はじめに
店舗の出店を考えているマーケティング担当者の皆さん、「どの地域に出店すべきか」「ターゲット顧客はどこに集中しているのか」「競合店舗の配置状況は?」といった疑問を、勘や経験だけで判断していませんか?
実は、経済産業省が無料で提供している「RESAS(地域経済分析システム)」を使えば、こうした地域マーケティングの課題を、客観的なデータで解決できます。人口動態、産業構造、観光動向、消費行動まで、ビジネスに必要なあらゆる地域データが一元的に閲覧できるこのツールは、まさにマーケターの秘密兵器です。
本記事では、RESASの基本から、マーケティング実務での具体的な活用シーンまでを徹底解説します。読み終えた後には、明日から地域戦略の精度が格段に上がるはずです。
RESASとは?:5分でわかる基本知識
RESASの定義

RESAS(リーサス:Regional Economy Society Analyzing System)は、経済産業省と内閣府 地方創生推進室が提供する、地域経済に関するビッグデータを可視化したWebサービスです。2015年のサービス開始以来、企業の戦略立案や自治体の政策決定に広く活用されています。
RESASの3つの特徴
| 特徴 | 詳細 | マーケティングでのメリット |
|---|---|---|
| 完全無料 | アカウント登録なしで誰でも利用可能 | 予算ゼロで本格的な地域分析が可能 |
| 信頼性の高いデータ | 政府統計、民間企業データなど信頼できる情報源 | 経営層への説得材料として使える |
| 直感的な操作 | 地図やグラフで視覚的に理解しやすい | データ分析の専門知識がなくても使える |
アクセス方法
誰でも公式サイトからアクセスできます。
公式サイト:https://resas.go.jp/
推奨環境: Google Chrome、Microsoft Edge、Safari(最新版)
RESASで分析できる7つのマップ
RESASは7つの分析カテゴリ(マップ)で構成されています。それぞれマーケティングでの活用シーンと合わせて紹介します。
全体像の把握
| マップ | 主な機能 | マーケティング活用度 | 活用例 |
|---|---|---|---|
| マーケティングマップ | 消費動向・滞留人口・事業所分布 | ★★★★★ | 出店候補地の消費者行動分析 |
| 観光マップ | 宿泊者・観光消費の分析 | ★★★★☆ | インバウンド戦略の立案 |
| 人口マップ | 人口構成・将来人口推計 | ★★★★★ | ターゲット人口の長期トレンド把握 |
| 産業構造マップ | 企業数・従業者数・売上高 | ★★★☆☆ | BtoB営業の市場規模把握 |
| 地域経済循環マップ | お金の流れ・産業連関 | ★★☆☆☆ | 地域経済への貢献度の可視化 |
| 農林水産業マップ | 経営体・生産量 | ★★☆☆☆ | 食品関連ビジネスの原料調達分析 |
| 医療・介護マップ | 医療需給・介護施設 | ★★☆☆☆ | シニア向けサービスの需要予測 |
例えば、マーケティングマップの滞留人口メッシュ分析を行うと、特定地域の滞留人口(特定の場所に15分以上滞留している人の1時間あたりの平均人数)を下記のように把握することができます。

マーケティング実務での5大活用シーン
ここからは、実際のマーケティング業務でRESASをどう使うか、具体的なシーンを解説します。
シーン1:出店戦略の精度向上
課題: 新規出店の候補地を選定したいが、勘や競合の動きだけで判断している
RESASでの解決方法:

使用する機能:
- 人口マップ > 将来人口推計分析
- 2050年までの人口推移を確認
- 年齢構成の変化をチェック(例:若年層の流出、高齢化率)

- マーケティングマップ > 滞留人口メッシュ分析
- 250mメッシュ単位で人の滞留状況を把握
- 性別・年代別の構成比を確認
- 平日/休日、時間帯別の変化を分析

- マーケティングマップ > 事業所立地分析
- 競合店舗の位置を地図上にプロット
- 業種別の店舗密度を確認
- 未開拓エリアの発見

実践例:カフェチェーンの出店判断
| 分析項目 | 候補地A(駅前商業地) | 候補地B(住宅地) | 判断 |
|---|---|---|---|
| 将来人口(2050年) | 現在比-15% | 現在比-5% | B有利 |
| 20-40代人口構成 | 45% | 38% | A有利 |
| 平日昼間滞留人口 | 5,200人/日 | 1,800人/日 | A有利 |
| 競合カフェ数(500m圏内) | 8店舗 | 2店舗 | B有利 |
| 総合判断 | - | - | Aは短期収益、Bは長期安定 |
シーン2:ターゲット顧客の「住んでいる場所」の特定
課題: 商品のターゲット層は明確だが、実際にどのエリアに集中しているか分からない
RESASでの解決方法:
Step 1: 人口マップで基本分析
- 人口構成分析で性年代別人口分布を確認
- 通勤通学人口分析で昼間人口の流入・流出を把握


Step 2: マーケティングマップで行動分析
- 滞留人口メッシュ分析でターゲット属性の滞在エリアを特定
- 生活用品消費分析で購買力を確認


実践ワークシート:
課題: 商品のターゲット層は明確だが、実際にどのエリアに集中しているか分からない
RESASでの解決方法:
まず人口マップで基本分析を行います。人口構成分析で性年代別の分布を確認し、次にマーケティングマップの滞留人口メッシュ分析でターゲット属性の滞在エリアを特定します。このシンプルな2ステップで、優先的に攻めるべきエリアが明確になります。
STEP1: 誰を探すか決める(2分)
| 項目 | 記入欄 |
|---|---|
| ターゲットの年齢 | _____歳 〜 _____歳 |
| ターゲットの性別 | □男性 □女性 □両方 |
| 主な特徴(一言で) |
記入例: 30-45歳、女性、子育て中の共働き主婦
STEP2: RESASで3エリアを比べる(10分)
気になる3つのエリアをRESASで調べて、重要な数字だけをメモします。人口マップと滞留人口メッシュ分析を使って、以下の表を埋めていきましょう。
| 比較項目 | エリアA (市区町村名: ) | エリアB (市区町村名: ) | エリアC (市区町村名: ) |
|---|---|---|---|
| ターゲット年齢層の人口 | _______人 | _______人 | _______人 |
| 将来人口(10年後) | □増える □減る □変わらず | □増える □減る □変わらず | □増える □減る □変わらず |
| 滞留人口のピーク時間 | 平日 : 〜 : | 平日 : 〜 : | 平日 : 〜 : |
| 競合店舗数(目視) | 約_____店 | 約_____店 | 約_____店 |
| 直感での◎○△評価 | □◎ □○ □△ | □◎ □○ □△ | □◎ □○ □△ |
記入のコツ: 完璧な数字にこだわらず、おおよその傾向が掴めればOKです。将来人口は人口増減分析で前年比をチェックするだけで十分です。
STEP3: どこから攻めるか決める(3分)
上記の表を見ながら、優先順位を決めます。理由は後から見返せるよう、簡単にメモしておきましょう。
| 優先順位 | エリア名 | 選んだ理由(一言) | いつから始める? |
|---|---|---|---|
| 第1位 | __月__日から | ||
| 第2位 | __月__日から |
判断のヒント: 点数計算は不要です。「ターゲット人口が多い」「将来も人口が増える」「競合が少ない」のどれか2つ当てはまれば有望なエリアと考えて問題ありません。
今日からやること(チェックリスト)
決定したエリアで、まず何をするか具体的にチェックしておきます。
□ 第1位エリアの詳細地図を印刷する
□ 現地視察の日程を決める(__月__日)
□ このエリア向けの販促企画を考える
□ 3ヶ月後にもう一度RESASで確認する(__月__日)
シーン3:競合分析の効率化
課題: 競合の出店状況や市場シェアを把握したいが、フィールド調査には限界がある
RESASでの解決方法:
| 分析レベル | 使用機能 | 得られる情報 | マーケティング活用 |
|---|---|---|---|
| マクロ | 産業構造マップ > 産業構造分析 | 業界全体の企業数・従業者数・売上推移 | 市場規模の把握・成長性判断 |
| メゾ | マーケティングマップ > 事業所立地分析 | 業種別事業所の地理的分布 | 競合密集エリアの回避 |
| ミクロ | 地図上での個別プロット | 特定企業の店舗配置パターン | 競合の出店戦略の推測 |

競合分析チェックリスト:
□ 自社業種の全国事業所数トレンド(過去5年)
□ 対象地域の事業所数と従業者数
□ 主要競合3社の店舗配置パターン
□ 市場集中度(上位5社のシェア推定)
□ 未開拓エリアの特定
シーン4:商圏分析とWho(ターゲット)の精緻化
課題: 既存店舗の商圏特性を理解して、よりターゲットを絞り込みたい
RESASでの解決方法:
このシーンでは、プロジェクト知識の「Who/What/How」フレームワークとRESASを組み合わせます。
統合分析フロー:
| ステップ | Who/What/How要素 | RESAS活用 | 得られる示唆 |
|---|---|---|---|
| 1 | Who:どんな人 | 人口マップ > 人口構成分析 | 商圏内の性年代構成 |
| 2 | Who:どんなJOB(欲求) | マーケティングマップ > 滞留人口メッシュ | 時間帯別行動パターンからJOBを推測 |
| 3 | What:提供価値の検証 | 生活用品消費分析 | 実際の購買行動と自社仮説の整合性確認 |
| 4 | How:最適な提供方法 | 通勤通学人口分析 | アクセス方法(車/公共交通)の把握 |
実践例:スポーツジムの商圏分析
【仮説設定】
Who: 30-40代、共働き夫婦、健康意識高い
JOB: 仕事帰りに手軽に運動習慣を作りたい
【RESAS検証】
1. 人口マップ確認
→ 商圏3km内の30-40代人口: 12,500人
→ うち共働き世帯推定: 約60%(全国平均より高い)
2. 滞留人口メッシュ分析
→ 平日18-20時の滞留が最多
→ 駅周辺での滞留時間:平均25分
→ 仮説「帰宅前に立ち寄る」と一致✓
3. 通勤通学人口分析
→ 昼間人口の70%が鉄道利用
→ 駅から徒歩圏が重要
【結論】
Whoの精緻化: 「駅利用の30-40代共働き層」
Howの最適化: 「駅徒歩3分以内」「平日18-21時の営業強化」
シーン5:新規事業のTAM/SAM/SOM算出
課題: 新規事業の市場規模を説得力のある数字で示したい
RESASでの解決方法:
市場規模の3層モデル(TAM/SAM/SOM)をRESASデータで算出します。

算出テンプレート:
| 指標 | 計算式 | RESAS使用データ | 計算例(地域密着型学習塾チェーン) |
|---|---|---|---|
| TAM | ターゲット全人口 × 客単価 | 人口マップ > 人口構成分析(全国) | 小学生人口600万人 × 年間36万円(月3万円×12ヶ月) = 2.16兆円 |
| SAM | TAM × 到達可能地域率 | マーケティングマップ > 事業所立地分析で出店可能都市圏を特定 | 2.16兆円 × 35%(人口30万人以上の都市圏) = 7,560億円 |
| SOM | SAM × 獲得シェア想定 | 産業構造マップで競合数確認 + 自社戦略 | 7,560億円 × 3%(初年度目標シェア) = 約227億円 |
TAM算出時には、人口マップの人口構成分析で全国の小学生人口を都道府県別・市区町村別に把握します。これにより、ターゲット層がどの地域に多いかが一目瞭然になります。
SAM算出時には、マーケティングマップの事業所立地分析を使って、実際に出店が現実的な都市圏を絞り込みます。例えば「人口30万人以上かつ駅前に適した物件が見込める地域」といった条件で、到達可能な市場を具体的に特定できます。将来人口推計分析も併用すれば、10年後も人口が維持される地域だけに絞ることも可能です。
SOM算出時には、産業構造マップの産業構造分析で「学習塾」業種の事業所数や従業者数を地域別に確認します。競合が過密な地域と未開拓の地域を見極めることで、より現実的な獲得シェアを設定できます。
今日から始めるRESAS実践5ステップ
ここまで、RESASをどういうシーンで活用できるのかをご紹介しましたが、ここからは具体的なステップで使い方を解説してまいります。
Step 1: アカウント不要で即スタート
- Webブラウザで https://resas.go.jp にアクセス
- トップ画面の7つのマップから「マーケティングマップ」を選択
- 「滞留人口メッシュ分析」をクリック
所要時間: 30秒
Step 2: 自社商圏の「人の動き」を可視化

操作手順:
1. 左メニューで分析地域を選択
└→ 都道府県・市区町村を選択
2. 表示年月を設定
└→ 直近のデータを選択
3. 滞留人口を表示する時間帯を選択
└→ 平日/休日、時間帯を指定
4. メッシュ表示オプション
└→ 「メッシュ表示」にチェック
5. 地図上で色の濃淡を確認
└→ 赤が濃いほど滞留人口が多い
発見できること:
- ターゲット層がどこに、いつ集まっているか
- 休日と平日の人流の違い
- 競合店周辺の人口動態
Step 3: 「画面キャプチャ」で報告資料化
RESASの便利機能を活用して、そのまま企画書に使えます。

| 機能 | 使い方 | 用途 |
|---|---|---|
| キャプチャボタン | 画面左下or右上のカメラアイコン | 地図・グラフを画像保存 |
| ダウンロードボタン | 画面右上のダウンロードアイコン | データをCSVで取得 |
| 全画面表示 | 地図・グラフの拡大ボタン | プレゼン時の視認性向上 |
報告資料テンプレート構成:
【出店検討資料の構成例】
1. エグゼクティブサマリー
└→ 結論を1枚で
2. 市場環境分析(RESAS)
├ 人口推移グラフ(~2050年)
├ ターゲット人口分布マップ
└ 競合配置マップ
3. 商圏分析(RESAS)
├ 滞留人口ヒートマップ
├ 時間帯別人流グラフ
└ 消費動向データ
4. 投資判断
└→ ROI試算
Step 4: 複数候補地を「比較機能」で評価
RESASには最大5地域まで同時比較できる機能があります。


比較分析の手順:
- 画面右上のメニューから合算/比較地域登録一覧をクリック
- 比較したい候補地をすべて追加
- 各グラフやデータで選択できるようになるため選択し一覧比較
- 以下の評価軸で点数化
評価マトリクス:
| 評価軸 | 重み | 候補地A | 候補地B | 候補地C |
|---|---|---|---|---|
| ターゲット人口(5年後) | 30% | 85点 | 70点 | 90点 |
| 購買力指数 | 25% | 75点 | 80点 | 65点 |
| 競合密度(低いほど高得点) | 20% | 60点 | 85点 | 70点 |
| 交通アクセス | 15% | 90点 | 70点 | 80点 |
| 将来人口維持率 | 10% | 70点 | 75点 | 85点 |
| 合計(100点満点) | - | 76.5点 | 75.5点 | 78.0点 |
Step 5: 定期モニタリングで戦略を進化
RESASデータは四半期〜年次で更新されます。定期的なモニタリングで戦略を進化させましょう。
モニタリング計画表:
| 頻度 | チェック項目 | RESAS機能 | アクション例 |
|---|---|---|---|
| 月次 | 新規出店情報 | 事業所立地分析 | 競合動向の把握 |
| 四半期 | 商圏内人口動態 | 滞留人口メッシュ | 販促エリアの見直し |
| 半年 | 消費トレンド | 生活用品消費分析 | 商品ラインナップ調整 |
| 年次 | 長期人口推移 | 将来人口推計 | 中期戦略の見直し |
RESAS活用で陥りがちな3つの落とし穴
RESASを使う上で3つの落とし穴もご紹介します。データを見ること自体が楽しいので、見て終わりにならないように3つの視点をご注意くださいませ。
落とし穴1: データを見るだけで満足する
問題: RESASで美しいグラフを作っても、具体的なアクションに落とし込めていない
解決策:
必ず「So What?(だから何?)」を3回繰り返す
例:
「このエリアは20代人口が多い」
↓ So What?
「若年層向けサービスの需要がある」
↓ So What?
「SNS広告で認知を取りやすい」
↓ So What?
「Instagram広告に月30万円投下する」✓
落とし穴2: 全国データをそのまま適用する
問題: 全国平均のデータを、地域特性を無視して使ってしまう
解決策: 必ず以下をセットで確認
| データ | 確認レベル | チェックポイント |
|---|---|---|
| 全国 | マクロトレンド | 業界全体の方向性 |
| 都道府県 | 地域特性 | 気候・文化・経済構造の違い |
| 市区町村 | 商圏実態 | 実際のターゲット分布 |
| メッシュ | ピンポイント | 店舗至近の人流 |
落とし穴3: 古いデータで判断する
問題: データの鮮度を確認せず、数年前の情報で意思決定してしまう
解決策:
- 常にデータの「取得年月」を確認
- 最新データと過去5年の推移をセットで見る
- 急激な変化があるエリアは要注意
【チェックリスト】
□ データ取得時期は明記されているか?
□ 過去5年の推移も確認したか?
□ 新型コロナ等の特殊要因を考慮したか?
□ 最新の地域ニュースと整合しているか?
まとめ:RESASで明日からマーケティングが変わる
Key Takeaways
| 重要ポイント | 具体的アクション | 期待効果 |
|---|---|---|
| 1. RESASは完全無料の地域分析ツール | 今日から https://resas.go.jp にアクセス | 予算ゼロで本格的なエリアマーケティング開始 |
| 2. 7つのマップで多角的分析が可能 | まずは「マーケティングマップ」から試す | 人口・消費・競合を一元把握 |
| 3. Who/What/How思考と組み合わせる | 仮説→RESAS検証→精緻化のサイクル | ターゲット戦略の精度が3倍向上 |
| 4. データは必ずアクションに変換 | 「So What?」を3回繰り返す習慣 | 分析で終わらせない実行力 |
| 5. 定期モニタリングで戦略進化 | 四半期レビューをカレンダー登録 | 環境変化への適応速度アップ |
Next Action:今日やるべき3つのこと
□ RESASにアクセスして滞留人口マップを5分眺める
└→ 自社商圏の「意外な発見」を1つメモする
□ 直近の出店/販促計画をRESASで検証
└→ 1つでいいので数字的根拠を追加する
□ 週次ミーティングでRESASデータを1枚共有
└→ チーム全体でデータドリブン文化を醸成
RESASは、使いこなせば地域マーケティングの強力な武器になります。データに基づく意思決定で、勘や経験だけに頼らない、再現性の高い戦略を構築していきましょう。

