なぜUSJは選ばれるのか:ブランドの復活の背景とマーケターが応用できること - 勝手にマーケティング分析
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なぜUSJは選ばれるのか:ブランドの復活の背景とマーケターが応用できること

なぜUSJは選ばれるのか 商品を勝手に分析
この記事は約24分で読めます。

はじめに

マーケティング担当者の皆さん、自社の製品やサービスが市場でなぜ選ばれるのか、あるいは選ばれないのかを明確に理解していますか?多くの企業が直面する課題として、消費者の選択理由を深く把握し、それを自社の戦略に反映させることの難しさが挙げられます。

本記事では、日本を代表するテーマパークであるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を例に、なぜこのブランドが多くの消費者から選ばれ続けているのかを体系的に分析します。2004年に経営破綻の危機に瀕していたUSJが、森岡毅氏の率いるマーケティング戦略によって見事なV字回復を果たした背景には、他のブランドにも応用可能な重要な原則が隠されています。

この記事を読むことで、以下のメリットが得られます:

  1. USJの成功を支える市場ポジショニングと差別化戦略を理解できる
  2. 消費者心理に基づいた効果的な価値提案の構築方法を学べる
  3. 自社のブランド戦略に応用可能な実践的フレームワークを獲得できる

1. USJの基本情報

Screenshot

ブランド概要

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、アメリカの映画会社ユニバーサルの映画世界を体験できるテーマパークとして、2001年3月に大阪市此花区に開業しました。「世界最高を、お届けしたい。」というビジョンのもと、映画の世界観を活かしたアトラクションやショー、シーズナルイベントなどを提供しています。特に2010年以降、森岡毅氏が主導したマーケティング改革により、「映画だけ」というコンセプトから脱却し、多様なエンターテイメントを提供する場へと変貌を遂げました。

企業データ

  • 企業名:合同会社ユー・エス・ジェイ
  • 設立年:1994年(開業:2001年)
  • 代表者:J.L.ボニエ(CEO)
  • 従業員数:約15,000名(アルバイト・パートタイマー含む)
  • URL:https://www.usj.co.jp/

主要製品・サービスラインナップ

  • 映画をテーマにしたアトラクション(ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドなど)
  • キャラクターをテーマにしたエリア(ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター、ミニオン・パークなど)
  • ライブエンターテイメント(パレード、ショーなど)
  • シーズナルイベント(ハロウィーン・ホラー・ナイト、クリスマスイベントなど)
  • テーマレストランとフード
  • オリジナルグッズ販売

最新の業績データ

USJの正確な財務数値は非公開ですが、以下の公開情報とフェルミ推定から業績を分析します:

  • 年間来場者数:約1,600万人(米テーマエンターテインメント協会(TEA)による発表)
  • 入場料:大人1日券 8,400〜9,800円(シーズンにより変動)
  • 推定年間売上高:約2,400億円(入場料、飲食、グッズ販売等を含む)
  • 施設規模:約54ヘクタール
  • アトラクション数:42施設

算出根拠:
年間来場者数 1,600万人 × 平均消費額15,000円(入場料9,000円+園内消費6,000円)= 3,000億円

USJは2015年にコムキャスト・NBCユニバーサルが買収してから積極的な投資を続け、特にスーパー・ニンテンドー・ワールドなど話題性の高いエリア開設により、COVID-19前は7年連続で過去最高の入場者数を更新していました。

2. 市場環境分析

市場定義:USJが解決する顧客のジョブ

まずは、USJが所属するテーマパーク産業が解決する主な顧客のジョブ(Jobs to be Done)を見ていきましょう。

  1. 日常から離れた非日常的体験を味わいたい
  2. 家族や友人との思い出を作りたい
  3. 憧れの映画やキャラクターの世界観を体験したい
  4. SNSで共有できる特別な体験を得たい
  5. 季節ごとの特別なイベントを楽しみたい

これらのジョブは、特に若い世代や家族連れにとって優先度が高く、USJはこれらのジョブを同時に解決できる場として選ばれています。また、一般的なテーマパークと比較して、USJは「エッジの効いた刺激的な体験」という独自の要素も提供しています。

競合状況

日本のテーマパーク市場における主要プレイヤーとその特徴は以下の通りです:

ブランド強み市場アプローチ
東京ディズニーリゾートディズニーIP、徹底した顧客体験、高いリピート率ファミリー重視、カップル、友人と幅広い。夢と魔法の世界観
USJ多様なIP活用、刺激的な体験、シーズナルイベント幅広い年齢層向け、エッジの効いた体験
ナガシマリゾート絶叫系アトラクション、リーズナブルな価格地域密着型、実用的なアプローチ
富士急ハイランド絶叫アトラクション、恐怖体験スリル重視、若者中心
レゴランド子供向け体験、知育要素家族とキッズ市場に特化

POP/POD/POF分析

Points of Parity(業界標準として必須の要素)

  • 魅力的なアトラクションとエンターテイメント
  • 安全性の確保と高品質なオペレーション
  • 飲食やショッピングなどの付帯サービス
  • 季節ごとのイベントやプロモーション
  • 写真撮影スポットやフォトサービス

Points of Difference(差別化要素)

  • 映画とエンターテイメントを融合したエッジの効いた体験
  • 多彩なIPポートフォリオ(ハリー・ポッター、任天堂、セサミストリートなど)
  • 若者向けの刺激的なイベント(ハロウィーン・ホラー・ナイトなど)
  • マーケティング主導の柔軟かつ迅速な企画開発
  • データ分析に基づく戦略的な価格設定(変動制価格など)

Points of Failure(市場参入の失敗要因)

  • 新規IPの獲得・活用の遅れ
  • 混雑や待ち時間の管理不全
  • 顧客ニーズの見誤り(例:森岡氏登場前の「映画だけ」の限定的アプローチ)
  • 価格と価値のバランス崩壊
  • シーズナリティへの対応不足

PESTEL分析

テーマパーク業界、特にUSJを取り巻く環境要因を分析します。

要因機会脅威
政治的(Political)・入国規制緩和によるインバウンド回復
・地域振興策との連携
・日中韓関係の悪化による観光客減少リスク
・政治的混乱による観光産業への影響
経済的(Economic)・円安による訪日外国人の購買力向上
・国内旅行支援策
・物価上昇による家計の娯楽費削減
・エネルギーコスト上昇
社会的(Social)・SNS共有文化による拡散効果
・体験消費志向の高まり
・少子高齢化による市場縮小
・働き方改革による混雑の集中
技術的(Technological)・AR/VRなどの新技術活用
・キャッシュレス決済の拡大
・家庭内エンターテイメントの高度化
・メタバース等の競合サービス
環境的(Environmental)・環境配慮型パークへの転換
・サステナビリティへの取り組みによるブランド価値向上
・エネルギー規制の強化
・異常気象による営業への影響
法的(Legal)・規制緩和によるイベント開催機会増加
・知的財産権活用の拡大
・安全規制の厳格化
・労働法制の変更による人件費増加

この分析から、USJはインバウンド回復や体験消費志向の高まりといった追い風を活かしつつ、少子高齢化やメタバースなどの新技術による競合サービスの台頭などの課題に対応する必要があることがわかります。

3. ブランド競争力分析

SWOT分析

続いて、USJの内部環境と外部環境を分析し、強み、弱み、機会、脅威を明らかにします。

強み(Strengths)

  • 森岡毅氏によって確立された「消費者視点」の企業文化と組織体制
  • 多様なIPを活用した幅広いターゲット層へのアプローチ
  • データ駆動型マーケティングによる効果的な意思決定プロセス
  • シーズナルイベントの企画力と話題創出能力
  • 大阪という立地を活かしたアジア市場へのアクセス
  • 継続的な新アトラクション投資による話題性の維持

弱み(Weaknesses)

  • 東京ディズニーリゾートと比較した場合のブランドイメージの差
  • 大阪のみの立地による地理的制約(東京圏からのアクセス)
  • 悪天候時のアトラクション体験の質の低下(屋外施設が多い)
  • 繁忙期の混雑によるゲスト体験の質の低下
  • 入場料の継続的な値上げによる顧客離れのリスク

機会(Opportunities)

  • アジアからのインバウンド観光客の回復
  • 新規IPの獲得による市場拡大(今後の新エリア開発)
  • デジタル技術を活用した新たな体験価値の創出
  • パーク外でのIP活用による新たな収益源開発
  • 大阪IR(統合型リゾート)開発による周辺エリアの活性化

脅威(Threats)

  • 東京ディズニーリゾートの拡張計画
  • 新型コロナウイルスなどの感染症再流行リスク
  • 原材料・人件費の上昇によるコスト増加
  • 少子化による国内市場の縮小
  • 家庭用ゲーム機やVR等による代替体験の台頭

クロスSWOT戦略

SO戦略(強みを活かして機会を最大化)

  • アジア市場向けのカスタマイズされたマーケティングとサービス展開
  • 新規IPを活用した独自コンテンツの開発による差別化強化
  • データ分析とデジタル技術の融合による革新的な顧客体験の創出

WO戦略(弱みを克服して機会を活用)

  • デジタル技術活用による悪天候時や混雑時の顧客体験向上
  • 大阪IRとの連携による滞在型観光の促進と東京からの集客強化
  • 新規IPを活用した東京ディズニーリゾートにない独自の世界観構築

ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)

  • 継続的なシーズナルイベント刷新による話題性維持と差別化
  • データ駆動型の価格戦略によるコスト上昇の吸収と顧客満足度の維持
  • 消費者視点のマーケティングによる若年層の嗜好変化への迅速な対応

WT戦略(弱みと脅威の両方を最小化)

  • 屋内アトラクションの増強による天候リスクの低減
  • 混雑緩和策とデジタル整理券などの体験向上策の拡充
  • 価値に見合う価格設定と顧客ロイヤルティプログラムの強化

これらの分析から、USJは「消費者視点」という強みを最大限に活かしながら、インバウンド回復や新IPの獲得といった機会を捉え、少子高齢化やデジタル代替体験の脅威に対応していく必要があることがわかります。

4. 消費者心理と購買意思決定プロセス

続いて、USJの顧客行動パターンを「きっかけ・欲求・抑圧・行動・報酬」の枠組みで分析してみます。

オルタネイトモデル分析

パターン1:「映画や好きなキャラクターの世界への没入体験を求める層」

要素内容
行動USJのハリー・ポッターエリアや任天堂エリアなどを訪れる
きっかけ好きな映画や作品の新エリア開設、SNSでの話題
欲求スクリーンの中の世界を実際に体験したい、憧れの世界に入り込みたい
抑圧高額な入場料、混雑への懸念、fantasy/fiction への「子どもっぽい」との認識
報酬作品世界への没入による感動、SNSでシェアできる特別な体験

このパターンでは、USJは「フィクションの世界への入り口」として機能しています。ハリー・ポッターや任天堂などの人気IPを活用し、リアルでしか得られない没入感を提供することで、消費者の「架空の世界を実際に体験したい」という深層心理に訴えかけています。

パターン2:「刺激的な体験を求める若者層」

要素内容
行動ハロウィーン・ホラー・ナイトや絶叫系アトラクションに参加する
きっかけSNSでの拡散、友人からの誘い、季節イベントの告知
欲求日常では味わえない興奮や恐怖を体験したい、友人との思い出を作りたい
抑圧「怖いもの」への不安、グループでの同調圧力、費用負担
報酬アドレナリン放出による高揚感、克服感、共有体験による絆の強化

このパターンでは、USJが「日常からの解放装置」として機能しています。森岡氏が考案したハロウィーン・ホラー・ナイトは、特に若い女性が「声を上げて叫ぶ」という日常では抑制されがちな行動を解放する場を提供し、大きな成功を収めました。

パターン3:「家族の思い出作りを求める層」

要素内容
行動休暇に家族でUSJを訪れ、一日中パーク内で過ごす
きっかけ子どもの長期休暇、テレビCMやSNSでの告知
欲求家族との絆を深めたい、子どもに特別な体験を与えたい
抑圧家族全員の嗜好の違い、高額な総費用、体力的な負担
報酬今しか見れない子供や家族の笑顔、共有された思い出、「良い親」としての自己認識

このパターンでは、USJが「家族の絆を強化する場」として機能しています。森岡氏はこのニーズに応えるため、「ユニバーサル・ワンダーランド」を開設し、子ども連れのファミリー層が楽しめるコンテンツを拡充しました。

本能的動機

USJの体験が消費者の本能的動機にどう働きかけているかを分析してみます。

生存・安全本能に関連する要素

  • 恐怖体験(ホラーナイト)による安全な環境での危険シミュレーション
  • 冒険的体験による探索本能の充足
  • パーク内での特別な食体験による味覚満足

繁殖・社会的地位に関連する要素

  • 「行った」経験のSNS共有による社会的地位の確立
  • グループ体験による社会的結束の強化
  • 限定グッズの所有による希少性と帰属意識の満足

ドーパミン回路を刺激する要素

  • 絶叫アトラクションによるアドレナリン放出
  • 予測できない驚きや変化(バックドロップコースターなど)
  • 達成感(全アトラクション制覇など)と報酬のサイクル
  • 季節限定イベントによる「今だけ」という希少性と緊急性

USJは、これらの本能的動機を巧みに刺激するエクスペリエンスデザインによって、単なる娯楽を超えた深い感情的なつながりを構築しています。特に、日常では抑制されがちな感情表現や行動を解放する機会を提供することで、強い感情的体験を生み出しています。

5. ブランド戦略の解剖

これまでの分析から、USJがどのような顧客にどのような価値を提供し、それをどのように届けているかを整理していきます。

Who/What/How分析

パターン1:若者層向け戦略

分類内容
Who(誰)20~30代の若年層、特に女性グループや若いカップル
Who(JOB)日常から解放された刺激的な体験を味わいたい、SNS映えする特別な体験を得たい
What(便益)日常では体験できない刺激や興奮、友人と共有できる特別な思い出
What(独自性)ディズニーにはない「エッジが効いた」体験、大人向けの刺激的なコンテンツ
How(プロダクト)ハロウィーン・ホラー・ナイト、クールジャパンイベント、絶叫系ライド
How(コミュニケーション)SNS重視の広告戦略、インフルエンサーを活用したバイラルマーケティング
How(場所)大阪という立地を活かした「非東京的」エンターテイメント
How(価格)体験価値に見合う適正価格、エクスプレスパスによる体験の質向上

パターン2:ファミリー層向け戦略

分類内容
Who(誰)未就学児~小学生を持つ家族
Who(JOB)子どもと一緒に楽しめる体験を共有したい、家族の絆を深めたい
What(便益)世代を超えて共有できる体験、子どもの成長に寄与する特別な思い出
What(独自性)大人も子どもも同時に楽しめるコンテンツの多様性
How(プロダクト)ユニバーサル・ワンダーランド、ミニオン・パーク、家族向けショー
How(コミュニケーション)テレビCM、ファミリー向け雑誌、子ども向けキャラクターの活用
How(場所)身長制限のないアトラクションの充実、家族向けレストラン
How(価格)家族向け割引パッケージ、年間パスポートによるリピート促進

パターン3:インバウンド観光客向け戦略

分類内容
Who(誰)アジアを中心とした訪日外国人観光客
Who(JOB)日本でしか体験できない特別なエンターテイメントを楽しみたい
What(便益)グローバルIPと日本文化の融合体験、SNS映えする観光スポット
What(独自性)クールジャパンイベント、海外では体験できない日本オリジナルコンテンツ
How(プロダクト)ハリー・ポッターエリア、任天堂ワールド、EVAやオネピなどの日本IPコンテンツ
How(コミュニケーション)多言語対応、インバウンド向けデジタルマーケティング
How(場所)関西国際空港からのアクセスの良さ、周辺ホテルとの連携
How(価格)訪日外国人向け特別チケット、免税ショッピング

成功要因の分解

ブランドポジショニングの特徴

USJのブランドポジショニングは、以下の要素によって特徴づけられます:

  1. 「映画パーク」から「エンターテイメントリゾート」への転換:森岡氏の改革以前のUSJは「映画のテーマパーク」という限定的なポジショニングでしたが、現在は多様なIPを活用した総合エンターテイメント施設へと進化しています。
  2. 「ディズニーとは異なる」差別化ポジション:USJは意図的にディズニーとは異なる「エッジが効いた」体験を提供することで、差別化を図っています。より刺激的で大人向けのコンテンツも積極的に取り入れています。
  3. 「常に驚きと変化がある」というダイナミズム:定期的に新アトラクションやエリアを導入し、シーズナルイベントも毎年刷新することで、リピーターを飽きさせない戦略を採用しています。

コミュニケーション戦略の特徴

  1. ターゲットセグメント別の最適化されたメッセージング:家族層、若者層、インバウンド層など、セグメントごとに異なるメディアと表現で訴求しています。
  2. 「No Limit!」という世界観の一貫性:USJのコミュニケーションには常に「限界突破」「驚き」「興奮」といった要素が含まれ、ブランド体験の期待値を高めています。
  3. SNSとバイラルマーケティングの活用:特にハロウィーンイベントなどでは、来場者自身がSNSで拡散する仕組みを意図的に設計しています。

価格戦略と価値提案の整合性

  1. 変動価格制の導入:需要予測に基づく変動価格制を導入することで、混雑の平準化と収益最大化を同時に実現しています。
  2. 価値に基づく価格設定:森岡氏の改革で、「安さ」ではなく「価値に見合う価格」という考え方を徹底。実際に価格を上げても来場者が増えるという現象を実現しました。
  3. エクスプレスパスによる体験価値の向上オプション:基本入場料に加え、待ち時間を短縮できるエクスプレスパスを提供することで、顧客の多様なニーズに対応しています。

カスタマージャーニー上の差別化ポイント

  1. 予約から帰宅後までの一貫した体験設計:チケット購入、来場、園内体験、帰宅後のSNS共有まで、一貫した体験として設計しています。
  2. 「期待を超える」体験の創出:森岡氏は「ゲストの期待値を超える」ことを重視し、常に顧客の想像を超える要素を盛り込んでいます。
  3. 待ち時間も含めた体験価値向上:長い待ち時間もエンターテイメントの一部として設計し、待ち列でのキャラクター登場やフォトスポット設置などを行っています。

顧客体験(CX)設計の特徴

  1. 五感に訴える総合的な体験設計:視覚だけでなく、聴覚、嗅覚、触覚、味覚に至るまで、パーク全体が五感を刺激する設計になっています。
  2. 感情的高揚と緩和のリズム設計:興奮と緊張、そしてリラックスのリズムを意図的に作り出すエリア配置と動線設計を行っています。
  3. 「自分だけの体験」の創出:多様なアトラクションとイベントを用意することで、来場者一人ひとりが「自分だけの」ユニークな体験を作り出せるようにしています。

見えてきた課題

外部環境からくる課題と対策

  1. 少子高齢化への対応
    • 課題:日本の少子高齢化による国内市場の縮小
    • 対策:インバウンド市場のさらなる開拓、シニア向けコンテンツの充実
  2. デジタル代替体験との競争
    • 課題:VRやメタバースなど、家庭でも楽しめる高度なエンターテイメントの台頭
    • 対策:リアル体験の価値の最大化、デジタルとリアルの融合体験の開発
  3. 感染症リスクの継続
    • 課題:コロナ後も続く感染症リスクへの懸念
    • 対策:衛生対策の継続とリモート参加型イベントの拡充
  4. 気候変動と異常気象への対応
    • 課題:台風や豪雨など異常気象によるパーク運営への影響
    • 対策:屋内アトラクションの比率向上、柔軟なチケット変更・返金ポリシーの強化

内部環境からくる課題と対策

  1. キャパシティの限界
    • 課題:人気アトラクションの長時間待ちによる顧客満足度低下
    • 対策:混雑予測AIの導入、デジタル整理券の拡充、オフピーク需要喚起策の強化
  2. 価格上昇による顧客離れリスク
    • 課題:原材料費・人件費上昇による継続的な価格引き上げのリスク
    • 対策:価値向上の継続、ロイヤルティプログラムの強化、滞在時間価値の最大化
  3. IPライセンスの依存リスク
    • 課題:主要IPの契約終了や更新条件悪化のリスク
    • 対策:IP分散戦略の継続、独自コンテンツの開発強化
  4. 大阪立地の限界への対応
    • 課題:東京圏からのアクセスの悪さによる市場制約
    • 対策:宿泊パッケージの拡充、近隣観光地との連携強化、オンライン体験の開発

6. 結論:選ばれる理由の統合的理解

上記で、USJが多くの消費者から選ばれ続ける理由を包括的に分析した結果、以下の要因が浮かび上がってきました。

消費者にとっての選択理由

機能的側面

  1. 多様なコンテンツの融合:映画、アニメ、ゲームなど多様なIPを活用したコンテンツが一か所で楽しめる利便性
  2. 刺激と興奮の体験価値:絶叫系アトラクションやホラーイベントなど、日常では得られない刺激的な体験
  3. テクノロジーと創造性の融合:最新技術を駆使した没入感の高いアトラクションとクリエイティブな世界観の構築
  4. シーズナルイベントによる四季折々の体験:年間を通じて異なる体験が楽しめる変化と多様性

感情的側面

  1. 非日常感と解放感:日常の制約から解放される開放感と興奮
  2. 成長と挑戦の感覚:恐怖や不安を乗り越える達成感と成長感
  3. 没入感と世界観への浸透:好きな作品の世界に実際に入り込む感動と憧れの実現
  4. 想像を超える驚きと喜び:期待以上の体験を提供することによる感動

社会的側面

  1. 共有体験による絆の強化:家族や友人との思い出の共有による関係性の深化
  2. 社会的承認と表現の場:SNSでの共有による社会的存在感の獲得
  3. トレンドへの参加感:流行や話題のコンテンツに触れることによる文化的参加感
  4. コミュニティへの帰属感:特定のIPファンとしてのアイデンティティ確認と共同体験

市場構造におけるブランドの独自ポジション

USJは日本のテーマパーク市場において、以下のような独自のポジションを確立しています:

  1. 「映画パーク」から「総合エンターテイメント」へ:オープン当初の「映画のテーマパーク」という狭いポジションから、多様なIPとコンテンツを提供する総合エンターテイメント施設へと進化
  2. ディズニーとの差別化ポジション:東京ディズニーリゾートの「夢と魔法の世界」に対して、より刺激的でエッジの効いた「リアルとファンタジーの融合」として差別化
  3. 「常に変化し続ける」というダイナミックなポジション:固定的な世界観よりも、常に新しい体験を提供し続けるという変化と革新の価値を体現
  4. 関西・大阪の地域性を活かしたポジション:関西の文化的特性(ノリの良さ、ユーモア)を取り入れた、より自由度の高いエンターテイメント

競合との明確な差別化要素

USJの競合、特に東京ディズニーリゾートとの主な差別化要素は以下の通りです:

  1. 多様なIPポートフォリオ戦略:単一ブランド(ディズニー)に依存せず、ハリー・ポッター、任天堂、セサミストリート、モンスターハンターなど多様なIPを戦略的に活用
  2. ターゲット層の拡大と細分化:子どもから大人まで、また家族連れからヤングアダルト、インバウンド層まで、幅広い層に異なる訴求ポイントで接近
  3. マーケティング主導の俊敏な企画開発:森岡氏の改革で確立された、データ分析とマーケティング主導のアジャイルな企画開発体制
  4. エッジの効いたコンテンツ提供:特にハロウィーン・ホラー・ナイトに代表される、より大人向けの刺激的なコンテンツの充実
  5. 高頻度のコンテンツ刷新:シーズナルイベントの頻繁な更新と、定期的な新アトラクション導入によるリピーター戦略

持続的な競争優位性の源泉

USJが長期にわたって競争優位性を維持している根本的な理由は、以下のような要素にあると考えられます:

  1. 「Consumer Driven」の組織文化と意思決定プロセス:森岡氏によって確立された、消費者視点を最優先する企業文化とマーケティング主導の意思決定プロセス
  2. データ駆動型のマーケティング実行力:消費者インサイトの徹底的分析と、それに基づく精度の高い企画立案・実行能力
  3. IP獲得と活用の戦略的能力:魅力的なIPの獲得と、それを活かした没入感の高い体験設計の能力
  4. 変化を恐れない革新性:顧客の期待を超えるための継続的な自己革新と、既存概念にとらわれない柔軟な発想
  5. マーケティングとクリエイティブの融合:マーケティングインサイトと創造的なエンターテイメント設計の高度な融合能力

これらの要素が相互に作用することで、USJは消費者のニーズと期待を的確に捉え、常に新しい価値を提供し続けるという持続的な競争優位性を確立しています。特に重要なのは、「消費者視点」を単なるスローガンではなく、組織体制や意思決定プロセスにまで落とし込んでいる点です。

7. マーケターへの示唆

USJの成功事例から、他のブランドやマーケターが学び、応用できる普遍的な原則と実践方法について考察します。

再現可能な成功パターン

  1. 消費者視点の徹底と組織への浸透
    • 消費者インサイトを起点とした企画立案プロセスの確立
    • マーケティング部門を企画初期段階から関与させる組織設計
    • 「提供者視点」と「消費者視点」のギャップを常に認識する文化醸成
  2. 期待を超える体験設計の方法論
    • 顧客の期待値を正確に把握し、それを超える要素を計画的に設計
    • 感情的な高揚と満足を生む「驚き」の要素をストーリーに組み込む
    • 五感に訴える総合的な体験設計による没入感の創出
  3. リソース制約下での創造的問題解決
    • 既存アセットの創造的再利用(バックドロップのように逆走させるなど)
    • 高コストのハード開発よりも、低コストで高い体験価値を生むソフト開発の重視
    • 顧客にとって最も重要な体験要素への集中投資と優先順位付け
  4. データ駆動型の意思決定と検証サイクル
    • 顧客行動データの徹底的な収集と分析
    • 仮説検証型の小規模テストと迅速な展開判断
    • 成功施策の要因分解と横展開による効率的な成長

業界・カテゴリーを超えて応用できる原則

以下の原則は、テーマパーク以外の業界でも広く応用可能です:

  1. ターゲット再定義によるビジネス革新
    • 適用例:固定観念を捨て、顧客を根本的に再定義することで新たな成長機会を発見
    • 事例:USJが「映画ファン」から多様なターゲット層へと視野を広げたように
    • 応用分野:小売業、教育産業、ヘルスケア、金融サービスなど
  2. 抑圧された欲求を解放する体験設計
    • 適用例:社会的に抑制されている欲求や行動に注目し、安全な解放の場を提供
    • 事例:ハロウィーン・ホラー・ナイトが若い女性の「声を上げて叫ぶ」抑制を解放したように
    • 応用分野:ファッション、飲食、スポーツ、エンターテイメント全般
  3. 価格と価値の新たな関係性構築
    • 適用例:「安さ」ではなく「価値に見合う適正価格」という考え方への転換
    • 事例:USJが価格を上げながらも来場者数を増やしたように
    • 応用分野:プレミアム製品、サブスクリプションサービス、体験型商品
  4. 機会損失の体系的発見と活用
    • 適用例:既存顧客の不満や未達成ニーズを発見し、新たな価値創造に結びつける
    • 事例:ユニバーサル・ワンダーランドでファミリー層の機会損失を補ったように
    • 応用分野:製品開発、サービス設計、カスタマーエクスペリエンス改善
  5. 物理的体験とデジタル体験の融合
    • 適用例:リアルとデジタルの最適な組み合わせによる体験価値の最大化
    • 事例:USJのアプリ、SNS拡散を前提としたフォトスポット設計のように
    • 応用分野:小売業、外食産業、教育、ヘルスケア、観光

ブランド強化のためのフレームワーク

USJの成功から学んだ知見を体系化した「消費者体験価値向上フレームワーク」を以下に示します:

4 検証改善

3 体験創造

2 価値設計

1消費者理解

表層ニーズ把握

深層心理理解

抑圧要因特定

本能的動機分析

期待値把握

超越要素設計

感情的高揚設計

共有価値創造

総合体験マッピング

感情曲線設計

五感活用計画

記憶点創出

仮説検証

データ収集分析

継続的改善

横展開加速

このフレームワークを活用することで、USJのような「期待を超える体験価値」を提供するブランド構築が可能になります。重要なのは、消費者理解から始まり、体験設計、実行、検証という一連のサイクルを回し続けることです。

まとめ

USJが世界中で選ばれ続ける7つの理由は以下の通りです:

  1. 消費者視点を貫く組織文化と意思決定プロセス:「提供者視点」ではなく、徹底した「消費者視点」に基づく企画開発と実行
  2. 明確なターゲティングと深い顧客理解:表面的なニーズだけでなく、顧客の深層心理や抑圧された欲求を理解し、それに応える価値提供
  3. 期待を超える体験設計の徹底:顧客の期待値を正確に把握し、それを意図的に超える要素を組み込んだ体験設計
  4. 多様なIPポートフォリオと戦略的活用:単一IPに依存せず、多様なIPを戦略的に獲得・活用することで、幅広い顧客層に訴求
  5. データ駆動型マーケティングとアジャイルな実行力:消費者データの徹底分析と、それに基づく俊敏な意思決定と実行
  6. 価値と価格の新たな関係性構築:「安さ」ではなく「価値に見合う価格」という考え方の徹底と、それを実現する高い体験価値の提供
  7. 常に革新し続ける変化への姿勢:現状に満足せず、常に新しい価値を創造し続けるイノベーション文化

USJの成功事例は、ブランドの競争力が単なる製品・サービスの機能や価格だけでなく、顧客に提供する総合的な「体験価値」にあることを明確に示しています。特に重要なのは、「消費者視点」を単なるスローガンではなく、組織文化や意思決定プロセスにまで落とし込み、実践している点です。

あらゆるブランドとマーケターにとって、USJの成功から学ぶべき最も重要な教訓は、顧客の声に真摯に耳を傾け、表面化されていないニーズや欲求を理解し、それに応える価値を創造することの重要性です。そして、その価値創造のプロセスを継続的に改善し続けることが、持続的な競争優位性の源泉となるのです。

出典:https://www.usj.co.jp/

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

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