はじめに
自社製品やサービスが市場で選ばれる理由を明確にすることは、持続的な成長のために不可欠です。本記事では、北海道で圧倒的なシェアを誇るセイコーマートの事例から、顧客に選ばれるビジネスの本質を探ります。
セイコーマートの概要
セイコーマートは1971年に札幌市で創業した日本最古のコンビニエンスストアチェーンです。北海道内で1,091店舗以上を展開し、道内シェア1位を維持しています。
顧客満足度の実績
- 2023年のJCSI(日本版顧客満足度指数)調査でコンビニエンスストア部門1位を獲得(5年連続1位)
- 顧客満足スコア77.2点で、2位のデイリーヤマザキ(68.9点)を大きく引き離す
- 顧客満足度を示す6つの指標(顧客期待、知覚品質、知覚価値、顧客満足、推奨意向、ロイヤルティ)全てで1位
出典:https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/shosai2023_01.pdf
店舗展開状況
- 北海道内で1,091店舗を展開(2023年12月末時点)
- 北海道179市町村のうち174市町村に出店
- 道内人口の99.8%をカバー
売上・経営指標
決算期 | 売上高 | 前年比 | 特記事項 |
---|---|---|---|
2023年12月期 | 2,100億円超 | 107.0% | 過去最高売上を達成 |
2022年12月期 | 2,005億円 | - | 道内179市町村中174市町村に出店 |
業績のポイント
- 2023年は店内調理品「HOT CHEF」が好調で、1店舗あたり日販10万円台に到達見込み
- 北海道内の店舗数は1,091店舗(2023年12月末時点)で、セブン-イレブン(1,001店舗)を上回る
- 店舗売上点数の約50%をオリジナル商品が占める
- 会員数510万人超の独自の会員制度を保有
これらのデータから、セイコーマートは特に北海道において圧倒的な顧客支持を得ていることが客観的に示されています。
セイコーマートのSWOT分析
セイコーマートの何が魅力的なのか、SWOT分析で探っていきます。
強み(Strengths) | 弱み(Weaknesses) |
---|---|
・顧客満足度6年連続1位 | ・全国展開の限定性(主に北海道中心) |
・独自の店内調理システム「HOT CHEF」(日販10万円台) | ・大手と比較して資本力の制限 |
・北海道内1,091店舗による強固な地盤 | ・広告宣伝力の弱さ |
・PB商品が売上の約50%を占める高い商品開発力 | ・人材確保の課題 |
・会員数510万人超の独自会員制度 | ・物流コストの高さ |
・FCオーナーへの高い裁量権付与 | ・店舗オペレーションの非効率性 |
機会(Opportunities) | 脅威(Threats) |
---|---|
・地域密着型サービスへの需要増加 | ・北海道の人口減少 |
・PB商品の他社への卸売展開可能性 | ・大手チェーンの地域戦略強化 |
・生鮮食品強化による新市場開拓 | ・原材料費の高騰 |
・デイリーユース需要の拡大 | ・人件費の上昇 |
・地方スーパーの撤退による商圏拡大 | ・消費者の節約志向 |
・独自の価格戦略「EDRP」による差別化 | ・天候リスク(特に冬季の営業) |
このSWOT分析から、セイコーマートは地域密着と独自性を活かした戦略で、大手との差別化に成功していることがわかります。
オルタネイトモデルによる顧客の合理を分析
要素 | 具体的内容 | 根拠データ/事例 |
---|---|---|
きっかけ | ・日常的な食品・日用品の購入ニーズ ・店舗までの近接性(道内179市町村中174市町村に出店) ・価格の安さへの注目 ・店内調理の香りや温かさ | ・道内人口の99.8%をカバー ・HOT CHEF日販10万円台 ・1店舗あたり日商43万円 |
欲求 | ・手頃な価格で品質の良い食品を入手したい ・地元の味や食材を楽しみたい ・温かい出来立ての食事を手軽に購入したい ・必要な時に必要なものを入手したい | ・顧客満足度1位(77.2点) ・PB商品売上比率50% ・会員数510万人超 |
抑圧 | ・価格への懸念 ・品質への不安 ・利便性への不満 ・選択肢の少なさ | ・独自の価格戦略「EDRP」 ・店内調理による品質管理 ・道内1,091店舗展開 |
行動 | ・セイコーマートでの定期的な購入 ・HOT CHEF商品の利用 ・PB商品の選択 ・会員サービスの活用 | ・客数2022年比106%増加 ・HOT CHEF好調 ・会員数増加傾向 |
報酬 | ・価格と品質のバランスによる満足感 ・地元食材を使用した商品への親近感 ・出来立ての温かい食事の満足感 ・利便性による時間節約 | ・顧客満足度6年連続1位 ・6つの満足度指標全てで1位 ・推奨意向スコア高評価 |
オルタネイトモデルから見える特徴
1. 購買行動の特徴
- 日常的な利用が中心
- 価格重視だが品質も求める
- 地域性を重視する傾向
2. 顧客心理の特徴
- 実利的な価値を重視
- 地元企業への親近感
- 品質と価格のバランスを重視
3. 満足度を高める要因
- 手頃な価格設定
- 店内調理による品質管理
- 地域密着型の商品展開
- 高い利便性
このモデルから、セイコーマートは顧客の「価格」「品質」「利便性」「地域性」という4つの主要なニーズに効果的にアプローチしていることが分かります。特に、これらのニーズに対して具体的な数値や実績で裏付けられた価値提供を行っている点が、持続的な顧客支持につながっていると考えられます。
セイコーマートのWho/What/How
Who(ターゲット)
顧客像
- 北海道在住の地域住民
- 価格と品質のバランスを重視する実用的な消費者
- 地元の食材や味を大切にする消費者
- 日常的な買い物ニーズを持つ生活者
JOB
- きっかけ
- 日常的な食品・日用品の購入ニーズ
- 店舗までの近接性や日常導線の店舗配置
- 価格の安さへの注目
- 店内調理の香りや温かさ
- 欲求:
- 手頃な価格で品質の良い食品を入手したい
- 地元の味や食材を日常的に楽しみたい
- 温かい出来立ての食事を手軽に購入したい[5][6]
- 抑圧:
- 品質や品数への不満
- 価格への懸念
- 時間的制約
- 報酬:
- 地元食材を使用した商品への満足感
- 価格と品質のバランスによる安心感
- 出来立ての温かい食事による満足感
What(価値提案)
提供できる便益
- 機能的便益:
- 店内調理による出来立ての温かい食事
- 手頃な価格での商品提供
- 地域密着型の品揃え
- 情緒的便益:
- 地元企業への親近感
- 地域文化との一体感
- 安心感のある買い物体験
独自性
- ホットシェフによる店内調理システム
- 北海道の食材にこだわったPB商品開発
- パッケージより中身重視の商品開発方針
RTB(根拠)
- 顧客満足度6年連続1位
- PB商品が売上の約50%を占める
- 北海道内1,091店舗による強固な地盤
How(提供方法)
コミュニケーション
- 地域イベントへの積極参加
- 会員制度(セイコーマートクラブ)の活用
- 地域密着型の情報発信
プロダクト
- 店内調理による品質管理
- 地域特性に合わせた品揃え
- PB商品の開発強化
場所
- 北海道を中心とした店舗展開
- 人口の少ない地域への出店
- 地域のニーズに応じた営業時間設定
価格
- パッケージにこだわらない低価格戦略
- 地域の生活水準に合わせた価格設定
- 早期割引による廃棄ロス削減
なぜ選ばれるのか:成功要因の分析
セイコーマートが選ばれる主な理由は以下の3点に集約されます:
- 地域特性への深い理解と対応
- 価格と品質のバランス
- 独自の商品開発力
まとめ:セイコーマートの成功から学ぶマーケティング戦略
主要な成功要因
1. 明確な市場ポジショニング
- 北海道に特化した地域密着戦略
- 価格と品質のバランスを重視する実用的な消費者への焦点
- 「やらないこと」の明確な選択(全国展開、24時間営業など)
2. 独自の価値提案
- 店内調理「HOT CHEF」による差別化(日販10万円台)
- PB商品の強化(売上比率50%)
- 地域特性に合わせた品揃えと価格設定
3. 効果的な提供方法
- 道内1,091店舗による高いカバー率(道内人口の99.8%)
- 会員制度(510万人超)の活用
- 地域密着型の情報発信と販促活動
客観的な成果
市場での評価
- 顧客満足度6年連続1位(77.2点)
- 2023年売上高2,100億円超(過去最高)
- 北海道内でセブン-イレブンを上回る店舗数
ビジネスへの応用ポイント
1. 差別化戦略
- 「非効率」の戦略的選択による独自性の確立
- 地域特性を活かした商品開発
- 明確な「やらないこと」の設定
2. 顧客価値の創造
- 顧客の本質的なニーズへの対応
- 価格と品質のバランス重視
- 地域文化との調和
3. 持続可能なビジネスモデル
- 地域密着による安定的な顧客基盤
- PB商品による収益性確保
- 効率性よりも顧客満足を重視
最後に
セイコーマートの事例は、以下の重要な示唆を提供しています:
- 地域特性の深い理解と活用
- 明確な独自性の確立
- 顧客満足度を重視した経営判断
- 効率性にとらわれない価値創造
これらの要素は、規模や業界を問わず、持続可能な競争優位性を構築するための重要な指針となります。ぜひ自社のビジネスの参考にしてみてください。