はじめに
あなたは自社の商品やサービスの売上を伸ばすために日々奮闘していませんか?競合他社との差別化に悩み、効果的なマーケティング戦略を模索しているのではないでしょうか。そんなあなたにとって、世界最大の消費財メーカーであるP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)のマーケティング手法を学ぶことは、大きなヒントになるはずです。
本記事では、P&Gのマーケティング戦略の核心に迫り、その強さの秘密を解き明かします。P&Gとは何か、その規模感、有名な商品の分析、そしてP&Gが生み出した優秀なマーケターたちの事例を通じて、あなたのビジネスに活かせる具体的な施策を提案します。
P&Gとは

P&Gは1837年に創業された、アメリカ合衆国オハイオ州シンシナティに本社を置く世界最大の一般消費財メーカーです。洗剤や紙製品、化粧品など、私たちの日常生活に欠かせない製品を多数生み出しています。
公式サイト:https://jp.pg.com/
P&Gの特徴は以下の通りです:
特徴 | 詳細 |
---|---|
グローバル展開 | 180カ国以上で事業展開 |
顧客基盤 | 世界人口の約70%(48億人)が顧客 |
ブランド数 | 65以上のリーディングブランドを保有 |
人材育成力 | 世界有数の人材育成企業として定評あり |
P&Gは単なる製品メーカーではなく、マーケティングのプロフェッショナル集団としても知られています。その戦略と手法は、多くの企業が参考にする「マーケティングの教科書」とも言えるでしょう。
P&G出身の有名なマーケター
P&Gで培われたマーケティングスキルは、他の業界でも高く評価されています。P&G出身者は「P&Gマフィア」と呼ばれ、様々な分野で活躍しています。
代表的な人物を紹介します:
名前 | 主な実績 |
---|---|
森岡毅氏 | ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のV字回復を実現 |
西口一希氏 | ロクシタンジャパン社長、スマートニュースのグロース戦略を担当 |
足立光氏 | 日本マクドナルドのCMO、ファミリーマートのCMOを歴任 |
音部大輔氏 | 元資生堂CMO、現在はパーセプションフローモデルの啓発をリード |
これらのマーケターたちは、P&Gで学んだ「コア&モア戦略」を基盤に、それぞれの業界で大きな成果を上げています。(コア&モア戦略については後ほど解説します。)
P&Gの世界と日本の売上
P&Gの規模感を理解するために、売上高を見てみましょう。
地域 | 売上高 |
---|---|
世界全体 | 840億ドル(約12兆6000億円)※2024年度 |
日本 | 2845億3500万円(2019年6月30日時点) |
これらの数字から、P&Gが世界的に見ても非常に大きな企業であり、日本市場でも重要な位置を占めていることがわかります。
コア&モア戦略の基本概念
コア&モア戦略は、P&G出身のマーケターたちが実践している効果的なマーケティング手法です。コア&モア戦略とは、企業やブランドの核となる「コア」を定めて強化しつつ、同時に新たな顧客層や市場である「モア」を開拓していく戦略です。
戦略の主要要素
- コア戦略
- 既存の顧客基盤(コアファン)を維持・強化
- 顧客単価の向上を図る
- 既存商品の深掘りや改良に注力
- モア戦略
- 新規顧客層の開拓
- 新製品開発や新しいマーケティングチャネルの活用
- ブランドの拡張や新しい市場への進出
実践例
吉野家の事例
- コア戦略:
- 「小盛」と「超特盛」の導入
- ライザップとのコラボ商品開発
- モア戦略:
- 「C&C」型店舗の展開(女性・ファミリー層向け)
- テイクアウト全品80円引きの実施
- ポケモンとのコラボ商品「ポケ盛」の販売
USJの事例(森岡毅氏)
- コア戦略:
- 既存のコアファンの維持
- モア戦略:
- ファミリー層の取り込み
- 「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」の導入による全国・海外からの集客
戦略の効果
- 既存顧客の来店頻度向上と新規顧客層の獲得による二重の効果
- ブランドの軸をぶらさずに成長を進められる
- 長期的な成長と安定した収益の確保
実施のポイント
- コアとモアを明確に定義し、戦略的に展開する
- コア商品にリソースを集中させる
- モア商品は既存品とカニバリゼーションを起こさないよう差別化する
- データドリブンな意思決定と長期的視点を持つ
- クロスファンクショナルな協働を促進する
- グローバル戦略とローカル戦略を適切に融合させる
コア&モア戦略は、既存の強みを活かしながら新たな成長機会を追求する効果的なアプローチとして、様々な業界で成功を収めています。
P&Gの有名な商品のWho/What/How
P&Gの商品戦略を理解するために、代表的な製品を「Who(誰に)」「What(何を)」「How(どのように)」の観点から分析してみましょう。
パンテーン(ヘアケア製品)
Who(誰に)
- 対象顧客:美しい髪を求める20-40代の女性
- JOB(欲求):
- きっかけ:髪の悩み(ダメージ、パサつき、ツヤの欠如など)を感じる
- 欲求:健康的で美しい髪を手に入れたい
- 抑圧:時間や手間をかけずに効果的なヘアケアを行いたい
- 報酬:自信を持って髪を披露できる、周囲からの称賛を得られる
What(何を)
- 便益:科学的に証明された髪の健康と美しさを提供
- 独自性:独自の栄養成分配合による効果的なヘアケア
- RTB(根拠):
- 長年の研究開発による科学的なアプローチ
- 美容専門家との連携による信頼性
How(どのように)
- コミュニケーション:
- テレビCMや雑誌広告での美しい髪のビジュアル訴求
- 美容専門家や有名人を起用したプロモーション
- プロダクト:
- シャンプー、コンディショナー、トリートメントなどの製品ライン
- 様々な髪質や悩みに対応した製品バリエーション
- 場所:
- ドラッグストア、スーパーマーケット、オンラインショップ
- 価格:
- 中~高価格帯(プレミアム感の演出)
SK-II(スキンケア製品)
Who(誰に)
- 対象顧客:プレミアムなスキンケアを求める30-50代の女性
- JOB(欲求):
- きっかけ:年齢とともに現れる肌の悩み(シワ、シミ、ハリの低下など)
- 欲求:若々しく美しい肌を維持したい
- 抑圧:高価格や複雑なケア方法への抵抗感
- 報酬:自信を持って素肌を見せられる、年齢を感じさせない美しさを手に入れる
What(何を)
- 便益:肌本来の力を引き出す、効果的なエイジングケア
- 独自性:ピテラ™という独自成分による卓越した効果
- RTB(根拠):
- 長年の研究による独自成分の開発
- 臨床試験による効果の実証
How(どのように)
- コミュニケーション:
- 高級感のあるビジュアルを用いた広告
- セレブリティを起用したグローバルキャンペーン
- プロダクト:
- 化粧水「フェイシャルトリートメントエッセンス」を中心とした製品ライン
- 高級感のあるパッケージデザイン
- 場所:
- 百貨店、専門店、オンラインショップ
- 価格:
- 高価格帯(プレステージ感の演出)
パンパース(紙おむつ)
Who(誰に)
- 対象顧客:新生児から幼児を持つ親(主に母親)
- JOB(欲求):
- きっかけ:赤ちゃんの肌トラブルや夜泣きの悩み
- 欲求:赤ちゃんの快適さと健康を確保したい
- 抑圧:頻繁なおむつ交換の手間、コストへの懸念
- 報酬:赤ちゃんの快適な睡眠、肌トラブルの軽減、育児の負担軽減
What(何を)
- 便益:赤ちゃんの快適さと親の安心を提供
- 独自性:高い吸収力と通気性を兼ね備えた技術
- RTB(根拠):
- 長年の研究開発による製品改良
- 小児科医や助産師との連携による信頼性
How(どのように)
- コミュニケーション:
- 赤ちゃんの健やかな成長を強調したテレビCM
- 育児情報サイトやSNSを通じた情報提供
- プロダクト:
- 新生児から幼児まで、成長段階に合わせた製品ライン
- 肌への優しさと高い吸収力を両立した設計
- 場所:
- ドラッグストア、スーパーマーケット、オンラインショップ
- 価格:
- 中~高価格帯(品質の高さを反映)
これらの分析から、P&Gが各製品において明確なターゲット顧客とそのニーズを定義し、独自の価値提案と効果的な提供方法を確立していることがわかります。この戦略により、P&Gは競争の激しい市場で強力なブランドポジションを維持しています。
P&Gが作る商品売れる9つの理由
P&Gの商品が継続的に売れ続ける理由には、いくつかの重要な要因があります。
1: コア&モア戦略
P&Gは先述の「コア&モア戦略」と呼ばれる独自のアプローチを採用しています。既存の顧客(コア)を大切にしながら、新しい顧客層(モア)を開拓する戦略です。
この戦略により、P&Gは安定した収益を確保しながら、市場シェアを拡大することができています。
2: 徹底的な消費者理解
P&Gは消費者理解に徹底的にこだわっています。年間100万人以上の消費者と対話し、エスノグラフィー(消費者の日常生活観察)やビッグデータ分析を通じて、顧客の潜在的なニーズを発見しています。「Consumer is Boss(消費者が上司)」というスローガンのもと、消費者が本当に必要としているものを判断の軸としています。
3: 科学的アプローチ
P&Gは科学的なアプローチを用いて製品開発やマーケティングを行っています。具体的には以下のような手法を活用しています:
- A/Bテスト:広告や製品パッケージの効果を科学的に検証
- 神経科学の活用:脳の反応を測定し、広告の効果を最適化
- 行動経済学の応用:消費者の意思決定プロセスを深く理解
4: ブランド管理の徹底
P&Gは各ブランドに専任のブランドマネージャーを配置し、一貫したブランドメッセージを維持しています。短期的な売上よりもブランド価値の向上を重視し、長期的な視点でブランドを育成しています。
5: イノベーションへの投資
P&Gは研究開発に多額の投資を行い、常に新しい製品や技術の開発に取り組んでいます。年間約20億ドルの研究開発費を投じ、外部パートナーとの協業も積極的に行っています。
6: 明確なターゲティングと製品ポジショニング
P&Gは「The P&G Marketing Framework」と呼ばれるブランド構築フレームワークを用いて、WHO(誰に)、WHAT(何を)、HOW(どのように)という3つの視点を明確に定義しています。これにより、各製品の明確なターゲットと価値提案を設定しています。
7: グローバル戦略とローカル適応の両立
P&Gはグローバルで一貫したブランド戦略を維持しながら、各国の文化や習慣に合わせたローカライズを行っています。これにより、世界中の消費者のニーズに応える製品を提供しています。
8: 持続可能性への取り組み
P&Gは環境に配慮した製品開発や、社会的責任を果たすCSR活動にも積極的に取り組んでいます。これにより、消費者からの信頼を獲得し、ブランド価値を高めています。
9: データドリブンな意思決定
P&Gはマーケットミックスモデリングや予測分析などのデータ分析手法を活用し、効果的なマーケティング施策を展開しています。また、リアルタイムマーケティングにより、データに基づく即時の戦略調整を行っています。
これらの要因が相互に作用し合うことで、P&Gは常に市場をリードする製品を生み出し、消費者の支持を獲得し続けているのです。
P&Gからマーケターが学ぶべきこと
P&Gのマーケティング手法から、以下のようなポイントを学ぶことができます。
- Job(顧客の課題)の発見と解決
P&Gは、顧客が抱える本質的な課題(Job)を発見し、それを解決することをマーケティングの核心と考えています。
- データドリブンな意思決定
手法 | 説明 |
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マーケットミックスモデリング | 広告効果の定量的分析 |
予測分析 | 機械学習を用いた需要予測 |
リアルタイムマーケティング | データに基づく即時の戦略調整 |
- ブランドエクイティの構築
戦略 | 内容 |
---|---|
ブランドアーキテクチャ | 製品ラインの戦略的構築 |
エモーショナルブランディング | 感情的つながりの創出 |
パーパスドリブンマーケティング | 社会的意義を持つブランド構築 |
- 顧客接点の最適化
P&Gは、顧客との接点を「モーメント・オブ・トゥルース」と呼び、それぞれの接点を最適化することに注力しています。
- 長期的視点
P&Gは短期的な売上よりも、長期的なブランド価値の向上を重視しています。これにより、持続可能な成長を実現しています。
- クロスファンクショナルな協働
マーケティング部門だけでなく、研究開発、製造、販売など、様々な部門が協力してブランド価値を高めています。
- グローバル戦略とローカル戦略の融合
P&Gは、グローバルで一貫したブランドメッセージを維持しながら、各国の文化や習慣に合わせたローカライズを行っています。
まとめ
P&Gのマーケティング戦略から学べるkey takeawaysは以下の通りです:
- 徹底的な消費者理解と科学的アプローチが成功の基盤
- 「コア&モア戦略」による既存顧客の維持と新規顧客の開拓
- データドリブンな意思決定と長期的視点によるブランド価値の向上
- 顧客の本質的な課題(Job)の発見と解決に注力
- クロスファンクショナルな協働とグローバル・ローカル戦略の融合
P&Gのマーケティング手法は、規模の大小に関わらず、あらゆるビジネスに応用可能です。自社の状況に合わせてこれらの戦略を取り入れることで、より効果的なマーケティング活動を展開できるでしょう。
最後に、マーケティングは常に進化し続ける分野です。P&Gの成功事例を参考にしつつ、自社独自の強みを活かした戦略を構築することが重要です。継続的な学習と実践を通じて、あなたのビジネスも成長を遂げることができるはずです。