はじめに
マーケティングの現場ではさまざまな施策が同時に走りがちで、日々の運用に追われるうちに「そもそもの目的は何だったのか」「効果検証をしっかりやったか」があいまいになってしまうケースがあります。そんなときに役立つフレームワークがPDCAサイクルです。
PDCAはPlan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)の頭文字をとったもので、ビジネスの基礎的な用語として当たり前のスキルとして多くの場面で聞くと思いますが、正しく理解し実践できている人は意外と少ないのが現実です。
本記事では、「今さら聞けないPDCAとはそもそも何か」「なぜPDCAが重要か」「PDCAサイクルで陥りがちな罠」「適切なPDCAの回し方」「マーケティングでの具体例」について、わかりやすく解説していきます。
今さら聞けない「PDCA」とは
- PDCAの定義
PDCAとは、業務や施策を継続的に改善するためのプロセスを表すフレームワークです。それぞれのステップは以下のように整理できます。- Plan(計画):施策の目標設定、課題の仮説立案、具体的なアクションプランの策定
- Do(実行):Planで立てた施策・アクションを実行
- Check(評価):実行結果をデータや指標で検証・評価
- Action(改善):評価結果に基づき施策を改善、次のPDCAにつなげる
- PDCAの背景と歴史
元々、品質管理の分野で活用されてきた考え方で、現在では製造業だけでなくマーケティングやプロジェクト管理などさまざまな領域で広く利用されています。
PDCAはなぜ重要か
- 継続的な改善を可能にする
- 現代のマーケティング環境は常に変化しています。PDCAサイクルを回すことで、変化に柔軟に対応しながら継続的に施策を最適化することができます。
- 根拠ある施策の実行と検証
- PDCAではPlanとCheckという「仮説を立てる」「検証する」プロセスが含まれています。これにより、思いつきや勘に頼るのではなく、データや論理的思考に基づいた施策運用ができるようになります。
- 成果最大化とリソース効率化
- 施策を打ちっぱなしにせず、必ず評価・改善を行うことで、投下した資源(人・予算)を最大限活用し、より高い成果につなげられます。
現場でよく陥るPDCAのパターン
基本、PDCAができていない人、組織はこの5つのどれかに陥っている場合がほとんどです。特に1と2が多いと考えています。
- 「DばかりしてCをしない」
- 施策を打ったが効果検証は後回しで、そのまま次の施策を実行し続ける。
- 結果的に、改善ポイントを把握できず同じ失敗を繰り返す。
- 「Cを想定しない」
- Planを立てるときに、計測指標(KPIやKGI)やデータ取得の方法を十分に考慮していない。
- いざCheckをしようとしても評価材料が不足してしまい、具体的な改善策を導けない。
- 「そもそもPlanが曖昧」
- アクションプランが具体的でなかったり、目標が数値化されていなかったりする。
- あいまいな計画は検証も曖昧になり、次につながる学びが得られない。
- 「Actionに落とし込まれていない」
- Checkまでは行うが、得られた学びを実際の改善策にまで結びつけない。
- データ分析やフィードバックが形だけに終わり、具体的な次のアクションが不明確。
- 「PDCAの形骸化」
- 「PDCAを回している」という報告ばかりで、実際にはPlanやCheckの質が高くない。
- 形式的にPDCAを実施しているため、成果につながる学習・改善のサイクルが機能しない。
適切なPDCAの回し方
1. Plan(計画)で明確な仮説と指標を設定する
決めること | 詳細 | マーケティング事例 |
---|---|---|
課題の特定 | データ分析で根本課題を抽出 | 新規顧客獲得数が目標の60%止まり→広告CTR低下が主因と判明しアクションの仮説を立てる |
目的の明確化 | 課題はなんのために解決するのかを明確化 | 新規顧客獲得数の増加 |
SMART目標設定 | 数値化可能な目標を期限付きで設定 | 3ヶ月でLPコンバージョン率を2.8%→4.5%に改善 |
アクションプラン | 誰向けに(Who)、どんな施策・どの人が担当で・いつまでにの期限を設計 | ・未顧客の準顕在層向けにA/Bテスト実施(Webチーム:2週間) ・インフルエンサー起用(SNS班:1ヶ月) |
リソース配分 | 予算/人材/ツールを現実的に配分 | 予算300万円(広告費60%・コンテンツ制作40%)、分析ツール導入、外部コンサルタント招聘 |
KPI体系構築 | プロセスと結果の指標を階層化&成功/失敗の評価基準設定 | ・リード獲得単価(CPA):5万円(失敗基準8万円) ・MQL(マーケティング認定リード)数:50件 ・顧客生涯価値(LTV):100万円 |
KPI計測方法 | KPIをどこでどのように計測するのかを決定 | ・HubspotのAレポートにてKPI測定 |
タイムライン設計 | マイルストーンと進捗確認日を設定 | 第1週:ペルソナ再定義 第4週:広告クリエイティブ刷新 第8週:チャネル最適化 |
リスクマネジメント | 想定リスクと対応策を事前に策定 | 広告掲載拒否リスク→代替媒体リスト作成 / 炎上リスク→危機管理マニュアル整備 |
特にここで抜けがちなのが、誰向けの施策なのか、成功/失敗のラインはどこか、KPIをどう計測するのか、リスクに対しての対策だと考えています。まず誰向けのどんな課題を持った人向けの施策なのかが不明確であればあるほど施策は丸くなり、誰にも刺さらなくなります。また、成功ラインや失敗ラインを決めずに実行をすると、結局良かったのか悪かったのか、悪い時に途中で施策を止める判断などができなくなってしまいます。さらにKPIの計測方法を構築せずに走り出すと正確な成果が測れませんのでPDCAのCが非常にしずらくなってしまいます。最後にリスクと対策を想定しておかないと、いざ実施してみたら対処ができないことが多いです。
よって、上記の項目を言語化し、各種設定したら初めてDoに移るのが理想です。ただし、企画に時間をかけすぎてDoに移るのが遅くなってしまうというシーンも見かけますが、その場合はAIを使うなどで企画書自体の精度とスピードの両方を向上させるなどして実行まで持っていくのがのをお勧めします。
2. Do(実行)で計画通りに施策を進める
- 計画と実行の差異を常にモニタリングする。
- 進行中に問題が発生したら必要最低限の修正を行うが、途中から目的や指標を大幅に変えすぎない。
- 担当者同士で進捗や数値を共有し、早期発見・早期対応を徹底する。
3. Check(評価)で指標に基づいて客観的に検証する
- PV数、UU数、CV数、CPAなどのデータを集計し、目標に対してどこまで達成できたかを評価する。
- 訂正すべき仮説があれば、どの部分が想定とずれていたかを把握し、仮説の原因をまとめる。
- 数値の評価だけでなく、ユーザーからのフィードバックやSNS上の反応など定性的な評価も確認する。
- 結果が出やすいデータと出にくいデータがあるので、どの期間・指標を主に確認するのかをあらかじめ決めておく。
- 仮説の原因から仮説の改善策を考案する。
4. Action(改善)で次の施策に活かす
- Checkの結果に応じて、仮説の改善Planを企画し、再調整する(数値目標やターゲットの見直し、クリエイティブの変更など)。
- 改善ポイントをチーム内で共有し、次のサイクルで同じ失敗を繰り返さないようにする。
- 必要に応じて新たな指標やテスト項目を追加し、継続的に施策をブラッシュアップしていく。
- 改善策が次のPlanへ具体的に落とし込まれているかを必ず確認し、アクションが曖昧にならないように注意する。
PDCA活用の例(マーケティング施策)
- Web広告運用の例
- Plan:月間のCPA目標を2,000円以下に設定、想定CVRは2%を目指す。ターゲットセグメントとクリエイティブの仮説を立てる。
- Do:Google広告でセグメントA向けとセグメントB向けの2種類の広告を出稿する。ランディングページ(LP)を2パターン用意しA/Bテストを同時進行。
- Check:1週間後にデータを確認し、CPAとCVRの数値を分析する。セグメントAの方がCPAが低いが、CVRはBの方が高い、といった差分を把握。
- Action:CPAが低いAの広告を予算強化し、CVRが高いBのLPをAにも活用できないか検討する。クリエイティブやターゲティング、LP内容を微調整する。
- SNSマーケティングの例
- Plan:Instagramでフォロワー数を毎月5%増やす。キャンペーン投稿でいいね数と保存数をKPIに設定。
- Do:週2回の投稿スケジュールを作成し、コンテンツテーマを「顧客事例」と「商品活用術」で分ける。
- Check:投稿のインサイトを分析し、どのテーマが反応が高かったかを評価する。
- Action:反応が良かったテーマをさらに深掘りしたコンテンツを企画し、次月の投稿計画に反映する。
PDCAチェック表:すぐに使える項目
自分たちのPDCAが正しく回っているかを一目で確認できるチェックシートをぜひ活用ください。各ステップの項目をチェックし、問題があればすぐに改善策を検討・実行しましょう。
ステップ | チェック項目 | ○ / × |
---|---|---|
Plan | 目標値(KPI・KGIなど)が明確に設定されているか | |
計画の目的・コンセプトが明確で、誰に何をどのように提供するのかが言語化されているか | ||
仮説や想定結果を明文化し、なぜその方法を取るのか根拠も示されているか | ||
予算や担当者、スケジュール、必要リソースが具体的に設定されているか | ||
成功・失敗を判断するための数値基準や閾値を設定しているか | ||
Do | 計画通りに施策を進めており、急な方針転換をしていないか | |
担当者間で進捗を共有し、問題があれば早期に報告・修正しているか | ||
実行するだけでなく、随時モニタリングしながら当初の計画との差を把握しているか | ||
Check | 定量的指標(PV、CV数、CPAなど)をきちんと測定し、目標と比較できているか | |
定性的指標(ユーザーの声、SNS反応など)も確認し、数値以外の視点でも評価しているか | ||
仮説と現実のズレがどこにあるかを分析し、原因を特定しようとしているか | ||
Action | Checkの結果に応じて次に取るべきアクションが具体化されているか | |
改善点をチーム内で共有し、次の施策に反映するスケジュールや優先度が決まっているか | ||
学習した内容やナレッジをドキュメント化して、繰り返し活用できるようにしているか |
まとめ
PDCAサイクルは、ビジネスにおいて基本かつ強力なフレームワークです。特にマーケティングの分野では、施策が多岐にわたり常に結果を求められるため、PDCAを正しく回すことが成果につながる大きな鍵となります。
- PDCAとは?
計画(Plan)→ 実行(Do)→ 評価(Check)→ 改善(Action)を繰り返して継続的に最適化するプロセス。 - なぜ重要?
環境変化に素早く対応し、データに基づき効率的にリソースを活用するため。 - 陥りがちな罠
DばかりでCをしない、Cを想定せずに計画を立ててしまうなど。 - 適切に回すコツ
仮説と指標を具体的に設定し、都度の評価を定量・定性で行い、改善策を次のプランに組み込むこと。
これからPDCAを使って施策を回していく方は、上記ポイントを押さえながら、自社やクライアントの状況に合わせて柔軟に応用してみてください。データに基づいて改善を繰り返していけば、必ずや成果につながるはずです。