はじめに
マーケティングの世界では、消費者に知ってもらい、買いたいときに買える環境にあり、競合他社や代替手段がある中で選択肢に選ばれ、最終単に消費者に「選ばれる」ことが何よりも重要です。そのための指標となるのが「プレファレンス」です。本記事では、プレファレンスの定義、その重要性、そして向上させるための具体的な戦略について詳しく解説します。
プレファレンスとは?
プレファレンスとは、消費者が特定のブランドや商品を他の選択肢よりも好む確率、つまり他ブランドと比較した時の相対的好意度のことを指します。マーケティングにおいては、プレファレンスが高いほど、ブランドが選ばれる確率が上がり、売上に直結します。消費者の頭の中で行われる「脳内サイコロ」の出目のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。
プレファレンスが高いほど、消費者はブランドに対してポジティブな印象を持ち、リピート購入や推奨に繋がりやすくなります。特に競争が激しい市場においては、プレファレンスが他社との差別化のカギとなります。
例えばシャンプーで考えると、Aさんという一人の人がシャンプーを1年間で10回買い換えるとします。その人の脳内にあるシャンプーブランドの選択肢はブランドA、ブランドB、ブランドCがあります。まずこの選択肢に入るためにプレファレンスの高さが重要です。ここの入らなければ買われません。
そしてこの選択肢に入ってからも、選択肢の中から最終的に選ばれる必要があります。この時の消費者の脳内では、1年間で10回サイコロを振ってブランドを選んでいくような作業が毎回行われています。そしてそれぞれのブランドが毎回選ばれる確率が60%、20%、20%というような確率が決まっています。つまり10面のあるサイコロを振って、そのうち6個はブランドAの面、2個はブランドBの面、残り2個はブランドCの面になっていて、10回振ってブランドを選んでいるのです。
ブランドを最終的に選ばれるこの確率をいかに上げられるかが肝になってきます。これ自体もプレファレンス(相対的好意度)がドライバーとなっています。
プレファレンスの重要性
市場における3つの要素
市場におけるブランドの成功を決める要素は、以下の3つしかありません。
- 認知率(ブランドを知っている消費者の割合)
- 例)USJはTVCM、テジマ、PRで全国認知90%を叩き出した
- 配荷率(商品が市場に流通している割合)
- 例)サントリーがジムビームを買収し、世界的な販売チャネルを手に入れた
- 例)パンテーンの配荷率は100%だったが、各店舗ごとに消費者のプレファレンスを鑑みてSKUを変えて配荷の質を変えていった
- プレファレンス(消費者がそのブランドを好む確率)
- 例)USJはMを増やすために映画のテーマパークから世界最高のセレクトショップに転換。つまり様々なIP(キャラクター)を扱い、ハロウィーンなどの時期ごとの施策などにより、ファミリーやカップル、友人同士など幅広いターゲットなどが増えた。
- 例)ディズニーもプレファレンスを増やすためのインディージョーンズやスターウォーズを取り入れた。
この中でも、プレファレンスの向上が最も売上を伸ばすための鍵となります。なぜなら、認知率は莫大なお金も時間もかかり、常に露出を続けないと効果は低減していきますし、配荷率も物理的な棚や販売チャネルも限られている一方、プレファレンスが高ければ、配荷率も上げやすく、認知されているブランドの中から自社が選ばれる確率が上がるからです。
森岡毅氏が語るプレファレンスの重要性
森岡毅氏(元USJ CMO)は、プレファレンスの向上こそがマーケティング戦略の中心であると述べています。彼は「消費者はブランドの選択において脳内でサイコロを振る」とし、プレファレンスを高めることでその確率を自社に有利に変えるべきだと主張しています。よってマーケターが日々注力すべき活動はプレファレンスの向上であると述べています。
また、彼は「狭いターゲティングありきの考え方がプレファレンスの拡大を阻害することがある」と述べ、ブランドが幅広い層に受け入れられるためのブランド設計と戦略が重要であることを強調しています。
プレファレンスを向上させるための戦略
では実際にプレファレンスを向上させるためにはどのような策を取れば良いのでしょうか。
広いターゲットを狙う
従来の「ターゲティングありき」のマーケティング戦略は、プレファレンスを縮小させる可能性があります。特定の層に絞ることで短期的な効率は良くなるかもしれませんが、長期的に市場全体のプレファレンスを拡大するには「できるだけ広く売る」戦略が必要です。
製品パフォーマンスの強化
製品が提供する機能的な価値のことです。例えば白物家電、保険、、BtoBビジネス、医薬品などは機能的に自身の課題が解決できるかで消費者は選びます。ただし下記表の右に該当するものは情緒的な要素をもとに選択されるため自身が扱っている商品がどちらに属するのかを見極めてマーケティングをすることが重要です。

ブランドエクイティを強化する
プレファレンスを決定する大きな要素は、ブランドエクイティ(消費者の頭の中にあるブランドのイメージ)です。これを強化するには、次の3つの要素が該当するかどうかが重要です。
- カスタマーバリュー(消費者にとっての価値)
- カンパニーエッジ(競争優位性)
- コンペティティブディフェンス(競争防御)
その上で、その価値を誰にどうやって届けるのかをエクイティピラミッドを使い整理していきます。

このWho/What/Howの組み合わせがプレファレンス(相対的好意度)を決めるため、深い消費者理解をし、自社にとって有利なWhatを見つけ、届けていくことが必要です。
3.3 STC(Setting The Context)を活用する
STCとは、消費者がブランドの便益を最大限に感じられる文脈を設定する手法です。例えば、除菌ウェットティッシュを単に「清潔にするもの」と訴求するのではなく、「ドライブスルーのシーンで手を拭くために便利」と具体的な使用場面を設定することで、より強いプレファレンスを生み出せます。
プレファレンスを高めた成功事例
USJのブランド再構築

USJは元々「ハリウッド映画のテーマパーク」としてブランディングされていましたが、それが消費者のプレファレンスを限定的にしていました。そこで、ターゲットを「映画ファン」に限定せず、「家族」「カップル」「アニメ好き」など広げることで、圧倒的な集客を実現しました。
公式サイト:https://www.usj.co.jp/web/ja/jp
高血圧症クリニックのイーメディカル

イーメディカルは「通院しなくても高血圧症のリスク管理ができる」という便益を提供し、消費者のプレファレンスを高めることに成功しました。消費者の本能(健康を維持したいが、面倒な手続きを避けたい)に訴求し、プレファレンスを向上させた例です。
公式サイト:https://e-medicaljapan.co.jp/
まとめ
プレファレンスは、単なるブランド認知を超えて、消費者に「選ばれる確率」を高めるための極めて重要な指標です。認知率や配荷率を上げるだけではブランドの成長は見込めず、いかに消費者に選ばれるブランドになるかが鍵となります。そのためには、ターゲットを広げつつブランドエクイティを強化し、消費者の本能に刺さるマーケティング戦略を構築することが求められます。成功事例(USJ・イーメディカル)を参考にしながら、プレファレンス向上に経営資源を集中させ、競争の激しい市場での優位性を確立していきましょう。