はじめに|2025年、消費者はよりシビアに「体験」を見ている
消費者は企業との関係性に「期待」しながらも、失望すればすぐに離れていく――。 2025年の消費者は、以下のような複雑な環境の中で、感情と合理性の両面からブランドを選択しています。
- 生活コストの上昇(インフレや物価高)
- 経済的不安と消費の選択意識の高まり
- 企業やAIへの信頼性への懐疑
- デジタル情報の過多による判断の疲労
- プライバシーへの関心と情報管理意識の強化
こうした背景の中で、顧客がブランドと接点を持つあらゆる瞬間(タッチポイント)での体験価値、つまりCX(カスタマーエクスペリエンス)が、かつてないほどビジネス成果に直結するようになっています。
本記事では、クアルトリクス社のグローバルCXレポートをもとに、2025年の消費者の心理と行動を読み解く「5つの主要トレンド」と、それにどう応えるべきかのマーケティング施策の示唆を提示します。企業がこの変化に適応することで、真に選ばれ続けるブランドになるためのヒントになるはずです。
該当のレポートはこちらからダウンロードできます。
このレポートの概要|『2025年 消費者トレンド』とは?

本記事のベースとなっている「2025年 消費者トレンド」は、顧客体験管理ソリューションを提供するクアルトリクス社がグローバル規模で実施した2025年の消費者インサイト調査レポートです。
このレポートでは、約24,000人の消費者のデータをもとに、世界各地で起きているカスタマーエクスペリエンス(CX)の変化と、それに対する企業の対応状況を分析。とりわけ次の5つの消費者トレンドが浮かび上がっています:
- ロイヤルティが得られにくくなっている
- 企業と顧客の信頼関係が揺らいでいる
- フィードバックの声が減少している
- AIに対する期待と不信が交錯している
- パーソナライゼーションとプライバシーのバランスが問われている
本稿では、これら5つのトレンドを日本のマーケター視点で深堀りし、今後の戦略設計にどう活かすべきかを解説していきます。
トレンド1:期待の高まりがロイヤルティの低下を招いている
消費者の期待水準が年々上昇している一方で、企業がその期待に応えられていないケースが増えています。以下のような数値が示す通り、表面的な満足は維持されているにも関わらず、信頼や再購買意欲といった「深い関係性」が確実に低下しています。
指標 | 変化(2024年比) |
---|---|
顧客満足度 | +0.4pt(76%) |
信頼度 | -1.2pt(73%) |
推奨意向 | -1.5pt(70%) |
追加購入意向 | -1.3pt(69%) |
これが意味するのは「満足=ロイヤルティではない」という現実です。特に注目すべきは、悪い体験をした顧客の53%が支出を減らすという行動。悪い体験の余韻は想像以上に長く、感情的損失は金銭的な損失に直結します。
企業が対応すべきは次の3点です:
- 一貫性のある体験提供:チャネルやタイミングによって対応がバラバラだと、顧客はすぐに幻滅します。
- 期待値マネジメント:過剰なプロモーションではなく、「顧客が何を期待しているか」を把握し、少しだけ超える体験を設計する。
- ネガティブ体験のリカバリー設計:不満をゼロにするのではなく、起きたときにいかに誠実に対処できるかが重要です。
トレンド2:消費者との関係の基本に立ち返るべき
2025年の消費者は「情報の信頼性」に対して過敏です。かつては"面白い広告"や"ユニークなUX"で勝てた時代もありましたが、今は違います。61%が「企業の発信する情報の信ぴょう性」を購買判断の最重要要素としています。
なぜか?背景には、偽情報の拡散、生成AIによるコンテンツの氾濫、カスタマーレビューの信用低下などがあります。
マーケティングにおける対応策:
項目 | 解説 |
---|---|
① 期待値設定 | 顧客の想像を裏切らないため、事前に「どんな体験か」を丁寧に説明 |
② 有言実行 | ブランドプロミスを守り抜く体制と企業文化 |
③ 誠実な失敗報告 | ミスがあった場合の開示と謝罪により、逆に信頼を強化できる |
UX・広告・接客・商品説明すべてが「約束と実行」の整合性を持つことで、信頼は醸成されます。見せかけの演出ではなく、「中身で勝負する時代」だということです。
トレンド3:フィードバックは最低レベルに落ち込んでいる
顧客は怒っているのではありません。"諦めている"のです。かつては改善を期待してクレームを入れてくれた顧客が、今では何も言わずに離脱していきます。
フィードバック行動 | 数値(前年比) |
---|---|
誰にも話さない | 24%(+6.3pt) |
企業に直接言う | 32%(-7.7pt) |
この傾向は、いわゆる「NPSの沈黙層」を増大させ、フィードバックすることに疲れているとも言えます。これにより改善のヒントすら企業が得られない状態を生んでいます。
マーケターの対応:
- 行動データ・非構造データ分析:Webでの離脱ページ、チャットログの「ためらいワード」、コールセンターの音声感情分析などを統合し、サイレントな不満を特定。
- フリクションレスなフィードバック導線:1タップで送れるボタン、アプリ内のスライダー評価、匿名チャットなどの導入。
- “聞いている姿勢”の可視化:フィードバックしても無視されたと感じれば二度と戻ってきません。"この意見をもとに改善しました"という実績公開が重要です。
トレンド4:AIは期待過剰から懐疑的な見方へ
AIはもはや魔法の杖ではありません。便利な一方で、「人間らしさを失う不安」「過剰な効率主義への反発」が生まれています。
2025年の消費者は、「合理だけでは動かない」という強いメッセージを発信しています。
よくある落とし穴:
- チャットボットでの冷たい対応
- 商品レコメンドの“的外れ感”
- 決済や注文時の過度な自動化による迷子体験
対応のカギは「人間中心設計(Human-Centered Design)」です。
状況 | 最適対応策 |
---|---|
無機質なUI | マイクロコピーや感情ラベルを加え、温度感あるUXへ |
自動応答の限界 | ハイブリッド化(AI+人間サポート)を徹底 |
プロファイルの誤認識 | データの透明性と“訂正手段”の明示 |
AI=裏方と割り切り、「人間が主役」の体験設計を目指しましょう。
トレンド5:プライバシーとパーソナライゼーションのバランスが分水嶺に
「パーソナライズ=好意的」と思われがちですが、それは“信頼関係”が前提条件です。
64%の消費者はパーソナライズを好意的に見ていますが、53%はプライバシーを強く懸念しています。つまり、顧客は「自分に関する情報を知られていること」よりも、「どう使われるか」を気にしているのです。
戦略的ステップ:
フェーズ | 顧客の心理 | 最適な対応 |
---|---|---|
接点初期 | 警戒・不安 | 最小限の情報取得+“情報の目的”明示 |
信頼構築中 | 興味と不安の混在 | 情報の活用例を明示+選択肢を提示 |
ロイヤル化 | 許容と期待の高まり | 本格的なパーソナライズ、優遇体験の設計 |
“選ばれるブランド”になるには、「情報をどう使うか」ではなく、「どう説明し、どう選ばせるか」が決定打となります。
マーケターが学ぶべきことと、行動変容のヒント
2025年の消費者トレンドは、マーケターにとって「過去の常識では成果を出せない」ことを如実に示しています。ここから何を学び、どう行動を変えるべきかを以下に整理します。
学び | 行動指針 |
---|---|
ロイヤルティは“積極的満足”がなければ得られない | 顧客の期待を把握し、それを少し上回る体験を各タッチポイントで設計する |
信頼は“演出”ではなく“整合性”で生まれる | ブランドメッセージ、商品説明、対応すべての一貫性を徹底し、約束を守る文化を育む |
声を上げない顧客を観察する力が必要 | データ分析、非構造データ解析、定性調査を組み合わせて“気づき”を可視化する |
テクノロジーは補完役、体験設計の軸は人間 | AIや自動化を前提にせず、「人がどう感じるか」から逆算したUXを構築する |
パーソナライズは信頼の上にしか成立しない | 顧客に“選ばせる設計”と“情報活用の透明性”を明示し、徐々に信頼を積み上げる |
さらに重要なのは、「マーケティング=集客や売上の手段」ではなく、企業の“信頼資産”を増やす営みだという意識の転換です。
具体的に明日から変えるべきこと
- アンケートに頼らず、行動ログやチャット内容の振り返りを習慣化する
- KPIに「体験品質」や「一貫性評価指標(例:CES)」を導入する
- 顧客に“情報を渡すタイミングと量”を選ばせる設計を実装する
- 現場とブランド担当の連携強化(体験とメッセージの整合性担保)
- 「AIを使うこと」ではなく「どんな価値が人に届くか」を軸にツール導入を見直す
こうした行動変容は、短期的なCTRやCVR以上に、長期的に選ばれるブランドになるための布石となります。
まとめ|Key Takeaways
2025年の消費者トレンドは、CXが単なる施策でなく“経営資源”になったことを示しています。 従来の「広告で関心を惹く」だけでは成果が出ず、実際の体験の一貫性や誠実さがブランドの信頼を左右する時代です。 マーケターは目先の効果より“選ばれ続ける仕組み”の構築を優先する必要があります。
- CXの質がロイヤルティの主要因に直結。 部分最適ではなく、体験全体の整合性がブランドへの信頼を育てる。
- “誠実な体験”がブランド信頼を生む。 嘘のない期待値設定と実行の一貫性が不可欠。
- VoCの取得手法を進化させ、沈黙の声を拾う仕組みが必要。 非構造データや行動ログを活用。
- AIはCX強化の裏方に徹し、人間中心設計を基盤とする。 テクノロジーの主役化は逆効果。
- パーソナライゼーションは“信頼されてから”。 段階的に同意を得て、価値ある体験を創出することが成功の鍵。