今さら聞けない半導体入門|基礎知識から主要プレイヤー、AI時代の展望まで - 勝手にマーケティング分析
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今さら聞けない半導体入門|基礎知識から主要プレイヤー、AI時代の展望まで

今さら聞けない半導体 マーケの応用を学ぶ
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はじめに

「半導体って結局何なの?」「なぜ最近ニュースでよく聞くの?」「マーケターとして知っておくべきことって何?」

こんな疑問を抱えていませんか?近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの爆発的な普及により、半導体業界は再び脚光を浴びています。日本でもTSMCの熊本工場建設や国策半導体ラピダスへの巨額投資など、連日のように半導体関連のニュースが飛び交っています。

しかし、多くのマーケターにとって半導体は「なんとなく重要だとわかるけど、詳しくは知らない」分野ではないでしょうか。実際、半導体は私たちの身の回りのあらゆる製品に使われており、現代社会のデジタル化を支える「産業のコメ」と呼ばれるほど重要な存在です。

本記事では、半導体の基礎知識から最新の業界動向、主要プレイヤーの分析、そして今後の展望まで、マーケターとして押さえておくべきポイントを体系的に解説します。難しい技術的な話は最小限に抑え、ビジネスへの影響や市場機会を中心に、わかりやすく説明していきます。

半導体とは?基本の「キ」を理解しよう

半導体の定義と仕組み

半導体とは、条件によって電気を通したり通さなかったりする物質のことです。「導体」(電気をよく通す金属など)と「絶縁体」(電気を通さないゴムやプラスチックなど)の中間の性質を持つため、「半導体」と名付けられました。

この「電気を通す・通さない」を瞬時に切り替えられる特性が、デジタル技術の基盤となっています。コンピューターが理解できる「0」と「1」の情報(デジタル信号)を、半導体の「電気を通さない」「電気を通す」状態で表現しているのです。

graph TD A[物質の電気特性] --> B[導体<br/>電気をよく通す<br/>例 金属/水] A --> C[半導体<br/>条件により通す/通さない<br/>例 シリコン] A --> D[絶縁体<br/>電気を通さない<br/>例 ゴム/プラスチック] C --> E[半導体の特徴] E --> F[電気や磁場で制御可能] E --> G[0と1のデジタル信号を表現] E --> H[情報処理/記憶/制御が可能]

半導体の種類と役割

一般的に「半導体」と呼ばれるものには、以下のような種類があります:

種類主な機能具体例用途
メモリ半導体データを記憶するDRAM、フラッシュメモリスマホの写真保存、PCのメモリ
ロジック半導体計算や判断を行うCPU、GPUパソコンの頭脳、ゲーム処理
アナログ半導体アナログ信号を処理センサー、アンプ音声処理、センサー制御
パワー半導体電力を制御するインバーター、コンバーター電気自動車、家電の省エネ

私たちの身の回りにある半導体製品

半導体は「産業のコメ」と呼ばれるほど、現代社会のあらゆる製品に使われています。以下の表で、身近な製品にどのような半導体が使われているかを見てみましょう。

日常生活での半導体活用例

製品カテゴリ具体的な製品使用される半導体役割
スマートフォンiPhone、AndroidCPU、メモリ、センサー、カメラチップ写真撮影、アプリ処理、通信制御
家電製品エアコン、冷蔵庫、洗濯機マイコン、センサー、パワー半導体温度制御、省エネ運転、自動制御
自動車ガソリン車、電気自動車ECU、パワー半導体、センサーエンジン制御、安全システム、自動運転
データセンターサーバー、ストレージCPU、GPU、メモリ、SSDクラウドサービス、AI処理
産業機器ロボット、工作機械マイコン、モーター制御、センサー自動化、精密制御

特に注目すべきは、1台のスマートフォンには数百個の半導体チップが搭載されていることです。CPU、メモリ、カメラセンサー、通信チップ、タッチセンサー、スピーカー制御チップなど、小さな端末の中に高度な技術が詰め込まれています。

自動車の半導体使用量急増

近年特に注目されているのが、自動車における半導体使用量の急激な増加です:

  • 従来のガソリン車: 約50個の半導体チップ
  • 高級車: 約150個の半導体チップ
  • 電気自動車: 約300個の半導体チップ
  • 自動運転レベル5: 約1000個以上の半導体チップ(予想)

この変化により、「自動車は車輪の付いたコンピューター」と言われるようになっています。

なぜ今、半導体が話題なのか?

生成AIブームが牽引する需要爆発

2022年11月のChatGPT登場以降、生成AIの普及により半導体需要が爆発的に増加しています。その背景を詳しく見てみましょう。

AIが半導体に与える影響

生成AIの性能の1つとなる学習時のパラメータ数は、2018年に発表された生成AIが1億個だったのに対し、2020年には1,750億個、2022年には3,500億個、2024年には1兆個を超えたと推測されています。

この急激なモデルの大型化により、AI処理に必要な計算能力は指数関数的に増加しています。

graph LR A[2018年<br/>1億パラメータ] --> B[2020年<br/>1,750億パラメータ] B --> C[2022年<br/>3,500億パラメータ] C --> D[2024年<br/>1兆パラメータ] E[必要な計算能力] --> F[指数関数的増加] F --> G[データセンター需要急増] G --> H[半導体需要爆発]

市場規模の急拡大

2025年の世界半導体市場は、約7,167億米ドル(約90兆円)と予測されています。2024年も約6,298億米ドルで連続で2桁成長をしています。

データセンター需要の構造的変化

2025年現在、データセンター・サーバーでの利用が半導体需要全体の約23%を占めており、その需要は2035年には約47%にまで拡大すると予想されています。背景にはクラウドサービスやビッグデータ解析などの増加があります。

地政学的要因の高まり

半導体が注目される理由は技術的要因だけではありません:

要因具体的な動き影響
米中対立中国への半導体輸出規制強化サプライチェーン再編
経済安全保障各国が半導体産業に巨額投資工場誘致競争激化
台湾リスク世界の最先端半導体の60%以上が台湾製造地政学的リスクの顕在化

半導体業界の構造と主要プレイヤー

業界構造の理解

半導体業界は複雑な分業構造になっています。以下の図で全体像を把握しましょう。

graph TD A[半導体業界の構造] --> B[設計] A --> C[製造] A --> D[材料/装置] B --> E[ファブレス企業<br/>設計専門] B --> F[IDM企業<br/>設計から製造まで一貫] C --> G[ファウンドリ<br/>製造受託専門] C --> H[後工程<br/>組み立て/テスト] D --> I[製造装置メーカー] D --> J[材料メーカー] E --> K[Apple/NVIDIA/AMD/Qualcomm] F --> L[Intel/Samsung/SK Hynix] G --> M[TSMC/GlobalFoundries] H --> N[ASE Group/Amkor] I --> O[ASML/東京エレクトロン/アプライドマテリアルズ] J --> P[信越化学/SUMCO/JSR]

世界の主要プレイヤー分析

ファウンドリ(製造受託)市場

TSMCのファウンドリ市場に限ればなんとシェアは60%で、第2位のサムスン電子に大きな差をつけています。

順位企業名国・地域シェア強み
1位TSMC台湾約60%最先端プロセス技術、Appleとの関係
2位Samsung韓国約17%メモリとの統合生産、テスラとの契約
3位GlobalFoundries米国約6%自動車・IoT向け特化

現在、7ナノメートル以下の最先端プロセスで安定的に量産できるのは、世界でTSMCとサムスン電子の2社だけなのです。

AI半導体市場の新たな覇者

生成AIブームの中心にいるのが、米国のNVIDIAです。この企業の躍進は、半導体業界の勢力図を大きく変えました。NVIDIAは元々ゲーム用の画像処理チップ(GPU)を手がけていましたが、このGPUがAI処理に最適だったことから、AI半導体市場で圧倒的な地位を築いています。

興味深いのは、NVIDIAとTSMCの関係性です。NVIDIAは自社で工場を持たないファブレス企業で、最先端のAI半導体の製造をTSMCに全面的に依存しています。つまり、AI半導体市場ではNVIDIAが設計を、TSMCが製造を担当するという、完全な分業体制が成り立っているのです。

日本企業の現在地と強み

日本の半導体産業は、1980年代には世界シェアの5割を超えていましたが、現在は1割程度まで低下しています。しかし、特定の分野では依然として世界トップクラスの競争力を維持しています。

日本が強みを持つ領域

分野代表企業世界における地位強みの背景
イメージセンサーソニー世界シェア約50%技術革新力と品質の高さ
自動車用マイコンルネサス世界シェア約30%自動車業界との深い関係
NAND型フラッシュメモリキオクシア世界シェア約20%技術開発力と生産効率
製造装置東京エレクトロン世界シェア約15%精密加工技術の蓄積
シリコンウエハー信越化学、SUMCO世界シェア約60%高純度材料技術

特にソニーのイメージセンサー事業は注目に値します。スマートフォンのカメラ性能向上競争の中で、ソニーの技術は欠かせない存在となっており、Apple、Samsung、中国メーカーなど、競合関係にある企業すべてがソニーの部品を使用しているという興味深い状況が生まれています。

今後の展望:2025年以降の半導体業界

持続的成長への道筋

半導体業界の将来を考える上で重要なのは、現在のAI特需が一時的なブームなのか、それとも構造的な変化なのかという点です。結論から言えば、これは構造的な変化と捉えるべきでしょう。

2030年には市場規模が1兆米ドル(約130兆円)に達すると見込まれており、AIや自動運転、5G/6G通信インフラの進展が市場成長を強力に牽引しています。

この成長予測の背景には、複数の技術トレンドが同時進行していることがあります。生成AI、自動運転、IoT、メタバースなど、どれも半導体の高性能化に依存する技術です。これらが同時に普及することで、半導体需要は持続的に拡大していくと考えられます。

技術進化がもたらす市場機会

技術分野現在(2025年)近未来(2030年)半導体への影響
生成AIChatGPT等の普及期全業務プロセスに統合完了データセンター向け需要急拡大
自動運転レベル3の実用化開始レベル4〜5の本格普及車載半導体市場の爆発的成長
IoTスマート家電の普及あらゆる機器のネット接続エッジ向け半導体需要の拡大
メタバースVR/ARの本格始動日常的利用環境の整備高性能グラフィック処理需要

電力効率化という新たな競争軸

AI需要の拡大に伴って浮上してきた重要な課題が、電力消費の問題です。データセンターの電力消費量は急激に増加しており、このままでは電力供給が追い付かなくなる可能性があります。

三菱総合研究所の試算では、様々な技術を組み合わせることで2040年までに、汎用処理では600倍程度、生成AIなどに特化した専用処理では最大6万倍程度、データセンターの電力効率を高めることができると言います。

この電力効率化の要求は、半導体設計に新たな制約を課す一方で、日本企業にとっては新たなビジネス機会を生み出しています。日本が得意とする省エネ技術や材料技術が、再び注目を集めているのです。

日本の再生シナリオ

日本の半導体産業復活への道筋を考える上で、重要なのは「すべての分野で競争する必要はない」という発想の転換です。最先端のロジック半導体製造では台湾や韓国に大きく水をあけられていますが、特定の技術領域では依然として世界をリードできる可能性があります。

日本が活かせる技術領域

先端パッケージング技術: これは複数の半導体チップを効率的に組み合わせる技術で、性能向上の新たな手法として注目されています。日本の精密加工技術や材料技術がこの分野で威力を発揮しており、実際にTSMCやSamsungが日本に研究開発拠点を設置しています。

光電融合技術: 電気信号と光信号を組み合わせて処理速度を向上させる技術です。日本は光ファイバーやレーザー技術で世界をリードしており、この強みを半導体分野に活かすことができます。

省エネ設計技術: 電力効率化への要求が高まる中、日本の省エネ技術のノウハウが重要になってきています。

解決すべき構造的課題

一方で、日本が直面している課題も明確です。最も深刻なのは、国際的な技術者獲得競争での劣勢です。半導体業界では優秀な技術者の獲得が成功の鍵を握りますが、報酬水準や研究環境の面で、日本企業は海外勢に後れを取っているのが現状です。

また、最先端技術開発には兆円単位の投資が必要ですが、日本企業の多くは単独でこうした投資を行う体力がありません。国策半導体プロジェクトのラピダスも、民間企業だけでは賄えない規模の投資を政府支援に頼っているのが実情です。

地政学的変化がもたらす機会

現在進行中の米中対立や台湾を巡る地政学的リスクは、日本にとって大きなチャンスでもあります。これまで台湾に集中していた半導体製造拠点の分散化が進む中で、日本は有力な候補地の一つとなっています。

TSMCの熊本工場建設は、その象徴的な動きです。これは単なる工場誘致ではなく、日本の半導体エコシステム再構築の起点となる可能性を秘めています。TSMCの進出により、関連する装置メーカーや材料メーカーも九州地域に集積し、新たな産業クラスターが形成されつつあります。

まとめ

理解しておくべき重要ポイント

半導体は現代社会を支える基盤技術として、マーケターが必ず理解しておくべき分野です。まず基本として押さえておきたいのは、半導体が単なる部品ではなく、デジタル化社会の「神経系統」のような役割を果たしているということです。スマートフォンから自動車、データセンターまで、私たちの身の回りのあらゆる製品の高機能化は半導体の進歩に支えられています。

現在の半導体ブームの背景には、生成AIの普及という明確な牽引役があります。2025年の世界市場規模は約90兆円に達し、2030年には130兆円規模への成長が予想されています。特に注目すべきは、データセンター向け需要が2035年には半導体需要全体の半分近くを占めるという構造変化です。これは一時的なブームではなく、社会のデジタル化が新たな段階に入ったことを意味しています。

業界構造を理解する上で重要なのは、台湾TSMCの圧倒的な存在感です。ファウンドリ市場で6割のシェアを持つTSMCは、最先端の微細加工技術で他社を大きく引き離しており、NVIDIA等のAI半導体製造を独占的に手がけています。この技術格差は今後も拡大する傾向にあり、半導体業界の一極集中が進んでいます。

一方で、地政学的な変化により新たな機会も生まれています。米中対立や台湾リスクを背景に、各国が半導体産業を経済安全保障の要と位置づけ、巨額の投資を行っています。日本でもTSMCの熊本進出やラピダスプロジェクトなど、産業再生に向けた動きが活発化しています。

日本企業にとって重要なのは、すべての分野で競争するのではなく、強みを活かせる領域に集中することです。先端パッケージング技術、光電融合技術、省エネ設計技術など、日本の得意分野を軸に世界の半導体産業に貢献していく戦略が現実的です。

マーケターとして最も重要な視点は、半導体業界の動向が単なる技術トレンドではなく、あらゆる産業のビジネスモデルに影響を与える構造変化だということです。AI、自動運転、IoT、メタバースなど、今後10年間の主要な技術トレンドはすべて半導体の進歩に依存しており、この業界への理解なくして効果的なマーケティング戦略は立案できません。

特に電力効率化の要求は、今後のビジネスモデル設計における重要な制約条件となります。AIサービスの普及に伴う電力消費の急増は、企業の事業戦略やサービス設計に大きな影響を与えるでしょう。マーケターとして、こうした技術制約を理解し、それを乗り越える価値提案を考えることが求められています。

半導体業界の理解を深めることで、技術トレンドの本質を見極め、顧客の将来ニーズを先取りしたマーケティング戦略を構築することができるのです。

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この記事を書いた人
tomihey

本ブログの著者のtomiheyです。失敗から学び続けてきたマーケターです。
BtoB、BtoC問わず、デジタルマーケティング×ブランド戦略の領域で14年間約200ブランド(分析数のみなら500ブランド以上)のマーケティングに関わり、「なぜあの商品は売れて、この商品は売れないのか」の再現性を見抜くスキルが身につきました。
本ブログでは「理論は知ってるけど、実際どうやるの?」というマーケターの悩みを解決するノウハウや、実際のブランド分析事例を紹介しています。
現在はマーケティング戦略/戦術の支援も実施していますので、詳しくは下記リンクからご確認ください。一緒に「売れる理由」を解明していきましょう!

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