はじめに
多くのマーケターやビジネスパーソンが直面する課題の一つに、自社製品やサービスが市場で選ばれる理由を明確に理解し、その成功を再現することがあります。本記事では、日本を代表するコンビニエンスストアチェーン「セブンイレブン」を例に、その成功要因を詳細に分析します。セブンイレブンの戦略を紐解くことで、あなたの事業にも応用できる貴重な洞察が得られるでしょう。
セブンイレブンとは

セブンイレブンは、株式会社セブン-イレブン・ジャパンが運営する日本最大のコンビニエンスストアチェーンです。1974年に日本初の「セブン‐イレブン」店舗をオープンして以来、革新的なサービスと商品開発で業界をリードし続けています。
公式ウェブサイト:https://www.sej.co.jp/
セブンイレブンの業績分析
セブンイレブンの最新の決算データを基に、その売上を詳細に分析してみましょう。まず2023年2月期の実績によると、下記になります。
セブン&iホールディングス全体だおt
- 売上高(営業収益):11兆4,717億円(前年度比2.9%減)
- 営業利益:5,342億円(前年度比5.5%増)
- 店舗数:
- 国内(日本):21,535店舗
- 海外:62,956店舗
- 世界全体:84,541店舗
国内コンビニエンスストア事業だと
- 売上高(営業収益):9,217億円
- 営業利益:2,505億円(前年度比7.8%増)
海外コンビニエンスストア事業だと
- 売上高(営業収益):85,169億円
- 営業利益:3,016億円(前年度比20%増)
この国内事業の売上高9,217億円をもとに売上を分解してみましょう。
売上 = 人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率 × エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入個数 × 年間購入頻度 × 購入単価
- 人口: 1億2,500万人
理由: 日本の総人口に基づく推定値です。 - 認知率: 99%
理由: セブンイレブンは日本で最も知名度の高いコンビニチェーンの一つです。 - 配荷率: 95%
理由: セブンイレブンは全国に広範な店舗網を持っていますが、一部地域ではカバーしきれていない可能性があります。 - 該当カテゴリーの過去購入率: 98%
理由: ほとんどの日本人がコンビニを利用した経験があると考えられます。 - エボークトセットに入る率: 90%
理由: セブンイレブンは多くの消費者の選択肢に入っていますが、競合他社も存在するため100%ではありません。 - 年間購入率: 95%
理由: 大多数の人が年に1回以上はセブンイレブンを利用すると考えられますが、一部の人は全く利用しない可能性があります。 - 1回あたりの購入個数: 2.5個
理由: 多くの人が複数の商品を購入しますが、単品購入も多いため、平均するとこの程度になると推測されます。 - 年間購入頻度: 80回
理由: 週に1〜2回程度の利用を想定しています。都市部では頻度が高く、地方では低くなる傾向があります。 - 購入単価: 約490円
理由: これは他の要素から逆算された値です。コンビニでの平均的な購入金額として妥当な範囲内です。
9,217億円 ≈ 1億2,500万 × 0.99 × 0.95 × 0.98 × 0.90 × 0.95 × 2.5 × 80 × 490
この分析から、セブンイレブンの強みは高い認知率、広範な店舗網、頻繁な利用、そして比較的高い購入単価にあることがわかります。
またポイントは、エボークトセットに入る率です。最近のセブンイレブンでは自社のイメージ低下や競合他社の台頭によりこの率が下がりつつあるのではないかと考えています。現状の数字ではそこは読み取れませんが、今後の数字の推移を追っていくことでそのあたりが見えてくるかと思われます。
出典:株式会社セブン&アイ・ホールディングス 2023年度 決算説明資料
セブンイレブンが戦う市場のPOP/POD/POF
セブンイレブンが競争優位性を築くために重要な要素を、POP(Points of Parity)、POD(Points of Difference)、POF(Points of Failure)の観点から分析します。
POP(同等性ポイント)
- 24時間営業
- ATMサービス
- 公共料金支払い
- 宅配便の取り扱い
POD(差別化ポイント)
- 高品質なプライベートブランド商品(セブンプレミアム)
- 効率的な在庫管理システム
- 独自の商品開発力
- 多様な決済方法(電子マネー、QRコード決済など)
POF(失敗ポイント)
- 高価格帯商品への過度の依存
- コストの高騰を誤魔化した商品開発(質や量が良いように見せること)
- 店舗スタッフの接客品質のばらつき
- 環境への配慮不足(過剰包装など)
セブンイレブンは、POPを確実に押さえつつ、独自のPODを強化することで競争優位性を築いています。同時に、POFを最小限に抑えるための継続的な努力も重要です。特に最近ではSNSで話題となった商品の質や量を誤魔化すパッケージングに関しては非常にPOFになり選ばれない要素になってきます。
セブンイレブンが戦う市場のPESTEL分析
PESTEL分析を用いて、セブンイレブンを取り巻く外部環境を多角的に分析します。
政治的要因 (Political)
- 24時間営業規制の可能性が高まっており、営業時間の見直しが迫られる可能性がある
- フランチャイズ契約の厳格化が進んでおり、加盟店との関係性に影響を与える可能性がある
- 地域活性化政策との連携により、新たなビジネス機会が生まれる可能性がある
経済的要因 (Economic)
- 最低賃金の上昇により、人件費コストが増加している
- 電子マネーやQR決済の普及により、キャッシュレス化が進展している
- 景気後退による消費低迷のリスクがある
- 原材料費の高騰により、商品の利益率が圧迫される可能性がある
社会的要因 (Social)
- 少子高齢化により、市場の縮小と高齢者向けサービスの需要増加が同時に進行している
- 単身世帯の増加により、小容量商品の需要が高まっている
- 健康志向の高まりにより、既存の商品ラインナップの見直しが必要になっている
- 食品ロス削減への社会的要請が強まっている
技術的要因 (Technological)
- AI・IoTの活用により、業務効率化や需要予測の精緻化が可能になっている
- キャッシュレス・無人店舗の技術が進展しており、新たな店舗形態の可能性が広がっている
- ECの台頭により、実店舗の役割が変化している
- サイバーセキュリティリスクが増大しており、対策が必要になっている
環境的要因 (Environmental)
- 環境配慮型包装の導入が求められており、コスト増加と環境イメージの向上の両立が課題となっている
- 食品ロス対策コストの増加が見込まれる
- 気候変動によるサプライチェーンの混乱リスクが高まっている
- 再生可能エネルギーの活用が求められており、店舗運営の見直しが必要になっている
法的要因 (Legal)
- 個人情報保護法の厳格化により、顧客データの取り扱いに注意が必要になっている
- プラスチック規制の強化により、容器包装の見直しが迫られている
- 食品安全基準の厳格化により、品質管理コストが増加している
- キャッシュレス決済推進政策により、決済手段の多様化が進んでいる
これらの要因を総合的に考慮し、セブンイレブンは常に変化する外部環境に適応しながら、事業戦略を立案・実行していく必要があります。特に、技術革新への対応や環境問題への取り組み、高齢化社会に向けたサービス開発などが重要な課題となっています。
セブンイレブンのSWOT分析と取るべき戦略
セ次にブンイレブンの内部環境と外部環境を分析し、それに基づく戦略を考えます。
Strengths(強み)
- 強力なブランド力
- 効率的な物流システム
- 高品質なプライベートブランド商品
- 豊富な店舗網
Weaknesses(弱み)
- 高コスト構造
- 加盟店との関係性の課題
- 環境問題への対応の遅れ
Opportunities(機会)
- デジタル技術の進化
- 健康志向の高まり
- 海外市場の成長
Threats(脅威)
- 競合他社の台頭
- 人口減少
- 規制の強化
取るべき戦略
SO戦略(強みを活かして機会を活用)
- デジタル技術を活用した新サービスの開発
- 健康志向に対応したプライベートブランド商品の拡充
WO戦略(弱みを克服して機会を活用)
- デジタル化によるコスト削減
- 環境に配慮した商品開発・販売
ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)
- ブランド力を活かした差別化戦略の強化
- 海外展開の加速による成長市場の開拓
WT戦略(弱みを克服して脅威を回避)
- 加盟店との関係改善による競争力強化
- 環境対応を強化し、規制リスクを低減
セブンイレブンの購入者の合理
次に、オルタネイトモデルを用いて、セブンイレブンの購入者の行動パターンを分析します。
パターン1:時間節約型
- 行動:仕事帰りにセブンイレブンに立ち寄る
- きっかけ:夕食の準備時間がない
- 欲求:手軽に質の高い食事を摂りたい
- 抑圧:家で料理する時間的余裕がない
- 報酬:時間を節約しつつ、満足度の高い食事ができる
パターン2:品質重視型
- 行動:セブンプレミアム商品を購入する
- きっかけ:高品質な食品を手軽に入手したい
- 欲求:日常的に質の高い食事を楽しみたい
- 抑圧:専門店に行く時間がない
- 報酬:コンビニでありながら専門店レベルの品質を楽しめる
パターン3:利便性追求型
- 行動:ATMや公共料金の支払いでセブンイレブンを利用する
- きっかけ:生活に必要な用事を一箇所で済ませたい
- 欲求:日常的な用事を効率的に処理したい
- 抑圧:複数の場所を回る時間がない
- 報酬:様々なサービスを一度に利用できる便利さ
セブンイレブンのWho/What/How
最後に、セブンイレブンのビジネスモデルを、Who(誰に)、What(何を)、How(どのように)の観点から分析します。
パターン1:時間に追われる都市部のビジネスパーソン
Who
- 対象:都市部に住む20〜40代のビジネスパーソン
- JOB:
- きっかけ:朝の忙しい時間帯や深夜の帰宅時
- 欲求:短時間で食事や日用品を手に入れたい
- 抑圧:時間的制約、スーパーの営業時間
- 報酬:時間の節約、効率的な生活
What
- 便益:24時間365日いつでも必要なものが手に入る利便性
- 独自性:高品質なプライベートブランド商品(セブンプレミアム)
- RTB:全国に展開する店舗網、効率的な物流システム
How
- コミュニケーション:都市部の駅やオフィス街での広告展開
- プロダクト:ready-to-eatの食品、ビジネス向け文具
- 場所:駅前や オフィス街に集中出店
- 価格:やや高めだが、時間節約の価値を提供
パターン2:健康志向の主婦
Who
- 対象:30〜50代の専業主婦または パートタイム勤務の主婦
- JOB:
- きっかけ:家族の健康管理への意識
- 欲求:手軽に健康的な食事を用意したい
- 抑圧:調理時間の不足、栄養バランスの管理の難しさ
- 報酬:家族の健康維持、自己満足感
What
- 便益:バランスの取れた健康的な食品をいつでも購入可能
- 独自性:管理栄養士監修の健康志向商品ラインナップ
- RTB:商品開発力、品質管理システム
How
- コミュニケーション:テレビCMや女性誌での広告
- プロダクト:カロリーオフ商品、野菜を使った惣菜
- 場所:住宅街に近い立地
- 価格:適度な価格帯で、健康価値を訴求
パターン3:デジタルネイティブな若者
Who
- 対象:10代後半〜20代のスマートフォン世代
- JOB:
- きっかけ:SNSでの情報共有欲求
- 欲求:話題の商品をいち早く試したい
- 抑圧:限定商品の入手困難さ、金銭的制約
- 報酬:SNSでの共有による満足感、トレンドへの参加感
What
- 便益:最新トレンド商品をいち早く、手軽に入手できる
- 独自性:限定商品や コラボ商品の豊富さ
- RTB:SNSマーケティング力、商品開発のスピード
How
- コミュニケーション:SNSを活用したキャンペーン、インフルエンサーマーケティング
- プロダクト:インスタ映えする商品、限定フレーバーのスイーツ
- 場所:オンラインとリアル店舗の連携(ネットで予約、店舗で受け取りなど)
- 価格:手頃な価格帯で、付加価値を感じさせる価格設定
これらのパターンは、セブンイレブンの多様な顧客層と、それぞれのニーズに合わせた戦略を示しています。各パターンに対して的確なWho/What/Howを設定することで、セブンイレブンは幅広い顧客層にアプローチし、多様なニーズに応えることができています。
結論:セブンイレブンは誰になぜ選ばれるのか
セブンイレブンは、以下の理由で幅広い消費者に選ばれています:
- 忙しい現代人のニーズに応える利便性
- 高品質な商品ラインナップ
- 豊富な店舗網による高いアクセシビリティ
- 多様なサービスによる生活インフラとしての機能
- 継続的なイノベーションによる新しい価値の提供
これらの要因が相互に作用し、セブンイレブンは単なる小売店以上の存在として消費者の生活に深く根付いています。ただし、顧客のニーズに基づいたイノベーションや商品開発ができていなければいつでもリーダーのポジションは抜かれることになるでしょう。
まとめ
セブンイレブンの成功から学べるマーケティングの重要ポイントは以下の通りです:
- 顧客ニーズの深い理解と迅速な対応
- 品質と利便性の両立
- 継続的なイノベーションと差別化
- 強力なブランド構築
- 効率的なオペレーションと物流システムの確立
- デジタル技術の積極的活用
- 環境変化への柔軟な対応
これらの要素を自社のビジネスに適用することで、市場での競争優位性を築くことができるでしょう。重要なのは、顧客視点を常に持ち、変化する社会ニーズに柔軟に対応し続けることです。