はじめに
旅館やホテルを経営されている皆さん、こんな悩みを抱えていませんか?
「楽天トラベルやじゃらんからの予約は多いけど、手数料が高すぎて利益が圧迫されている...」「自社サイトはあるけど、ほとんど予約が入らない...」「OTAに依存しすぎていて、価格競争から抜け出せない...」
実は、この課題は全国の多くの宿泊施設が直面している深刻な問題です。OTA(オンライン・トラベル・エージェント)経由の予約は集客面では便利ですが、通常10〜20%という高額な手数料が発生します。例えば1泊2万円の予約があっても、15%の手数料なら3,000円がOTAに支払われることになります。年間を通じて考えると、この手数料は経営を大きく圧迫する要因となっているのです。
しかし、だからといって単純に「OTAから撤退しよう」というわけにもいきません。OTAには巨大な集客力があり、特に新規顧客の獲得には欠かせない存在だからです。
本記事では、OTAを完全に切り捨てるのではなく、自社サイトでの直接予約を増やすことで、OTA依存から脱却し、利益率を改善する実践的なマーケティング戦略をご紹介します。マーケティングの基本フレームワークである「Who/What/How」思考を活用しながら、明日から実践できる具体的な方法をお伝えしていきます。
OTA依存の現状と宿泊業界が抱える課題
まずは現状を正しく理解することから始めましょう。自社サイト集客を成功させるには、なぜOTA依存が問題なのか、そして業界全体がどのような環境に置かれているのかを把握する必要があります。
OTA市場の拡大と宿泊施設の現状
日本の宿泊予約市場において、OTAの存在感は年々高まっています。楽天トラベル、じゃらんnet、Booking.com、Expediaなどの大手OTAは、巨額の広告予算とテクノロジーへの投資により、圧倒的な集客力を持っています。
特にコロナ禍以降、オンライン予約の比率はさらに上昇し、多くの宿泊施設がOTA経由の予約に依存する構造が定着しました。しかし、この依存関係には大きなリスクが潜んでいます。
OTA依存がもたらす5つの深刻な問題
| 問題点 | 具体的な影響 | 経営へのインパクト |
|---|---|---|
| 高額な手数料負担 | 予約金額の10〜20%を支払う必要がある | 利益率の大幅な低下、価格競争力の低下 |
| 価格競争の激化 | OTA内での順位を上げるために値下げ競争が発生 | ブランド価値の毀損、収益性の悪化 |
| 顧客情報の非保有 | 予約者の詳細情報をOTAが管理 | リピーター獲得が困難、CRM施策が実施不可 |
| プラットフォーム依存 | OTAのアルゴリズム変更や規約変更に左右される | 経営の安定性が損なわれる |
| ブランド力の構築困難 | OTA内では他施設との差別化が難しい | 独自の価値訴求ができず、価格での競争に |
これらの問題は相互に関連しており、悪循環を生み出します。手数料を補うために価格を上げれば競争力が落ち、価格を下げれば利益が圧迫される。そしてOTAに依存すればするほど、顧客情報が蓄積されず、リピーター獲得の機会も失われていくのです。
業界環境の変化:今こそ自社サイト強化のチャンス
一方で、宿泊業界を取り巻く環境には追い風も吹いています。
まず、消費者の行動パターンが変化しています。かつては「とりあえずOTAで検索」という流れが一般的でしたが、現在では多くの旅行者が複数のチャネルで情報収集を行い、最終的な予約先を比較検討するようになっています。SNSやGoogleマップの口コミ、公式サイトの雰囲気など、様々な情報源を組み合わせて宿泊先を決める人が増えているのです。
また、コロナ禍を経て「安心・安全」への意識が高まり、「公式サイトから直接予約する方が信頼できる」と考える層も増加しています。特に高単価帯の宿泊施設や、こだわりのある旅館では、この傾向が顕著です。
さらに、デジタルマーケティングツールの発展により、以前は大手OTAにしかできなかった施策が、中小規模の宿泊施設でも実施可能になってきました。予約システム、CRM、メールマーケティング、SNS運用など、低コストで高機能なツールが次々と登場しています。
このような環境変化を踏まえると、今こそ自社サイト集客を強化し、OTA依存から脱却する絶好のタイミングと言えるでしょう。
それでは、具体的にどのような戦略で自社サイト集客を成功させるのか、次の章から詳しく見ていきましょう。
なぜ自社サイトでの直接予約が重要なのか
OTA依存の課題を理解したところで、次は「なぜ自社サイトでの直接予約を増やすべきなのか」という本質的な価値について掘り下げていきます。単に手数料を削減するだけではない、自社サイト集客がもたらす5つの大きなメリットをご紹介します。
自社サイト集客がもたらす5つのメリット
メリット1:利益率の劇的な改善
最も直接的なメリットは、やはり手数料削減による利益率の向上です。OTA経由で1泊2万円の予約が入った場合と、自社サイトから同じ予約が入った場合を比較してみましょう。
| 項目 | OTA経由 | 自社サイト | 差額 |
|---|---|---|---|
| 宿泊料金 | 20,000円 | 20,000円 | - |
| OTA手数料(15%) | -3,000円 | 0円 | +3,000円 |
| 決済手数料(3%) | -600円 | -600円 | - |
| 実質売上 | 16,400円 | 19,400円 | +3,000円 |
| 利益率向上 | - | - | 約18%アップ |
この差額3,000円は、そのまま利益として残ります。年間1,000件の予約があれば、300万円もの利益改善につながるのです。この資金を施設の改善や従業員の待遇向上、新たなマーケティング施策に投資することで、さらなる成長サイクルを生み出すことができます。
メリット2:顧客データの蓄積とリピーター戦略の実現
自社サイトで予約を受けることで、顧客情報を自社で管理できるようになります。これは単なる連絡先の保有以上の意味を持ちます。
具体的には、以下のような情報が蓄積されていきます:
- 予約履歴(宿泊日、部屋タイプ、プラン内容)
- 顧客属性(年齢層、居住地域、同行者情報)
- 嗜好情報(食事の好み、アメニティの利用状況)
- 問い合わせ内容(事前の質問や要望)
これらの情報を活用することで、リピーター向けの特別オファーや、顧客の嗜好に合わせたパーソナライズされた提案が可能になります。例えば、「前回は和室でしたが、次回は露天風呂付きの特別室はいかがですか?」といった、一人ひとりに最適化されたコミュニケーションが実現できるのです。
旅館・ホテル業界において、リピーター獲得コストは新規顧客獲得コストの5分の1程度と言われています。自社で顧客データを持つことは、長期的な経営安定化に直結する重要な資産となります。
メリット3:独自のブランド価値の構築
OTA上では、どうしても他の施設と横並びで比較されてしまいます。同じエリア、同じ価格帯の施設が並んで表示され、多くの場合「価格」「口コミ評価」「写真」で判断されることになります。
一方、自社サイトでは、施設の世界観やこだわり、ストーリーを存分に表現できます。
例えば、以下のような独自の価値訴求が可能です:
| 訴求ポイント | 表現方法の例 | 伝わる価値 |
|---|---|---|
| 施設のコンセプト | トップページの動画や写真で世界観を演出 | 「ここでしか味わえない体験」を印象付ける |
| 料理へのこだわり | 料理人のインタビュー、食材の産地紹介 | 食事の価値を深く理解してもらう |
| おもてなしの姿勢 | スタッフの紹介、サービスの裏側を公開 | 人の温かさや真心が伝わる |
| 地域との繋がり | 周辺観光情報、地元との協業事例 | 旅全体の価値提案ができる |
このようにブランド価値を丁寧に伝えることで、「少し高くても、この宿に泊まりたい」と思ってもらえる関係性を構築できます。これはOTAでは実現困難な、自社サイトならではの強みです。
メリット4:柔軟な価格戦略とプラン設計
OTAでは、プラットフォームのルールや他施設との比較の中で、価格設定の自由度が制限されます。しかし自社サイトなら、独自の価格戦略を展開できます。
例えば:
- 会員限定価格:リピーター向けに特別価格を設定
- 直前割引プラン:稼働率向上のための柔軟な価格調整
- ロングステイ割引:連泊で単価を下げても、トータルで収益を最大化
- パッケージプラン:周辺観光とセットにした独自商品の開発
また、「公式サイト限定特典」として、以下のような付加価値を提供することもできます:
- チェックイン・チェックアウト時間の延長
- ウェルカムドリンクやアメニティのアップグレード
- 部屋の指定や眺望の優先選択
- レイトチェックアウトの無料提供
これらの施策により、「OTAで予約するより、公式サイトの方がお得」という認識を顧客に持ってもらうことができます。
メリット5:経営の自律性と安定性の確保
最後に、最も重要な点として、経営の自律性が挙げられます。
OTAに依存しすぎると、プラットフォームの方針変更やアルゴリズムの変化に経営が左右されてしまいます。実際に、OTA側の手数料率の引き上げや、表示順位のロジック変更により、予約数が大幅に減少した事例は少なくありません。
自社サイトでの集客基盤を持つことで:
- OTAの方針変更に振り回されない
- 自社の判断で施策を打てる自由度
- 長期的な視点での投資判断が可能に
- 経営のコントロール感が高まる
このように、自社サイト集客は単なる手数料削減以上の、経営の質を根本から変える取り組みなのです。
次の章では、いよいよ具体的な戦略論に入っていきます。マーケティングの基本フレームワーク「Who/What/How」を用いて、自社サイト集客を成功させる方法を解説していきましょう。
Who/What/Howで考える自社サイト集客戦略の設計
ここからは、マーケティングの基本フレームワークである「Who/What/How」思考を用いて、自社サイト集客戦略を設計していきます。このフレームワークは、「誰に」「何を」「どのように」提供するのかを明確にすることで、効果的なマーケティング施策を実現する強力なツールです。
Who/What/How思考とは何か
Who/What/How思考は、ビジネスの本質を構造化して理解するためのフレームワークです。この3つの要素を明確にすることで、顧客から選ばれる理由を作り出し、競合との差別化を実現できます。
それぞれの要素について、宿泊業界の文脈で詳しく見ていきましょう。
Whoの設計:誰のどんなJOB(欲求)に応えるのか
自社サイト集客を成功させるには、まず「誰をターゲットにするのか」を明確にする必要があります。しかし、単に「30代の女性」「家族連れ」といった属性だけでは不十分です。重要なのは、その人がどんな「JOB(欲求)」を持っているかを理解することです。
JOBとは、顧客が達成したいこと、解決したい課題のことを指します。宿泊の場合、表面的には「泊まる場所が欲しい」ですが、その奥には様々な欲求が隠れています。
宿泊客のWhoとJOBの分析例
| ターゲット層 | 表面的なニーズ | 本質的なJOB(欲求) | きっかけ | 抑圧(障壁) |
|---|---|---|---|---|
| 30代共働き夫婦 | 温泉でリフレッシュしたい | 日常から完全に切り離され、夫婦だけの時間を取り戻したい | 仕事と家事の両立で疲弊している | 予算の制約、休みが取りづらい |
| 50代以上のシニア層 | ゆっくり旅行を楽しみたい | 年齢を気にせず、安心・快適に上質な時間を過ごしたい | 子育てが終わり、時間と経済的余裕ができた | 身体的な不安、宿の設備への懸念 |
| 20代女性グループ | インスタ映えする旅行 | 友人との特別な思い出を作り、SNSで共有して承認欲求を満たしたい | 記念日や誕生日など特別な日 | 予算、日程調整の難しさ |
| ファミリー層 | 子連れでも気兼ねなく | 家族全員が楽しめて、子供に特別な体験をさせてあげたい | 長期休暇、子供の成長の節目 | 子供の食事・安全への配慮、予算 |
このように、同じ「宿泊」という行動でも、背景にある欲求は大きく異なります。自社施設がどのターゲットのどのJOBに最も応えられるのかを見極めることが、Who設計の第一歩です。
Whoを絞り込む3つの視点
Who(ターゲット)を設定する際は、以下の3つの視点で検討しましょう。
視点1:市場規模と成長性
そのターゲット層はどれくらいの規模があるか、今後拡大していくか
視点2:自社の強みとの親和性
自社の施設特性やサービスが、そのターゲットのJOBに本当に応えられるか
視点3:競合の少なさ
そのターゲットに対して、競合が少ない、または差別化できる余地があるか
例えば、「30代共働き夫婦で、日常から完全に切り離された癒しの時間を求めている」という非常に具体的なWhoを設定することで、後述するWhatやHowが明確になってきます。
Whatの設計:OTAにはない独自の価値を作る
Whoが明確になったら、次は「何を提供するのか」、つまりWhatを設計します。ここで重要なのは、OTAで予約するのではなく、自社サイトから予約する理由を作ることです。
Whatは3つの要素で構成されます:
Whatの3要素
| 要素 | 説明 | 宿泊業界での例 |
|---|---|---|
| 便益(Benefit) | 顧客が得られる具体的な価値や良い状態 | 「完全にリラックスできる」「特別感を味わえる」 |
| 独自性(POD) | 競合や他の代替手段と比べて唯一無二の要素 | 「創業100年の伝統製法による料理」「源泉かけ流しの貸切露天風呂」 |
| 根拠(RTB) | 便益と独自性が実現できる理由・証拠 | 「料理人の経歴」「温泉の成分分析データ」「顧客満足度98%」 |
これらを組み合わせることで、強力な価値提案が生まれます。
自社サイト予約の独自価値を作る4つのアプローチ
アプローチ1:公式サイト限定の特典設計
OTAでは提供できない、自社サイトならではの特典を設計します。
- 到着時のウェルカムドリンクサービス
- 部屋のグレードアップ(空室状況による)
- レイトチェックアウト無料(13時まで→15時まで)
- 貸切風呂の無料利用(通常3,000円→無料)
- 地元の特産品プレゼント
アプローチ2:パーソナライズされた体験提供
自社で顧客情報を管理できる強みを活かし、一人ひとりに最適化された体験を提供します。
- 記念日のサプライズ演出
- アレルギーや好みに応じた料理のカスタマイズ
- リピーター向けの特別なおもてなし
- 事前の詳細な要望ヒアリング
アプローチ3:安心感・信頼感の醸成
公式サイトならではの安心感を価値として訴求します。
- 直接のコミュニケーションによる柔軟な対応
- キャンセルポリシーの明確化と柔軟な対応
- 問い合わせへの迅速な回答
- 施設の「生の声」や最新情報の発信
アプローチ4:会員制度による継続的な関係構築
会員登録を促進し、継続的な関係を構築します。
- 会員限定の早期割引
- ポイント制度による次回利用時の割引
- 誕生日月の特別オファー
- 会員限定の新プラン先行案内
Howの設計:具体的な実行施策
WhoとWhatが明確になったら、最後に「どのように提供するのか」というHowを設計します。Howは大きく4つの領域に分かれます。

How1:プロダクト(宿泊プラン・サービス)
自社サイト限定のプランを設計します。
| プラン種類 | 内容例 | 狙い |
|---|---|---|
| 公式サイト限定プラン | 通常プランに特典を追加 | 公式予約のメリットを明確化 |
| 会員限定プラン | 10%割引 + 特典付き | 会員登録の動機付け |
| 連泊プラン | 2泊目半額、3泊目以降20%OFF | 滞在日数増加と単価アップ |
| リピーター限定プラン | 前回利用者に特別価格 | リピート率向上 |
How2:コミュニケーション(情報発信・接点作り)
顧客との接点を増やし、自社サイトへの誘導を強化します。
SEO対策:Googleで検索された時に自社サイトが上位表示されるよう最適化
- 「施設名 + 予約」「エリア名 + 旅館」などのキーワード対策
- Googleマイビジネスの最適化
- ブログでの地域情報発信
SNS運用:Instagram、Facebook、X(旧Twitter)での情報発信
- 施設の魅力的な写真・動画の投稿
- プロフィールに公式サイトURLを明記
- ストーリーズで限定プランを告知
メールマーケティング:過去の宿泊客への定期的なコミュニケーション
- 季節ごとの新プラン案内
- 誕生日月の特別オファー
- 地域イベント情報の提供
公式サイトのUI/UX改善:予約しやすいサイト設計
- スマホ対応の徹底
- 予約までの導線をシンプルに
- 写真・動画での魅力的な訴求
How3:場所・チャネル(顧客接点の設計)
自社サイトへ誘導するための導線を設計します。
館内での訴求
- チェックアウト時に次回予約の案内
- 客室に公式サイト限定プランのチラシ設置
- WiFiパスワードと一緒に公式サイトQRコード提示
OTAからの転換施策
- OTA予約のお客様に対し、次回は公式サイト予約で特典があることを案内
- メールやDMで直接コミュニケーション(OTAの規約内で)
オフライン施策
- 地域の観光案内所へのパンフレット設置
- 周辺施設との提携(レストラン、観光施設)
- 地元企業向けの福利厚生プラン提案
How4:価格(プライシング戦略)
公式サイトでの予約を促進する価格戦略を設計します。
| 価格戦略 | 具体的な設定方法 | 期待効果 |
|---|---|---|
| ベストレート保証 | OTAと同価格、または公式が最安値 | 価格比較した顧客の取り込み |
| 早期予約割引 | 60日前予約で20%OFF、30日前で10%OFF | 早期の予約確定と稼働率向上 |
| 直前割引 | 3日前から段階的に割引率アップ | 空室の有効活用 |
| 会員価格 | 通常価格から5〜10%OFF | 会員登録の促進 |
自社サイト集客を実現する具体的な実践ステップ
ここまでWho/What/Howの戦略設計について解説してきましたが、「理論はわかったけど、実際どこから始めればいいの?」という疑問を持たれた方も多いでしょう。この章では、明日から実践できる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:現状分析と目標設定(1週間)
まずは自社の現状を正確に把握することから始めます。
チェックすべき指標
| 指標 | 確認方法 | 目標設定の目安 |
|---|---|---|
| OTA比率 | 予約システムのデータ確認 | 現状70%→1年後50%以下 |
| 自社サイト訪問数 | Google Analytics | 月間訪問数を6ヶ月で2倍に |
| 予約転換率 | 訪問数÷予約数 | 業界平均2〜5%を目指す |
| 顧客単価 | OTA vs 自社サイトで比較 | 自社サイトを10%高く設定 |
| リピート率 | 過去の予約データ分析 | 現状20%→1年後35% |
現状を数値で把握したら、「6ヶ月後」「1年後」の具体的な目標を設定します。いきなり「OTA比率を10%に」といった非現実的な目標ではなく、「現状70%を60%に」といった達成可能な目標から始めましょう。
ステップ2:クイックウィンの実施(1〜2週間)
すぐに成果が出やすい施策から着手し、チームの士気を高めます。
今すぐできる10の施策
- 公式サイトのトップに特典を明記
「公式サイト限定」「OTAより○○円お得」を大きく表示 - Googleマイビジネスの最適化
写真を追加、営業時間を正確に、公式サイトURLを目立つ位置に - 館内POPの設置
「次回は公式サイト予約で○○特典」の案内を客室とフロントに - メールアドレスの収集開始
チェックイン時に「お得情報配信」の同意取得 - SNSプロフィールに公式サイトURLを追加
Instagram、Facebookのプロフィール欄を最適化 - 予約確認メールの見直し
次回予約の案内やSNSフォローの誘導を追加 - チェックアウト時のひと言
「次回は公式サイトからご予約いただくと特典があります」と案内 - 地域の観光情報をブログで発信
SEO対策も兼ねて、週1回の情報発信を開始 - WiFiパスワードカードの工夫
QRコードで公式サイトへ誘導 - スタッフへの周知徹底
全スタッフが公式サイト予約の特典を説明できるように
これらは特別な予算やシステム変更なしで実施できる施策です。まずはこれらから始めて、小さな成功体験を積み重ねましょう。
ステップ3:システム・ツールの整備(1〜3ヶ月)
クイックウィンで勢いがついたら、本格的なシステム整備に入ります。
必須ツールの選定と導入
| ツール種類 | 主な機能 | 推奨サービス例 | 月額コスト目安 |
|---|---|---|---|
| 予約システム | 直接予約受付、在庫管理 | ねっぱん、TL-リンカーン | 1万円〜 |
| CRM | 顧客情報管理、メール配信 | メールチンプ、Hubspot | 無料〜3万円 |
| アクセス解析 | サイト訪問分析、改善提案 | Google Analytics(無料) | 無料 |
| SNS管理 | 予約投稿、分析 | Buffer、Hootsuite | 無料〜1万円 |
| チャットボット | 24時間問い合わせ対応 | Zendesk、ChatPlus | 5千円〜 |
重要なのは、最初から完璧を目指さないことです。まずは無料ツールや低コストなものから始め、効果を見ながら徐々にグレードアップしていく方が、投資対効果が高くなります。
ステップ4:コンテンツ強化とSEO対策(継続的)
自社サイトへの自然流入を増やすため、コンテンツの充実とSEO対策を継続的に実施します。
効果的なコンテンツ戦略
ブログ記事の定期発信(週1〜2回)
- 周辺観光スポット紹介
- 季節のおすすめプラン案内
- 地元グルメ情報
- 宿泊客の声や体験レポート
写真・動画コンテンツの充実
- プロカメラマンによる施設撮影(年1回)
- スタッフによる日常的な撮影(毎日)
- 料理の調理過程動画
- 季節ごとの風景動画
お客様の声の活用
- 宿泊後のアンケート実施
- 許可を得て公式サイトに掲載
- 具体的なエピソードを紹介
ステップ5:PDCAサイクルの実施(月次)
施策の効果を測定し、継続的に改善していきます。
月次レビューで確認すべきポイント
毎月、以下の数値を確認し、改善策を検討します:
- 公式サイトの訪問数は増えているか
- 予約転換率は改善しているか
- どの施策が効果的だったか
- 顧客からのフィードバックはどうか
- スタッフからの改善提案はあるか
数値が改善していない場合は、Why(なぜ?)を5回繰り返して根本原因を探りましょう。
ステップ6:リピーター戦略の強化(3ヶ月目〜)
新規顧客の獲得と並行して、リピーター獲得にも注力します。
リピーター向け施策の例
| 施策 | 実施タイミング | 期待効果 |
|---|---|---|
| サンキューメール | 宿泊後3日以内 | 好印象の定着、SNS誘導 |
| 季節のお便り | 3ヶ月ごと | 思い出してもらう、再訪の動機付け |
| 誕生日クーポン | 誕生月の1ヶ月前 | 記念日需要の取り込み |
| 会員限定プラン | 常時 | 会員登録の動機、優越感の提供 |
| リピーター特典 | 2回目以降 | 継続利用の動機付け |
特に重要なのは、宿泊後のフォローアップです。OTAに比べて自社サイトの大きな強みは、宿泊後も直接コミュニケーションを取れることです。この強みを最大限に活用しましょう。
成功事例:OTA依存から脱却した宿泊施設の実例
ここでは、実際にOTA依存から脱却し、自社サイト集客に成功した宿泊施設の取り組みをご紹介します。これらの事例から、自社に応用できるヒントを見つけてください。
事例1:地方の小規模旅館A(客室数15室)
施設概要
創業50年の老舗温泉旅館。地方の温泉街に位置し、以前はOTA経由の予約が80%を占めていました。
課題
- OTA手数料による利益圧迫
- 価格競争に巻き込まれブランド価値が低下
- リピーター獲得ができず、常に新規集客に追われる
実施した施策
| 施策内容 | 具体的な取り組み |
|---|---|
| Who/What/Howの明確化 | 「40〜60代の夫婦で、本物の日本の味とおもてなしを求める層」をターゲットに設定 |
| 独自価値の訴求 | 「地元食材100%」「料理長の30年の技」を前面に打ち出し |
| 公式サイトリニューアル | 料理の写真を大幅に増やし、料理長のこだわりを動画で紹介 |
| 会員制度の導入 | 2回目以降は10%割引 + 貸切風呂無料の特典 |
| メールマーケティング | 季節ごとの旬の食材案内と限定プラン告知 |
| 口コミ強化 | 宿泊後のフォローメールで公式サイトへの口コミ投稿を依頼 |
成果
- 1年後にOTA比率を80%→55%に削減
- 自社サイト予約の平均客単価が15%向上
- リピート率が18%→38%に改善
- 年間の手数料削減額:約450万円
成功のポイント
料理という明確な強みを徹底的に訴求し、「ここでしか食べられない」価値を作り出したこと。また、リピーター特典を充実させることで、一度訪れた顧客の再訪を促進しました。
事例2:都市型ビジネスホテルB(客室数80室)
施設概要
駅近くのビジネスホテル。ビジネス客が主な顧客層でしたが、価格競争が激しく利益率が低下していました。
課題
- 差別化が困難で価格競争に陥っている
- OTA上での評価は高いが、自社サイトはほぼ機能していない
- リピーター獲得の仕組みがない
実施した施策
| 施策内容 | 具体的な取り組み |
|---|---|
| ターゲットの再設定 | 「出張の多いビジネスパーソン」「定期的に同じエリアに来る営業職」に焦点 |
| 法人プランの開発 | 企業との直接契約で月額定額プランを提供 |
| モバイルファースト化 | スマホで3タップで予約完了できるUI設計 |
| ポイントプログラム | 10泊で1泊無料(公式サイト予約のみ) |
| 朝食の強化 | 地元の人気ベーカリーとコラボし、限定パンを提供 |
| 直前予約の最適化 | 当日17時以降の予約で20%OFF |
成果
- 6ヶ月でOTA比率を75%→48%に削減
- 法人契約10社獲得で安定収益を確保
- 稼働率が平均65%→78%に改善
- 年間の手数料削減額:約900万円
成功のポイント
ビジネス客の「定期的に利用する」という特性に着目し、ポイントプログラムと法人契約で囲い込みに成功。また、モバイルでの使いやすさを徹底し、忙しいビジネスパーソンの利便性を向上させました。
事例3:リゾートホテルC(客室数120室)
施設概要
海沿いのリゾートホテル。ファミリー層とカップルが主な顧客。OTA経由が90%と非常に高い依存度でした。
課題
- 競合が多く、OTA上での差別化が困難
- 手数料負担が経営を圧迫
- SNSでの露出はあるが、自社サイトへの誘導ができていない
実施した施策
| 施策内容 | 具体的な取り組み |
|---|---|
| Instagram戦略 | プロカメラマンによる定期撮影、UGC(顧客投稿)の活用 |
| 限定プランの開発 | 「サンセットディナー付きプラン」など体験型商品を公式サイト限定で |
| 事前体験コンテンツ | VR・360度動画で客室と施設を疑似体験できるコンテンツを公式サイトに |
| インフルエンサー招待 | 地域のマイクロインフルエンサー(フォロワー1〜5万人)を招待し投稿依頼 |
| パッケージプラン | 周辺のマリンアクティビティとセットにしたプランを公式サイト限定販売 |
| 早期予約キャンペーン | 90日前予約で30%OFFを公式サイトのみで実施 |
成果
- 1年半でOTA比率を90%→60%に削減
- Instagram経由の公式サイト流入が月間5000件に
- 早期予約の割合が15%→40%に増加し、収益予測の精度向上
- 年間の手数料削減額:約1,800万円
成功のポイント
ビジュアルに強いInstagramを徹底活用し、「ここに泊まりたい」という感情を喚起。その上で公式サイト限定の体験型プランを用意することで、自然な流れで自社サイトへ誘導しました。
3つの事例から学ぶ共通の成功要因
これら3つの事例に共通する成功要因を整理してみましょう。
| 成功要因 | 具体的なポイント |
|---|---|
| 明確なWho/What/How | 誰に、何を、どのように提供するかが明確に定義されている |
| 独自価値の訴求 | OTAでは表現できない独自の価値を作り、それを丁寧に伝えている |
| 顧客データの活用 | リピーター獲得のために顧客情報を蓄積し、パーソナライズされた施策を展開 |
| 段階的な実施 | いきなり全てを変えるのではなく、小さく始めて徐々に拡大 |
| 数値での効果測定 | 施策の効果を数値で測定し、PDCAサイクルを回している |
| スタッフの巻き込み | 現場スタッフが自社サイト予約の重要性を理解し、行動している |
特に重要なのは、「OTAをゼロにする」ことが目的ではなく、「自社サイト経由の予約を増やし、経営の安定性を高める」という視点を持つことです。OTAと自社サイトを適切にバランスさせることが、持続可能な経営につながります。
まとめ:今日から始める自社サイト集客
ここまで、旅館・ホテルがOTA依存から脱却し、自社サイトで集客を成功させるための戦略と実践方法を解説してきました。最後に、重要なポイントを整理してまとめます。
Key Takeaways
| 重要ポイント | 具体的なアクション |
|---|---|
| OTA依存のリスクを理解する | 手数料負担、顧客情報の非保有、価格競争など、OTA依存がもたらす5つの問題を認識し、経営陣で危機感を共有する |
| Who/What/Howで戦略を設計 | 誰の、どんな欲求に、どんな独自価値を、どのように提供するのかを明文化し、チーム全体で共有する |
| 小さく始めて大きく育てる | いきなり完璧を目指さず、クイックウィンから始めて成功体験を積み重ね、徐々に施策を拡大していく |
| 独自価値を徹底的に訴求 | OTAでは表現できない自社の強み、こだわり、ストーリーを公式サイトで丁寧に伝える |
| 顧客データを資産化する | 自社で顧客情報を蓄積し、リピーター向けのパーソナライズ施策を展開して長期的な関係を構築する |
| 数値で効果測定しPDCA | 月次でKPIを確認し、効果的な施策は継続・拡大、効果が薄い施策は改善または中止の判断を行う |
| スタッフを巻き込む | 現場スタッフが自社サイト予約の重要性を理解し、お客様に自然に案内できる体制を作る |
| 継続的な改善が鍵 | 一度実施して終わりではなく、市場環境や顧客ニーズの変化に合わせて継続的に改善を続ける |
最初の一歩:明日から実践できること
この記事を読み終えた後、まず何から始めればよいのか。以下の「明日からできる5つのアクション」を実践してみてください。
アクション1:現状数値の把握
OTA比率、自社サイト予約数、顧客単価を正確に把握する
アクション2:スタッフミーティング
経営陣とスタッフで「なぜ自社サイト集客が重要か」を共有する
アクション3:公式サイトの見直し
トップページに「公式サイト限定特典」を大きく表示する
アクション4:SNSプロフィールの最適化
Instagram、FacebookのプロフィールURLを公式サイトに変更する
アクション5:館内POPの設置
フロントと客室に「次回は公式サイトで」の案内を置く
これら5つは、予算もシステム変更も不要で、今すぐ実践できる施策です。まずはここから始めて、小さな成功体験を積み重ねていきましょう。
最後に:自社サイト集客は「選ばれる理由づくり」
自社サイト集客の本質は、単なる販売チャネルの変更ではありません。それは**「お客様に選ばれる理由を作る」**という、マーケティングの根幹に関わる取り組みです。
OTA上では、どうしても他の施設と横並びで比較され、価格や立地、口コミ評価といった表面的な要素で判断されがちです。しかし、皆さんの宿泊施設には、数字だけでは表現できない魅力があるはずです。
創業以来受け継がれてきた伝統、料理へのこだわり、お客様へのおもてなしの心、地域との繋がり、スタッフ一人ひとりの想い...。そうした「本当の価値」を丁寧に伝えられるのが、自社サイトの最大の強みです。
この記事で紹介した戦略やテクニックは、あくまでも手段です。最も大切なのは、「お客様に本当に喜んでいただきたい」という想いを、自社サイトを通じて届けることです。
OTA依存からの脱却は、一朝一夕には実現できません。しかし、小さな一歩を積み重ねていけば、必ず成果は表れます。1年後、3年後の自社の姿を想像しながら、今日から行動を始めてみてください。
皆さんの宿泊施設が、お客様から直接選ばれる、愛される存在になることを心から応援しています。


