はじめに:マーケターが「Apple決算」を読むべき理由
「うちの商品、一度買ってもらったらそれで終わり…」「リピート率が上がらない…」そんな悩みを抱えていませんか?
今回取り上げるのは、2025年10月30日に発表されたAppleの第4四半期決算です。売上高$102.5億ドル(約15兆円)、前年比8%増という数字だけを見れば「さすがApple」で終わってしまうかもしれません。でも、この決算の中には、製品を売って終わりではなく、顧客との長期的な関係を構築して継続的に収益を上げる仕組みのヒントが詰まっています。
特に注目すべきは、Services(サービス事業)が過去最高の$28.8億ドルを記録し、前年比15%も成長している点です。iPhoneやMacといったハードウェアだけでなく、Apple MusicやiCloud、App Storeなどのサービスで継続的に収益を得る構造を作り上げているのです。
この記事では、Appleの決算資料から読み解ける「マーケティング戦略の本質」を、数字の羅列ではなく「なぜこのような成果が出たのか」という視点で分析していきます。あなたのビジネスにも応用できる具体的なヒントを見つけていきましょう。
Apple Inc. の企業概要
まずはAppleという企業を改めて整理しておきましょう。1984年にMacintoshで個人向けテクノロジーに革命を起こして以降、iPhoneやiPad、Apple Watchなど、私たちの生活に欠かせないデバイスを次々と生み出してきた企業です。
2025年度(2024年10月〜2025年9月)の通期売上高は**$416億ドル(約62兆円)**と過去最高を更新しました。従業員数は15万人を超え、世界中で事業を展開しています。
2025年度第4四半期(9月期)の業績サマリー
Appleの2025年第4四半期(2025年7月〜9月)の主要な数字を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 2025年Q4 | 2024年Q4 | 成長率 |
|---|---|---|---|
| 総売上高 | $102.5B | $94.9B | +8.0% |
| 純利益 | $27.5B | $14.7B | +86.5% ※1 |
| 希薄化後EPS | $1.85 | $0.97 | +90.7% ※1 |
| 調整後EPS | $1.85 | $1.64 | +12.8% |
※1:2024年Q4に欧州裁判所の決定に関連する一時的な税金費用$10.2Bが計上されていたため、見かけ上の成長率が大きくなっています。調整後の数字で見ると、より実態に近い成長率がわかります。
この表から分かるように、Appleは安定的に成長を続けています。特に注目すべきは、単なる売上成長だけでなく、利益率の高さを維持している点です。
事業カテゴリー別の売上構成
Appleのビジネスは大きく5つのカテゴリーに分かれています。それぞれの2025年第4四半期の売上と成長率を見てみましょう。
| カテゴリー | Q4売上高 | 前年比 | 通期売上高 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| iPhone | $49.0B | +6.1% | $209.6B | +4.2% |
| Services | $28.8B | +15.1% | $109.2B | +13.5% |
| Mac | $8.7B | +12.7% | $33.7B | +12.4% |
| iPad | $7.0B | +0.03% | $28.0B | +5.0% |
| Wearables等 | $9.0B | -0.3% | $35.7B | -3.6% |
この表を見ると、興味深い傾向が見えてきます。iPhoneは依然として最大の収益源ですが、Servicesの成長率が15.1%と群を抜いて高いのです。これは単なる偶然ではなく、Appleが意図的に作り上げた収益構造の変化を示しています。
地域別の売上動向
地域別の売上を見ると、Appleのグローバル展開の巧みさが分かります。
| 地域 | Q4売上高 | 前年比 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| Americas | $44.2B | +6.1% | 43.1% |
| Europe | $28.7B | +15.2% | 28.0% |
| Greater China | $14.5B | -3.6% | 14.1% |
| Japan | $6.6B | +12.0% | 6.5% |
| Rest of Asia Pacific | $8.4B | +14.3% | 8.2% |
特に目を引くのは、Europeが前年比15.2%増と大きく成長している点です。一方で、Greater China(中国本土・香港・台湾)は前年比マイナス3.6%と、唯一減少している地域となっています。これは中国市場での競争激化や地政学的な要因が影響していると考えられます。
ここまでの数字を見て、「結局、大企業だから成長できるんでしょ?」と思われるかもしれません。しかし、実はAppleの戦略には、規模の大小に関わらず学べるマーケティングの本質が詰まっているのです。次のセクションでは、「なぜAppleは選ばれ続けるのか」という核心に迫っていきます。
なぜAppleは選ばれ続けるのか?|3つの強力な差別化戦略
Appleは世界中に競合がひしめくスマートフォン市場で、なぜこれほど強いのでしょうか。決算資料の行間から読み取れる、Appleの差別化戦略を3つの視点で分解していきます。
戦略①:エコシステムによる「スイッチングコストの構築」
決算発表でCFOのKevan Parekh氏が語った言葉に、重要なヒントがあります。
「非常に高い顧客満足度とロイヤリティのおかげで、アクティブデバイスのインストールベースが過去最高を記録した」
この「インストールベース」という言葉が、Appleの戦略の核心を表しています。これは単に「Apple製品を持っている人の数」ではなく、「Appleのエコシステムに組み込まれている人の数」を意味しています。
例えば、あなたがiPhoneを使っているとしましょう。するとこんな状況が生まれます。
このように、一度Appleのエコシステムに入ると、写真、音楽、アプリ、連絡先などすべてのデータがAppleの世界で管理されます。そして複数のデバイスを持つほど、そこから抜け出すコスト(時間的・心理的・金銭的)が高くなるのです。
これは「スイッチングコスト」の構築です。顧客が他社製品に乗り換えるハードルを上げることで、長期的な関係を築いているわけです。
戦略②:プロダクトラインナップの「Good-Better-Best戦略」
2025年9月に発表された新製品ラインナップを見ると、Appleの巧みな価格戦略が見えてきます。
| 製品ライン | ターゲット顧客 | 戦略的意図 |
|---|---|---|
| iPhone Air | コスト意識の高い層 | 市場の裾野を広げる |
| iPhone 17 | 標準的なユーザー | 最も販売数が多い中心層 |
| iPhone 17 Pro | 高機能を求める層 | 利益率の向上 |
| iPhone 17 Pro Max | プレミアム志向層 | ブランド価値の最大化 |
これは「Good-Better-Best戦略」と呼ばれる価格設定の手法です。3〜4段階の選択肢を用意することで、顧客は「買うか買わないか」ではなく「どれを買うか」を考えるようになります。
特に注目すべきは「iPhone Air」の存在です。これまでAppleは高価格帯に特化していましたが、より手頃な価格帯の製品を投入することで、「Appleは高すぎる」と感じていた層も取り込もうとしています。一度エコシステムに入れば、前述のスイッチングコストが働き、次回以降も上位モデルへのアップグレードが期待できるからです。
戦略③:Servicesビジネスによる「継続課金モデル」の確立
最も重要な戦略が、このServicesビジネスの拡大です。2025年Q4のServices売上は$28.8億ドルで、前年比15.1%増と、全カテゴリーの中で最も高い成長率を記録しました。
Servicesの内訳を整理すると、次のようなものが含まれます。
| サービス名 | 課金モデル | 顧客にとっての価値 |
|---|---|---|
| Apple Music | 月額サブスク | 音楽ストリーミング |
| iCloud+ | 月額サブスク | データ保管・バックアップ |
| Apple TV+ | 月額サブスク | オリジナル動画コンテンツ |
| Apple Arcade | 月額サブスク | ゲーム遊び放題 |
| Apple One | 月額サブスク | 上記の複数サービスバンドル |
| App Store | 手数料モデル | アプリ配信プラットフォーム |
| AppleCare+ | 保険料モデル | デバイス保証・サポート |
これらのサービスに共通するのは、「継続的な収益」が得られる点です。iPhoneは2〜3年に1度しか買い替えられませんが、Apple Musicは毎月課金されます。
投資家や株主から見ると、「毎月安定して入ってくる収益」は非常に魅力的です。なぜなら、将来の収益を予測しやすく、ビジネスの持続可能性が高いからです。Appleは意図的に、売り切り型のハードウェアビジネスから、継続課金型のサービスビジネスへと収益構造をシフトさせているのです。
ここまで見てきた3つの戦略—エコシステム、プロダクトラインナップ、サービス化—は、実は相互に関連し合っています。エコシステムに入った顧客は複数デバイスを持ちやすくなり、デバイスを持つほどサービスを使うようになる。この好循環こそが、Appleの強さの源泉なのです。
マーケターが学べる4つの実践的ポイント
ここからは、Appleの決算から読み取れる戦略を、あなたのビジネスにも応用できる形で整理していきます。「うちは大企業じゃないから…」と思わず、エッセンスを抽出して考えてみてください。
ポイント①:LTV(顧客生涯価値)を最大化する設計思想
Appleが注力しているのは、「一人の顧客から生涯で得られる総収益(LTV)」を最大化することです。
従来の売り切り型ビジネスでは、iPhone 1台を売って終わりでした。しかし現在のAppleは、次のような収益構造を作っています。
| 年数 | 顧客が支払う金額の例 | 累計金額 |
|---|---|---|
| 1年目 | iPhone: $1,000、AppleCare+: $200、Apple One: $360 | $1,560 |
| 2年目 | Apple One: $360、App内課金: $200 | $2,120 |
| 3年目 | iPhone買い替え: $1,000、AppleCare+: $200、Apple One: $360 | $3,680 |
| 4年目 | Apple One: $360、iPad購入: $500 | $4,540 |
| 5年目 | Apple One: $360、Apple Watch購入: $400 | $5,300 |
このように、5年間で一人の顧客から$5,300以上の収益を得る設計になっています。重要なのは、2年目以降も継続的に収益が発生している点です。
あなたのビジネスでも、「買って終わり」ではなく、「買った後も継続的に価値を提供し続ける」仕組みを考えられないでしょうか。例えば、次のような応用が考えられます。
- EC事業:定期購入コースや会員限定コンテンツの提供
- BtoB SaaS:基本プランに加え、追加機能やサポートプランを用意
- 飲食店:ポイントカードやサブスク型の会員制度
- 製造業:保守・メンテナンス契約やアップグレードサービス
ポイント②:地域別戦略の柔軟性|一律ではなく、市場に応じた最適化
決算資料の地域別売上を見ると、Appleは地域ごとに異なる戦略を取っていることが分かります。
特に注目すべきはGreater Chinaの前年比-3.6%*いう数字です。中国市場では、XiaomiやOPPO、vivoといった地元メーカーとの競争が激化しており、Appleのシェアは苦戦しています。一方で、Europeは+15.2%と大きく成長しています。
ここから学べるのは、「すべての市場で同じやり方が通用するわけではない」という当たり前だけど見落としがちな原則です。
| 市場 | 状況 | 取るべき戦略 |
|---|---|---|
| 成熟市場 | 競合多数、価格競争激化 | 差別化・ブランド価値の訴求・サービス強化 |
| 成長市場 | 需要拡大中、認知度向上が課題 | マーケティング投資・販売チャネル拡大 |
| 苦戦市場 | 地元競合優勢、価格感度高い | 価格戦略見直し・ローカライズ強化 |
Appleの場合、中国では価格競争力のあるモデルの投入や、現地のニーズに合わせた機能追加(例:中国語の手書き認識精度向上、現地決済サービス対応など)を進めています。一方、Europeではプライバシー保護やサステナビリティといった価値観の訴求が効果を発揮していると考えられます。
あなたのビジネスでも、「この地域では売れるけど、あの地域では苦戦している」という状況があるかもしれません。その場合、単に販売量を増やすのではなく、なぜその地域で受け入れられないのかを分析し、戦略を変える必要があります。
ポイント③:新製品発表のタイミング戦略|第4四半期に集中させる理由
決算発表の中でティムクックCEOは、9月に発表した製品ラインナップについて次のように語っています。
「iPhone 17シリーズ、AirPods Pro 3、新しいApple Watch、そして最近発表したM5チップ搭載のMacBook ProとiPad Proと合わせて、ホリデーシーズンに向けて最も充実した製品ラインナップを展開できることに興奮している」
ここに、Appleの製品発表タイミングの戦略が見えます。
Appleは意図的に、最も重要な製品を9月〜10月に集中的に発表します。これは11月のブラックフライデーから12月のクリスマス商戦という最大の購買シーズンに間に合わせるためです。
この戦略から学べるのは、「製品を作ったからすぐに売る」のではなく、「最も売れるタイミングに合わせて発表・販売する」という逆算思考の重要性です。
あなたのビジネスでも、次のようなタイミング戦略が考えられます。
- BtoC商品:年末年始、ゴールデンウィーク、夏休みなどの長期休暇前
- BtoB商品:企業の予算編成期(多くの企業で4月や10月)の2〜3ヶ月前
- 季節商品:シーズンの1〜2ヶ月前(需要が高まる直前)
ポイント④:透明性の高いコミュニケーション|投資家だけでなく顧客への信頼構築
Appleの決算発表は、非常に透明性が高いことで知られています。売上、利益、地域別・製品別の詳細な内訳、さらにはアクティブデバイス数まで開示しています。
特に2024年Q4に発生した欧州裁判所の決定に関連する一時的な税金費用$10.2億ドルについて、Non-GAAP(調整後)の数字も併せて開示し、「本来の実力値はこれくらいです」と明示している点は注目に値します。
これは単に「法律で義務付けられているから開示する」というレベルを超えて、ステークホルダー(投資家、顧客、従業員など)との信頼関係を構築するという意図があります。
特に昨今は、企業の透明性や誠実さを重視する消費者が増えています。
あなたのビジネスでも、次のような透明性を意識してみてはどうでしょうか。
- 価格の内訳を明示:「なぜこの価格なのか」を説明する
- 製造プロセスの開示:どこで、どのように作られているかを見せる
- 顧客レビューの改ざんをしない:良いレビューも悪いレビューも正直に公開
- 不具合や問題が起きた際の迅速な情報開示と対応
信頼は一朝一夕には築けませんが、透明性の高いコミュニケーションを続けることで、長期的なブランド価値の向上につながります。
考えられる改善点|Appleにも課題はある
ここまでAppleの強みを中心に見てきましたが、決算資料からは課題も見えてきます。完璧な企業は存在しません。逆に言えば、これらの課題にどう対処するかが、今後の成長を左右します。
課題①:中国市場での苦戦|地政学リスクとローカル競合の台頭
前述の通り、Greater Chinaの売上は前年比-3.6%と減少しています。これは単なる一時的な落ち込みではなく、構造的な課題を示唆しています。
中国市場では、次のような要因でAppleが苦戦しています。
| 要因 | 具体的な影響 | Appleの対応の難しさ |
|---|---|---|
| ローカル競合の台頭 | Xiaomi、OPPO、vivoなど地元メーカーが高性能で低価格な製品を投入 | 価格を下げるとブランドイメージが毀損するジレンマ |
| 地政学的緊張 | 米中対立により、中国政府機関でのiPhone使用制限の動き | 政治的要因はコントロールが困難 |
| ナショナリズムの高まり | 「中国ブランドを買おう」という愛国消費の動き | 外資企業としての限界 |
この課題から学べるのは、「一つの市場への依存度が高いとリスクが大きい」という教訓です。Appleも中国市場の売上が全体の約14%を占めているため、この減少は無視できない影響があります。
あなたのビジネスでも、特定の顧客、特定の販売チャネル、特定の地域に依存しすぎていないかをチェックすることが重要です。リスク分散の観点から、複数の収益源を持つことが望ましいでしょう。
課題②:Wearables・Home・Accessoriesカテゴリーの成長鈍化
決算資料を見ると、Wearables、Home and Accessoriesカテゴリー(Apple Watch、AirPods、HomePodなど)の売上が前年比-0.3%とわずかながらマイナスになっています。通期で見ても-3.6%と減少傾向です。
この背景には、次のような要因が考えられます。
| 製品 | 考えられる理由 | 市場の成熟度 |
|---|---|---|
| Apple Watch | スマートウォッチ市場の成熟化、買い替えサイクルの長期化 | 成熟期 |
| AirPods | ワイヤレスイヤホン市場の競争激化、低価格競合の増加 | 成熟期 |
| HomePod | スマートスピーカー市場でAmazon Echo、Google Homeに後塵 | 苦戦 |
この課題は、製品ライフサイクルの観点から見ると自然なことです。どんな製品も「導入期→成長期→成熟期→衰退期」というサイクルをたどります。Apple WatchやAirPodsは、すでに「成熟期」に入っており、市場全体の成長も鈍化しています。
ここから学べるのは、「既存製品の成長が鈍化したら、新しい成長エンジンを見つける必要がある」ということです。Appleの場合、それがServicesビジネスであり、また今後はAI(Apple Intelligence)やVision Pro(AR/VRデバイス)が新しい成長エンジンになる可能性があります。
あなたのビジネスでも、主力製品が成熟期に入っていないかを定期的にチェックし、次の柱となる製品やサービスを準備しておく必要があります。
課題③:規制リスク|App Storeの手数料モデルへの批判
決算資料には直接的には記載されていませんが、Appleは世界各国で規制当局からの圧力を受けています。特に問題視されているのが、App Storeでの手数料モデルです。
AppleはApp Store経由で販売されるアプリやアプリ内課金に対して15〜30%の手数料を取っています。これは開発者にとって大きな負担であり、「Appleの独占的な地位を利用した不当な手数料だ」という批判が高まっています。
| 地域 | 規制の動き | Appleへの影響 |
|---|---|---|
| EU(欧州) | デジタル市場法により、サードパーティのアプリストア許可を義務化 | App Store収益の減少リスク |
| 米国 | 反トラスト法違反の疑いで訴訟が継続中 | 訴訟コストと評判リスク |
| 日本 | 公正取引委員会がApp Storeの手数料を問題視 | 手数料率引き下げの可能性 |
この課題から学べるのは、「支配的な地位にある場合、規制リスクが常に存在する」ということです。短期的には高い利益率を維持できても、長期的には規制によって収益構造の変更を迫られる可能性があります。
あなたのビジネスが特定の市場で高いシェアを持っている場合、または独占的なプラットフォームを運営している場合は、規制リスクを意識し、「持続可能なビジネスモデル」を常に考えておく必要があります。
今後も成長し続けられるのか?|3つの成長ドライバー
ここまで見てきたように、Appleには強みも課題もあります。では、今後も成長を続けられるのでしょうか。決算資料と市場環境から、3つの成長ドライバー(成長の牽引役)を考察してみます。
成長ドライバー①:AI(Apple Intelligence)の本格展開
2025年の製品発表で最も注目されたのが、AI機能「Apple Intelligence」の搭載です。これはChatGPTのような生成AIを、iPhone、iPad、Macに統合したものです。
Appleがこれまで避けてきた「クラウドベースのAI」ではなく、デバイス上で処理するオンデバイスAIにこだわっている点が特徴です。これはAppleが重視する「プライバシー保護」という価値観と整合しています。
AI機能の展開により、次のような好循環が期待できます。
特に、AIを使うためには最新のチップ(M5やA17など)が必要という条件を設けることで、古いデバイスから新しいデバイスへの買い替えを促進する効果も期待できます。
成長ドライバー②:Servicesビジネスのさらなる拡大
前述の通り、Servicesは前年比15%成長と、最も成長率の高いカテゴリーです。今後も次のような展開が予想されます。
| サービス | 今後の展開可能性 | 市場規模の見込み |
|---|---|---|
| Apple TV+ | オリジナルコンテンツの拡充、スポーツ中継の獲得 | 競合Netflix、Disney+との競争激化 |
| Apple Arcade | AAA級ゲームタイトルの追加、クラウドゲーミング強化 | ゲーム市場の拡大に伴う成長 |
| Apple Fitness+ | パーソナライズAIトレーニング、ウェアラブルデータ活用 | ヘルスケア市場の拡大 |
| 広告事業 | App Storeでの広告枠拡大、検索広告の強化 | 高利益率ビジネスとして成長 |
特に注目すべきは広告事業です。現在Appleの広告事業の売上は公開されていませんが、業界推定では年間$40〜50億ドル規模とされています。App Storeの検索広告やApple Newsの広告枠を拡大することで、この分野がさらに成長する可能性があります。
Googleの広告事業が年間$2,000億ドルを超えていることを考えると、Appleの広告事業にはまだ大きな成長余地があります。特に、Appleは「ユーザーのプライバシーを守りながら広告を配信する」という差別化ポイントを持っているため、プライバシー意識の高いユーザー層にリーチしたい広告主にとって魅力的なプラットフォームになり得ます。
成長ドライバー③:新市場への参入|ヘルスケアと金融サービス
Appleは現在のコアビジネス以外にも、新しい市場への参入を進めています。
ヘルスケア分野では、Apple Watchの健康管理機能を進化させ、医療機器としての承認取得を目指しています。すでに心電図機能や血中酸素濃度測定機能が搭載されており、今後は血糖値測定や血圧測定なども実現する可能性があります。
世界のヘルスケア市場は約$12兆ドルという巨大市場です。その中でAppleが「予防医療」や「日常的な健康管理」の分野でシェアを獲得できれば、大きな成長機会となります。
金融サービス分野では、Apple CardやApple Payを展開しています。特にApple Cardは、2024年にゴールドマン・サックスとの提携を解消し、新たなパートナーを探している段階ですが、クレジットカード事業自体は継続する方針です。
金融サービスは利益率が非常に高いビジネスです。Appleのブランド力と既存の顧客基盤を活用すれば、従来の金融機関を脅かす存在になる可能性があります。
これらの新市場参入から学べるのは、「既存事業で築いた資産(ブランド、顧客基盤、技術)を活用して、隣接市場に展開する」という成長戦略です。全く新しい市場にゼロから参入するよりも、既存の強みを活かせる領域に進出する方が成功確率は高くなります。
まとめ|Appleの決算から学ぶ7つのKey Takeaways
ここまでAppleの2025年第4四半期決算を、マーケティングの視点で分析してきました。最後に、あなたのビジネスにも応用できる重要なポイントを整理します。
1. LTV(顧客生涯価値)を最大化する設計思想を持つ 単発の販売で終わらせず、顧客との長期的な関係を構築する仕組みを作りましょう。Appleは製品販売とサービス提供を組み合わせることで、一人の顧客から継続的に収益を得る構造を確立しています。
2. エコシステムによるスイッチングコストを構築する 顧客が他社に移りにくい環境を作ることが、長期的な競争優位につながります。製品やサービス同士を連携させ、使えば使うほど離れられなくなる体験を設計しましょう。
3. 継続課金モデル(サブスクリプション)の導入を検討する 売り切り型から継続課金型への転換は、収益の安定化と企業価値の向上をもたらします。Appleのservices事業が前年比15%成長している事実は、この戦略の有効性を示しています。
4. Good-Better-Best戦略で市場の裾野を広げつつ利益率も確保する 複数の価格帯の製品を用意することで、幅広い顧客層にアプローチしながら、高価格帯製品で利益率を確保できます。顧客に「買うか買わないか」ではなく「どれを買うか」を選ばせる設計が重要です。
5. 地域ごとに戦略を最適化し、一律のアプローチを避ける すべての市場で同じやり方が通用するわけではありません。各市場の特性、競争状況、文化的背景を理解し、柔軟に戦略を調整することが成功の鍵です。
6. 製品発表のタイミングを商戦期に合わせて逆算する 作ったらすぐに売るのではなく、最も購買意欲が高まるタイミングに合わせて発表・販売する逆算思考を持ちましょう。Appleが9月に製品を発表するのは、年末商戦を見据えた戦略です。
7. 透明性の高いコミュニケーションで信頼を構築する 良いニュースも悪いニュースも正直に開示し、ステークホルダーとの信頼関係を築くことが、長期的なブランド価値の向上につながります。特に現代の消費者は、企業の誠実さや透明性を重視する傾向が強まっています。
Appleの決算資料は、単なる数字の羅列ではなく、マーケティング戦略の教科書とも言えます。売上$416億ドル、従業員15万人という規模の企業だからこそ実現できることもありますが、その根底にある「顧客との長期的な関係構築」「継続的な価値提供」「市場環境に応じた柔軟な戦略調整」という原則は、あらゆる規模のビジネスに応用可能です。
あなたのビジネスでも、今日紹介した7つのポイントのうち、1つでも取り入れられるものがあれば、ぜひ実践してみてください。小さな一歩が、大きな成果につながるかもしれません。
【出典元】

