数は質を凌駕する:ヒットを生み出すための「量産戦略」とは?東野圭吾と秋元康から学ぶ - 勝手にマーケティング分析
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数は質を凌駕する:ヒットを生み出すための「量産戦略」とは?東野圭吾と秋元康から学ぶ

ヒットを生み出すための「量産戦略」とは? 東野圭吾と秋元康から学ぶ マーケの応用を学ぶ
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はじめに

マーケティング担当者として、あなたは常に「ヒット商品をどうやって生み出すか」という課題に向き合っているのではないでしょうか。成功する商品やサービスを生み出すための方法を模索し、様々な理論やフレームワークを駆使しても、なかなか思うような結果が出ないという経験はありませんか?

その答えの一つが「数を出す」という、シンプルながらも強力な戦略です。これは東野圭吾や秋元康といった、日本を代表するクリエイターたちが実践してきた方法でもあります。彼らは膨大な数の作品を世に送り出し、その中から数々のヒット作を生み出してきました。

本記事では、「数を出すこと」の重要性をマーケティングの視点から解説し、それがなぜヒット商品を生み出す可能性を高めるのかを考察します。さらに、この戦略をビジネスに取り入れる具体的な方法や注意点についても紹介します。

成功への道は、一つの完璧な商品を生み出すことではなく、多くの可能性を試し、市場の反応を見ながら改善していくプロセスにあるのかもしれません。

なぜ「数を出す」ことが重要なのか?

「数打てば当たる」というフレーズを聞いたことがあるでしょう。これはギャンブルやスポーツなどで使われる言葉ですが、マーケティングや商品開発においても非常に重要な原則です。

成功確率の数学的視点

成功の確率を数学的に考えてみましょう。例えば、ある商品が市場で成功する確率が10%だとします。1つの商品だけを開発した場合、成功する確率は10%に留まります。しかし、10の商品を開発すれば、少なくとも1つが成功する確率は65%に上昇します。さらに、20の商品を開発すれば、その確率は88%まで上がります。

商品数少なくとも1つ成功する確率
110%
541%
1065%
2088%
3096%

このように、開発する商品やサービスの数が増えるほど、少なくとも1つが成功する可能性は飛躍的に高まります。これは当たり前のように感じますが、数を打てば成功する商品が出る確率が上がるということです。

森岡毅の確率思考との関連性

元USJマーケティング責任者の森岡毅氏は、著書「確率思考の戦略論」の中で、ビジネスの成功は「確率」で決まると述べています。彼のアプローチによれば、売上は複数の要素(人口、認知率、配荷率など)の積で表現できます。

売上 = 人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率 × エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入個数 × 年間購入頻度 × 購入単価

つまり、複数の製品やサービスを展開するや1つの商品でも最初からセグメントを絞らずにいくことで、市場の様々なセグメントにアプローチし、各要素の改善可能性を高めることができるのです。例えば、複数の商品ラインを持つことで、異なる顧客層への認知率を高めたり、様々な販売チャネルでの配荷率を向上させたりすることが可能になります。

イノベーションとの関係

イノベーション研究の第一人者、クレイトン・クリステンセン教授は、破壊的イノベーションには試行錯誤が不可欠だと指摘しています。多くの製品やサービスを市場に投入し、フィードバックを得ながら改善していくプロセスが、真のイノベーションを生み出す鍵となります。

数多くの製品を開発することは、単に「当たりくじ」を増やすだけではなく、市場のニーズを理解し、顧客の反応を学ぶ機会を増やすことでもあります。

東野圭吾と秋元康が生み出したヒット作品と成功の秘訣

日本を代表する作家の東野圭吾と作詞家・プロデューサーの秋元康は、「数を出す」戦略の成功例として知られています。彼らがどのように膨大な作品を生み出し、その中からヒット作を生み出してきたのかを見てみましょう。

東野圭吾の作品数とヒット率

東野圭吾は2023年3月の時点で、著作数100冊という驚異的な数の作品を発表しています。しかし、この膨大な数の中で、特に大きなヒットとなったのはどのような作品なのでしょうか。

出典:文藝春秋 東野圭吾、著作100冊。国内累計発行部数1億部突破!

東野圭吾の主なヒット作品

作品タイトル発行年発行部数受賞歴・メディア展開
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』2012年全世界1500万部超第7回中央公論文芸賞、映画化
『容疑者Xの献身』2005年約295万部第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、映画化、テレビドラマ化
『手紙』2003年約250-262万部映画化
『白夜行』1999年約210-250万部映画化、テレビドラマ化
『秘密』1998年約224万部第52回日本推理作家協会賞、映画化
『さまよう刃』2004年約170万部映画化
『プラチナデータ』2010年約160万部映画化
『パラレルワールド・ラブストーリー』1995年約150万部映画化
『変身』2006年約125万部テレビドラマ化
『人魚の眠る家』2015年約110万部映画化

また、シリーズものでは「ガリレオ」シリーズが累計1500万部超、「マスカレード」シリーズが累計495万部超を記録するなど、大きな成功を収めています。

特筆すべきは、東野圭吾の全著作の国内累計発行部数が1億7万7380部(2023年4月時点)に達しており、著作100冊で割ると、一冊あたりの平均発行部数が100万部を超えるという驚異的な数字になることです。

この中でミリオンセラー(発行部数100万部以上)を達成した作品は少なくとも21作品あると確認されており、全著作の20%以上が大ヒット作となっています。これは極めて高いヒット率と言えるでしょう。

東野圭吾の多作と成功の関係

東野圭吾が多くのヒット作を生み出せている理由は、単に「数を出す」だけでなく、以下のような要素も大きく貢献しています:

  1. ジャンルの多様性:ミステリー、サスペンス、SF要素のある作品、人間ドラマなど、様々なジャンルを手掛けることで、幅広い読者層にアプローチしています。
  2. テーマの普遍性:家族、愛、友情、罪と罰など普遍的なテーマを扱いながらも、独自の切り口で描くことで共感を得ています。
  3. 読みやすさと深み:エンターテイメント性と文学性のバランスが取れており、幅広い層に受け入れられています。
  4. 映像化の好循環:多くの作品が映画やドラマ化されることで、原作の売上も伸び、新たな読者を獲得する好循環が生まれています。

東野圭吾の100冊を超える著作には、もちろん比較的売上の少ない作品も含まれています。しかし、多くの作品を発表し続けることで、ヒット作が生まれる確率を高め、結果的に数多くのベストセラーを生み出すことに成功しているのです。

秋元康の作詞数とヒット率

秋元康はさらに驚異的な数の作品を生み出しています。作詞家としてのキャリアは約40年以上に及び、手掛けた楽曲は4,500曲(自身のノートに書いた曲数は8,000曲)を超えるとされています。

秋元康の主なヒット作品

曲名アーティスト発表年実績・特記事項
『川の流れのように』美空ひばり1989年日本を代表する名曲
『セーラー服を脱がさないで』おニャン子クラブ1985年社会現象、80年代アイドルブーム象徴
『ガラガラヘビがやってくる』とんねるず1992年ミリオンセラー(約141万枚)
『クリスマスキャロルの頃には』稲垣潤一1992年ミリオンセラー、クリスマスの定番曲
『愛が生まれた日』藤谷美和子・大内義昭1994年ミリオンセラー
『さよならクロール』AKB482013年ミリオンセラー(約196万枚、AKB48最高売上)
『恋するフォーチュンクッキー』AKB482013年ミリオンセラー、社会現象(ダンス)
『フライングゲット』AKB482011年ミリオンセラー、第53回日本レコード大賞受賞
『真夏のSounds good!』AKB482012年第54回日本レコード大賞受賞
『インフルエンサー』乃木坂462017年ミリオンセラー、第59回日本レコード大賞受賞
『シンクロニシティ』乃木坂462018年ミリオンセラー、第60回日本レコード大賞受賞
『サイレントマジョリティー』欅坂462016年強いメッセージ性、社会的反響

2015年12月8日時点で、秋元康が作詞を手掛けたシングルの累計総売上枚数は1億枚を突破しています。これはオリコン史上、作詞家としては前人未到の記録です。また、作詞家別のオリコンシングルランキング1位獲得数においても、2015年11月時点で通算129作に達し、2位の稲葉浩志氏(54作)、3位の松本隆氏(47作)を大きく引き離して歴代1位となっています。

特筆すべきは、AKB48が一時期、シングル27作連続ミリオンセラーという記録を打ち立てていることです。これは秋元康のプロデュース力と作詞力が生み出した驚異的な成果と言えるでしょう。

出典:【オリコン】秋元康氏、作詞シングル総売上が1億枚突破「34年間の積み重ね」

秋元康の多作と成功の関係

秋元康が数多くのヒット曲を生み出している要因は以下のようなものが考えられます:

  1. 垂直統合型のビジネスモデル:作詞家としてだけでなく、アイドルグループのプロデューサーとして、コンテンツ(歌詞)制作からプラットフォーム(アイドルグループ)の創出・運営、流通・プロモーションまでを一貫して手掛ける体制を構築しています。
  2. 多数のグループ展開:AKB48グループ(AKB48、SKE48、NMB48、HKT48など)や坂道シリーズ(乃木坂46、欅坂46/櫻坂46、日向坂46)など、多数のグループを並行してプロデュースすることで、市場シェアを拡大しています。
  3. 時代感覚と多様性:1980年代のおニャン子クラブから2020年代の最新グループまで、時代のニーズに合わせた歌詞とグループコンセプトを提供し続けています。
  4. 選抜システムと競争原理:「選抜総選挙」などのシステムを導入し、グループ内の競争を促進することで、ファンの参加意識と話題性を高めています。

秋元康が手掛けた4500曲以上の中で、特に大ヒットとなったのは一部です。しかし、「数を出す」ことでヒットの確率を高め、結果的に数多くのミリオン作品とレコード大賞受賞曲を生み出しています。

共通する成功パターン

東野圭吾と秋元康に共通する成功パターンには、以下のような要素があります:

  1. 持続的な創作活動:定期的に新作を発表し続ける
  2. 多様性の確保:様々なジャンルやテーマに挑戦する
  3. 市場フィードバックの活用:反応を観察し次作に活かす
  4. 品質基準の維持:量を増やしつつも一定の質を保つ
  5. ブランド価値の構築:個々の作品を超えた作家・プロデューサーとしてのブランドを確立

彼らの成功は、単に多くの作品を生み出すだけでなく、それぞれの作品から学び、進化し続ける姿勢にあります。また、個々の作品の成功に一喜一憂するのではなく、長期的な視点で創作活動を続けることの重要性も示しています。

マーケティングにおける「数の戦略」の実践方法

東野圭吾や秋元康の成功事例から学び、マーケティングにおいて「数の戦略」を実践するための具体的な方法を見ていきましょう。

MVP(Minimum Viable Product)アプローチ

スタートアップの世界でよく知られる「MVP(最小限の実行可能な製品)」アプローチは、「数の戦略」と親和性が高いです。MVPとは、最小限の機能を持った製品をできるだけ早く市場に投入し、顧客のフィードバックを得ながら改善していく方法です。

MVPアプローチの実践ステップ:

  1. 最小限の機能を特定する:顧客の核となるニーズを満たす最小限の機能セットを定義
  2. 迅速に開発・リリースする:完璧を追求せず、基本機能を備えた製品を早期にリリース
  3. フィードバックを収集する:実際のユーザーからの反応やデータを収集
  4. 仮説検証と改善を繰り返す:得られたフィードバックを基に製品を改善

プロダクトを作る前に、ペーパー上で提案をし受注してからプロダクトを本格的に開発するという企業も存在します。こういったアプローチにより、多くの製品アイデアを短期間で試すことができ、市場のニーズにマッチした製品を効率的に見つけることが可能になります。

A/Bテストの積極活用

A/Bテストは、2つ以上のバージョンを用意して、どちらがより効果的かを測定する手法です。これを積極的に活用することで、様々なアイデアを効率的に検証できます。

A/Bテストの活用例:

テスト対象テスト内容測定指標
ウェブサイト異なるレイアウト、カラースキーム、CTA文言の比較コンバージョン率
メールマーケティング件名、内容、送信時間、CTAの違いを比較開封率、クリック率
広告異なるコピー、画像、ターゲティングの比較クリック率、CVR
価格戦略異なる価格帯、割引率、バンドル提案の比較売上、利益率

A/Bテストは比較的少ないリソースで多くのアイデアを検証できるため、「数の戦略」を効率的に実践するツールとして非常に有効です。

ポートフォリオアプローチ

投資の世界でよく使われる「ポートフォリオ戦略」を製品開発やマーケティングに応用することも効果的です。単一の製品に全リソースを投入するのではなく、複数の製品やサービスに分散投資することで、リスクを軽減しながら成功確率を高めます。

製品ポートフォリオの構成例:

カテゴリー特徴割合目的
主力製品安定した収益源50-60%現在の収益を確保
成長製品急成長中で将来性がある20-30%中期的な成長を牽引
実験的製品革新的だがリスクも高い10-20%長期的な成長機会を探索
衰退製品過去のヒット製品だが需要減少中5-10%キャッシュフローを維持

このようなポートフォリオアプローチにより、安定した収益を確保しながら、将来の成長機会も逃さない戦略が可能になります。

「数を出す」ことによる学習と進化

「数を出す」ことの最大の利点の一つは、多くの試行錯誤を通じて学習と進化が加速することです。これは単なる確率ゲームではなく、組織的な学習プロセスとして捉えることが重要です。

失敗からの学習サイクル

多くの製品やサービスを展開することで、必然的に失敗も増えますが、それらの失敗から学ぶことで組織の知識と能力が向上します。

失敗からの学習サイクル:

graph TD A[製品・サービスの開発] --> B[市場投入] B --> C[市場からのフィードバック] C --> D[結果の分析] D --> E[学習と知識の蓄積] E --> F[改善策の策定] F --> A

このサイクルを多くの製品で繰り返すことで、組織は市場のニーズや顧客心理についての深い理解を獲得し、より効果的な製品開発が可能になります。

森岡毅のプレファレンス理論との関連

前述の森岡毅氏は「プレファレンス(好意度)」の重要性も強調しています。プレファレンスとは、消費者がある製品やブランドに対して持つ好意度や選好度のことです。

複数の製品を市場に投入し、それぞれのプレファレンスを測定・分析することで、以下のような知見が得られます:

  1. 顧客の好みのパターン発見:どのような製品特性が高いプレファレンスを獲得するか
  2. セグメント別の嗜好差の把握:異なる顧客層がどのような価値を重視するか
  3. 競合との差別化ポイントの発見:競合と比較して自社が優位に立てる要素は何か

これらの知見は、次の製品開発やマーケティング戦略の改善に活かすことができます。

イノベーションの加速

「数を出す」戦略は、イノベーションを加速させる効果もあります。多くのアイデアを試すことで、予想外の成功や新たな市場機会を発見することがあります。

イノベーション加速の要因:

要因詳細
市場理解の深化様々な製品を通じて多様な顧客インサイトを獲得
実験文化の醸成失敗を恐れず新しいアイデアに挑戦する組織風土の形成
クロスポリネーション異なる製品間での知識や技術の相互交流
スピードの向上開発・リリースの繰り返しによる効率化と高速化

このように、「数を出す」ことは、単に成功確率を高めるだけでなく、組織の学習能力とイノベーション能力を向上させる効果があります。

「数の戦略」を実践する際の注意点

「数を出す」戦略は効果的ですが、実践する際にはいくつかの注意点があります。単に数を増やすだけでは成功しないこともあるため、以下のポイントに留意しましょう。

品質とのバランス

量を増やすことは重要ですが、基本的な品質を維持することも同様に重要です。低品質の製品を大量に市場に投入すると、ブランドイメージを損なう恐れがあります。

品質維持のための方策:

  1. 品質の最低基準を設定する:どんなに数を増やしても譲れない品質基準を明確にする
  2. 品質チェックプロセスを確立する:効率的でありながら確実に品質を担保する仕組みを作る
  3. 顧客フィードバックを重視する:早期に問題を発見し修正するためのフィードバックループを構築する

東野圭吾も秋元康も、多作でありながら一定の品質を維持しています。彼らの作品にはそれぞれ特徴や強みがあり、単に数を出すだけでなく、各作品に価値を持たせることで成功しています。

リソース配分の最適化

多くの製品やサービスを同時に展開するためには、リソース配分を最適化する必要があります。限られたリソースを効果的に活用するための戦略を考える必要があります。

リソース配分の考え方:

フェーズリソース配分目的
探索フェーズ多数の小規模投資様々なアイデアの可能性を探る
検証フェーズ中規模の選択的投資有望なアイデアの市場適合性を検証
スケールフェーズ少数への大規模投資成功が確認された製品を急速に成長させる

このようなフェーズ別のリソース配分により、多くのアイデアを試しながらも、成功の見込みが高い製品に適切に投資することが可能になります。

ブランドの一貫性維持

多様な製品を展開する際には、ブランドの一貫性を維持することが課題となります。製品が増えるほど、ブランドメッセージや価値観が分散するリスクが高まります。

ブランド一貫性維持のポイント:

  1. コアバリューの明確化:ブランドの中核となる価値観や使命を明確にする
  2. ブランドガイドラインの整備:デザイン、トーン&マナー、メッセージングの基準を整備する
  3. 製品間の関係性の構築:各製品がブランド全体のストーリーの中でどう位置づけられるかを考える

秋元康は、AKB48グループという大きな枠組みの中で、各グループに異なる個性を持たせながらも、「会いに行けるアイドル」という基本コンセプトを維持しています。このように、多様性と一貫性のバランスを取ることが重要です。

「数の戦略」を活かした事例

ここでは、「数を出す」戦略を効果的に活用した企業の事例を紹介します。これらの事例から実践のヒントを得ることができるでしょう。

Netflix:コンテンツ戦略

世界最大級の動画ストリーミングサービスであるNetflixは、膨大な数のオリジナルコンテンツを制作しています。彼らは数多くの作品を作ることで、様々な視聴者の好みに対応し、ヒットコンテンツを生み出しています。

戦略要素詳細
多様なジャンル展開ドラマ、コメディ、ドキュメンタリー、アニメなど
地域特化コンテンツ各国・地域の視聴者向けにローカライズされた作品
データ駆動型制作決定視聴データを分析し、視聴者の好みに基づく制作決定
実験的コンテンツへの投資革新的なフォーマットや新しいクリエイターへの投資

Netflixは多くのコンテンツを制作することで、「ストレンジャー・シングス」「クイーンズ・ギャンビット」「イカゲーム」など、世界的なヒット作を次々と生み出しています。また、視聴データを分析することで、次の制作物の方向性を決定するという学習サイクルも確立しています。

ユニクロ:商品展開戦略

ファストリテイリング傘下のユニクロは、多数の商品を展開しながらも、品質と価格のバランスを取ることで成功しています。

戦略要素詳細
シーズンごとの新商品毎シーズン多数の新商品を投入
コラボレーション様々なデザイナーやブランドとのコラボ商品
コアプロダクトの進化ヒートテック、エアリズムなど基本商品の継続的改良
限定商品の展開地域限定、期間限定商品による話題性の創出

ユニクロは基本的な品質基準を維持しながら多様な商品を展開し、その中から「ヒートテック」などのヒット商品を生み出しています。また、成功した商品は継続的に改良し、ブランドの柱として育てる戦略も取っています。

Google:製品開発アプローチ

テクノロジーの巨人Googleは、「数を出す」戦略を企業文化に組み込んでいます。多くの実験的プロジェクトを立ち上げ、市場の反応を見ながら育てるアプローチを取っています。

戦略要素詳細
20%ルール社員が勤務時間の20%を自分のプロジェクトに使える制度
早期リリースとフィードバックベータ版の早期公開と継続的改善
失敗に寛容な文化実験と学習を重視し、失敗を罰しない組織文化
並行開発同じ目的の複数のプロジェクトを並行して進める

Googleは「Gmail」「Google Maps」「Chrome」などの成功製品を生み出す一方で、「Google Wave」「Google+」「Google Glass」など、市場に受け入れられなかった製品も多数あります。しかし、失敗からの学習を重視し、継続的にイノベーションを生み出しています。

組織文化と「数の戦略」

「数を出す」戦略を効果的に実践するためには、それを支える組織文化が不可欠です。ここでは、この戦略に適した組織文化の要素と構築方法について解説します。

失敗を許容する文化

多くの製品や施策を試すということは、必然的に失敗も増えるということです。そのため、失敗を恐れずチャレンジできる文化が重要です。

失敗を許容する文化の構築ポイント:

  1. 失敗を学習機会として捉える:失敗を罰するのではなく、学びの機会として位置づける
  2. 「早く失敗し、早く学ぶ」の奨励:小さな失敗を早い段階で経験し、学習することを奨励する
  3. 失敗事例の共有:失敗から得た教訓を組織全体で共有する仕組みを作る
  4. リーダーからの率先垂範:リーダー自身が失敗経験と学びを共有する

このような文化があれば、チームメンバーは新しいアイデアを積極的に試すようになり、「数を出す」戦略が促進されます。

スピードと決断力の重視

多くの製品やサービスを展開するためには、迅速な意思決定と行動力が不可欠です。長い検討プロセスや複雑な承認手続きがあると、「数を出す」ことが難しくなります。

スピードと決断力を高める方法:

方法詳細
意思決定権限の委譲現場レベルでの決定権限を拡大し、承認プロセスを簡素化
小さなチーム構成5〜9人程度の小さなチームでの機動的な活動を奨励
明確な判断基準の設定「Go/No Go」の基準を事前に明確化し、決断を迅速化
短期間スプリントの導入2〜4週間の短期間で成果を出すサイクルを確立

これらの方法により、アイデアから実行までの時間を短縮し、より多くの試みを実現することができます。

データ駆動の意思決定

「数を出す」戦略を最大限に活かすためには、各製品や施策の結果を客観的に評価し、次の施策に活かすデータ駆動の文化が重要です。

データ駆動文化の構築ステップ:

  1. KPI(重要業績評価指標)の明確化:各施策の成功を測定する指標を事前に設定
  2. 測定と分析の仕組み構築:データ収集と分析のプロセスとツールを整備
  3. データリテラシーの向上:組織全体のデータ理解と活用能力を高める
  4. データに基づく意思決定の奨励:感覚や経験ではなく、データを基にした判断を評価する

データ駆動の文化があれば、「数を出す」ことで得られる様々な結果から学び、次の施策に活かすサイクルが確立されます。

今日から始める「数の戦略」

いきなり大規模な「数の戦略」を展開するのは難しいかもしれません。まずは小さく始め、徐々に拡大していく方法がおすすめです。

小さく始めるためのステップ:

  1. 既存製品のバリエーション展開:現在の主力製品の色、サイズ、機能などのバリエーションを増やす
  2. 限定商品・期間限定施策の活用:リスクを抑えながら新しいアイデアを試す機会として活用
  3. 小規模なA/Bテストの実施:ウェブサイト、メールマーケティング、広告などでA/Bテストを始める
  4. 顧客フィードバックの収集強化:より多くの顧客の声を集め、製品改善のアイデアを得る

これらの小さな取り組みから始め、成功体験を積み重ねることで、より大きな「数の戦略」へと発展させることができます。

「数の成功戦略」から学ぶこと

東野圭吾と秋元康の例から明らかなように、クリエイティブな分野での成功には「数を出す」ことが大きく貢献しています。しかし、単に量を増やすだけではなく、以下のような重要な要素が組み合わさることで、彼らは非凡な成功を収めています:

  1. 豊富な出力量:東野圭吾の100冊超、秋元康の4500曲超という膨大な作品数
  2. 一定の品質基準:多作でありながらも一定以上のクオリティを維持
  3. 多様性と実験:様々なジャンル、テーマ、スタイルに挑戦し続ける姿勢
  4. 市場理解と適応:読者やリスナーのニーズや時代の変化を敏感に察知する能力
  5. 継続性と進化:長期にわたり創作活動を続けながら、常に自己革新を図る姿勢

これらの要素が組み合わさることで、彼らは「ヒット作を生み出す確率」を高め、結果的に多数の成功作品を世に送り出しているのです。

彼らの例から学べる最も重要な教訓は、「完璧な1つを目指すよりも、良質な多くを生み出す」という考え方かもしれません。どんなに優れたクリエイターでも、全ての作品が大ヒットするわけではありません。重要なのは、失敗を恐れず、常に新しい作品を生み出し続けることなのです。

まとめ:「数の戦略」でヒットの確率を高める

本記事では、東野圭吾と秋元康の事例を中心に、「数を出す」ことがヒット商品を生み出す確率を高める戦略について解説しました。

key takeaways

  • ヒット作は量産の中から生まれる:東野圭吾の100冊超の著作、秋元康の4500曲超の作詞という膨大な数の中から、数々のミリオンセラーやヒット作が生まれている。
  • 確率の原理:商品開発やマーケティングは確率のゲームであり、試行回数(商品数)を増やすことで、成功率を高めることができる。
  • 失敗からの学習:多くの製品やサービスを試すことで、市場の反応を学び、次の施策に活かすサイクルが確立される。
  • 品質との両立:東野圭吾も秋元康も、多作でありながら一定の品質基準を維持しており、「量」と「質」は必ずしも相反するものではない。
  • 継続的な革新:多くの作品を生み出し続けるためには、スピード、決断力、失敗を恐れない文化が重要である。
  • 実践するためのステップ:MVPアプローチ、A/Bテスト、ポートフォリオ戦略など、「数の戦略」を実践するための具体的な方法がある。

東野圭吾が100冊の著作から21作以上のミリオンセラーを生み出し、秋元康が4000曲を超える作詞からAKB48の27作連続ミリオンセラーなど数々のヒット曲を世に送り出している事実は、「数を出す」ことの有効性を如実に示しています。

マーケティング担当者にとって、完璧な1つの商品を求めるよりも、良質な多くの商品を市場に送り出し、その中からヒットを生み出す「数の戦略」は、リスクを分散しながら成功確率を高める効果的なアプローチだといえるでしょう。

今日から、あなたのビジネスでも「数を出す」ことの可能性を探ってみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記リンクからWEBサイト、Xをご確認ください。

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