外の目で再発見:自社・商品の隠れた魅力を活かすマーケティング手法 - 勝手にマーケティング分析
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外の目で再発見:自社・商品の隠れた魅力を活かすマーケティング手法

外の目で再発見: 自社・商品の隠れた魅力を活かすマーケティング手法 マーケの応用を学ぶ
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はじめに

「うちの商品の何が良いのかわからない」「差別化ポイントがうまく訴求できない」「なぜか売れる商品と売れない商品がある」

このような悩みを抱えるマーケターは少なくありません。実は、その解決の鍵は意外なところにあります。魚が水に気づかないように、私たちは自社や自社商品の本当の魅力に気づいていないことが多いのです。

私たちは毎日自社の商品やサービスに接しているため、その真の価値や独自性を客観的に評価することが難しくなります。これは「企業近視眼(マーケティング・マイオピア)」と呼ばれる現象です。自社の強みや魅力は、外部の視点を取り入れてこそ、初めて明確になることが少なくありません。

本記事では、なぜ自社や自社商品の魅力が内部の人間には見えにくいのか、外部視点を取り入れることでどのようなメリットがあるのか、そして外部視点を効果的に獲得・活用するための具体的な方法について詳しく解説します。

なぜ自社の魅力は自分では気づきにくいのか

慣れによる感覚の鈍化

私たちは毎日同じ環境で同じ商品やサービスに接していると、その特長や魅力に対する感度が鈍くなります。これは心理学でいう「順応(adaptation)」という現象です。

例えば、特徴的な香りのある店舗で働いている人は、その香りに慣れてしまい、来店した顧客が最初に感じる「特別な香り」という体験に気づきにくくなります。同様に、自社製品の使いやすさや独自機能も、毎日使っているうちに「当たり前」になってしまい、それが実は大きな差別化ポイントであることに気づかないのです。

内部視点バイアス

マーケターを含む企業の内部の人間は、商品やサービスが開発された背景や技術的詳細を知っているため、消費者視点とは異なる「内部視点バイアス」に陥りがちです。

例えば、ある機能の開発に多大なリソースを投入したという背景から、その機能を過度に重視してしまい、実際に消費者が価値を感じる別の特長を見落としてしまうことがあります。

内部視点外部視点
技術やスペックを重視使用感や解決される問題を重視
投入リソースで価値判断得られるベネフィットで価値判断
作り手の意図を前提使い手の体験を優先
細部や専門知識に注目全体的な印象や感覚で判断
長所・短所の両方を認識特に印象的な要素のみに注目

自社の当たり前は他社の差別化ポイント

自社内では「当たり前」と思っていることが、実は業界内でも稀有な特長であることも少なくありません。これは「企業文化の透明性」とも呼ばれる現象です。

例えば、あるIT企業では「24時間体制のカスタマーサポート」を提供していましたが、社内では「当然のサービス」と考えられており、マーケティング資料でもほとんど触れられていませんでした。しかし、顧客調査を行ったところ、この24時間サポートが競合他社との大きな差別化ポイントとなっていることが判明したのです。

外部視点がもたらす具体的なメリット

隠れた強みの発見

外部視点を取り入れることで、自社内では見落としていた強みや差別化ポイントを発見できます。

事例:アップルの「シンプルさ」

スティーブ・ジョブズがアップルに復帰した際、同社の製品ラインナップを大幅に整理し、シンプルさを重視した戦略に転換しました。それまでアップル内部では技術的な優位性を強調する傾向がありましたが、ジョブズは外部の視点から「シンプルさ」と「使いやすさ」こそがアップルの最大の差別化ポイントになると判断したのです。

実際の顧客価値の把握

顧客が本当に価値を感じている要素は、開発者やマーケターが想定しているものとは異なることがよくあります。

事例:Duolingoのストリーク機能

語学学習アプリのDuolingoは、当初は学習コンテンツの質とゲーミフィケーション要素全般に注力していましたが、ユーザー調査を通じて「ストリーク(連続学習日数)」機能が特に強い習慣形成効果を持っていることを発見しました。この発見を受けて、ストリーク機能をより目立たせ、通知システムと連携させることで、ユーザーエンゲージメントが大幅に向上しました。

表:Duolingoが重視していた要素と実際に顧客が価値を感じていた要素

内部視点で重視していた要素外部視点で発見された価値
学習コンテンツの質ストリーク(連続学習日数)機能
ゲーミフィケーション要素全般「途切れさせたくない」という心理的動機
言語習得の実用性毎日の小さな達成感
多言語対応シンプルな操作性

マーケティングメッセージの刷新

外部視点を取り入れることで、より顧客に響くマーケティングメッセージを構築できます。

森岡毅氏(元USJマーケティング責任者)は著書「確率思考の戦略論」で、顧客の視点から価値を再定義することの重要性を強調しています。USJの再建に際して、内部で語られていた「アトラクションの数」や「施設の広さ」ではなく、顧客が本当に求めていた「非日常的な体験」や「驚きと感動」に焦点を当てたマーケティングに転換したことが成功の鍵となりました。

外部視点を獲得するための実践的な方法

顧客インタビューとオルタネイトモデルの活用

顧客インタビューは外部視点を獲得する最も直接的な方法です。特に「オルタネイトモデル」を活用すると、顧客の潜在的な欲求や行動の背景まで深く理解することができます。

オルタネイトモデルとは: 顧客の行動を「きっかけ・欲求・抑圧・行動・報酬」に整理し、顧客の真のニーズを理解するフレームワークです。

実践ステップ:

  1. インタビュー対象者の選定:現在の顧客、潜在顧客、元顧客など多様な視点を取り入れる
  2. 質問の設計:「なぜ」を5回繰り返すなど、深層心理を探る質問を用意する
  3. オルタネイトモデルの適用:以下の要素を明確化する
要素説明質問例
きっかけいつ、どこで、誰と、何をしている時に行動が起こるか「いつ私たちの商品を使いますか?」
欲求どんな問題を解決したいのか、達成したい目標は何か「商品を使って何を達成したいですか?」
抑圧欲求達成の障害となっているものは何か「どんな点が使いにくいと感じますか?」
行動実際にどのような使い方をしているか「商品をどのように使っていますか?」
報酬行動によって得られる満足や解決は何か「使った後にどんな気持ちになりますか?」

このモデルを活用することで、表面的なフィードバックだけでなく、顧客の行動の根本的な理由や感情的な側面まで理解することができます。

POP/POD/POF分析による競合との差別化要素の発見

自社製品の真の強みを理解するには、競合との比較分析が不可欠です。POP/POD/POF分析は特に有効なフレームワークです。

  • POP (Points of Parity): 業界標準や顧客の最低期待を満たす要素
  • POD (Points of Difference): 競合と差別化できる独自の強み
  • POF (Points of Failure): 顧客満足を損なう可能性のある弱点

実践ステップ:

  1. 競合製品のリストアップ:直接の競合だけでなく、間接的な代替品も含める
  2. 外部評価の収集:レビューサイト、SNS、業界レポートなどから外部評価を集める
  3. POP/POD/POF表の作成:自社と競合各社の特徴を整理する

ポケットフィットネスアプリを例にした分析表:

要素自社アプリ競合A競合B発見された差別化ポイント
POP・運動記録機能
・カロリー計算
・目標設定
・運動記録機能
・カロリー計算
・目標設定
・運動記録機能
・カロリー計算
・目標設定
業界標準として必要な機能
POD・オフライン対応
・音声ガイド
・SNS連携
・グループ機能
・AIトレーナー
・高度な分析
オフライン対応が独自の強み
POF・バッテリー消費
・初期設定の複雑さ
・広告の多さ
・プライバシー懸念
・高価格
・学習曲線
競合より少ない広告がメリット

この分析を通じて、例えばこの架空のフィットネスアプリでは「オフライン対応」が独自の強みであることが判明しました。内部では気づかなかったこの特長を前面に押し出すことで、「いつでもどこでも使える」という顧客価値を強調したマーケティングが可能になります。

顧客の行動観察(エスノグラフィー調査)

インタビューでは捉えきれない顧客の無意識の行動や習慣を把握するには、実際の使用環境での観察が効果的です。

実践ステップ:

  1. 観察対象と環境の選定:実際の使用環境(家庭、職場、移動中など)
  2. 非干渉的な観察:観察者の存在が行動に影響しないよう配慮
  3. 行動パターンの記録:特に「回避行動」や「代替行動」に注目
  4. 分析と洞察の抽出:観察結果から潜在的なニーズや改善点を特定

事例:ある消臭スプレーの開発 ある消臭スプレーメーカーは商品の市場導入に苦戦していました。消臭スプレーとしてのポジショニングが顧客に響かなかったためです。しかし、実際の家庭での使用状況を観察したところ、掃除の「仕上げ」として使用している人が多いことが判明。これを受けて「掃除の最後の一仕上げ」というポジショニングに変更し、売上が急増しました。

SNSリスニングとレビュー分析

SNSやレビューサイトには、顧客の生の声が蓄積されています。これらを分析することで、自社が気づいていない強みや弱みを発見できます。

実践ステップ:

  1. 情報源の特定:関連するSNSハッシュタグ、レビューサイト、フォーラムなど
  2. テキスト分析:頻出キーワード、感情分析、トピックモデリングなど
  3. 競合比較:自社製品と競合製品の言及の違いを分析
  4. 隠れた強みの抽出:ポジティブな言及が多い予想外の特長を特定

活用ツール例:

  • Google Alerts(無料):特定のキーワードの新しい言及を通知
  • Mention(有料):ソーシャルメディアモニタリングツール
  • Brandwatch(有料):高度なソーシャルリスニングと分析

外部コンサルタントや第三者評価の活用

社内の「当たり前」を超えた視点を得るには、業界の専門家や外部コンサルタントの活用も効果的です。

活用方法:

  1. ミステリーショッパー調査:匿名の調査員による客観的な評価
  2. 専門家レビュー:業界の専門家による製品評価
  3. 外部コンサルタント:マーケティング専門家による客観的分析
  4. クロスインダストリー分析:異なる業界からの視点の取り入れ

外部視点を取り入れた成功事例

事例1:スターバックスのサードプレイス戦略

スターバックスは当初、高品質なコーヒー豆と独自のロースト方法を中心に自社の価値を定義していました。しかし、顧客調査と行動観察を通じて、多くの顧客が「コーヒーの質」以上に「居心地の良い空間」に価値を見出していることが判明しました。

この発見を受けて、スターバックスは自社のポジショニングを「プレミアムコーヒーの提供」から「家と職場に次ぐ第三の場所(サードプレイス)の提供」へと転換。店舗デザイン、BGM、Wi-Fi環境など、滞在体験の向上に注力しました。この戦略転換により、スターバックスは単なるコーヒーショップを超えた存在となり、世界的な成功を収めました。

出典:Starbucks and the Myth of the Third Place

事例2:任天堂Wiiの意外な成功

任天堂がWiiを開発した際、社内では「直感的な操作性」を強みとして認識していましたが、それがどれほど革新的か十分に理解していませんでした。しかし、プロトタイプを使った外部の検証では、ゲーム経験のない高齢者や女性までもが楽しめる点が高く評価されました。

この外部視点からの発見を受けて、任天堂はWiiのマーケティングを従来のゲーマー向けではなく「家族全員が楽しめる」というコンセプトで幅広い層に対してのマーケティングを実施。結果として、それまでゲーム市場に参入していなかった新たな顧客層を開拓し、大きな成功を収めました。

出典:Is the Nintendo Wii Fit really acceptable to older people?: a discrete choice experiment

事例3:ダイソンの「見える技術」

ダイソンは当初、サイクロン技術の効率性や吸引力の強さを中心にマーケティングしていました。しかし、顧客調査を通じて、多くの顧客が透明なダストビンを通して「ゴミが集まる様子が見える」ことに大きな満足感を得ていることが判明しました。

この発見を受けて、ダイソンは透明パーツを増やし、内部構造を「見える化」するデザインを強化。また、マーケティングでも「目に見える効果」を強調するようになりました。これにより、技術的な優位性を視覚的に実感できるという独自の価値提案が確立され、プレミアム価格帯での成功につながりました。

出典:Newyorker.com

外部視点を組織に取り入れる仕組み作り

単発的に外部視点を取り入れるだけでなく、継続的に組織に統合するための仕組み作りが重要です。

定期的な外部評価サイクルの確立

フェーズ活動内容頻度担当部門
情報収集顧客調査、競合分析、レビュー分析など四半期ごとマーケティング・リサーチ
分析収集した外部視点の統合と洞察抽出四半期ごとマーケティング戦略
戦略への反映製品改善、メッセージ更新、新企画立案半期ごと商品企画、マーケティング
効果測定改善施策の効果確認と次サイクルへの反映半期ごとマーケティング分析

クロスファンクショナルな視点の活用

組織内でも、異なる部門や役割の人々は異なる視点を持っています。この「内なる外部視点」を活用しましょう。

実践方法:

  1. 部門横断プロジェクト:異なる部門のメンバーによる定期的な意見交換
  2. 役割交換ワークショップ:開発者と営業、マーケターと顧客サポートなど
  3. 社内ブラインドテスト:商品知識のない社員による評価セッション

外部視点を根付かせるための組織文化

外部視点の重要性を組織全体で認識し、日常的に活用するための文化づくりも重要です。

実践方法:

  1. 「顧客の声」共有システム:顧客の声や外部評価を全社で共有する仕組み
  2. 成功事例の可視化:外部視点を取り入れて成功した事例を社内で共有
  3. 経営層のコミットメント:トップからの外部視点重視のメッセージ発信
  4. 評価制度への統合:外部視点の活用度を人事評価に組み込む

まとめ

自社や自社商品の魅力は、内部の人間には見えにくいものです。「当たり前」と思っていることが実は大きな差別化ポイントであったり、逆に重要だと思っていたことが顧客にとってはさほど価値がなかったりします。外部視点を意識的に取り入れることで、真の強みを発見し、効果的なマーケティング戦略を構築することができます。

key takeaways

  • 認識のずれ: 自社内で「当たり前」と思っていることが、実は最大の差別化ポイントである可能性が高い
  • 複数の方法で: 顧客インタビュー、競合分析、行動観察など複数の方法で外部視点を獲得する
  • 継続的な仕組み: 一度きりでなく、定期的に外部視点を取り入れる仕組みを構築する
  • 全社的取り組み: マーケティング部門だけでなく、全社的に外部視点の重要性を共有する
  • 戦略への反映: 発見した真の強みを製品開発、メッセージング、顧客体験など全ての側面に反映させる
  • バイアスの自覚: 内部視点バイアスを自覚し、常に「顧客はどう見ているか」を意識する

外部の目を通して自社や商品の真の魅力を再発見し、それを効果的に訴求することで、マーケティングの成果を大きく向上させることができます。まずは小さな取り組みから始めて、外部視点を取り入れる習慣を作っていきましょう。

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記リンクからWEBサイト、Xをご確認ください。

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