マーケターの真価は「利益」で測られる|売上だけでは評価されない時代のマーケティング戦略 - 勝手にマーケティング分析
マーケの応用を学ぶ

マーケターの真価は「利益」で測られる|売上だけでは評価されない時代のマーケティング戦略

利益を追う マーケの応用を学ぶ
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はじめに

マーケターのみなさん、こんな経験ありませんか?

「今月の売上目標を達成した!」と喜んでいたら、経営陣から「でも利益は?」と聞かれて言葉に詰まってしまう。広告費を大量に投下してCV数は増えたけど、実際に手元に残るお金は減っている。インフルエンサーマーケティングで話題になったものの、獲得コストが高すぎて継続できない...。

実は、多くの若手マーケターが「売上」ばかりに目を向けて、「利益」を軽視してしまうという罠に陥っています。もちろん売上を伸ばすことは大切です。でも、ビジネスの本質は「継続的に利益を出し続けること」なんです。

本記事では、なぜマーケターにとって利益が重要なのか、どうすれば利益を意識したマーケティング活動ができるのかを、具体的な数字や事例を交えて解説していきます。この記事を読めば、経営陣から信頼されるマーケターへと一歩近づけるはずです。


売上と利益の決定的な違いを理解しよう

まず基本中の基本から。売上と利益の違い、しっかり説明できますか?意外とこの違いを理解せずにマーケティング活動をしている人が多いんです。

売上と利益の基本的な関係性

売上と利益の関係は、実はとてもシンプルです。以下の表で整理してみましょう。

項目定義計算式マーケターへの影響
売上商品やサービスを販売して得た金額の合計販売価格 × 販売数量CV数や購入金額など、直接的にコントロールしやすい
売上原価商品を作るためにかかった直接的なコスト材料費 + 製造費 + 仕入れ費などプロダクトの性質によって決まる
粗利益売上から売上原価を引いた金額売上 - 売上原価商品力や価格設定の妥当性を示す
販管費販売や管理にかかる費用広告費 + 人件費 + 家賃 + システム費などマーケティング活動のコストはここに含まれる
営業利益本業で稼いだ利益粗利益 - 販管費マーケターの成果が最も反映される指標

この表を見ると分かる通り、マーケターがコントロールできるのは主に「売上」と「販管費(特に広告費)」の部分なんです。そして、この2つをどうバランスさせるかが、利益を出せるマーケターとそうでないマーケターの分かれ道になります。

なぜ売上だけを追うと危険なのか

売上だけを追いかけることの何が問題なのか、具体的な例で見てみましょう。

ケース1:広告費をかけすぎた失敗例

あるECサイトで、月間売上1000万円を目指していたとします。

シナリオ売上広告費粗利率粗利益営業利益
A案(広告費少なめ)800万円100万円50%400万円300万円
B案(広告費多め)1000万円350万円50%500万円150万円

B案は目標の1000万円を達成していますが、営業利益はA案の半分です。もしあなたが「売上1000万円達成!」とだけ報告したら、経営陣は「なぜ利益が減っているのか?」と疑問を持つでしょう。

さらに怖いのは、B案のような状態が続くと、会社のキャッシュフローが悪化して、最悪の場合「黒字倒産」のリスクすらあるということです。売上は伸びているのに、手元にお金がない状態になってしまうんですね。


マーケターが必ず知っておくべき利益指標

利益を意識したマーケティングを実践するには、いくつかの重要な指標を理解する必要があります。難しそうに聞こえるかもしれませんが、一つずつ見ていけば実はシンプルです。

CPA(顧客獲得単価)とLTV(顧客生涯価値)の関係

マーケティングの世界でよく使われる2つの指標、CPAとLTVについて整理しましょう。

指標正式名称定義計算式目安
CPACost Per Acquisition1人の顧客を獲得するのにかかったコスト広告費 ÷ 獲得顧客数LTVの30%以下が理想
LTVLife Time Value1人の顧客が生涯にわたってもたらす利益平均購入単価 × 購入回数 × 粗利率CPAの3倍以上が理想

この2つの関係性が、利益を出せるかどうかの分かれ目になります。基本的な考え方は「LTV > CPA」であること。当たり前のようですが、意外とこれを守れていないマーケティング施策が多いんです。

LTVとCPAのバランスが取れている例

例えば、月額サブスクリプションサービスの場合を見てみましょう。

この例では、CPAが3000円でLTVが9000円(粗利率40%で実質3600円の利益)なので、健全なビジネスモデルと言えます。

ROIとROASの違いを理解する

次に、投資対効果を測る2つの指標について見ていきましょう。

指標正式名称何を測るか計算式使い分け
ROASReturn On Advertising Spend広告費に対する売上の割合売上 ÷ 広告費 × 100%短期的な広告効率を見る
ROIReturn On Investment投資に対する利益の割合利益 ÷ 投資額 × 100%本質的な収益性を見る

ここで重要なのは、ROASが高くてもROIが低ければ意味がないということ。具体例で見てみましょう。

ROASとROIの違いが分かる比較表

施策広告費売上粗利率粗利益ROASROI
施策A100万円500万円30%150万円500%50%
施策B100万円300万円60%180万円300%80%

施策AはROASが500%で一見素晴らしいですが、ROIは50%です。一方、施策BはROASは300%と低いものの、ROIは80%と高くなっています。つまり、施策Bの方が実際の利益は多いんです。

多くのマーケターがROASだけを追いかけて失敗するのは、この違いを理解していないからなんですね。


継続的に利益を生み出すマーケティングの5つの原則

ここからは、実際に利益を最大化するための具体的な方法論を見ていきます。この5つの原則を押さえれば、あなたのマーケティング活動は確実に利益志向に変わるはずです。

原則1:Unit Economicsを常に意識する

Unit Economics(ユニットエコノミクス)とは、「1単位あたりの経済性」のことです。簡単に言えば、顧客1人あたり、注文1件あたり、製品1個あたりで利益が出ているかを見る考え方です。

Unit Economicsのチェック表

確認項目計算方法健全な状態の目安アクション
顧客1人あたりの利益LTV - CPAプラスであること獲得チャネルの見直し
初回購入での利益初回購入額 × 粗利率 - CPAプラスが理想(マイナスでも許容範囲内)初回購入単価のアップセル
リピート購入での利益リピート額 × 粗利率 - リテンションコスト高い利益率を維持リテンション施策の強化

Unit Economicsがマイナスの状態で事業を拡大すると、規模が大きくなればなるほど赤字が膨らむという恐ろしい事態になります。スタートアップが急成長しながらも破綻するケースの多くは、このUnit Economicsを無視した拡大が原因です。

原則2:獲得チャネルごとの収益性を分析する

すべてのマーケティングチャネルが同じ収益性を持っているわけではありません。チャネルごとに分析して、最も利益が出るチャネルにリソースを集中させることが重要です。

チャネル別収益性の分析例

チャネル獲得数CPA初回購入額リピート率LTV粗利率チャネルあたり利益優先度
Google広告100人5000円8000円30%15000円40%100万円⭐⭐⭐
Instagram広告150人3000円6000円20%9000円40%45万円⭐⭐
SEO50人2000円8000円40%20000円40%290万円⭐⭐⭐⭐⭐
インフルエンサー200人8000円7000円15%10000円40% -120万円⭕(要改善)

この表を見ると、SEOが最も利益率が高く、インフルエンサーマーケティングは実は赤字になっていることが分かります。こうした分析をせずに「インフルエンサーマーケティングは話題になるから」という理由だけで続けていると、会社の利益を圧迫してしまうんです。

原則3:コホート分析で長期的な収益性を見る

コホート分析とは、同じ時期に獲得した顧客グループ(コホート)を追跡して、時間経過とともにどう変化するかを見る分析手法です。これにより、真の収益性が見えてきます。

コホート分析の例(月次リテンション)

獲得月初月2ヶ月目3ヶ月目4ヶ月目5ヶ月目6ヶ月目累計LTV
2024年1月3000円3000円3000円3000円2400円2400円16800円
2024年2月3000円3000円3000円3000円2400円-14400円
2024年3月3000円3000円3000円3000円--12000円
2024年4月3000円3000円3000円---9000円

この表から、獲得してから6ヶ月でLTVが約17000円になることが予測できます。もしCPAが5000円なら、6ヶ月で約3.4倍のリターンが得られる計算です(粗利率を考慮する必要はありますが)。

原則4:固定費と変動費のバランスを最適化する

マーケティングコストには、固定費的なものと変動費的なものがあります。このバランスを理解して最適化することで、利益率を改善できます。

コストタイプ特徴メリットデメリット
固定費型売上に関係なく一定額かかるSEO投資、コンテンツ制作、マーケティングツール月額料金規模が大きくなるほど効率的初期投資が必要、効果が出るまで時間がかかる
変動費型売上や成果に応じて変動するリスティング広告、アフィリエイト、成果報酬型PRリスクが低い、すぐ始められる規模が大きくなるほどコスト増

理想的なのは、初期は変動費型で素早く検証し、効果が確認できたら固定費型に移行するという戦略です。例えば、最初はリスティング広告でキーワードを検証し、効果的なキーワードが分かったらSEOコンテンツに投資するといった形です。

原則5:利益を再投資するサイクルを作る

最後に重要なのが、得られた利益を再投資して成長させるサイクルを作ることです。これができれば、持続的な成長が可能になります。

graph LR A[マーケティング投資] --> B[顧客獲得] B --> C[売上発生] C --> D[利益創出] D --> E[利益の一部を再投資] E --> F[より効果的なチャネルに投資] F --> A style D fill:#FFD700 style E fill:#90EE90

このサイクルを回す際の目安として、営業利益の30-50%をマーケティング再投資に回すという基準があります。もちろん、業種や成長フェーズによって変わりますが、この範囲であれば健全な成長が期待できます。


利益を最大化するための具体的な改善アクション

理論は分かったけど、実際に何をすればいいの?という声が聞こえてきそうですね。ここからは、明日から実践できる具体的なアクションを紹介していきます。

アクション1:現在のマーケティング施策を利益視点で棚卸しする

まずは現状把握から始めましょう。以下のチェックリストを使って、今のマーケティング施策を評価してみてください。

マーケティング施策の利益評価チェックリスト

評価項目チェック内容現状改善の必要性
CPA計測各チャネルのCPAを正確に把握しているか○ / △ / ×高 / 中 / 低
LTV計測顧客のLTVを計算しているか○ / △ / ×高 / 中 / 低
粗利率把握商品・サービスごとの粗利率を理解しているか○ / △ / ×高 / 中 / 低
ROI分析施策ごとのROIを計算しているか○ / △ / ×高 / 中 / 低
損益分岐点各施策の損益分岐点を把握しているか○ / △ / ×高 / 中 / 低

もし「×」が多い場合は、まずデータ収集の仕組みから整える必要があります。Google AnalyticsやCRMツールと連携して、これらの指標を自動で追えるようにしましょう。

アクション2:低収益チャネルを見極めて撤退または改善する

すべてのマーケティング施策が成功するわけではありません。低収益のチャネルは勇気を持って撤退するか、抜本的に改善する必要があります。

チャネル撤退・改善の判断基準

状況ROICPA vs LTVアクション判断理由
パターンAマイナスCPA > LTV即時撤退構造的に利益が出ない
パターンB0〜20%CPA ≒ LTV改善トライ(3ヶ月)改善の余地あり
パターンC20〜50%CPA < LTV継続+改善健全だが最適化の余地
パターンD50%以上CPA << LTV拡大投資非常に効率的

例えば、Instagram広告でROIがマイナスの場合、単に広告費を減らすのではなく、ターゲティング、クリエイティブ、ランディングページなどを3ヶ月かけて改善してみる。それでも改善しなければ撤退する、という判断をします。

アクション3:高収益商品・サービスへの誘導を強化する

すべての商品が同じ利益率ではありません。高利益率の商品への誘導を強化することで、同じ売上でも利益を大きく改善できます。

商品別の利益貢献度分析

商品カテゴリ売上構成比粗利率利益貢献度購入頻度戦略的位置づけ
プレミアム商品A15%70%30%利益の柱として強化
スタンダード商品B50%40%55%ボリューム確保
エントリー商品C35%20%15%新規獲得専用

この分析から、エントリー商品Cで獲得した顧客を、いかにプレミアム商品Aやスタンダード商品Bにアップセルするかが重要だと分かります。例えば、初回購入時にクーポンを配布して2回目の購入を促し、その際により高単価な商品を提案する、といった施策が考えられます。

アクション4:リテンション施策に投資する

新規顧客の獲得コストは、既存顧客の維持コストの5倍かかると言われています。つまり、リテンション(顧客維持)に投資することは、非常に利益効率が良いんです。

リテンション施策のROI比較

施策月額コスト影響を受ける顧客数リピート率改善追加売上追加利益(粗利率40%)ROI
メールマーケティング10万円5000人5%向上150万円60万円600%
ロイヤリティプログラム30万円3000人10%向上300万円120万円400%
カスタマーサポート強化50万円全顧客3%向上200万円80万円160%

この表を見ると、メールマーケティングが最も高いROIを示していますが、ロイヤリティプログラムも十分に高い効果があることが分かります。

アクション5:パーソナライゼーションで購入単価を上げる

同じ顧客でも、パーソナライズされた提案をすることで購入単価を上げることができます。これは追加のコストをほとんどかけずに利益を増やせる、非常に効率的な方法です。

パーソナライゼーションの実装レベル

レベル実装内容必要なツール期待効果実装難易度
レベル1名前での呼びかけ、購入履歴に基づく商品提案メール配信ツール、CRM購入率5-10%向上
レベル2行動データに基づくレコメンド、タイミング最適化MAツール、レコメンドエンジン購入率10-20%向上
レベル3AI予測による最適な商品・価格・タイミングの提示AIツール、高度なデータ分析購入率20-30%向上

最初はレベル1から始めて、効果を見ながらレベル2、3へと進化させていくのが現実的です。重要なのは、パーソナライゼーションによって顧客体験を向上させながら購入単価も上げるという両立を目指すことです。


ケーススタディ:利益重視のマーケティングで成功した企業事例

理論だけでなく、実際の事例を見ることで理解が深まります。ここでは、利益を重視したマーケティング戦略で成功した企業の事例を紹介します。

ケース1:SaaS企業Aの転換事例

あるBtoB SaaS企業Aは、当初「売上成長率」だけを追いかけて、大量の広告費を投下していました。その結果、以下のような状況に陥りました。

転換前の状況

指標数値状態
月次売上3000万円✅ 目標達成
月次広告費1500万円⚠️ 売上の50%
月次営業利益200万円❌ わずか6.7%
CPA15万円⚠️ 高い
平均LTV30万円⚠️ CPAの2倍のみ

この企業は、経営陣から「売上は伸びているのに利益が出ない」と指摘を受け、マーケティング戦略を根本から見直すことにしました。

実施した施策

  1. チャネル別の収益性分析を実施し、ROIがマイナスのチャネルから撤退
  2. 高LTV顧客の特徴を分析し、そのセグメントに広告を集中
  3. 無料トライアルの期間を短縮し、早期に有料化を促進
  4. オンボーディングプロセスを改善し、継続率を向上
  5. カスタマーサクセス体制を強化し、アップセルを推進

転換後の結果(6ヶ月後)

指標数値変化
月次売上2800万円▼ 6.7%減少(許容範囲)
月次広告費600万円▼ 60%削減
月次営業利益1000万円▲ 5倍向上
CPA8万円▼ 47%改善
平均LTV45万円▲ 50%向上
LTV/CPA比率5.6倍✅ 健全な水準

売上はわずかに減少しましたが、営業利益は5倍になりました。さらに、この利益を再投資することで、その後の持続的な成長を実現しています。

ケース2:EC企業Bの商品ポートフォリオ最適化

EC企業Bは、幅広い商品ラインナップを持っていましたが、それぞれの商品の利益貢献度を把握していませんでした。

商品別の分析を実施した結果

商品グループSKU数売上構成比在庫回転率粗利率利益貢献度判断
プレミアムライン5020%6回/年60%35%✅ 強化
ミドルレンジ20055%8回/年35%55%✅ 維持
エコノミー30025%4回/年15%10%⚠️ 見直し

この分析から、エコノミーラインは売上の25%を占めているものの、利益貢献度はわずか10%しかないことが判明しました。さらに、在庫回転率も低く、在庫コストがかさんでいました。

実施した改善策

  1. エコノミーラインのSKUを300から100に削減
  2. 削減によって浮いたマーケティング予算をプレミアムラインに集中
  3. ミドルレンジからプレミアムへのアップセル導線を強化
  4. プレミアムライン購入者向けのロイヤリティプログラムを開始

結果(1年後)

指標改善前改善後変化
年間売上10億円10.5億円+5%
営業利益率8%15%+87.5%
在庫コスト5000万円3000万円-40%
プレミアムライン売上構成比20%35%+15pt

売上は微増ですが、営業利益率は2倍近くに改善しました。これは、低利益商品を削減し、高利益商品にリソースを集中させた結果です。


マーケターが陥りやすい「利益軽視」の罠とその回避法

ここまで利益重視のマーケティングについて解説してきましたが、実際には多くのマーケターが「利益軽視」の罠に陥ってしまいます。なぜそうなるのか、そしてどう回避すればいいのかを見ていきましょう。

罠1:「バニティメトリクス」に惑わされる

バニティメトリクス(虚栄の指標)とは、見た目は良いけど実際のビジネス成果に結びつかない指標のことです。

バニティメトリクスと本質的指標の対比

バニティメトリクスなぜ危険か代わりに見るべき本質的指標
PV(ページビュー)数見た目の数字は大きいが売上に直結しないコンバージョン率、エンゲージメント率
SNSフォロワー数購買につながるフォロワーかは不明エンゲージメント率、SNS経由の売上
アプリダウンロード数ダウンロード後の利用率が低い場合が多いDAU/MAU、継続率、課金率
メール登録者数開封されないメールアドレスでは意味がない開封率、クリック率、メール経由の購入率

例えば、Instagram広告で「フォロワーが1万人増えました!」と報告しても、そのフォロワーが実際に商品を買ってくれなければ、会社の利益には貢献していません。重要なのは「そのフォロワーがいくら売上に貢献したか」です。

回避法:KPIツリーを作成する

バニティメトリクスに惑わされないためには、最終的な利益から逆算してKPIツリーを作成することが有効です。

graph TD A[営業利益: 1億円/年] --> B[売上: 5億円/年] A --> C[コスト: 4億円/年] B --> D[新規顧客売上: 2億円] B --> E[既存顧客売上: 3億円] D --> F[獲得顧客数: 2000人] D --> G[平均購入単価: 10万円] F --> H[各チャネルのCV数] G --> I[商品ミックスの最適化] C --> J[固定費: 2億円] C --> K[変動費: 2億円] K --> L[広告費: 8000万円] K --> M[その他変動費: 1.2億円] style A fill:#FFD700 style B fill:#90EE90 style C fill:#FFB6C1

このように、最終的な利益から逆算して各指標がどう関連しているかを可視化することで、本当に追うべき指標が明確になります。

罠2:短期的な成果だけを追う

マーケティングの成果には、短期的に現れるものと長期的に現れるものがあります。短期的な成果だけを追いかけると、長期的な利益を損なう可能性があります。

短期施策と長期施策のバランス

施策タイプ効果が出るまでの期間効果の持続期間初期投資代表例
短期施策即日〜1ヶ月投資を止めると効果も停止リスティング広告、ディスプレイ広告
中期施策3〜6ヶ月数ヶ月〜1年程度持続SNSマーケティング、インフルエンサー施策
長期施策6ヶ月〜2年数年間持続、複利的に効果増大SEO、コンテンツマーケティング、ブランディング

理想的なマーケティング予算の配分は、**短期40%、中期30%、長期30%**程度と言われています。しかし、多くの企業は短期施策に80%以上の予算を投下してしまい、結果として長期的な資産を構築できていません。

回避法:3年計画でマーケティングロードマップを作る

短期志向に陥らないためには、3年程度の長期計画を立てて、各年でバランスよく投資することが重要です。

年度短期施策中期施策長期施策期待される成果
1年目60%25%15%即時の売上確保、長期施策の基盤作り
2年目45%30%25%中期施策の効果発現、長期施策の育成
3年目35%30%35%長期施策の本格的な成果、安定した利益構造

このように、年を追うごとに長期施策の比率を増やしていくことで、持続可能な利益構造を作ることができます。

罠3:他社の成功事例を盲目的に真似る

「A社がInstagram広告で成功したから、うちもやろう」という思考は危険です。なぜなら、ビジネスモデル、商品特性、ターゲット層が違えば、同じ施策でも結果は全く異なるからです。

他社事例を参考にする際のチェックポイント

チェック項目自社との比較ポイント判断基準
ビジネスモデルB2B/B2C、単品/サブスク、高単価/低単価類似性が70%以上あるか
ターゲット層年齢、性別、職業、所得層重なる部分が50%以上あるか
商品特性購買頻度、検討期間、購買動機同じカテゴリに属するか
市場環境競合状況、市場成熟度同じ成長フェーズにあるか
経営資源予算規模、人材、ブランド力同等のリソースがあるか

回避法:小さくテストしてから拡大する

他社の成功事例を参考にする場合でも、いきなり大きな予算を投下するのではなく、小さくテストすることが重要です。

  1. 仮説を立てる:なぜその施策が自社でも効果がありそうか、論理的に説明できるか
  2. 小規模テスト:予算の10%程度で1〜2ヶ月テストする
  3. 検証:ROI、CPA、LTVなどの指標で効果を測定する
  4. 判断:効果があれば拡大、なければ撤退または改善
  5. 最適化:拡大しながらも継続的に改善を続ける

経営陣とのコミュニケーション:利益視点で話すための準備

最後に、マーケターにとって重要なスキル「経営陣とのコミュニケーション」について触れておきます。経営陣は基本的に「利益」で物事を判断するので、マーケターも利益視点で話せることが求められます。

経営陣が知りたい5つの質問に答えられるようにする

経営陣がマーケターに聞きたいのは、主にこの5つです。これに明確に答えられるようになりましょう。

経営陣からの5つの質問と準備すべき回答

質問経営陣が知りたいこと準備すべきデータ回答の型
①このマーケティング施策でいくら利益が出るのか投資対効果、リターンROI、利益額、回収期間「投資○○万円で、△△万円の利益が見込めます」
②なぜこの施策に投資すべきなのか優先順位の根拠他施策との比較、機会損失「他の選択肢と比較して、ROIが最も高いためです」
③いつまでに成果が出るのかタイムライン、忍耐期間過去データ、業界ベンチマーク「3ヶ月で損益分岐点、6ヶ月で○%のROI達成見込みです」
④失敗した場合のリスクはダウンサイドリスク最悪シナリオの試算「最悪の場合でも損失は○○万円に限定されます」
⑤この施策は持続可能かスケーラビリティ、再現性Unit Economics、競合動向「Unit Economicsは健全で、規模拡大しても利益率は維持できます」

これらの質問に、具体的な数字を使って答えられるようになれば、経営陣からの信頼は格段に上がります。

報告資料に必ず含めるべき3つの要素

経営陣への報告資料は、以下の3つの要素を含めることで、利益視点の議論がしやすくなります。

効果的な報告資料の構成

要素含めるべき内容目的
①サマリー結論、重要な数字3つ、次のアクション1分で全体像を理解してもらう
②財務インパクト売上、利益、ROI、投資額、回収期間ビジネスへの貢献を定量的に示す
③戦略的意義長期的な資産構築、競合優位性、リスク低減数字だけでは表現できない価値を伝える

特に重要なのは、数字だけでなく、その数字が会社の戦略にどう貢献するかを語ることです。例えば、「SEOで月間100万円の売上が上がりました」だけでなく、「SEO経由の顧客はLTVが高く、広告費をかけずに継続的に集客できるため、長期的な利益の柱になります」といった説明を加えることで、経営陣の理解が深まります。


まとめ:利益を生み出すマーケターになるために

ここまで長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。最後に、本記事のkey takeawaysをまとめます。

Key Takeaways

マーケターの真価は継続的に利益を生み出せるかで決まる。売上を伸ばすことは重要だが、それが利益につながらなければビジネスとして意味がない。経営陣が本当に評価するのは「どれだけ利益に貢献したか」である。

Unit Economics(1単位あたりの経済性)を常に意識する。LTV > CPAという基本を守り、顧客1人あたり、商品1個あたりで利益が出る構造を作ることが、スケーラブルなマーケティングの前提条件である。

ROASではなくROIで施策を評価する。売上対効果(ROAS)が高くても、利益対効果(ROI)が低ければ意味がない。常に粗利率を考慮した利益ベースで判断することが重要である。

短期施策と長期施策のバランスを取る。短期的な売上だけを追いかけるのではなく、長期的な資産(SEO、ブランド、顧客リレーション)を構築することで、持続可能な利益構造を作ることができる。理想的な配分は短期40%、中期30%、長期30%である。

獲得よりもリテンションに投資せよ。新規顧客獲得コストは既存顧客維持コストの5倍かかる。リテンション施策に投資することで、低コストで高い利益を生み出せる。メールマーケティング、ロイヤリティプログラム、カスタマーサクセスなどが有効な手段である。

チャネルごとの収益性を分析し、最適化する。すべてのマーケティングチャネルが同じ効率を持つわけではない。低収益チャネルから撤退または改善し、高収益チャネルに資源を集中させることで、全体の利益率を大きく改善できる。

高利益商品・サービスへの誘導を強化する。商品ポートフォリオの中で、どれが最も利益に貢献しているかを分析し、低利益商品から高利益商品へのアップセル・クロスセルを設計することで、同じ顧客数でも利益を増やせる。

バニティメトリクス(虚栄の指標)に惑わされない。PV数、フォロワー数、ダウンロード数などの見た目が良い指標ではなく、実際の売上や利益に直結する指標(コンバージョン率、LTV、ROIなど)にフォーカスする。

経営陣には利益視点で報告する。「○○万円投資して△△万円の利益が出ます」「ROIは○%です」「回収期間は○ヶ月です」といった具体的な数字で話すことで、経営陣からの信頼を得られる。マーケターはアーティストではなくビジネスパーソンである。

小さくテストしてから拡大する。新しい施策は、いきなり大きな予算を投下するのではなく、10%程度の予算で1〜2ヶ月テストし、ROIが見合うことを確認してから拡大する。失敗のリスクを最小化しながら、成功の可能性を最大化できる。


これらのポイントを実践することで、あなたは「売上は作れるけど利益は出せないマーケター」から「継続的に利益を生み出せるマーケター」へと進化できます。

マーケティングの本質は「顧客に選ばれる確率を高めること」ですが、その先には必ず「会社に利益をもたらすこと」があります。森岡毅氏が言うように、プレファレンス(顧客の好意度)を高めることは重要ですが、それを利益につなげる設計ができて初めて、マーケターとしての価値が認められるのです。

明日から、あなたのマーケティング活動に「利益視点」を取り入れてみてください。最初は難しく感じるかもしれませんが、数字と向き合い続けることで、必ず利益を生み出せるマーケターになれるはずです。

この記事が、あなたのマーケティングキャリアの一助となれば幸いです。

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この記事を書いた人
tomihey

本ブログの著者のtomiheyです。失敗から学び続けてきたマーケターです。
BtoB、BtoC問わず、デジタルマーケティング×ブランド戦略の領域で14年間約200ブランド(分析数のみなら500ブランド以上)のマーケティングに関わり、「なぜあの商品は売れて、この商品は売れないのか」の再現性を見抜くスキルが身につきました。
本ブログでは「理論は知ってるけど、実際どうやるの?」というマーケターの悩みを解決するノウハウや、実際のブランド分析事例を紹介しています。
現在はマーケティング戦略/戦術の支援も実施していますので、詳しくは下記リンクからご確認ください。一緒に「売れる理由」を解明していきましょう!

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