東京電力2025年第二四半期決算分析:売上減でも利益増の裏にあるコスト管理とリスクヘッジ戦略 - 勝手にマーケティング分析
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東京電力2025年第二四半期決算分析:売上減でも利益増の裏にあるコスト管理とリスクヘッジ戦略

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はじめに:なぜこの決算に注目すべきなのか

みなさん、こんにちは。今回は東京電力ホールディングス(以下、東京電力)の2025年度第2四半期決算を、マーケター目線で徹底分析していきます。

「電力会社の決算なんて、マーケティングと関係あるの?」と思うかもしれませんが、実はこの決算には売上が減っても利益を確保する戦略や、外部環境の変化にどう対応するかといった、あらゆる業界のマーケターが学べるヒントが詰まっています。

特に注目したいのは、販売電力量が減少している(つまり売れる量が減っている)にも関わらず、前年より利益が増えているという事実。これは単なる値上げだけでは説明できない、緻密な戦略があるはずです。

この記事では数字の羅列ではなく、「なぜそうなったのか」「どんな戦略があったのか」を読み解いていきます。

東京電力ホールディングスとは?企業概要

まず基本情報を押さえておきましょう。東京電力ホールディングスは、2016年に持株会社体制に移行した日本最大級の電力会社です。現在は以下の5つの事業会社に分かれて運営されています。

事業会社名主な事業内容役割
東京電力ホールディングス(HD)グループ全体の経営管理、原子力事業司令塔的な役割
東京電力フュエル&パワー(FP)火力発電、燃料調達(JERA経由)電力の卸売
東京電力パワーグリッド(PG)送配電インフラの運営・保守電力の運搬役
東京電力エナジーパートナー(EP)小売電気事業、ガス事業顧客と直接接する窓口
東京電力リニューアブルパワー(RP)再生可能エネルギー発電脱炭素への布石

この体制によって、発電・送配電・小売をそれぞれ専門化し、効率的な経営を目指しています。マーケティング的に言えば、バリューチェーンを分解して各工程を最適化する戦略ですね。

全体の業績サマリー:一見矛盾する数字の裏側

2025年度第2四半期(2025年4月〜9月)の主要数値を見てみましょう。

項目2025年4-9月2024年4-9月増減増減率
売上高31,502億円33,549億円-2,046億円93.9%
営業損益2,170億円1,990億円+180億円109.1%
経常損益2,821億円2,506億円+314億円112.6%
特別損益-9,662億円-336億円-9,326億円-
中間純損益-7,123億円1,895億円-9,019億円-

パッと見て気づくのは、売上は6%減ったのに、経常損益(本業の儲け)は12.6%も増えているという事実です。これは一体どういうことでしょうか?

まず売上減少の主な理由は、販売電力量の減少です。資料によると、総販売電力量は1,083億kWh(前年比93.1%)と、約7%減少しています。特に小売販売電力量は873億kWh(前年比91.8%)と、約8%も落ち込んでいます。

一方で、経常損益が改善した最大の要因は「燃料費等調整制度の期ずれ影響が好転した」ことです。これは少し専門的な話なので、わかりやすく説明しますね。

燃料費等調整制度とは? 電気料金には、燃料価格の変動を自動的に反映させる仕組みがあります。しかし、実際の燃料購入価格と、それを電気料金に反映させるタイミングには数ヶ月のズレ(期ずれ)が生じます。

例えば、2024年後半に燃料価格が高かった場合、その影響は2025年前半の電気料金に反映されます。逆に2025年前半に燃料価格が下がれば、その恩恵を受けるのは後半です。

今期は、原油価格が73.7ドル/バーレル(前年86.7ドル)と約15%下落したことで、この期ずれ影響がプラスに働きました。具体的には、期ずれ影響だけで+810億円の改善があったと資料に記載されています。

しかし重要なのは、期ずれ影響を除いても前年比で-495億円の減益に留まっている点です。売上が2,046億円も減っているのに、利益の落ち込みはその4分の1程度。ここに東京電力のコスト管理能力が表れています。

マーケティング観点での注目点①:販売減でも利益を守るコスト最適化戦略

最初の注目ポイントは、売上が減っても利益を確保できる体質づくりです。

多くの企業は売上が減ると、そのまま利益も減ります。しかし東京電力は、販売電力量が7%減っても、本業の利益率を上げることに成功しています。これはどうやって実現したのでしょうか?

セグメント別の利益改善を見る

各事業セグメントの経常損益を詳しく見てみましょう。

セグメント2025年4-9月2024年4-9月増減増減率
HD(持株会社)1,423億円1,388億円+34億円102.5%
FP(火力発電)727億円529億円+197億円137.2%
PG(送配電)939億円813億円+125億円115.5%
EP(小売)1,078億円796億円+282億円135.5%
RP(再エネ)433億円403億円+29億円107.4%

注目すべきは全セグメントで増益を達成している点です。特にEP(小売)は、販売電力量が8%以上減っているのに、利益は35%以上伸びています。

その秘密は何か?資料を読み解くと、以下の戦略が見えてきます。

PG(送配電)の効率化 送配電部門では「需給調整に係る費用が減少した」と記載されています。これは、電力の需要と供給のバランスを取るためのコストを削減できたということ。具体的には、より精緻な需要予測や、調達先の最適化を進めたと考えられます。

需給調整コストの削減により、PGだけで+203億円の利益改善があったと資料に明記されています。

EP(小売)の収益性重視 小売部門は最も競争が激しいセグメントです。電力自由化以降、新電力との価格競争が激化し、シェアを落としています。

しかし東京電力は、シェア拡大よりも収益性を重視する戦略に舵を切っているように見えます。販売電力量が減っても、利益率の高い顧客層に絞り込んだり、不採算な価格での販売を避けることで、利益を確保しているのです。

これは「売上至上主義」から「利益重視」への転換という、多くの成熟市場で見られる戦略の好例です。

マーケターが学べるポイント

ここから学べるのは、市場が縮小する中でどう収益を守るかという普遍的なテーマです。

多くの業界で、少子高齢化や市場の成熟により「パイの奪い合い」が激化しています。そんな中で重要なのは、以下の3つの視点です。

  1. バリューチェーン全体でのコスト最適化:単一部門ではなく、全体を通じてムダを削減する
  2. 収益性の高い顧客セグメントへの集中:すべての顧客を平等に扱うのではなく、利益に貢献する顧客を優先する
  3. 固定費の削減:需給調整コストのような、売上に関わらず発生するコストを徹底的に見直す

東京電力の例は、インフラ産業という一見地味な業界でも、こうした戦略的思考が利益を生み出すことを示しています。

マーケティング観点での注目点②:外部環境リスクのヘッジと「期ずれ」マネジメント

2つ目の注目ポイントは、外部環境の変動にどう対応するかという戦略です。

電力事業は、燃料価格という自社ではコントロールできない要因に大きく左右されます。原油や天然ガスの価格は、国際情勢や為替レートによって激しく変動するため、これをどう管理するかが経営の鍵となります。

燃料費調整制度という「自動調整弁」

先ほど説明した燃料費等調整制度は、実は価格変動リスクを顧客に転嫁する仕組みでもあります。

一般的な製造業では、原材料費が上がっても、すぐに製品価格に転嫁することは難しいですよね。競合との価格競争や、顧客の反発を考慮しなければなりません。

しかし電力業界では、この制度によって燃料価格の変動を(数ヶ月のタイムラグはあるものの)自動的に料金に反映できます。これは、価格設定の自由度が制限されている代わりに、コスト変動リスクを低減できるという、規制産業ならではの仕組みです。

ただし、ここにも落とし穴があります。それが「期ずれ」です。

期ずれをマネジメントする

資料を見ると、今期の経常損益2,821億円のうち、期ずれ影響が+500億円あると記載されています。つまり、本来の実力は2,321億円ということになります。

逆に前期(2024年4-9月)は、期ずれ影響が-310億円でした。これは、実力以上にマイナスの影響を受けていたということです。

graph LR A[2024年4-9月<br>期ずれ-310億円] --> B[期ずれ影響の好転<br>+810億円] B --> C[2025年4-9月<br>期ずれ+500億円] style A fill:#ffcccc style C fill:#ccffcc style B fill:#ffffcc

この期ずれ影響を詳しく見ると、FP(火力発電)で+250億円、EP(小売)で+560億円の改善があったことがわかります。

東京電力がここで巧みなのは、期ずれの影響を「見える化」して公表している点です。決算資料の中で、期ずれ影響を除いた数字も併記することで、投資家や取引先に対して「一時的な要因と実力を分けて評価してほしい」というメッセージを送っています。

マーケターが学べるポイント

ここから学べるのは、外部要因の影響をどう説明し、マネジメントするかという視点です。

多くの企業は、業績が外部要因に左右されたとき、「為替が悪かった」「原材料が高騰した」と言い訳をしがちです。しかし、それだけでは株主や顧客の信頼は得られません。

重要なのは、以下の3点です。

  1. 外部要因の影響を定量化する:「なんとなく悪かった」ではなく、「為替の影響で○○億円のマイナス」と明示する
  2. 一時的な要因と実力を分けて説明する:今回の好調は本当の実力なのか、それとも一時的な追い風なのかを誠実に伝える
  3. リスクヘッジの仕組みを持つ:燃料費調整制度のように、価格変動を自動的に吸収する仕組みを設計する

特にBtoB企業やサブスクリプションモデルの企業は、価格改定のルールを契約に組み込むことで、コスト変動リスクを軽減できます。これは東京電力の燃料費調整制度と同じ発想です。

マーケティング観点での注目点③:電力自由化時代の競争戦略とシェア減少の裏側

3つ目の注目ポイントは、競争環境の変化にどう対応するかです。

2016年の電力小売全面自由化以降、東京電力は大きな転換を迫られました。それまでの地域独占が崩れ、新電力との競争が始まったのです。

シェア縮小という現実

資料を見ると、エリア需要(東京電力管内の総電力需要)は1,357億kWh(前年比+0.7%)と微増しています。つまり、市場全体は少しずつ成長しているのです。

しかし、東京電力の小売販売電力量は873億kWh(前年比-8.2%)と大幅に減少しています。

項目2025年4-9月2024年4-9月増減
エリア需要1,357億kWh1,348億kWh+9億kWh(+0.7%)
小売販売電力量873億kWh951億kWh-78億kWh(-8.2%)
市場シェア(推計)約64%約71%-7ポイント

これは明らかに、競合他社にシェアを奪われている状況を示しています。

特に法人向けの「電力」セグメントでは、592億kWh(前年比-11%)と、より大きく減少しています。企業は価格に敏感なため、より安い新電力に切り替えるケースが増えているのでしょう。

それでも利益を確保できる理由

ではなぜ、シェアが減っているのに利益が増えているのでしょうか?

資料の中に「小売販売電力量の減少影響-224億円」という記載があります。これは、売上減によるマイナス影響を示しています。しかし同時に、「単価影響-9億円」という記載もあります。

この数字から読み取れるのは、単価(価格)はほぼ維持できているということです。つまり東京電力は、値下げ競争には乗らず、価格を維持したまま、価格に納得してくれる顧客だけを相手にするという戦略を取っているのです。

これは、「価格競争を避け、価値で勝負する」という、マーケティングの基本戦略の実践例です。

複合サービス戦略:ガス事業への参入

もう一つ注目したいのが、ガス事業です。資料によると、東京電力のガス契約件数は約149万件(2025年9月末時点)に達しています。

これは、電気とガスのセット販売による顧客囲い込み戦略です。電気だけでは競合に価格で負けても、電気とガスをまとめて提供することで、トータルでの価値を高めることができます。

graph TD A[電気のみの顧客] --> B{競合と価格比較} B -->|安い方を選ぶ| C[流出リスク大] D[電気+ガスの顧客] --> E{総合的な利便性} E -->|切り替えの手間| F[流出リスク小] E -->|セット割引| F E -->|請求書一本化| F style C fill:#ffcccc style F fill:#ccffcc

これは、スイッチングコストを高める戦略と言えます。顧客が他社に切り替えるときのハードルを上げることで、価格競争から逃れることができるのです。

マーケターが学べるポイント

ここから学べるのは、成熟市場・競争市場での戦い方です。

多くの業界で、価格競争は避けられない状況になっています。しかし、すべての企業が価格競争に参加する必要はありません。東京電力の例から学べるのは、以下の3つの戦略です。

  1. 収益性重視の顧客選別:すべての顧客を追いかけるのではなく、利益に貢献する顧客に絞り込む。シェアが減っても、利益が確保できればOKと割り切る
  2. 複合サービス化による差別化:単一商品では価格競争になっても、複数サービスを組み合わせることで独自の価値を生み出す
  3. スイッチングコストの向上:顧客が他社に切り替えにくい仕組みを作る(請求書統合、ポイントプログラム、長期契約割引など)

特に注目したいのは、「シェアを失っても利益を守る」という判断ができるかという点です。多くの企業はシェア低下を恐れて値下げ競争に参加しますが、それは利益を削るだけです。東京電力のように、シェアよりも利益を優先する決断ができるかどうかが、経営の分かれ目になります。

なぜ選ばれるのか?東京電力の3つの強み

ここまでの分析を踏まえて、東京電力が競争環境の中でも選ばれ続ける理由を整理しましょう。

①圧倒的なインフラ資産と信頼性

東京電力の最大の強みは、長年かけて構築してきた送配電インフラです。送配電部門(PG)の売上は1兆1,483億円と、グループ全体の約3分の1を占めています。

このインフラは一朝一夕に構築できるものではなく、新規参入企業が簡単に真似できない参入障壁となっています。また、「東京電力なら停電しない」というブランド信頼も、特に企業顧客にとっては大きな価値です。

②垂直統合による安定供給力

発電から送配電、小売まで一貫して手がけている(垂直統合)ことも強みです。特に、JERAを通じた燃料調達力は、安定供給の源泉となっています。

新電力の多くは発電設備を持たず、市場から電力を調達しています。そのため、市場価格が高騰すると経営が不安定になります。実際、2021年の電力価格高騰時には、多くの新電力が撤退や事業縮小を余儀なくされました。

一方、東京電力は自社で発電できるため、市場価格の変動リスクを抑えられます。これは顧客にとっても「安定した供給を受けられる」という安心感につながります。

③データとノウハウの蓄積

長年の事業運営で蓄積された需要予測のノウハウ顧客データも、見えにくいですが重要な資産です。

送配電部門では「需給調整に係る費用が減少した」と記載されていましたが、これは精緻な需要予測があってこそ実現できることです。新規参入企業には、このようなノウハウはありません。

学べる良い点:成熟市場での収益確保モデル

東京電力の決算から、マーケターが学べる良い点を3つにまとめます。

①「売上至上主義」からの脱却

最も重要な学びは、売上よりも利益を重視する姿勢です。

多くの企業は、売上の減少を恐れて値下げや販促強化に走ります。しかし、それが利益を圧迫し、結果的に企業の持続性を損なうことも少なくありません。

東京電力は、販売電力量が減少しても、利益率を維持・向上させることに成功しています。これは「量より質」「シェアより収益性」という、成熟市場における正しい戦略判断です。

特に、セグメント別にすべての事業で増益を達成している点は注目に値します。これは、各事業部門が「売上目標」ではなく「利益目標」で管理されている証拠でしょう。

②外部環境変動への対応メカニズム

燃料費調整制度という自動調整の仕組みを持っている点も学びになります。

多くの企業は、原材料費の変動に対して「都度交渉」「価格改定の依頼」という手間のかかる方法で対応しています。しかし東京電力は、あらかじめルール化された仕組みを持つことで、価格転嫁を自動化しています。

これは、契約段階でリスク分担のルールを明確にしておくという、BtoB取引の重要な教訓です。

③セグメント化による経営の見える化

持株会社体制にして各事業を分離したことで、どこで利益が出ていて、どこに課題があるかが明確になっています。

例えば、今回の決算では全セグメントで増益を達成していますが、もし仮にEP(小売)が赤字だったとしたら、そこに資源を集中投入するか、あるいは撤退・縮小するかの判断がしやすくなります。

これは、事業ポートフォリオ管理の好例です。マーケターも、自社の事業や商品を「なんとなく全部やる」のではなく、収益性を見える化して、強い部分に集中する判断が求められます。

考えられる課題と改善点:決算の裏に潜むリスク

一方で、今回の決算には見過ごせない課題も潜んでいます。

①一時的要因への依存度の高さ

今期の利益改善の大部分は、期ずれ影響の好転(+810億円)によるものです。期ずれ影響を除いた実力ベースでは、前年より495億円減益しています。

これは、本質的な競争力が向上したわけではないことを示唆しています。来期以降、燃料価格が再び上昇したり、期ずれ影響が逆方向に働いたりすれば、今期のような好調は維持できない可能性があります。

マーケティング的に言えば、外部要因に頼った成長は持続性がないということです。本来は、商品力やサービス品質の向上、顧客満足度の改善など、自社でコントロールできる要因で成長を実現すべきでしょう。

②市場シェア縮小トレンドの継続

エリア需要が微増しているのに、東京電力のシェアは減り続けています。これはブランド力の低下を示している可能性があります。

特に若い世代や新規顧客に対して、東京電力は「古い」「高い」というイメージを持たれているかもしれません。電力自由化から9年が経過し、「新電力の方がお得」という認識が定着しつつある中で、このトレンドを反転させるのは容易ではありません。

ガス事業で149万件の顧客を獲得できているのは良い兆候ですが、電力事業本体でのシェア回復策が見えてこないのは懸念材料です。

③特別損失の巨額さと財務健全性

今期は特別損失として9,662億円を計上し、中間純損益は-7,123億円の大赤字となりました。内訳は、災害特別損失9,041億円(福島第一原発の燃料デブリ取り出し準備費用)と、原子力損害賠償費621億円です。

これにより、自己資本比率は25.1%から20.3%に悪化しました。4.8ポイントの低下は決して小さくありません。

graph LR A[2025年3月末<br>自己資本比率25.1%] --> B[特別損失計上<br>-9,662億円] B --> C[2025年9月末<br>自己資本比率20.3%] style A fill:#ffffcc style B fill:#ffcccc style C fill:#ffcccc

有利子負債は6兆4,550億円(2025年9月末)と高水準です。本業では利益が出ていても、財務の健全性には不安が残ります。

マーケティングの観点からも、財務の不安定さはブランド信頼を損なう可能性があります。「東京電力は大丈夫なのか?」という不安が広がれば、顧客離れが加速するかもしれません。

今後も継続的に成長する余地があるのか?

最後に、東京電力に今後の成長余地はあるのかを考察します。

成長余地①:脱炭素・再エネへのシフト

最も大きな成長機会は、再生可能エネルギー事業です。東京電力リニューアブルパワー(RP)の経常損益は433億円と、まだ全体の15%程度に過ぎません。

しかし、世界的な脱炭素の流れの中で、再エネ需要は確実に伸びていきます。特に企業は「RE100(使用電力の100%を再エネで賄う)」への参加を求められており、再エネ電力へのニーズは高まる一方です。

東京電力は、水力発電所を多数保有しており、再エネの基盤はあります。今後、洋上風力や太陽光発電への投資を加速させれば、成長の柱になる可能性があります。

実際、2025年度の設備投資計画は9,515億円(前年度比+10%)と大幅に増加しています。この投資が再エネに向けられているなら、中長期的な成長につながるでしょう。

成長余地②:デジタル化による新サービス

電力データを活用した新サービスも成長余地があります。例えば、以下のようなサービスが考えられます。

サービス例内容顧客価値
エネルギーマネジメントAIによる電力使用の最適化提案電気代削減
見守りサービス高齢者世帯の電力使用パターン分析安心感
EV充電インフラ自宅・マンション向け充電設備利便性

電力会社は、すべての家庭・企業と接点を持っています。このチャネル力を活かして、エネルギー以外の領域にも事業を広げられる余地があります。

成長余地③:法人向けエネルギーソリューション

企業向けには、単なる電力供給だけでなく、トータルエネルギーソリューションを提供することで差別化できます。

例えば、工場のエネルギー効率診断、省エネ設備の提案・導入、自家発電設備の運用支援など、コンサルティング的なサービスです。これらは高付加価値で、競合との差別化にもつながります。

特にBtoB市場では、価格だけでなく「トータルでどれだけコストを削減できるか」が評価されます。そこに東京電力の技術力とノウハウを活かせれば、新たな収益源となるでしょう。

ただし、構造的な制約も存在する

一方で、成長を阻む構造的な要因もあります。

人口減少・省エネ進展による需要減 日本の人口減少は避けられず、電力需要も中長期的には減少トレンドです。加えて、家電や産業機器の省エネ性能が向上しており、同じ活動をしても電力消費は減っていきます。

原発再稼働の不透明性 東京電力は柏崎刈羽原子力発電所を保有していますが、再稼働の見通しは立っていません。資料にも「再稼働時期を見通せないことから、業績予想は未定」と記載されています。

原発が稼働すれば発電コストが大幅に下がるため、収益性は向上します。しかし、地域住民の理解や規制当局の審査など、ハードルは高く、いつ実現するか分かりません。

規制環境の変化 電力業界は規制産業であり、政府の政策に大きく左右されます。例えば、送配電部門の託送料金(電力を送るための料金)は認可制であり、自由に値上げできません。

今後、規制がさらに厳しくなったり、新たな競争促進策が導入されたりすれば、収益性に影響が出る可能性があります。

結論:限定的ながら成長余地はある

総合すると、東京電力には限定的ながら成長余地があると言えます。

電力需要自体は大きく伸びないものの、再エネシフト、デジタルサービス、エネルギーソリューションなど、新たな収益源を開拓する機会はあります。

ただし、それには積極的な投資と事業転換が必要です。従来の「電力を売る」というビジネスモデルだけでは、縮小市場の中でシェアを奪い合うだけです。

「エネルギー会社」から「エネルギーソリューション・プロバイダー」への転換ができるかどうかが、今後の成長を左右するでしょう。

まとめ:東京電力決算から学ぶマーケティングの教訓

最後に、今回の分析から得られた重要な学びをまとめます。

Key Takeaways

学びのポイント内容あなたのビジネスへの応用
売上減でも利益は守れる販売数量が減っても、コスト最適化と単価維持で利益を確保。全セグメントで増益を達成市場縮小時には、シェアより収益性を重視する判断が重要。不採算顧客との取引を見直す勇気を持つ
外部要因をマネジメントする燃料費調整制度で価格変動リスクを自動転嫁。期ずれ影響を明示して実力を見える化契約段階でコスト変動の転嫁ルールを組み込む。一時的要因と実力を分けて説明する透明性が信頼を生む
競争市場での差別化価格競争を避け、インフラ資産と信頼性で差別化。ガス事業とのセット販売でスイッチングコストを高める単一商品での価格競争を避け、複合サービスで独自価値を創出。顧客の切り替えコストを高める仕組みを設計
セグメント管理の徹底事業会社ごとに損益を明確化し、各部門の貢献を可視化事業・商品ごとの収益性を見える化し、資源配分を最適化する。「なんとなく全部やる」からの脱却
成長は新領域から既存の電力小売は縮小傾向。成長は再エネ、デジタルサービス、ソリューションから成熟事業に固執せず、隣接領域や新サービスで成長機会を探る。既存の顧客基盤を活かした事業拡大

最後に:数字の裏を読む力

この記事を通じて伝えたかったのは、決算数字の裏にある戦略を読み解く力の重要性です。

「売上が減った」「利益が増えた」という表面的な数字だけを見ていても、そこから学べることは限られています。大切なのは、「なぜそうなったのか」「どんな意思決定があったのか」「それは持続可能なのか」を考えることです。

東京電力の決算は、一見すると「電力会社の数字」に過ぎません。しかし深く読み解けば、成熟市場での戦い方、外部環境への対応、競争戦略など、あらゆる業界のマーケターに通じる教訓が詰まっています。

みなさんも、自社や競合企業の決算を見るとき、ぜひこの視点を持って分析してみてください。数字の羅列ではなく、そこに隠された戦略ストーリーが見えてくるはずです。

それこそが、マーケターとしての成長につながる学びになるでしょう。


参考資料

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この記事を書いた人
tomihey

本ブログの著者のtomiheyです。失敗から学び続けてきたマーケターです。
BtoB、BtoC問わず、デジタルマーケティング×ブランド戦略の領域で14年間約200ブランド(分析数のみなら500ブランド以上)のマーケティングに関わり、「なぜあの商品は売れて、この商品は売れないのか」の再現性を見抜くスキルが身につきました。
本ブログでは「理論は知ってるけど、実際どうやるの?」というマーケターの悩みを解決するノウハウや、実際のブランド分析事例を紹介しています。
現在はマーケティング戦略/戦術の支援も実施していますので、詳しくは下記リンクからご確認ください。一緒に「売れる理由」を解明していきましょう!

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