はじめに
マーケティング担当者の皆さん、売上を上げるためにさまざまな施策を試みているものの、なかなか思うような結果が出ないという経験はありませんか?その原因の1つに、売上を構成する要素を正確に理解し、各要素を適切に改善できていないことが考えられないでしょうか。
本記事では、マーケティングの第一人者である森岡毅氏が考案した「売上の方程式」を詳しく解説し、各要素の意味や改善方法、調査手法までを網羅的に説明します。この記事を読むことで、売上の全体像を把握し、効果的な改善策を立案できるようになることを目指します。
森岡毅氏の「売上の方程式」
まず、森岡毅氏が著書「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」の中で下記の「売上の方程式」を使っています。
売上 = 人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率 × エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入個数 × 年間購入頻度 × 購入単価
この方程式は、売上を構成する9つの要素に分解しています。各要素を理解し、適切に改善することで、売上の最大化を図ることができます。
売上を構成する9つの要素
承知しました。要素、定義、コントロール可能性のみの表を作成しました。
要素 | 定義 | コントロール可能性 |
---|---|---|
1. 人口 | 潜在的な顧客となり得る人の総数 | 低(△) |
2. 認知率 | ターゲット市場内で自社の商品やサービスを知っている人の割合 | 高(◎) |
3. 配荷率 | 商品が物理的手に入れられる割合 | 中(○) |
4. 該当カテゴリーの過去購入率 | 対象となる商品カテゴリーを過去に購入したことがある人の割合 | 中(○) |
5. エボークトセットに入る率 | 購買検討時に選択肢として考慮される確率 | 中(○) |
6. 年間購入率 | 1年間に実際に購入する確率 | 低(△) |
7. 1回あたりの購入個数 | 1回の購買で購入される平均個数 | 低(△) |
8. 年間購入頻度 | 1年間に購入する平均回数 | 低(△) |
9. 購入単価 | 1回の購買における平均支払額 | 高(◎) |
1. 人口
定義: 商品やサービスの潜在的な顧客となり得る人の総数
改善方法:
- ターゲット市場の拡大
- 新しい地域や国への進出
コントロール可能性: 低(△)
調査方法:
- 政府統計データの活用
- 市場調査会社のレポート参照
推奨調査頻度: 年1回
国民全員がターゲットになりうる商品であれば現在の人口を、その商品の潜在的なターゲットがいるようであればそれが対象となります。TAM、SAM、SOMのTAMを入れていただくのが良いでしょう。
2. 認知率
定義: ターゲット市場内で自社の商品やサービスを知っている人の割合
改善方法:
- 広告宣伝活動の強化
- PR活動の実施
- ソーシャルメディアの活用
コントロール可能性: 高(◎)
調査方法:
- アンケート調査
- ブランド認知度調査
推奨調査頻度: 四半期ごと
認知率は潜在ターゲットの中でどらくらいの人が自社商品を知っているかの割合です。認知率はコントロール可能ですが、認知率を上げるのにはかなりのお金と時間がかかり、かつ時間がたつと効果は低減していく数字になります。例えばUSJはTVCM、デジタルマーケティング、PRの手法で全国の認知率90%を叩き出したと言われています。
3. 配荷率
定義: 商品が実際に店頭に並んでいる割合(どれだけの人が購入可能かの率)
改善方法:
- プレファランスの向上(自社ブランドが選ばれる確率の向上)
- 販売店との関係強化
- 流通チャネルの拡大
- 在庫管理の最適化
コントロール可能性: 中(○)
調査方法:
- 販売店調査
- POS(販売時点情報管理)データ分析
推奨調査頻度: 月1回
例えば、サントリーがジムビームを買収し、世界的な販売チャネルを手に入れたことで配荷率を大幅にあげたことが有名です。また、パンテーンの配荷率が100%だったが、各店舗ごとに消費者の好意度を鑑みてSKUを変えて配荷の質を変えていったことも著書で語られています。
ちなみにインターネットサービスは誰でも手にいれることができるため配荷率は100%にするのが一般的です。
4. 該当カテゴリーの過去購入率
定義: 対象となる商品カテゴリーを過去に購入したことがある人の割合
改善方法:
- プレファランスの向上(自社ブランドが選ばれる確率の向上)
- 商品カテゴリーの認知度向上
- 新規顧客の獲得キャンペーン実施
コントロール可能性: 中(○)
調査方法:
- 顧客アンケート
- 購買履歴データ分析
推奨調査頻度: 半年に1回
例えばシャンプーを買ったことがある人はほぼ100%かと思いますのでその場合は100%になります。
5. エボークトセットに入る率
定義: 購買検討時に選択肢として考慮される確率
改善方法:
- プレファランスの向上(自社ブランドが選ばれる確率の向上)
- ブランドイメージの向上
- 商品の特徴や利点の明確化
- 競合他社との差別化
コントロール可能性: 中(○)
調査方法:
- 消費者調査
- ブランド選好度調査
推奨調査頻度: 四半期ごと
エボークトセットとは、あるカテゴリーの中で顧客が購買する可能性のあるブランドリストのことです。
例)
Aビール:購入確率50%
Bビール:購入確率30%
Cビール:購入確率20%
各ブランドはまずはこのリストに入れるかどうかが鍵となります。
6. 年間購入率
定義: そのカテゴリーの商品を1年間に実際に購入する確率
改善方法:
- 商品の魅力度向上
- 購買意欲を刺激するマーケティング施策の実施
- 顧客ロイヤリティプログラムの導入
コントロール可能性: 低(△)
調査方法:
- 販売データ分析
- 顧客アンケート
推奨調査頻度: 月1回
年間購入率はカテゴリーによってある程度決まっているためコントロールが難しいと言われています。例えばシャンプーを使う頻度を増やすことが難しく、年間に買う率を増やすことは難しいです。
7. 1回あたりの購入個数
定義: 1回の購買で購入される平均個数
改善方法:
- セット販売の促進
- 量り売りの導入
- ボリュームディスカウントの実施
コントロール可能性: 低(△)
調査方法:
- POSデータ分析
- 販売レポート
推奨調査頻度: 月1回
8. 年間購入頻度
定義: 1年間に購入する平均回数
改善方法:
- リピート購入の促進
- 定期購入プログラムの導入
- シーズン商品の開発
コントロール可能性: 低(△)
調査方法:
- 顧客購買履歴分析
- CRMデータ分析
推奨調査頻度: 月1回
9. 購入単価
定義: 1回の購買における平均支払額
改善方法:
- 高付加価値商品の開発
- プレミアム価格戦略の導入
- アップセリングの強化
コントロール可能性: 高(◎)
調査方法:
- 販売データ分析
- 競合他社価格調査
推奨調査頻度: 月1回
プレファランスとは
上記の方程式の要素を改善する上で出てきるプレファランスという言葉を解説します。プレファランスとは、消費者が特定のブランドや商品に対して持つ好意や選好を指します。これは、消費者がどのような理由で特定の製品を選ぶか、または選ばないかに影響を与える重要な要素です。
また、プレファランス(好意度)を増やすには、ブランドエクイティ、製品パフォーマンス、価格の3つの要素を改善する必要があると言われています。
- ブランド・エクイティ:
- エクイティとは資産や財産のこと。競合や代替品がある中で選ばれるにはブランド資産のポジショニングと差別化が必要です。消費者にとっての購買意思決定を左右する重要な判断軸を見極め、有利なポジションを取ることが重要です。 また、プレファランスを向上させるためにポジショニングや差別化をするのであって、ターゲットを狭めるためにではないことも注意点です。
- 製品パフォーマンス:
- 製品の便益のこと。BtoBSaasは機能的価値が重要。車や家電、洗剤や薬は特に機能が課題解決しないと意味がない。ミネラルウォーターはほぼ情緒的価値なのでブランド・エクイティの訴求が望ましいと言われています。
- 価格:
- 競合よりも価格が高くでも消費者に支持されるほどブランド・エクイティや製品パフォーマンスが良いか。一流のマーケターは値上げしながらプレファランスを増やすことを目指します。
売上要素の分析と改善のプロセス
1. 現状分析: 各要素の現在の数値を把握
- 売上を構成する要素(人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率 × エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入個数 × 年間購入頻度 × 購入単価)に分解し、現在の数値を正確に測定
- 外部調査、データ分析ツールやCRMシステムを活用して情報を収集
2. 目標設定: 改善したい要素と目標値を決定
- 現状分析に基づき、コントロール可能な箇所のみに絞り、改善が必要な要素を特定
- 具体的かつ測定可能な目標値を設定(例:エボークトセットに入る率を20%増加)
- 目標達成の期限を明確に定める
3. 施策立案: 各要素の改善方法を検討し、具体的な施策を計画
- ブレインストーミングなどを通じて改善アイデアを出し合う
- 費用対効果を考慮しながら、実行可能な施策を選定
- 各施策の実施スケジュールと担当者を決定
4. 実行: 立案した施策を実行
- 計画に基づいて施策を着実に実行
- 進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて軌道修正
- チーム内でのコミュニケーションを密にし、情報共有を徹底
5. 効果測定: 定期的に各要素の数値を測定し、改善効果を確認
- KPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に測定
- 施策実施前後の数値を比較し、効果を定量的に評価
- 予想外の結果や副次的な効果にも注目
6. 改善: 測定結果に基づき、施策を改善または新たな施策を立案
- 効果測定の結果を詳細に分析
- 成功した施策はさらに強化し、効果の低かった施策は見直し
- 新たな課題や機会を発見し、次のサイクルに向けた施策を検討
このプロセスを継続的に繰り返すことで、PDCAサイクルを回し、持続的な売上改善を実現できます。各ステップで得られた知見を組織内で共有し、次のサイクルに活かすことが重要です。
改善事例:飲料メーカーAの売上改善
飲料メーカーAは、新商品の売上が伸び悩んでいました。そこで、売上の方程式を用いて現状分析を行ったところ、以下の課題が明らかになりました。
- 認知率が低い(30%)
- 配荷率が不十分(60%)
- エボークトセットに入る率が低い(20%)
これらの課題に対して、以下の施策を実施しました。
- テレビCMとSNS広告を活用し、認知率向上を図る
- 営業部門と連携し、主要小売チェーンへの配荷率を改善
- 顧客調査により明らかになった商品の便益、独自性を明確にしたパッケージデザインの刷新
6ヶ月後、各要素は以下のように改善されました。
- 認知率:30% → 50%(+20ポイント)
- 配荷率:60% → 80%(+20ポイント)
- エボークトセットに入る率:20% → 35%(+15ポイント)
これらの改善により、売上は前年同期比で約2倍に増加しました。
こちらでも各企業の売上要素を分解して各要素の数字を予想していますので、ぜひご覧ください。
まとめ
森岡毅氏の「売上の方程式」を活用することで、売上を構成する要素を細分化し、効果的な改善策を立案・実行することができます。以下は、本記事のkey takeawaysです。
- 売上は9つの要素(人口、認知率、配荷率、過去購入率、エボークトセット率、年間購入率、購入個数、購入頻度、購入単価)に分解できる
- 各要素にはコントロール可能/不可能が決まっており、それに応じた改善策を立てる必要がある
- 定期的な調査と分析を行い、PDCAサイクルを回すことが重要
- 複数の要素を同時に改善することで、相乗効果により大幅な売上改善が期待できる
マーケティング担当者は、この方程式を自社のビジネスに適用し、継続的な改善を行うことで、売上の最大化を図ることができるでしょう。