はじめに
最近、仕事でChatGPTやClaudeなどのAIを使うことが増えてきましたよね。コピーライティングや市場調査、データのまとめなど、AIは様々な場面で私たちの強い味方になっています。
でも、こんな経験はありませんか?
- AIに「先月の売上データを見て分析して」と頼んでも、「申し訳ありませんが、そのデータにアクセスできません」と言われる
- 「このブログをWordPressに投稿して」とお願いしても、「実際の操作はできません」と断られる
- 「このメールを〇〇さんに送信して」と指示しても、「直接メールを送信する機能はありません」と返ってくる
これらの制限がなくなったら、AIはもっと便利になると思いませんか?
そんな願いを叶えるために生まれたのが「MCP」という新しい技術です。MCPは「Model Context Protocol(モデル・コンテキスト・プロトコル)」の略で、AIが私たちのデータやツールに直接つながって、より実践的な仕事ができるようにする仕組みです。
言わば、AIに「手足」を与える技術と考えてください。この記事では、技術的な専門知識がなくても理解できるよう、MCPについてやさしく解説していきます。
MCPって何?基本を分かりやすく解説
MCPの簡単な説明
MCPとは、AIがあなたのデータやツールに直接アクセスできるようにする「共通のルール」のようなものです。
例えば、家電製品の充電器を思い浮かべてください。以前は機器ごとに違う充電器が必要でしたが、今ではUSB-Cという共通規格のおかげで、1本の充電器でスマホもタブレットもパソコンも充電できるようになりました。
MCPはAIの世界における「USB-C」のような存在です。AIと様々なツールやデータを共通のルールでつなげる役割を果たします。そのため、「USB-C for AI」とも呼ばれています。
MCPがなぜ必要なのか?
現在のAIには大きな制限があります。ChatGPTやClaudeなどは「考える」ことはできても、「行動する」ことには限界があるのです。
例えば:
AIができること | AIができないこと |
---|---|
文章を書く | あなたのGoogleドライブにアクセスする |
質問に答える | あなたのカレンダーに予定を入れる |
データを分析する(提供されたもののみ) | データベースに直接アクセスする |
アイデアを提案する | メールを送信する |
MCPは、このできないことを「できる」ようにするための技術です。AIが安全にあなたのツールやデータにアクセスできる道を開きます。
MCPのしくみを簡単に理解する
MCPの仕組みは、レストランでの注文と似ています。
- あなた(お客さん) がAIに「売上データの分析」や「メールの送信」などを注文します
- AI(ウェイター) はあなたの注文を理解し、それを実行するために必要なものを考えます
- MCP(キッチン) は、AIからの指示を受け、必要なツールやデータを使って実際の作業を行います
- ツールやデータ(食材や調理器具) が処理され、結果があなたに届けられます
このしくみのおかげで、AIは「考える」だけでなく「行動する」ことができるようになります。例えば、あなたのGoogle Analyticsのデータを直接見て分析したり、WordPressに記事を投稿したりといったことが可能になるのです。
MCPの主要な構成要素
MCPのシステムは主に4つの要素から構成されています:
- MCPホスト:あなたがAIと会話するアプリケーション(ChatGPTのウェブサイトなど)
- MCPクライアント:AIとMCPサーバーをつなぐ仲介役
- MCPサーバー:実際にツールやデータを操作する部分
- データソース/ツール:Googleドライブ、WordPress、Excelなど、実際に使うサービスやデータ
これらが連携することで、AIはあなたの指示に基づいて実際の作業を行えるようになります。
マーケターがMCPを使うとどんないいことがある?
MCPを活用すると、マーケティング業務がどのように変わるのか、具体的な例で見ていきましょう。
コンテンツ作成が劇的に効率化
MCPを使うと、コンテンツ作成の流れが次のように変わります:
現在のAI活用 | MCPを使った場合 |
---|---|
AIに「ブログ記事を書いて」と頼む | AIに「先月最も読まれた記事のテーマで新しい記事を書いて」と頼む |
AIが記事を生成する | AIがWordPressやGoogle Analyticsにアクセスして、データを分析し記事を生成 |
あなたが記事をコピーしてWordPressに貼り付け、画像を追加して投稿 | AIが記事を直接WordPressに投稿し、適切な画像も提案・追加 |
あなたがSNSに投稿文を作成して共有 | AIが記事の内容に合わせたSNS投稿も作成し、予約投稿まで実施 |
例えば、こんな指示が可能になります: 「先月のブログで最もアクセス数が多かった記事のテーマに関連して新しい記事を書いて、SEOキーワードを適切に入れて、WordPressに下書き投稿してください。」
AIはあなたのWordPressとGoogle Analyticsに接続し、データを分析して最適な記事を作成し、直接投稿できるようになります。
データ分析がもっと簡単に
データ分析も、MCPを活用することでずっと簡単になります:
現在のAI活用 | MCPを使った場合 |
---|---|
データをダウンロードして、AIに提供する | AIが直接データソースにアクセスする |
分析の指示を細かく出す必要がある | 「先月の売上を分析して、問題点と改善策を教えて」と簡潔に頼める |
AIの分析結果をExcelなどに手動で入力する | AIが分析結果をレポートにまとめ、必要なツールに直接保存 |
例えば: 「今年の四半期ごとのマーケティング施策と売上の関係を分析して、最も効果的だった施策とその理由を教えてください。また、次四半期に向けての提案もお願いします。」
AIはあなたの販売データとマーケティングキャンペーンのデータを組み合わせて分析し、詳細なレポートを作成できます。
マーケティングキャンペーンの管理と最適化
キャンペーン管理もMCPがあれば大幅に効率化される可能性があります:
現在のAI活用 | MCPを使った場合 |
---|---|
キャンペーンアイデアの提案のみ | キャンペーンの企画から実施、分析までトータルサポート |
広告文言の提案のみ | リアルタイムデータに基づいた広告の最適化と自動調整 |
パフォーマンス予測の提案のみ | 実際のデータを元にした予算配分の最適化と自動調整 |
例えば: 「ブラックフライデーキャンペーンのための広告を作成して、過去の類似キャンペーンに基づいて最適な予算配分を提案してください。また、キャンペーン期間中はリアルタイムでパフォーマンスを監視し、必要に応じて調整してください。」
AIはこのような複雑な指示も、適切なツールとデータにアクセスすることで実行できるようになります。
ユースケース例
以下は、MCPを活用したマーケティング活動の具体的なユースケースです:
- コンテンツカレンダーの自動作成と管理
- AIが過去のコンテンツパフォーマンスを分析し、最適なコンテンツ計画を作成
- 直接カレンダーツールに予定を入れ、リマインダーも設定
- パーソナライズされたメールマーケティング
- AIがCRMデータを分析し、顧客セグメント別にパーソナライズされたメールを作成
- A/Bテストを自動的に実施し、最も効果的なメールを選定して配信
- 競合分析と市場調査
- AIがウェブから競合情報を収集し、あなたのマーケティング戦略と比較分析
- 業界トレンドをモニタリングし、新たな機会を自動的に報告
- ソーシャルメディア管理の自動化
- AIがエンゲージメントデータを分析し、最適な投稿時間と内容を提案
- ユーザーコメントの感情分析を行い、対応が必要なものを優先的に通知
こうした活用により、マーケターはより戦略的な思考や創造的な業務に集中できるようになります。
MCPをどうやって使い始める?
MCPの概念は理解した上で、実際にどうやって始めればいいのでしょうか。
現在利用可能なMCP対応AIツール一覧
現在、MCPの技術は比較的新しく、対応するAIツールはまだ限られていますが、徐々に増えています。以下に、現時点で利用可能なMCP対応ツールや関連サービスをご紹介します。
Anthropic Claude
MCPの提唱者であるAnthropicが提供する「Claude」は、デスクトップ版アプリにてMCPに対応しています。
- Claude Desktop: デスクトップアプリケーションとして、ローカルファイルやツールとの連携が可能です。
公式サイト:https://claude.ai/download
設定方法はこちらの記事がわかりやすいのでご確認ください。MCPの設定ができていれば、Claude Desktopのチャット画面にハンマーマークが出てきます。

このように最新の情報をまとめてくれます。

GPT(OpenAI)※2025/4時点ではまだリリース前
OpenAIは2025/3/27に公式にMCPの採用を表明し、段階的に対応を進めています。
Cursor
MCP対応のコードエディタで、AIがコードベースを直接理解し、より適切な補完や提案を行います。
公式サイト:https://www.cursor.com/ja
MCP対応ツールとエコシステム
上記で紹介したClaudeとCursorと連携できる(MCPサーバーを用意している)ツールをご紹介します。これらのサーバーは、AIモデルが外部ツールやデータソースと連携するための橋渡しとして機能します。
📊 データベース系
- PostgreSQL MCP:PostgreSQLデータベースへの読み取り専用アクセスを提供します。
- MySQL MCP:MySQLデータベースとの連携を可能にします。
- MongoDB MCP:MongoDBデータベースとの連携を提供します。
🛠️ 開発ツール系
- GitHub MCP:GitHub APIとの統合により、リポジトリ管理やIssue追跡、Pull Requestの処理が可能です。
- GitLab MCP:GitLabとの連携を提供し、プロジェクト管理やCI/CD操作が可能です。
- Raygun MCP:Raygunのエラートラッキングとパフォーマンス監視を統合します。
📂 ファイル・ナレッジ管理系
- Filesystem MCP :ローカルファイルシステムへのアクセスと操作を提供します。
- Google Drive MCP :Google Driveとの連携により、ファイルのリスト、読み取り、検索が可能です。
- Notion MCP :Notion APIとの統合により、ページの検索、読み取り、更新、作成が可能です。
💬 コミュニケーション・プロジェクト管理系
- Slack MCP :Slackとの連携により、メッセージの送信やチャンネル情報の取得が可能です。
- Linear MCP :LinearのAPIとの統合により、プロジェクト管理やIssueの操作が可能です。
- Jira MCP :Jiraとの連携を提供し、タスク管理やIssueの操作が可能です。
🌐 Web検索・自動化系
- Brave Search MCP:Braveの検索APIを使用したWeb検索機能を利用できます。
- Puppeteer MCP :Puppeteerを使用したブラウザ自動化とWebスクレイピングを可能します。
- Apify MCP :ApifyのRAG Web Browser Actorを利用したWeb検索とスクレイピングを利用できます。
🧠 AIメモリ・ベクトル検索系
- Qdrant MCP:Qdrantベクトルデータベースとの連携により、意味的な検索や類似度計算行います。
- Milvus MCP:Milvusベクトルデータベースとの統合を提供します。
- Knowledge Graph MCP:知識グラフを活用した情報の構造化と検索を支援します。
⚙️ システム・ユーティリティ系
- Shell/CLI MCP:コマンドライン操作をAIが代行し、システム操作が可能です。
- Time MCP:時間やタイムゾーンの変換をAIが支援します。
各サーバーのGithubはこちらからご確認ください。
このように、MCP(Model Context Protocol)サーバーがあるツールやサービスはAIと接続することで、さまざまな業務の効率化を実現しています。
実際どういう業務で使えるのか
📊 データベース連携による分析・レポート自動化
- 社内の売上や在庫データをMCPサーバー経由でAIに接続し、自然言語での指示によりレポートを自動生成。これにより、データ分析や報告業務の時間を大幅に短縮。
🛠️ 開発・コード管理の自動化
- GitHubやローカルのコードベースをMCPサーバーでAIと連携。関数の使用箇所の特定やコードの改善提案をAIが行い、開発効率を向上。
- 社内のデザインシステムをMCPサーバー化し、AIがデザインコンポーネントやトークン情報を参照。UI実装の精度が向上し、開発時間が大幅に短縮される。
📂 ナレッジ管理とドキュメント活用
- NotionとAIを連携させ、タスクの検索や追加、ナレッジベースの検索と要約、議事録の自動作成などを自然言語で指示可能に。情報整理と共有の効率が向上。
💬 コミュニケーションとプロジェクト管理
- SlackとAIを連携させ、コード変更点の要約をチームに共有したり、チャットからAIに開発指示を出すことが可能に。コミュニケーションの効率が向上。
🌐 Webデータの自動収集と活用
- MCPサーバーを通じてAIがApify Actorsを呼び出し、Webデータの抽出や検索を自動化。必要なデータを収集し、分析・レポート作成を支援。
🧠 AIメモリとベクトル検索の活用
- AIがウェブ検索エンジンを呼び出し、エラーメッセージの解決策や最新情報を自動取得・要約。情報収集の効率が向上。
これらの事例から、MCPサーバーを活用することで、データ分析、開発、ドキュメント管理、コミュニケーション、情報収集など、さまざまな業務の効率化が可能であることがわかります。
MCPの課題と将来の展望
MCPはとても魅力的な技術ですが、まだ発展途上の段階です。現在の課題と今後の可能性について見ていきましょう。
現在のMCPの課題
MCPにはまだいくつかの課題があります:
課題 | 説明 | 対策 |
---|---|---|
安全性の懸念 | AIが様々なツールやデータにアクセスすることのリスク | 適切なアクセス権限の設定と監視の強化 |
使いやすさ | 技術的な設定が必要で、一般ユーザーには難しい | より使いやすいインターフェースの開発 |
対応ツールの限定 | 現時点では対応しているツールやサービスが限られている | 徐々に対応サービスが増えることが期待される |
標準化の不足 | 様々な実装方法があり、統一されていない | 業界標準の確立に向けた取り組みが進行中 |
これらの課題は、技術の発展とともに徐々に解決されていくと考えられています。
MCPの将来展望
MCPの未来には、以下のような可能性が期待されています:
- より直感的なインターフェース
- 技術的な知識がなくても、簡単にMCPを設定・活用できるツールの登場
- ドラッグ&ドロップでAIとツールの連携が設定できるようになる
- マーケティング特化型のMCPソリューション
- マーケティングツール(Google Analytics、SNS管理ツール、CRMなど)と連携に特化したMCPの登場
- マーケターの業務フローに合わせた最適化された仕組みの提供
- AIエージェントの登場
- 特定の業務を自律的に行うAIエージェントの普及
- 例:コンテンツマーケティングエージェント、SNS運用エージェントなど
- 組織全体のAI活用の加速
- MCPを通じて、組織のあらゆるデータとツールがAIと連携する(現在のSaasがいずれ不要になるとも言われています。)
- 部門間の壁を越えた、シームレスなAI活用が実現する
マーケターとして準備すべきこと
このような未来に向けて、マーケターとして今から準備できることは以下の通りです:
- AIとの協働スキルを磨く
- AIに適切な指示を出す能力(プロンプトエンジニアリング)を身につける
- AIの得意・不得意を理解し、効果的な役割分担を考える
- データリテラシーの向上
- 基本的なデータ分析の考え方を学ぶ
- クリーンで構造化されたデータの重要性を理解する
- マーケティングの本質への集中
- 技術的・定型的な業務はAIに任せ、戦略立案や創造的な業務に集中する準備をする
- 人間ならではの共感力や直感を活かした判断力を磨く
- 常に学び続ける姿勢
- AI技術は急速に進化しているため、継続的な学習が不可欠
- オンライン講座やセミナーなどを活用して、最新動向をキャッチアップする
MCPの発展により、マーケターの役割は「実行者」から「戦略家」へとシフトしていくでしょう。このシフトに備えて、今からスキルと意識の転換を図ることが重要です。
まとめ
MCPは、AIをより賢く、より役立つツールへと進化させる画期的な技術です。この記事では、技術的な専門知識がなくても理解できるよう、MCPの基本から応用、そして将来展望までを解説しました。
key takeaways
- MCPとは:AIと外部ツールやデータをつなげる「USB-C for AI」のような共通ルール。AIに「手足」を与える技術
- MCPの価値:AIが「考える」だけでなく「行動する」ことを可能にし、より実践的な業務支援を実現
- マーケターにとってのメリット:コンテンツ作成、データ分析、キャンペーン管理など、多くのマーケティング業務が自動化・効率化される
- 始め方:MCPに対応したAIツールの利用、IT部門との協力、データ環境の整備から段階的に開始
- 課題と未来:安全性や使いやすさなどの課題はあるものの、将来的には誰でも簡単に活用できるようになり、マーケターの業務が大きく変わる可能性がある
MCPの登場により、マーケターとAIの関係は新しいステージに進みつつあります。「AIに指示する」から「AIとコラボレーションする」へと変化し、私たちの働き方も大きく変わっていくでしょう。
今からMCPの概念と可能性を理解し、準備を始めることで、この変化を恐れるのではなく、チャンスとして活かすことができます。AIを「賢い助手」として活用し、より創造的で戦略的なマーケティング活動に集中できる未来が、すぐそこまで来ています。
出典:Anthropic Model Context Protocol (MCP)