顧客のビジネスモデルが分からない営業マンが失注する理由と打開策 - 勝手にマーケティング分析
基礎を学ぶ

顧客のビジネスモデルが分からない営業マンが失注する理由と打開策

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はじめに

あなたは次のような課題を抱えていませんか?

  • 提案書を何度も作り直しているのに成約に至らない
  • 「検討します」と言われた後、連絡が途絶える
  • 価格交渉ばかりになってしまう
  • 顧客から「他社と何が違うの?」と言われて答えられない

これらの問題の根本には、「顧客のビジネスモデルの理解不足」という共通点があります。営業活動において最も重要なのは、自社製品やサービスの特徴を説明することではなく、「顧客のビジネスにどのように貢献できるか」を明確に示すことです。

本記事では、営業成績が振るわない本当の理由と、顧客のビジネスモデルを理解した上で効果的な提案を行うための具体的方法について解説します。

1. なぜ顧客のビジネスモデル理解が重要なのか

1-1. 成約率に直結する決定的な差

営業の世界では、顧客のビジネスモデルを理解しているかどうかが成約率に大きな影響を与えます。

比較項目ビジネスモデル理解ありビジネスモデル理解なし
成約率高い傾向低い傾向
商談の長さ1.5倍短縮標準または長期化
値引き要求の頻度低い高い
リピート率高い低い
顧客満足度高い低い

この差が生まれる理由は明確です。顧客のビジネスモデルを理解している営業担当者は、顧客が真に解決したい課題や達成したい目標に焦点を当てた提案ができるからです。

1-2. 「売り手」から「問題解決パートナー」へのポジションシフト

ビジネスモデルを理解せずに自社製品のセールスポイントだけを押し出す営業担当者は、顧客からただの「売り手」と見なされます。一方、顧客のビジネスモデルを理解した上で提案を行う営業担当者は、「問題解決パートナー」や「ビジネスアドバイザー」としての地位を獲得できます。

この違いは、顧客との関係性の質に大きな違いをもたらします。

ポジション顧客からの見られ方価格交渉信頼関係
売り手「何かを買わせようとしている人」値引き要求が中心表面的・一時的
問題解決パートナービジネスの成功を手伝ってくれる人投資対効果の議論深い・長期的

「問題解決パートナー」としてのポジションを確立できれば、単なる価格競争から脱却し、より戦略的で価値のある提案が可能になります。

1-3. 「なぜ顧客のビジネスモデル理解ができていないのか」の根本原因

営業担当者が顧客のビジネスモデルを理解できていない主な理由には、以下のようなものがあります。

原因詳細解決の方向性
時間の制約短期的な目標達成に追われ、顧客理解に時間を割けない営業プロセスの見直し、効率化
調査スキルの不足ビジネスモデルを分析するためのフレームワークや方法を知らないトレーニング、ツールの導入
顧客との対話不足製品説明に終始し、顧客の事業について深く聞けていない質問力の向上、傾聴スキルの強化
内部情報の共有不足社内に情報はあるが、営業担当者に共有されていないナレッジマネジメントの改善
成果指標の問題活動量や商談数で評価され、顧客理解の深さが評価されていない評価指標の見直し

これらの問題を認識し、解決に取り組むことが、顧客のビジネスモデル理解を深める第一歩となります。

2. 顧客のビジネスモデルを理解するための具体的方法

2-1. ビジネスキャンバスを活用した分析

顧客のビジネスモデルを体系的に理解するには、「ビジネスモデルキャンバス」というフレームワークが有効です。これは、ビジネスの9つの重要な要素を一枚のキャンバスで可視化するツールです。

graph TD A[顧客のビジネスモデルキャンバス] --> B[主要パートナー] A --> C[主要活動] A --> D[価値提案] A --> E[顧客との関係] A --> F[顧客セグメント] A --> G[主要リソース] A --> H[チャネル] A --> I[コスト構造] A --> J[収益の流れ]

各要素について、事前調査と顧客との対話を通じて情報を収集し、キャンバスを埋めていきます。このプロセスを通じて、顧客のビジネスの全体像と課題が明確になります。

実践方法

  1. 顧客企業の公開情報(Webサイト、IR情報、プレスリリースなど)から基本情報を収集
  2. 業界レポートや競合分析を通じて市場環境を理解
  3. 顧客との会話の中で、キャンバスの各要素について質問し、情報を補完
  4. 収集した情報をキャンバスに整理し、全体像を把握
  5. 課題や改善点を特定し、自社ソリューションとの接点を見つける

2-2. 「5つのなぜ」で真の課題を掘り下げる

顧客の表面的な課題だけでなく、その根本原因を理解するために「5つのなぜ」というテクニックが効果的です。これは、問題の原因を5回連続で「なぜ」と問いかけることで、真の課題を掘り下げる方法です。

「5つのなぜ」の例

質問のレベル質問と回答の例
表面的な課題「営業部門の業績が伸び悩んでいます」
なぜ1Q: なぜ業績が伸び悩んでいるのですか?
A: 「新規顧客の獲得数が減少しているからです」
なぜ2Q: なぜ新規顧客の獲得数が減少しているのですか?
A: 「営業担当者が十分な商談数をこなせていないからです」
なぜ3Q: なぜ十分な商談数をこなせていないのですか?
A: 「事務作業に多くの時間を取られているからです」
なぜ4Q: なぜ事務作業に多くの時間を取られているのですか?
A: 「顧客情報や商談記録を手作業で管理しているからです」
なぜ5Q: なぜ手作業で管理しているのですか?
A: 「効率的なCRMシステムを導入できていないからです」
真の課題効率的なCRMシステムの不在が、最終的には業績不振につながっている

このプロセスを通じて、表面的な「業績不振」という課題から、「効率的なCRMシステムの不在」という根本的な問題にたどり着きました。これにより、CRMソリューションを提供する企業であれば、より説得力のある提案が可能になります。

2-3. 顧客の収益構造を理解する

顧客のビジネスがどのように収益を上げているのかを理解することは、効果的な提案の基盤となります。

収益構造の主な分析ポイント

分析項目具体的な内容調査方法
収益源どの製品・サービスがどの程度の売上・利益に貢献しているか財務諸表、IR情報、業界レポート
利益率粗利益率、営業利益率、純利益率など財務諸表、セグメント情報
コスト構造固定費と変動費の割合、主要コスト要因財務諸表、アニュアルレポート
収益モデルサブスクリプション、一時売上、リカーリング収益など製品・サービス情報、業界知識
成長ドライバー将来の成長を牽引する要因、成長戦略中期計画、CEO発言、アナリストレポート

これらの情報を基に、自社のソリューションが顧客の収益構造にどのように貢献できるかを具体的に示すことが重要です。

2-4. 業界特有の課題とトレンドを把握する

顧客企業が属する業界特有の課題やトレンドを理解することで、より価値のある提案が可能になります。

業界分析の主な観点

分析観点具体的な内容情報源
規制環境法律、規制の変更、コンプライアンス要件業界団体、専門メディア、コンサルティングレポート
技術トレンドデジタル化、自動化、新技術の影響技術系メディア、調査会社レポート
競争環境主要プレイヤー、市場シェア、差別化要因市場調査レポート、競合分析
顧客行動の変化購買パターン、チャネル利用、期待値の変化消費者調査、トレンドレポート
業界特有のKPI業界で重視される成功指標ベンチマーク調査、業界団体情報

例えば、小売業界であれば「オムニチャネル化」「実店舗とECの融合」「パーソナライゼーション」などのトレンドが重要になります。製造業であれば「サプライチェーンの最適化」「サステナビリティ」「デジタルツイン」などが課題となっています。

顧客の業界特有の文脈を理解することで、汎用的な提案ではなく、業界の言語で語る専門性の高い提案が可能になります。

3. 顧客のビジネスに貢献できることを示す提案の作り方

3-1. 「貢献の三要素」を明確にする

効果的な提案には、「どこに」「どうやって」「どれくらい」貢献できるかという三要素を明確に示す必要があります。

要素説明悪い例良い例
どこに顧客ビジネスのどの部分に貢献するか「業務効率化に貢献します」「営業担当者の商談準備時間を削減し、顧客接点時間の拡大に貢献します」
どうやって具体的にどのような方法で貢献するか「当社の最新技術で解決します」「AIを活用した自動文書作成機能により、提案書作成の80%を自動化します」
どれくらい定量的にどの程度の成果が期待できるか「大幅なコスト削減が期待できます」「平均して年間の事務コストを23%削減し、ROIは初年度で138%を実現します」

これらの要素を明確に示すことで、顧客は自社ビジネスへの具体的な貢献を理解しやすくなります。

3-2. ビフォー・アフター図で変化を可視化する

顧客のビジネスがどのように変わるかを「ビフォー・アフター」の形で可視化することは、提案の説得力を高める効果的な方法です。

graph LR A[ビフォー] --> B[アフター] subgraph "現状" C[手作業による顧客データ管理] D[商談準備に1日3時間] E[フォローアップの遅延] F[営業活動時間40%] end subgraph "導入後" G[自動化された顧客情報管理] H[商談準備30分に短縮] I[リアルタイムフォロー] J[営業活動時間75%] end C --> G D --> H E --> I F --> J

このような図を用いることで、現状の課題と導入後の姿を対比させ、変化の価値を直感的に伝えることができます。

3-3. ROI(投資対効果)の具体的な計算方法

顧客のビジネスへの貢献を最も明確に示す方法の一つが、ROI(投資対効果)の計算です。ここでは、B2B営業で効果的なROI計算の基本形を紹介します。

ROI計算の基本形

ROI(%) = (純利益 ÷ 投資額) × 100

より具体的には、次のような計算式になります:

ROI(%) = ((総便益 - 総コスト) ÷ 総コスト) × 100

総便益の算出例

便益項目計算方法
人件費削減削減時間 × 時間単価 × 対象人数1日2時間 × 4,000円/時間 × 50人 × 240日 = 9,600万円/年
売上増加追加売上 × 粗利率1億円 × 30% = 3,000万円/年
エラー削減エラー削減数 × エラー1件あたりのコスト500件 × 5万円 = 2,500万円/年

総コストの算出例

コスト項目計算方法
初期費用システム費用 + 導入支援費2,000万円 + 500万円 = 2,500万円
年間費用ライセンス料 + 保守費1,000万円 + 200万円 = 1,200万円/年
変更管理コストトレーニング費 + 移行作業費300万円 + 200万円 = 500万円

ROI計算例(3年間の総計):

総便益 = (9,600万円 + 3,000万円 + 2,500万円) × 3年 = 4億5,300万円
総コスト = 2,500万円 + (1,200万円 × 3年) + 500万円 = 6,600万円
ROI = ((4億5,300万円 - 6,600万円) ÷ 6,600万円) × 100 = 586%

このように具体的な数字で投資対効果を示すことで、提案の価値が明確になります。

3-4. 成功事例(レファレンス)の効果的な活用法

同業種や同規模の企業における成功事例は、提案の信頼性を高める強力な材料となります。しかし、単なる事例紹介ではなく、顧客のビジネスモデルに関連付けた形で提示することが重要です。

効果的な成功事例の提示方法

項目内容ポイント
背景・課題成功事例企業が直面していた課題顧客企業と類似した課題であることを強調
実施内容導入した製品・サービスと実施事項今回の提案内容との関連性を明確に
成果定量的・定性的な成果具体的な数字でビジネスインパクトを示す
顧客の声導入企業からの評価・コメント信頼性を高めるため実名があればベター
学びこの事例から得られる教訓顧客企業への適用可能性を具体的に説明

例えば、「A社様は、貴社と同様に営業プロセスの可視化が課題でしたが、当社のCRMを導入後、営業サイクルが28%短縮され、成約率が15%向上しました。特に、貴社と同じ複数チャネルでの顧客管理に課題を感じていた点が類似しており、同様の効果が期待できます」といった形で提示します。

4. ビジネスモデル理解を深めるためのヒアリング技術

4-1. オープンクエスチョンの設計と活用

顧客のビジネスモデルを理解するためには、適切な質問が不可欠です。特に、「はい/いいえ」では答えられない「オープンクエスチョン」が効果的です。

効果的なオープンクエスチョンの例

目的質問例
ビジネス全体の把握「御社のビジネスにおいて、最も重要な成功要因は何だとお考えですか?」
収益構造の理解「どの事業分野・製品が最も収益に貢献していますか?その理由は?」
課題の発見「現在、ビジネス上で最も解決したい課題は何ですか?」
意思決定プロセスの把握「このような投資判断は、通常どのようなプロセスで行われますか?」
将来展望の理解「今後3年間で御社が達成したい最も重要な目標は何ですか?」

これらの質問は、相手に考えさせ、詳細な情報を引き出すためのものです。質問の後は、相手の回答に集中し、さらに掘り下げるための質問を重ねていきます。

4-2. ヒアリングの「3つのレイヤー」

効果的なヒアリングでは、3つのレイヤーで情報を収集することが重要です。

graph TD A[ヒアリングの3レイヤー] --> B[事実レイヤー] A --> C[感情レイヤー] A --> D[価値観レイヤー] B --> B1[何が起きているか] B --> B2[数字/状況/事実] C --> C1[どう感じているか] C --> C2[不満/期待/不安] D --> D1[何を重視しているか] D --> D2[優先事項/判断基準]
レイヤー説明質問例
事実レイヤー具体的な事実、数字、状況「現在のプロセスはどのように機能していますか?」「月間の処理件数はどれくらいですか?」
感情レイヤー感情、不満、期待、懸念「その状況についてどう感じていますか?」「最も不満に思われている点は何ですか?」
価値観レイヤー重視する価値、判断基準「御社にとって最も重要な判断基準は何ですか?」「理想的な解決策とはどのようなものですか?」

3つのレイヤーすべてから情報を収集することで、表面的な事実だけでなく、顧客の本質的なニーズや価値観を理解できるようになります。

4-3. SBARRモデルを活用した情報整理

ヒアリングで得た情報を整理するために、SBARRモデル(Situation, Background, Assessment, Recommendation, Response)が有効です。

要素説明記録すべき内容
Situation(状況)現在の状況顧客が直面している現在の状況や課題
Background(背景)状況に至った背景これまでの経緯、試みてきた解決策など
Assessment(評価)状況の分析と評価課題の根本原因、ビジネスへの影響など
Recommendation(提案)解決策の提案自社ソリューションによる課題解決方法
Response(反応)顧客の反応提案に対する顧客の反応、質問、懸念点など

このフレームワークを使って情報を整理することで、顧客のビジネス課題とその背景を体系的に理解し、効果的な提案につなげることができます。

5. 事例でみる成功と失敗の違い

5-1. 失敗事例:製品機能中心の提案

ケース:IT業界のA社は、大手製造業B社に生産管理システムを提案していました。A社の営業担当者は、自社システムの優れた機能を中心に提案を組み立て、「業界最先端の機能」「使いやすいインターフェース」「クラウド対応」などを強調しました。

結果:数回のミーティング後、B社からは「検討します」という返事だけが続き、最終的に競合他社に受注を奪われました。

失敗の原因

  • B社の生産プロセスや収益構造を理解していなかった
  • システム導入によるB社のビジネスへの具体的な貢献を示せなかった
  • 競合他社は、B社の海外展開計画に合わせた提案をしていた

教訓:製品機能だけを説明しても、顧客のビジネスモデルに即した価値提案ができなければ、成約には至りません。

5-2. 成功事例:ビジネス貢献重視の提案

ケース:同じA社の別の営業担当者は、製造業C社への提案で異なるアプローチを取りました。まず、C社の生産プロセス、原価構造、品質管理の課題を徹底的にヒアリング。その上で、自社システムがC社の「歩留まり率の向上」「品質不良の削減」「生産リードタイムの短縮」にどう貢献するかを具体的な数字で示しました。

結果:初回提案から2か月という短期間で受注に成功し、予算も当初予定より20%増額されました。

成功要因

  • C社の経営課題(原価低減と品質向上の両立)を正確に把握
  • 生産プロセスの各段階でのボトルネックを特定
  • システム導入による歩留まり3%向上、不良率2%削減などの効果を具体的に試算
  • 3年間のROIを明確に提示(投資回収期間1.2年)

教訓:顧客のビジネスモデルを理解し、自社製品が具体的にどのように貢献するかを明確に示すことで、価格よりも価値による判断を促すことができます。

5-3. 業界別のビジネスモデル理解ポイント

業界によって、ビジネスモデルの特徴や重視すべきポイントは異なります。以下に主要業界におけるビジネスモデル理解のポイントをまとめます。

業界重要なビジネスモデル要素ヒアリングのポイント
製造業原価構造、生産効率、品質管理「製造コストの内訳は?」「歩留まりの課題は?」
小売業粗利率、在庫回転率、顧客単価「カテゴリー別の粗利率は?」「在庫管理の課題は?」
金融業リスク管理、コンプライアンス、顧客生涯価値「規制対応のコストは?」「顧客獲得コストは?」
IT/SaaS顧客獲得コスト、解約率、LTV「解約率を下げるための取り組みは?」「セールスサイクルは?」
医療/ヘルスケア患者満足度、診療効率、保険償還「患者一人当たりの診療時間は?」「償還率の課題は?」

業界特性を理解した上で質問を設計することで、より効率的かつ深い顧客理解が可能になります。

6. ビジネスモデル理解を営業組織に定着させる方法

6-1. 営業プロセスへの組み込み

6-1. 営業プロセスへの組み込み

ビジネスモデル理解を一過性の取り組みではなく、営業活動の標準プロセスとして定着させることが重要です。そのための具体的なステップを紹介します。

営業プロセスビジネスモデル理解の活動使用ツール・テンプレート
リード獲得業界特性の事前調査業界分析テンプレート
初回接触ビジネスモデル理解のための質問リスト準備ヒアリングシート
課題ヒアリングビジネスモデルキャンバスの情報収集ビジネスモデルキャンバスシート
提案内容検討顧客ビジネスへの貢献分析ROI計算ツール
提案プレゼンビジネス貢献を中心とした提案構成提案テンプレート
クロージング投資対効果の確認と合意効果測定計画書
導入後フォロー実際の効果測定と報告効果測定レポート

このように、営業プロセスの各段階でビジネスモデル理解のための活動を明確に定義し、必要なツールやテンプレートを整備することで、組織全体での定着を図ることができます。

6-2. 評価指標とインセンティブの設計

営業担当者の行動を変えるためには、評価指標とインセンティブの設計も重要です。単純な売上目標だけでなく、顧客のビジネスモデル理解に関する指標も取り入れましょう。

従来の評価指標追加すべき評価指標狙い
売上目標達成率ビジネスモデル分析の質と量顧客理解を深める行動を促進
新規顧客獲得数顧客のビジネス課題特定精度表面的ではない深い理解を評価
商談数提案のROI精度具体的な数値で効果を示す能力を評価
受注率提案後の値引き要求度価値ベースの提案力を間接的に評価
クロージングスピード長期的な顧客関係性単発取引ではなく関係構築を評価

これらの指標を営業担当者の評価に組み込み、ビジネスモデル理解に基づく提案活動を促進するインセンティブを設計することが効果的です。

6-3. 効果的なトレーニングプログラム

営業担当者のビジネスモデル理解力を高めるための体系的なトレーニングプログラムも必要です。

トレーニング内容目的実施方法
ビジネスモデル分析の基礎分析フレームワークの理解座学+ワークショップ
業界知識の強化顧客業界の動向や課題の理解専門家による講義、業界レポート共有
ヒアリングスキル向上効果的な質問技術の習得ロールプレイング訓練
財務分析基礎顧客の収益構造理解の基礎知識座学+実例分析
ROI計算演習具体的な投資対効果の示し方ケーススタディ、グループワーク
提案書作成ワークショップビジネス貢献重視の提案書作成実践ワークショップ
成功事例共有会実際の成功体験からの学び社内ナレッジ共有会

特に重要なのは、座学だけでなく実践的なワークショップやロールプレイングを取り入れることです。また、優秀な営業担当者の同行研修なども効果的です。

7. 実践ツールとテンプレート

7-1. ビジネスモデル分析シート

顧客のビジネスモデルを分析するためのシートの例を紹介します。

ビジネスモデル分析シート(サンプル)

項目内容情報源
基本情報
会社名〇〇株式会社-
業種・業界製造業(自動車部品)企業HP
主要製品・サービスエンジン部品、車体部品、電装部品IR情報
売上規模年間500億円有価証券報告書
ビジネスモデル要素
主要顧客国内大手自動車メーカー、海外自動車メーカーIR情報、インタビュー
収益源部品販売(80%)、保守サービス(20%)有価証券報告書
コスト構造材料費(40%)、人件費(30%)、設備費(15%)、その他(15%)財務諸表、インタビュー
バリューチェーン研究開発→調達→製造→検査→販売→アフターサービスインタビュー
差別化要因高精度加工技術、短納期対応能力企業HP、インタビュー
事業環境分析
業界トレンドEV化の進行、環境規制強化、デジタル化業界レポート
競合状況国内5社、海外3社の主要競合が存在業界レポート、インタビュー
規制環境排ガス規制、安全基準の厳格化業界レポート
経営課題
短期的課題原材料価格高騰への対応、生産効率の向上インタビュー
中長期的課題EV化対応の製品開発、デジタル技術の活用経営計画、インタビュー
提案機会
課題解決案生産管理システムによる効率化で原価低減-
期待効果生産リードタイム20%短縮、原価5%低減ROI計算
提案価値年間約10億円のコスト削減効果ROI計算

このようなシートを活用することで、顧客のビジネスモデルを体系的に理解し、自社ソリューションとの接点を見出すことができます。

7-2. 効果的な質問リスト

顧客のビジネスモデルを理解するための効果的な質問リストを業種別に用意しておくと便利です。

製造業向け質問リスト(例)

カテゴリ質問意図
事業構造「御社の売上は、どの製品カテゴリが最も大きな割合を占めていますか?」収益構造の理解
製造プロセス「製造工程の中で、最もボトルネックとなっている部分はどこですか?」課題箇所の特定
コスト構造「製造コストの内訳で、最も大きな割合を占める要素は何ですか?」コスト削減機会の把握
品質管理「品質管理において、最も重視している指標は何ですか?」品質改善機会の把握
市場環境「業界内で最も脅威となっている競合は誰ですか?その理由は?」競合環境の理解
戦略方向性「今後3年間で最も注力したい事業領域は何ですか?」将来展望の理解
技術動向「御社の業界で今最も注目されている技術トレンドは何ですか?」技術課題の把握
意思決定「このような投資判断は、どのような基準で決定されますか?」購買決定プロセスの理解

このような質問リストを業種別に用意しておくことで、効果的なヒアリングが可能になります。

7-3. ビジネス貢献型提案書テンプレート

ビジネスモデルの理解に基づいた提案書のテンプレート構成例を紹介します。

ビジネス貢献型提案書構成(サンプル)

セクション内容ポイント
エグゼクティブサマリー顧客の課題と提案の要点経営層にも伝わる簡潔さ
1. 御社の現状と課題ビジネスモデルと課題の整理顧客との認識合わせ
2. 解決策の概要提案内容の全体像顧客視点でのメリット
3. ビジネス貢献「どこに」「どうやって」「どれくらい」具体的な数値で示す
4. ROI分析投資対効果の詳細3年間の総合効果
5. 導入スケジュール実施計画と期間リスク対策も含める
6. サポート体制導入・運用支援の内容安心感の提供
7. 成功事例類似企業での導入効果顧客企業との類似点
8. 次のステップ具体的なアクションプラン明確なクロージング
付録:詳細仕様製品・サービスの詳細情報必要に応じて参照

このテンプレートの特徴は、従来の「製品・サービスの説明」中心ではなく、「顧客のビジネスへの貢献」を中心に構成されている点です。特に「3. ビジネス貢献」のセクションでは、具体的な数値で効果を示すことが重要です。

まとめ

Key Takeaways

  • 顧客のビジネスモデルを理解せずに行う営業提案は、成約率が低く、価格競争に陥りやすい
  • ビジネスモデル理解とは、顧客が「どのように収益を上げているか」を体系的に把握すること
  • 効果的な提案には、「どこに」「どうやって」「どれくらい」貢献できるかを明確に示す必要がある
  • ビジネスモデル理解には、ビジネスモデルキャンバス、「5つのなぜ」、業界分析などのフレームワークが有効
  • 顧客との対話では、事実・感情・価値観の3レイヤーからの情報収集が重要
  • ROIの具体的な計算と提示が、価格議論からの脱却に効果的
  • ビジネスモデル理解を営業組織に定着させるには、プロセス・評価指標・トレーニングの見直しが必要

顧客のビジネスモデルを理解し、その貢献を具体的に示す営業アプローチは、「売り手」から「問題解決パートナー」へのポジションシフトを可能にします。この変化は、単なる成約率の向上だけでなく、顧客との長期的な信頼関係構築、価格競争からの脱却、そして最終的には自社の持続的な成長につながります。

顧客のビジネスを深く理解することは時間と労力を要しますが、その投資に見合う大きなリターンをもたらします。今日から、顧客企業の根本的なビジネスモデルを理解するための一歩を踏み出しましょう。

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

https://user-in.co.jp/
https://x.com/tomiheyhey

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