who/What/Howの構築ステップ
Who/What/Howを効果的に構築するためには、以下のステップを踏むことが一般的にです。
- 事業環境把握
- Whoの明確化
- Whatの明確化
- Howの明確化
各ステップでは、PESTEL分析、5フォース分析、3C分析、SWOT分析などの手法を用いて、詳細な分析を行います。
今日からできるWho/What/How構築ステップ
しかし、上記のステップを完全に実施するには、相当なノウハウやリソース、時間が必要です。そこで、より実践的で迅速な方法として、以下の2ステップアプローチを提案します。
ステップ1:仮説でWho/What/Howの言語化
顧客や営業担当者に聞き取りを行い、Who/What/Howの各要素を言語化します。この際、以下の項目を明確にします:
- Who:どんな人か、どんなJOB(欲求)を持っているか
- What:提供できる便益、独自性、その根拠(RTB)
- How:コミュニケーション方法、プロダクトの特徴
ステップ2:一部Howで検証
言語化したWho/What/Howを基に、現状のHowと比較し、改善できる箇所を特定します。そして、最小の工数で検証可能な箇所から改善を始めます。
具体例の紹介
スターバックスの場合
- Who:自己学習に励む、2人暮らし、共働きの30代夫婦
- What:快適で充実した朝活でその日を始められる
- How:早朝からの営業、居心地の良い環境、こだわりのコーヒー
HubSpotの場合
- Who:事業の持続的成長をミッションとする中小企業のセールス責任者
- What:バラバラなビジネスデータを集約し、的確な意思決定と打ち手ができる
- How:ビジネスサイドでも使いやすいUI、情報の一元管理、充実したサポート体制
ターゲットの優先順位付け
Who/What/Howを明確にしていく過程で、複数のターゲットが浮かび上がるかと思います。しかし、予算やリソース、訴求できる物理的な場所には限りがあるため、ターゲットの優先順位付けが必要になります。
優先度の付け方には、以下のような指標を用いることができます:
- 市場規模(TAM、SAM、SOM)
- 成長率
- JOBの優先度
- JOBの競合の強さ
- 真似できない独自性か
- コミュニケーション施策の予測ROI
これらの指標を総合的に評価し、最も効果的なターゲットを選定します。
実践的なHow改善の進め方
Who/What/Howを明確にした後は、具体的なHow改善に着手します。以下のような手順で進めることができます:
- 事業全体、各チームの視点で改善すべき箇所を一覧化する
- 最小工数で検証可能な箇所から改善を始める
- 改善の効果を測定し、PDCAサイクルを回す
例えば、営業チームであれば以下のような改善が考えられます:
- 提案資料にWhoとWhatを明確に記載し、商談の成功率を測定する
- 商談をするターゲット条件を変更し、その効果を検証する
- 顧客の課題整理をJOB理解(きっかけ、欲求、抑圧、報酬)の観点で行う
- 受注、失注顧客のWho/What/Howを毎回言語化し、社内で共有する
よくある質問と回答
Q: 商品やサービスに独自性がない時はどうする?
A: 独自性は必ずしも商品やサービスの機能だけでなく、以下のような要素でも作り出すことができます:
- 顧客体験(UIUX、サポート、コミュニティなど)
- 情緒的要素(ミッション・ビジョンへの共感、ブランドによる安心感など)
- 革新と継続的な改善
- 特定セグメントへの特化
- エコシステムの構築
- 認知度
- 価格体系
Q: どうPDCAを回していくのか?
A: 仮説構築→実行→振り返り→仮説構築のサイクルを繰り返します。一度に大きな改善を行うのではなく、少ない工数で早く効果が測れる箇所を見定めて改善していくことが重要です。
Q: 社内をどう巻き込んで進めていけばいいのか?
A: 以下の2段階で進めることをお勧めします:
- マーケティング思考を理解しやすい経営層やマネージャー層を巻き込み、最小規模で検証を行う
- 成功事例を基に、より多くの社員を巻き込めるよう啓蒙し、人事評価やオペレーション、CRMの項目など、組織の仕組みを改善していく
まとめ
マーケティング思考、特にWho/What/How思考は、現代のビジネス環境において非常に重要です。これらを明確にすることで、顧客に「これが今の自分たちの状況に合う手段だ」と思ってもらう率を高め、限られたリソースで効果的な成果を上げることができます。
本記事で紹介した方法を参考に、まずは小規模から実践を始めてみてください。Who/What/Howを明確にし、継続的に改善していくことで、ビジネスが前進するはずです。
最後に、マーケティング思考の導入と改善は一朝一夕にはいきません。しかし、地道な努力と継続的な改善により、必ず成果につながります。ぜひ、今日から一歩を踏み出し、自社のマーケティング戦略を見直してみてください。
※本記事で紹介したテンプレートが欲しい方は、お手数ですが、本記事をXにてポストいただき、筆者のXにてDMいただければ幸いです。