はじめに
マーケターとして、あなたは日々様々な課題に直面しているのではないでしょうか?
「なぜ新商品の反応が思わしくないのか」 「どうすれば競合と差別化できるのか」 「顧客のニーズをどう把握すべきか」
こうした悩みの根底には、実は「問題設定の質」という共通点があります。優れたマーケターとそうでないマーケターの差は、実はソリューションの優劣よりも、**「正しい問いを立てられるかどうか」**にあるのです。
安宅和人氏の著書「イシューから始めよ」では、ビジネスの成功の鍵は「イシュー(解くべき問題)」の設定にあると説いています。本記事では、この書籍のエッセンスをマーケティングの文脈で解説し、実際のビジネスシーンで活用できるフレームワークや思考法を紹介します。
「どんな問題を解くべきか」を明確にすることで、マーケティング活動の効率と効果を飛躍的に高める方法を学んでいきましょう。
イシュードリブンとは何か?
イシュードリブンの基本概念
イシュードリブンとは、「解くべき問題(イシュー)」を明確にすることから始める問題解決アプローチです。安宅和人氏はこのアプローチを「イシューからはじめよ」という著書で体系化しました。
多くの人は「解決策から入る」という罠に陥りがちです。例えば、「テレビCMを打とう」「SNSでキャンペーンを実施しよう」などと、解決策から考え始めてしまいます。しかし、本当に解くべき問題(イシュー)が明確になっていなければ、どんなに優れた解決策も的外れになりかねません。
イシュードリブンの本質は以下の点にあります:
イシュードリブンの特徴 | 説明 |
---|---|
問題設定が最優先 | 「何を解決すべきか」を最初に明確にする |
本質への集中 | 表面的な症状ではなく、根本原因に焦点を当てる |
効率的なリソース活用 | 限られた時間と資源を「解くべき問題」に集中投下する |
成功確率の向上 | 正しい問題設定により、解決策の質と効果が高まる |
なぜイシュードリブンがマーケティングで重要なのか
マーケティングは特に「イシュードリブン」の思考が求められる分野です。なぜなら:
- リソースの制約:マーケティング予算や人員は常に限られており、最大の効果を生む問題に集中する必要があります。
- 環境の複雑性:消費者行動、競合状況、技術トレンドなど、多くの変数が絡み合う中で本質的な問題を見極めることが重要です。
- 測定可能性の向上:明確なイシューを設定することで、施策の効果測定がしやすくなります。
- 組織内の合意形成:「何を解決しようとしているのか」が明確になれば、部門を超えた協力も得やすくなります。
例えば、「SNSフォロワーを増やす方法」ではなく、「なぜ顧客エンゲージメントが低いのか」というイシューを設定することで、より本質的な解決策を見出せるようになります。
イシュー設定の基本フレームワーク
So What?/Why So?テスト
イシューを設定する際に非常に役立つのが「So What?(だから何?)」と「Why So?(なぜそうなの?)」という二つの問いです。
So What?(だから何?) この問いは、「それが解決されたら、どんな価値があるのか」を問うものです。これにより、問題の重要性や優先度を測ることができます。
Why So?(なぜそうなの?) この問いは、「なぜその状況が起きているのか」という根本原因を探るものです。表面的な現象から本質的な課題を掘り下げるのに役立ちます。
以下に、マーケティングでの具体的な適用例を示します:
初期の問題認識 | So What?(だから何?) | Why So?(なぜそうなの?) | 洗練されたイシュー |
---|---|---|---|
ウェブサイトのコンバージョン率が低い | コンバージョン率が低いと売上が伸びない | ユーザーが価値を見出せていないから?導線に問題があるから? | どうすればユーザーがより価値を感じるコンテンツを提供できるか? |
SNSの反応が悪い | ブランド認知やエンゲージメントに影響する | ターゲットとのミスマッチ?コンテンツの質の問題? | どのようなコンテンツがターゲット層の共感を得られるか? |
新製品の売上が伸びない | 事業成長に大きく影響する | 製品自体の問題?プロモーションの問題?競合の問題? | どうすれば製品の差別化ポイントを効果的に伝えられるか? |
この「So What?/Why So?」を繰り返し問うことで、表面的な症状から本質的な問題へと掘り下げることができます。
MECEによるイシュー分解
イシューを設定したら、次はそれを構造化する必要があります。ここで役立つのがMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:相互排他的かつ全体網羅的)という考え方です。
MECEとは、問題を「重複なく、漏れなく」分解するための原則です。これにより、複雑な問題を管理可能な部分に分けて考えることができます。
マーケティングにおけるMECEの適用例:
「なぜ製品Aの売上が伸びないのか?」というイシューの場合:
このように、「4P(Product, Price, Promotion, Place)」という枠組みを使ってMECEに問題を分解することで、網羅的に原因を探ることができます。
各要素を詳しく分析することで、「なぜ売上が伸びないのか」という大きな問題を、「店頭での製品の視認性が低い」「競合と比較した際の価値訴求が弱い」など、より具体的で対処可能な問題に落とし込めます。
ロジックツリーの構築
イシューを分解したら、次はそれらの関係性を「ロジックツリー」として構造化します。ロジックツリーは、問題とその原因、さらにその原因...というように階層的に整理するツールです。
マーケティングにおける実際のロジックツリーの例:
この例では、「新商品の認知度が低い」という問題を、「広告の効果」「口コミ」「店頭露出」という3つの要因に分解し、さらにそれぞれの要因を細分化しています。
このロジックツリーを基に、「ターゲットへのリーチが不十分」「製品体験が共有されにくい」などの具体的な問題に対処することで、結果的に「認知度の低さ」という本質的な問題を解決することができます。
マーケティングのイシュー設定プロセス
STEP1: 現状分析とギャップの特定
イシュー設定の最初のステップは、「現状」と「あるべき姿」の間にあるギャップを明確にすることです。マーケティングにおいては、以下のような視点でギャップを分析します:
分析領域 | 現状把握の方法 | ギャップ特定のポイント |
---|---|---|
市場環境 | 市場調査、競合分析 | 市場シェア、成長率の差 |
顧客理解 | 顧客調査、行動分析 | 顧客期待と実体験のギャップ |
製品性能 | 性能評価、顧客レビュー | 競合製品との性能差 |
ブランド認知 | 認知度調査、SNS分析 | 想定認知度と実際の差 |
販売実績 | 売上分析、予測との比較 | 目標達成率、競合との差 |
例えば、「新製品Aの認知率は競合製品Bの半分しかない」というギャップが特定された場合、それが解決すべきイシューの種になります。
STEP2: イシューの優先順位付け
すべてのギャップが同等に重要なわけではありません。限られたリソースを最大限に活かすため、イシューの優先順位付けが必要です。
イシュー評価マトリックス
このマトリックスでは、縦軸に「インパクト(効果の大きさ)」、横軸に「実現可能性」をとり、各イシューをマッピングします。右上の象限(インパクト大・実現可能性高)にあるイシューから優先的に取り組むことで、効率的にマーケティング成果を高めることができます。
例えば、上記の例では「ブランド認知向上」が最も優先度の高いイシューとなります。
STEP3: 具体的なイシューステートメントの作成
優先順位の高いイシューが決まったら、次はそれを具体的な「イシューステートメント」として表現します。良いイシューステートメントは以下の特徴を持ちます:
良いイシューステートメントの特徴 | 悪いイシューステートメントの例 | 改善したイシューステートメント |
---|---|---|
具体的で明確 | SNSのフォロワーをどう増やすか? | どうすれば20-35歳の女性ユーザーのInstagramエンゲージメント率を3ヶ月で現在の2倍に高められるか? |
測定可能な要素を含む | ブランドイメージをどう改善するか? | どうすれば「信頼性」に関するブランド評価スコアを1年以内に現在の3.2から4.0に向上できるか? |
実行可能な範囲内 | 市場シェアをどう拡大するか? | 既存顧客のリピート購入率を高めるために、どのようなロイヤルティプログラムを設計すべきか? |
期限や目標値を含む | 売上をどう伸ばすか? | 次の四半期までに、新規顧客獲得コストを20%削減しながら、月間売上を15%増加させるにはどうすればよいか? |
良いイシューステートメントを作成することで、チーム全体が「何を解決しようとしているのか」を明確に共有でき、効果的な解決策の検討につながります。
STEP4: 検証可能な仮説への変換
イシューステートメントが決まったら、次はそれを「検証可能な仮説」に変換します。仮説は「もし〜ならば、〜になるだろう」という形で表現されることが多いです。
マーケティングにおける仮説の例:
イシューステートメント | 検証可能な仮説 | 検証方法 |
---|---|---|
どうすれば若年層の製品認知度を高められるか? | TikTokでのインフルエンサーキャンペーンを実施すれば、18-24歳の認知度が30%向上するだろう | 実施前後の認知度調査、キャンペーンエンゲージメント分析 |
既存顧客の平均購入額をどう増やせるか? | パーソナライズされた商品レコメンデーションを導入すれば、顧客あたりの平均購入額が15%増加するだろう | A/Bテスト、購入データ分析 |
どうすれば商品の価格競争力を高められるか? | バンドル販売を導入すれば、単品販売と比較して利益率を維持しながら価格競争力を高められるだろう | 販売実験、顧客価格感度調査 |
これらの仮説は、具体的かつ検証可能であり、施策の効果を測定する明確な指標を含んでいます。マーケティングでは、こうした仮説を立て、実行し、検証するというサイクルを回すことで、継続的な改善を実現します。
マーケティング実務でのイシュードリブン思考の活用事例
事例1:新製品開発におけるイシュードリブン
あるアパレルブランドが新しいアウトドアウェアラインの開発を検討していました。従来のアプローチでは「どんな機能を取り入れるべきか」「どのようなデザインにすべきか」といった解決策から議論が始まりがちでした。
しかし、イシュードリブンのアプローチを採用したプロジェクトリーダーは、まず「なぜ新しいアウトドアウェアラインが必要なのか」という本質的な問いから始めました。
イシュードリブンのプロセス | 具体的な内容 |
---|---|
イシューの設定 | 「どうすれば既存顧客の休日の活動をカバーするアウトドアウェアを開発できるか?」 |
MECE分析 | 顧客活動(日帰りハイク、キャンプ、都市部でのカジュアル利用)、天候条件、競合製品の特性などで分解 |
仮説構築 | 「防水性と耐久性を兼ね備えながら、都市部でも着用できるデザイン性があれば、休日の多様な活動に対応できる」 |
検証 | 顧客インタビュー、プロトタイプテスト、限定販売での反応測定 |
この結果、単なる「機能性アウトドアウェア」ではなく、「日常からアウトドアまで対応する多用途ウェア」というコンセプトの製品が開発され、新たな顧客層の獲得に成功しました。
イシュードリブンのアプローチにより、「製品機能の追加」という表面的な解決策ではなく、「顧客の活動範囲をカバーする」という本質的なイシューに応える製品開発が実現したのです。
事例2:広告キャンペーンの改善
あるB2Bソフトウェア企業が、広告キャンペーンの成果に満足していませんでした。従来は「より多くの広告予算を投入する」「新しいクリエイティブを作る」といった表面的な解決策が提案されていました。
イシュードリブンのアプローチを取り入れたマーケティングチームは、まず「なぜ広告キャンペーンが効果的でないのか」という根本的な問いを立てました。
イシュードリブンのプロセス | 具体的な内容 |
---|---|
イシューの設定 | 「どうすれば見込み客の課題に直接訴求する広告メッセージを作れるか?」 |
ロジックツリー分析 | 「広告の効果が低い」原因を「ターゲティング」「メッセージング」「タイミング」「フォローアップ」に分解 |
データ分析 | クリック率、コンバージョン率、顧客フィードバックの詳細分析 |
仮説構築 | 「業界固有の課題に焦点を当て、解決事例を具体的に示すコンテンツを提供すれば、エンゲージメントが向上する」 |
この分析の結果、問題は広告予算やクリエイティブではなく、「顧客の具体的な課題に対する理解不足」にあることが判明しました。チームは業界別の課題解決事例を中心としたコンテンツ戦略を採用し、同じ広告予算でリード獲得率を3倍に改善させました。
イシュードリブンにより、「より多くを投入する」という量的な解決策ではなく、「より適切なメッセージングを行う」という質的な解決策が見出されたのです。
事例3:顧客離れへの対応
あるサブスクリプションサービスが、利用開始3ヶ月以内の解約率の高さに悩んでいました。従来のアプローチでは「割引の提供」「機能の追加」など、顧客を引き止めるための対症療法的な解決策が中心でした。
イシュードリブンのアプローチを採用したカスタマーサクセスチームは、「なぜ顧客が早期に解約するのか」という根本的な問いを立てました。
イシュードリブンのプロセス | 具体的な内容 |
---|---|
イシューの設定 | 「どうすれば新規顧客のサービス価値理解と活用を最初の1ヶ月で促進できるか?」 |
データ分析 | 解約理由のカテゴリ化、利用パターンと解約率の関係分析、顧客インタビュー |
因果関係の検証 | 「オンボーディング中の特定機能の使用」と「継続利用率」の相関関係分析 |
仮説構築 | 「最初の2週間で主要3機能の利用体験を誘導すれば、3ヶ月継続率が向上する」 |
分析の結果、早期解約の主な原因は「サービス価値の理解不足」と「初期利用における挫折」にあることが判明しました。これを踏まえ、チームはオンボーディングプロセスを全面的に改革し、特に価値の高い機能への段階的な誘導と成功体験の創出に焦点を当てました。
その結果、3ヶ月以内の解約率は45%から18%へと大幅に減少し、顧客生涯価値(LTV)が向上しました。
イシュードリブンのアプローチにより、「顧客を引き止める」という表面的な対応ではなく、「顧客がサービス価値を実感できるようにする」という本質的な解決策が見出されたのです。
イシュードリブンマーケターになるための実践的アドバイス
イシュードリブン思考を養うための習慣
イシュードリブン思考は一朝一夕に身につくものではありません。日々の習慣として意識的に取り入れることで、徐々に身についてきます。以下に、マーケターがイシュードリブン思考を養うための具体的な習慣を紹介します。
習慣 | 具体的な実践方法 | 期待される効果 |
---|---|---|
5つのWhyを実践する | 問題に直面したら「なぜ?」を5回繰り返して根本原因を探る | 表面的な症状ではなく、本質的な問題を特定できるようになる |
思考を可視化する | アイデアや分析を常に図式化する(ロジックツリー、マインドマップなど) | 論理構造が明確になり、抜け漏れや矛盾が見つけやすくなる |
仮説検証サイクルを回す | 小さな仮説を立て、素早く検証するサイクルを習慣化する | データに基づく意思決定力が向上し、失敗から学ぶ力が養われる |
異なる視点を取り入れる | 定期的に他部門や顧客と対話し、多様な視点を収集する | 思考の幅が広がり、blind spotに気づけるようになる |
目的志向の振り返り | すべての活動において「これは何のためか?」を問う | 手段の目的化を防ぎ、常に本質的な目標に集中できるようになる |
特に「5つのWhy」は、イシュードリブン思考を養う上で最も効果的な方法の一つです。例えば、「新商品の売上が低い」という問題に対して:
- なぜ売上が低いのか? → 顧客の反応が悪いから
- なぜ顧客の反応が悪いのか? → 製品の価値が伝わっていないから
- なぜ価値が伝わっていないのか? → 主要ベネフィットが明確に訴求されていないから
- なぜ明確に訴求されていないのか? → ターゲット顧客のニーズ調査が不足していたから
- なぜニーズ調査が不足していたのか? → 開発スケジュールの制約で調査フェーズが短縮されたから
こうして掘り下げていくことで、「売上が低い」という表面的な問題から、「開発プロセスにおける顧客理解の重要性」という本質的なイシューにたどり着くことができます。
チームでのイシュードリブン実践法
個人の思考習慣だけでなく、チーム全体でイシュードリブンを実践することも重要です。マーケティングチームでイシュードリブンを浸透させるための方法を紹介します。
実践方法 | 具体的なアクション | メリット |
---|---|---|
イシューツリーの共有 | プロジェクト開始時に「何を解決するのか」を明示的に共有・合意する | チーム全体の方向性が統一され、無駄な議論が減少する |
「So What?」ミーティング | すべての提案に対して「それがなぜ重要か」を問う文化を作る | 表面的な活動ではなく、価値創出に集中できるようになる |
データ検証の習慣化 | 「感覚」ではなく「データ」に基づいて議論する文化を作る | 客観的な意思決定が可能になり、個人の主観に左右されにくくなる |
イシュードリブンな振り返り | 成功/失敗の原因を「イシュー設定」の観点から分析する | 継続的な学習と改善が可能になる |
特に重要なのは、会議やディスカッションの冒頭で「今日はどんなイシューを解決するのか」を明確にすることです。これにより、議論が脱線することを防ぎ、限られた時間を最大限に活用できます。
イシュードリブン思考の落とし穴と対処法
どんな思考法にも落とし穴があります。イシュードリブン思考を実践する際に気をつけるべきポイントと、その対処法を紹介します。
落とし穴 | 症状 | 対処法 |
---|---|---|
分析麻痺 | 完璧なイシュー設定を求めるあまり、行動に移れない | 「80/20の法則」を意識し、完璧を求めず「十分に良い」イシュー設定で前に進む |
視野狭窄 | 特定のイシューにこだわりすぎて、他の重要な側面を見逃す | 定期的に「鳥の目」で全体を見直し、重要イシューの再評価を行う |
仮説バイアス | 最初に立てた仮説に固執し、反証データを無視する | 「自分の仮説が間違っていたらどうか」と常に考え、反証を積極的に探す |
抽象度の混乱 | 抽象的すぎるイシューと具体的すぎるイシューが混在する | イシューのレベル感を揃え、階層構造を明確にする |
顧客不在の分析 | 内部的な視点だけでイシューを設定し、顧客価値を見失う | 常に「顧客にとっての価値は何か」を問い、顧客視点を入れる |
特に「分析麻痺」はマーケターに多く見られる落とし穴です。完璧なイシュー設定を求めるあまり、行動に移せないというケースです。イシュードリブンの本質は「より良い問題設定」であって「完璧な問題設定」ではないことを心に留めておきましょう。
イシュードリブンマーケティング計画の立て方
マーケティング戦略におけるイシュードリブンフレームワーク
イシュードリブンの考え方をマーケティング戦略に組み込むための実践的なフレームワークを紹介します。このフレームワークは以下の5つのステップで構成されています。
ステップ1: 事業目標の明確化
マーケティング活動は最終的に事業目標の達成に貢献する必要があります。まずは事業目標を明確にしましょう。
例:「今年度の売上を20%増加させる」「新規顧客セグメントでのシェアを10%獲得する」
ステップ2: マーケティングイシューの設定
事業目標を達成するために、マーケティングとして「解くべき問題」を設定します。
例:「どうすれば認知度を高めつつ、コンバージョン率を2倍に向上できるか?」「どうすれば顧客満足度を維持しながら、顧客獲得コストを30%削減できるか?」
ステップ3: 検証仮説の構築
イシューに対する解決策の仮説を立てます。この際、「もし〜ならば、〜になるだろう」という形で具体的かつ検証可能な形にします。
例:「もしターゲット顧客の具体的な課題を示し、それに対する解決策を提示する広告を出せば、クリック率とコンバージョン率が向上するだろう」
ステップ4: 施策の実行と測定
仮説に基づいて施策を実行し、結果を測定します。この際、成功指標(KPI)を事前に明確にしておくことが重要です。
例:「広告のクリック率」「ウェブサイトの滞在時間」「コンバージョン率」など
ステップ5: 学習と再設定
結果を分析し、仮説が正しかったかどうかを評価します。そして、得られた学びを基に、必要に応じてイシューや仮説を再設定します。
例:「仮説通りクリック率は上がったが、コンバージョンには繋がらなかった。次は『どうすればサイト訪問者の購買意欲を高められるか』というイシューに取り組む」
このサイクルを継続的に回すことで、マーケティング活動の効果を段階的に高めていくことができます。
イシュードリブンなKPI設定
マーケティングにおけるKPI(重要業績評価指標)の設定も、イシュードリブンで行うことが重要です。「何を測るか」は「何を解決したいか」に直結するからです。
イシューの種類 | KPI例 | 測定方法 |
---|---|---|
ブランド認知の向上 | 認知率、検索ボリューム、SNSメンション | ブランド調査、SEOツール、ソーシャルリスニング |
コンバージョン率の改善 | コンバージョン率、離脱率、セッション継続時間 | ウェブ分析ツール、ヒートマップ、ユーザーテスト |
顧客満足度の向上 | NPS、CSAT、リピート率 | 顧客アンケート、購買データ分析 |
新規顧客獲得 | CAC、リード→顧客転換率、新規顧客比率 | CRMデータ、マーケティング自動化ツール |
顧客生涯価値の増大 | LTV、アップセル率、解約率 | 顧客データ分析、コホート分析 |
イシュードリブンなKPI設定では、以下の点に注意しましょう:
- 因果関係の明確化: KPIが本当にイシュー解決と因果関係があるかを検証する
- 先行指標と遅行指標のバランス: 結果を示す「遅行指標」だけでなく、行動の効果を早期に判断できる「先行指標」も設定する
- 適切な粒度: 大きすぎるKPIは行動に繋がりにくく、細かすぎるKPIは本質を見失う原因になる
例えば、「ブランド認知の向上」というイシューに対して、単に「ソーシャルメディアのフォロワー数」だけをKPIにするのは不十分です。フォロワー数は増えても、実際のブランド認知や関心度が高まっているとは限らないからです。代わりに、「フォロワー数」「エンゲージメント率」「ブランド関連検索量」などの複数指標を組み合わせることで、より本質的な評価が可能になります。
まとめ
安宅和人氏の「イシューから始めよ」で説かれている思考法は、マーケティングの世界でも非常に強力なツールとなります。「正しい問いを立てる」ことから始めるイシュードリブンのアプローチは、限られたリソースで最大の成果を上げるために不可欠な考え方です。
key takeaways
- イシュードリブンとは「解くべき問題」から始める思考法であり、解決策から入る思考の罠を避ける方法
- 「So What?/Why So?」テストを通じて表面的な問題から本質的なイシューに掘り下げることができる
- MECEによる問題分解とロジックツリーの構築が複雑な問題を構造化し、対処可能にする
- イシュー設定では「現状とあるべき姿のギャップを特定」し、「優先順位をつける」ことが重要
- 良いイシューステートメントは具体的、測定可能、実行可能で、期限や目標値を含む
- イシュードリブン思考を養う習慣として「5つのWhy」や「思考の可視化」などがある
- イシュードリブン思考の落とし穴には「分析麻痺」「視野狭窄」「仮説バイアス」などがある
- マーケティング戦略のイシュードリブンフレームワークは「事業目標の明確化」から始まり、継続的な「学習と再設定」に至る循環プロセス
- KPI設定もイシュードリブンで行い、因果関係の明確化や先行/遅行指標のバランスを考慮する
マーケティングの世界は日々変化し、新しい技術やトレンドが次々と登場します。しかし、そのような変化の激しい環境だからこそ、「何を解決すべきか」を明確にするイシュードリブン思考が重要なのです。
良い戦略は常に「正しい問い」から始まります。事業目標達成のために「本質的に解くべき問題は何か」を問い続けることで、マーケティング活動の効果と効率を飛躍的に高めることができるでしょう。
あなたも今日から、「イシューから始める」習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。