はじめに
多くのマーケターやビジネスパーソンが自社製品やサービスが市場で選ばれる理由を明確に理解できていないという課題を抱えています。この記事では、テレビ東京を例に取り、なぜ視聴者に選ばれ続けているのかを分析します。テレビ東京の戦略を理解することで、自社ビジネスの成長のヒントを得ることができるでしょう。
テレビ東京とは

公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/
テレビ東京(株式会社テレビ東京)は、関東広域圏を放送対象地域とする地上波テレビ局です。1964年に開局し、現在はテレビ東京ホールディングスの連結子会社として運営されています。
テレビ東京は、「個性と独自性」を重視した番組作りで知られ、「挑戦と改革」を続けています。経済報道、バラエティ番組、スポーツ中継、アニメなど、幅広いジャンルで特色ある番組を提供しています。
テレビ東京の売上
テレビ東京の2024年3月期の売上高は1485億円でした。これは前年比で微減となっていますが、経常利益は95億で過去最高を更新しています。ただし、売上自体はここ4年で横ばい、もしくは減少しており、テレビ局が置かれる環境の厳しさが伺えます。

出典:テレビ東京 IR情報
テレビ放映市場の分析
PESTLE分析:
要因 | 機会 | 脅威 |
---|---|---|
政治的 | 放送法改正による事業拡大の可能性 | 規制強化によるコンテンツ制作の制限 |
経済的 | 経済回復による広告収入の増加 | 景気後退による広告費削減 |
社会的 | 多様性重視の社会トレンドに合わせたコンテンツ制作 | 若年層のテレビ離れ |
技術的 | 5G普及によるハイクオリティコンテンツの配信 | 新興メディアプラットフォームとの競争激化 |
法的 | 著作権法の改正によるコンテンツ活用の拡大 | 個人情報保護法強化によるデータ活用の制限 |
環境的 | SDGsに関連した番組制作による企業イメージ向上 | 環境配慮型放送設備への投資負担 |
テレビ離れやコンテンツの規制という脅威がある中でまだまだ影響力の高いテレビとその広告は引き続き主要なメディアとしての立ち位置を譲らないと思いますが、今まで通りと同じことをやっているとインターネットメディア/動画配信サービスに大きく足元を掬われてしまうでしょう。
POP/POD/POF分析
次に、テレビ東京が戦うテレビ放送市場におけるPOP(Point of Parity)、POD(Point of Difference)、POF(Point of Failure)を分析してみましょう。
要素 | 内容 |
---|---|
POP(同質性) | - 24時間放送 - ニュース・情報番組の提供 - ドラマ・バラエティ番組の放送 - スポーツ中継 |
POD(差別化要素) | - 経済報道の強さ(「WBS」「ガイアの夜明け」など) - 独自のバラエティ番組(「YOUは何しに日本へ?」など) - アニメ放送の充実(「ポケットモンスター」シリーズなど) - マイナースポーツの中継(卓球、柔道など) |
POF(失敗要素) | - 全国的なネットワークの弱さ - プライムタイムの視聴率の低さ - 大型スポーツイベントの放映権獲得の難しさ |
テレビ東京は、POPとして他の地上波テレビ局と同様のサービスを提供しつつ、経済報道やアニメなどの分野で強いPODを持っています。一方で、全国ネットワークの弱さやプライムタイムの視聴率の低さがPOFとなっています。
テレビ東京のSWOT分析
テレビ東京の自社分析
次に、テレビ東京の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を簡単に分析してみましょう。
強み(Strengths) | 弱み(Weaknesses) |
---|---|
1. 経済・マーケット情報番組の強さ | 1. 全体的な視聴率の低さ |
2. アニメ番組の充実したラインナップ | 2. 制作費の制約 |
3. プロ野球中継(ヤクルトスワローズ)の独占権 | 3. 地方局ネットワークの弱さ |
4. 独自路線の番組企画力 | 4. 大型スポーツイベントの放映権不足 |
5. コスト効率の高い経営体制 | 5. 若年層向けコンテンツの不足 |
6. 特定ジャンルでの高い支持率 | 6. プライムタイムの競争力不足 |
7. デジタル配信への積極的な取り組み | 7. 全国的な知名度の低さ |
機会(Opportunities) | 脅威(Threats) |
---|---|
1. 経済情報ニーズの高まり | 1. テレビ広告市場の縮小 |
2. アニメの国際的人気上昇 | 2. 動画配信サービスの台頭 |
3. デジタル配信市場の拡大 | 3. 若年層のテレビ離れ |
4. 5G普及によるコンテンツ配信の多様化 | 4. 制作費の高騰 |
5. ニッチ市場開拓の可能性 | 5. 競合他社のデジタル戦略強化 |
6. eスポーツ市場の成長 | 6. 景気変動による広告収入の不安定化 |
7. SDGs関連コンテンツへの需要増加 | 7. 新たな規制導入の可能性 |
戦略提案:
- SO戦略:
- 経済情報番組のデジタル展開強化
- アニメコンテンツの国際配信拡大
- eスポーツ中継の強化と関連番組の制作
- WO戦略:
- デジタルプラットフォームを活用した視聴者層の拡大
- ニッチ市場向けコンテンツのオンデマンド配信
- 5G技術を活用した新しい視聴体験の提供
- ST戦略:
- 経済・アニメ分野での独自性を活かした広告モデルの開発
- コスト効率の高い制作体制を維持しつつ、質の高いコンテンツ制作
- デジタル配信と地上波放送の相乗効果を高める施策の実施
- WT戦略:
- 他局との協力関係構築によるコンテンツ共有や制作費分担
- 視聴者参加型コンテンツの強化によるエンゲージメント向上
- データ分析に基づく効率的な番組編成と広告販売
テレビ東京は、経済報道やアニメなどの強みを活かしつつ、動画配信サービスの拡大やグローバル市場でのアニメ需要増加などの機会を活用することで、弱みや脅威に対応しています。
この経済とアニメの強みは今後も研ぎ澄まして、外部の良い機会と組み合わせて展開していけることはテレビ東京の今後にとって重要な戦略となると考えます。
テレビ東京の購入者(視聴者)の合理
次に、テレビ東京の視聴者の行動パターンをオルタネイトモデルを用いて分析してみましょう。
- ビジネスパーソン向け経済番組視聴者
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 平日夜にWBSなどの経済番組を視聴する |
きっかけ | 仕事帰りにテレビをつける習慣 |
欲求 | 最新の経済動向を知りたい、仕事に役立つ情報を得たい |
抑圧 | 他局の娯楽番組も気になる、家族と過ごす時間も欲しい |
報酬 | 経済知識の向上、仕事での話題作り、投資のヒント |
- アニメファン視聴者
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 夕方や深夜にアニメ番組を視聴する |
きっかけ | SNSでの話題、友人からの推薦 |
欲求 | 好きなアニメを楽しみたい、最新作を見逃したくない |
抑圧 | 勉強や仕事の時間との兼ね合い、周囲の目 |
報酬 | エンターテインメントの享受、アニメコミュニティでの話題作り |
- 独自バラエティ番組視聴者
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 平日夜や週末に独自のバラエティ番組を視聴する |
きっかけ | SNSでの話題、チャンネルを回している時の偶然の発見 |
欲求 | 他局にはない面白い番組を見たい、新しい発見をしたい |
抑圧 | 他局の人気番組との時間帯の重複、家族との番組選択の調整 |
報酬 | 独特の笑いや感動の体験、会話の話題作り |
これらの分析から、テレビ東京の視聴者は、他局では得られない独自の価値(経済知識、アニメ体験、独特のバラエティ)を求めて視聴していることがわかります。
テレビ東京のWho/What/How
最後に、テレビ東京のターゲット(Who)、提供価値(What)、提供方法(How)を複数のパターンで分析してみましょう。
パターン1:経済ニュース視聴者向け
Who(誰に)
- ターゲット:ビジネスパーソン、投資家、経済に関心のある視聴者
- 特徴:
- 年齢層:30代〜50代
- 職業:会社員、経営者、自営業者、金融関係者
- 関心事:株式市場、経済動向、企業分析、投資戦略
What(何を)
- 提供価値:最新の経済情報と深い分析による意思決定支援
- 独自性:
- 他局よりも詳細な経済ニュース
- 専門家による鋭い分析と予測
- ビジネスに直結する実用的な情報
How(どのように)
- 提供方法:
- 「ワールドビジネスサテライト(WBS)」などの経済専門番組
- 経済ニュースの放送時間帯の拡大
- オンラインプラットフォームでの経済コンテンツの充実
- 経済専門家や企業経営者のインタビュー
パターン2:アニメファン向け
Who(誰に)
- ターゲット:アニメ愛好者、若年層視聴者
- 特徴:
- 年齢層:10代〜30代
- 関心事:アニメ、マンガ、ゲーム、ポップカルチャー
- 視聴習慣:深夜アニメの視聴、録画視聴
What(何を)
- 提供価値:高品質で多様なアニメコンテンツ
- 独自性:
- 他局にはない独自のアニメ作品
- 人気シリーズの継続的な放送
- アニメ関連イベントの情報
How(どのように)
- 提供方法:
- 「木曜アニメ劇場」などの定期的なアニメ枠の設定
- 人気アニメの長期放送(例:「ポケットモンスター」シリーズ)
- アニメ関連グッズの販売やイベントの開催
- オンラインプラットフォームでのアニメ配信サービス
パターン3:独自バラエティ番組視聴者向け
Who(誰に)
- ターゲット:新しい発見や体験を求める視聴者
- 特徴:
- 年齢層:20代〜40代
- 関心事:旅行、文化、人間ドラマ、ユニークな体験
- 視聴習慣:平日夜や週末のテレビ視聴
What(何を)
- 提供価値:他局にはない斬新な企画と感動的なストーリー
- 独自性:
- ユニークな視点からの番組制作
- 視聴者参加型の企画
- 感動と笑いを融合させたコンテンツ
How(どのように)
- 提供方法:
- 「YOUは何しに日本へ?」などの独自バラエティ番組の制作
- SNSと連動した視聴者参加型企画の実施
- 海外の視聴者も楽しめる多言語対応のオンライン配信
- 視聴者投稿型のコンテンツ制作
パターン4:他民放が扱わないスポーツのファン向け
Who(誰に)
- ターゲット:多様なスポーツに興味を持つ視聴者
- 特徴:
- 年齢層:全年齢層
- 関心事:超メジャースポーツ以外の競技、地域スポーツ
- 視聴習慣:スポーツ中継の定期視聴
What(何を)
- 提供価値:他局では見られないスポーツの中継と情報
- 独自性:
- 卓球、柔道などのスポーツの定期的な中継
- 地域スポーツの紹介
- アスリートのドキュメンタリー
How(どのように)
- 提供方法:
- スポーツの定期的な中継枠の設定
- スポーツ専門チャンネルとの連携
- オンラインプラットフォームでのスポーツコンテンツの充実
- 地域スポーツイベントの中継や情報提供
これらのパターンを通じて、テレビ東京は多様な視聴者層に対して独自の価値を提供し、他局との差別化を図っています。各パターンにおいて、ターゲット視聴者のニーズに合わせたコンテンツと提供方法を工夫することで、視聴者の支持を獲得していることがわかります。
結論:テレビ東京は誰になぜ選ばれるのか
テレビ東京は以下の理由で視聴者に選ばれています:
- ビジネスパーソンや投資家:高品質な経済報道と分析を提供するため
- アニメファン:豊富なアニメコンテンツと放送枠を確保しているため
- 独自性を求める視聴者:他局にはない斬新な企画や番組を提供するため
- 他局が扱わないスポーツのファン:他局では扱わないスポーツ中継を行うため
テレビ東京は、大手キー局とは異なる独自路線を貫くことで、ニッチな市場でも強い支持を得ています。視聴率だけでなく、特定のターゲット層の深い満足度を追求する戦略が、安定した経営と独自のブランド価値の構築につながっています。
まとめ
- テレビ東京は「個性と独自性」を重視した番組作りで視聴者の支持を得ている
- 経済報道、アニメ、独自バラエティなど、特定分野で強みを持つ
- 効率的な経営で安定した利益を上げている
- 動画配信サービスの拡大やグローバル展開など、新たな成長機会を追求している
- 特定のターゲット層に深い満足を提供する戦略が成功の鍵となっている
テレビ東京の事例から、マーケターやビジネスパーソンは以下の教訓を得ることができます:
- 市場全体のシェアよりも、特定のターゲット層での強い支持を得ることの重要性
- 独自性と専門性を活かした差別化戦略の有効性
- 変化する市場環境に対応しつつ、自社の強みを活かす柔軟性の必要性
- 効率的な経営と新たな成長機会の追求のバランス
これらの要素を自社のビジネスに適用することで、市場での競争力を高め、持続可能な成長を実現することができるでしょう。