はじめに
近年、若者の「車離れ」が進んでいるといわれています。しかし、それは単に車への興味が薄れたのではなく、ライフスタイルや価値観の変化によるものです。都市部では公共交通機関が充実し、経済的な負担や環境問題を意識する若者も増えています。一方で、車は単なる移動手段ではなく、個性やライフスタイルを表現する手段としてのポテンシャルも秘めています。
本記事では、若者の車離れの実態をデータとともに概観し、その原因を分析したうえで、若者に響く新たな自動車マーケティングの戦略を提案します。車の持つ魅力をどのように伝え、彼らの価値観に合った販売戦略を構築できるのかを探っていきます。
若者の車離れはどれくらい起きているの?
近年、若者の車離れが進行していると言われていますが、実際のデータを見てみましょう。
- 運転免許の取得率:
- 20代の運転免許保有率は減少傾向にあり、特に20~24歳の男性は2001年から2015年にかけて7.9%、女性は5.1%減少しています。
- 自動車の所有意向:
- KINTOの調査によると、都内在住のZ世代(18〜25歳)の約66%が「自動車を運転することが好き」と回答している一方で、実際に自分名義の車を所有しているのはわずか21.5%です。地方在住のZ世代では、所有率が58.2%と高いことが示されています。
- 将来の自動車所有希望:
- 都内のZ世代の約45.5%が将来的に自動車を欲しいと考えている一方で、経済的理由から所有をためらっていることが多いです。
これらのデータからもわかるように若者の間で車離れは起きていると言って良いでしょう。さらに今後さらに少子高齢化社会になることで若者の数が減少することも今後の自動車ビジネスを考える上で重要な視点となるでしょう。
出典:警察庁 運転免許統計
出典:KINTO プレスリリース
なぜ若者は車離れしているのか?
- 公共交通機関の充実
- 都市部に住む若者にとって、電車やバスなどの交通手段で十分に移動が可能.車がなくても生活に不便を感じにくい.
- 経済的な負担
- 車の購入費・維持費(ガソリン代や駐車場代、保険料など)が高く、アルバイトや新人社員など所得が限られる若者には負担が大きい.
- 所有よりシェアの価値観
- サブスクリプションやカーシェアなど、「必要なときだけ使う」という新しい消費スタイルが定着.
- 環境意識の高まり
- 「車は環境に負担がかかる」といったイメージから、エコフレンドリーなライフスタイルを大切にする若者が増えている.
- デジタルネイティブとしての価値観
- スマホやSNSを通じて、オンライン上の体験を重視するため、「車を使ってどこかへ行く」ことへの優先度が下がりやすい.
- 趣味の多様化:
- 自動車以外の趣味や娯楽が増えたことも、車離れの一因とされています。特に、カーシェアリングサービスの普及により、所有することなく車を利用する選択肢が増えています。
- 文化的変化:
- 昔のように車が若者文化の中心でなくなり、車がファッションアイテムとしての役割を果たさなくなったことも影響しています。
若者の車離れは確かに進行していますが、その背景には経済的要因や公共交通機関の発展、趣味の多様化などが複雑に絡み合っていると言えます。
若者の価値観・思考を深掘りする
続いて、若者が持っている価値観や思考を想像し、自動車を離れをなくしていくためのヒントを得ていきましょう。実際には若者向けにインタビューやアンケート調査を行い、自動車に対しての価値観や思考を言語化するのが良いでしょう。
1. 自己表現と個性の尊重
- 個性の演出
- 車は単なる移動手段というより、“自分らしさ”を表すファッションアイテムのような存在になり得る
- カスタマイズ性
- 自分好みに内外装や機能をアレンジできれば、“自分だけの車”として特別な付加価値が生まれる
2. 経済的・環境的・社会的責任意識
- 共有経済の浸透
- 所有にこだわらず、シェアやサブスクリプションで必要な時に使いたい
- エコ意識の高さ
- 電気自動車(EV)やハイブリッドカーなど、環境に配慮した車を選びたい人が増えている
- サステナブルなライフスタイル
- 企業が社会や環境にどのように貢献しているかも重視
3. デジタルネイティブとしての接点
- 常時接続・即時性の要求
- SNSやオンラインで情報をすぐに手に入れたい
- ブランドとのリアルタイムなコミュニケーションを期待
- 体験重視の購買行動
- 車そのものより「車を使った体験やストーリー」を求める。
- 試乗やイベント、オンラインでの交流の充実が大切。
若者向けの自動車販売戦略
その上で若者にどう自動車を販売していくべきでしょうか。Who/What/Howのフレームで考えていきます。
Who(誰) | What(提供便益・独自性) | How(実施方法) |
---|---|---|
① ライフスタイルに合わせて柔軟に車を使いたい若者 | 便益: 初期費用を抑えながら必要なときに利用できる自由度の高い利用形態 独自性: サブスクやシェアリングモデルでライフスタイルに適応 | - サブスクリプション型・カーシェアリングの導入 - ライフスタイルに応じたプラン変更可能 - ポップアップストア・VR試乗など体験型マーケティング |
② 自分の個性や価値観を反映させたい若者 | 便益: 自分らしいデザイン・カスタマイズができる 独自性: モジュール設計やパーソナライズオプションの充実 | - カスタマイズ可能なエコカー - 内装・機能のモジュール化 - AI/ARを活用したオンラインカスタマイズ |
③ ブランドの価値観やストーリーに共感して選びたい若者 | 便益: ブランドの世界観に共感できる 独自性: 「自由」「冒険」「サステナビリティ」を軸にしたブランドストーリー | - 透明性のある環境貢献・社会貢献施策 - SNSやインフルエンサーを活用した共感ストーリーの発信 - ユーザーとのコミュニティ形成 |
④ デジタルネイティブでオンライン体験を重視する若者 | 便益: デジタル上でもリアルに近い体験が可能 独自性: AI/AR/VRを駆使した購入体験 | - SNS・オンラインコミュニティの活用 - AIやARでのバーチャル試乗・カスタマイズ - デジタルコンテンツとの連携 |
⑤ 車をファッションアイテムのように楽しみたい若者 | 便益: 流行や特別感のあるデザイン・カラーを選べる 独自性: ブランドやデザイナーとのコラボモデル展開 | - 期間限定カラーやカスタムオプション - ファッションブランド・アーティストとのコラボ - 音楽フェス・ファッションイベントへの出展 |
マーケティングコンセプト
「Drive Your Style – あなたのライフスタイルを走らせる」
コンセプトの概要: 若者のライフスタイルにフィットする「自由」「個性」「体験」を軸に、自動車を単なる移動手段ではなく、「自分を表現し、日常を彩るモビリティプラットフォーム」として提案。
コンセプトのポイント:
- パーソナルな体験: カスタマイズ可能なデザイン・機能を提供し、「自分だけの車」を作る楽しさを強調。
- 柔軟な利用モデル: サブスクやカーシェアで、購入負担を減らし、必要なときに使える新しい所有スタイルを推進。
- ブランド共感: 環境貢献やストーリー性を大切にし、「乗ることが社会に貢献する」という価値を提供。
- デジタルシフト: AI・AR・VRを活用し、オンラインでの試乗やカスタマイズ体験を充実させる。
- ファッションとしての訴求: 限定カラー・コラボデザインを展開し、車を「スタイルの一部」として打ち出す。
この戦略を実行することで、若者が車を「ただの移動手段」ではなく、「ライフスタイルの一部」として捉え、自分らしい選択肢として検討しやすくなる。
まとめ
若者が“車離れ”しているのは、単に車が嫌いなわけではなく、現在の車の在り方や販売手法が若者の価値観や生活スタイルと合わないことが大きな原因です。よって今の若者の状況や価値観に沿ったコンセプトの構築や便益やHowの取り組みを検討する必要があります。
上記で示した戦略、戦術を実行することで、若者に「単なる移動手段」ではなく、「自分らしさ」や「ワクワク感」をもたらす商品・ブランドとして受け入れられる可能性が広がると嬉しいです。車と若者との新しい関係性を築くためにも、発想の転換と大胆なアプローチが求められているのです。