- はじめに ー あなたのビジネスにも活かせる「成長戦略」のヒントがここにある
- NTTデータグループとは ー 日本を代表するグローバルIT企業の全体像
- 2026年3月期第2四半期の業績サマリー ー 増収増益の裏にある構造
- マーケティング観点での注目点① ー 「アセットライト戦略」で資金を生み出す知恵
- マーケティング観点での注目点② ー パートナーエコシステムで「フルスタック」の価値提供
- マーケティング観点での注目点③ ー グローバル統合による「規模の経済」の追求
- なぜNTTデータが選ばれるのか ー 競合との差別化ポイント
- NTTデータの決算から学べる良い点 ー あなたのビジネスに応用できる3つの視点
- 考えられる改善点 ー 課題と今後の注視ポイント
- 今後も継続的に成長する余地はあるのか ー 3つの成長ドライバーと期待できる理由
- まとめ ー NTTデータ決算から学ぶ「質の高い成長」を実現する5つのポイント
はじめに ー あなたのビジネスにも活かせる「成長戦略」のヒントがここにある
マーケティングや事業戦略を考えるとき、「どうすれば持続的に成長できるのか」という問いに直面することはありませんか。特に、既存事業を守りながら新しい領域に投資するバランスは、多くのビジネスパーソンが悩むポイントでしょう。
今回取り上げるNTTデータグループの2026年3月期第2四半期決算(2025年4月~9月)は、まさにこの問いへの答えを示唆する内容となっています。売上高は前年同期比5.4%増の2兆3,605億円、営業利益は実に80.5%増の2,690億円という大幅な増益を達成しました。
この記事では、数字の羅列ではなく「なぜこのような成果が生まれたのか」「どんな戦略判断があったのか」という視点で、NTTデータの決算内容を紐解いていきます。あなたが所属する企業の規模や業種は違うかもしれませんが、ここで学べる「戦略の考え方」は、きっと明日からのビジネスに活かせるはずです。
NTTデータグループとは ー 日本を代表するグローバルIT企業の全体像

NTTデータグループは、日本国内だけでなく世界約50カ国で事業を展開する総合IT企業です。もともとはNTT(日本電信電話)のデータ通信事業部門が独立した企業で、現在では公共・金融・法人という3つの分野で幅広いITサービスを提供しています。
事業領域は大きく分けて「日本セグメント」と「海外セグメント」に分かれており、海外セグメントはさらにNorth America(北米)、EMEAL(欧州・中東・アフリカ・中南米)、APAC(アジア太平洋)、GTSS(グローバル技術ソリューションサービス)という4つのユニットで構成されています。特にGTSSには、データセンター事業という収益性の高い事業が含まれており、これが今回の決算でも大きな注目ポイントとなりました。
従業員数は約19万人を超え、連結売上高は年間で約4兆9,367億円(2026年3月期予想)という規模感です。IT業界における「総合デパート」のような存在と言えるでしょう。
2026年3月期第2四半期の業績サマリー ー 増収増益の裏にある構造
今期の決算を一言で表すなら、「戦略的な資産売却による利益押し上げと、事業基盤の強化」です。具体的な数字を見ていきましょう。

全体の売上高は2兆3,605億円で、前年同期から1,204億円の増加となりました。この増収の内訳を見ると、日本セグメントが569億円の増収、海外セグメントが663億円の増収です。ただし、海外セグメントの増収分には、データセンター資産をREIT(不動産投資信託)に譲渡したことによる譲渡益1,295億円が含まれています。つまり、この一時的な利益を除くと、海外の実質的な売上増加は限定的だったということです。

営業利益は2,690億円で、前年同期の1,490億円から1,200億円も増加しました。営業利益率は11.4%と、前年同期の6.7%から大きく改善しています。この利益増の大部分も、先ほどのデータセンター譲渡益によるものです。つまり、今回の決算の「見せ場」は、保有資産を戦略的に売却してキャッシュを生み出し、それを次の成長投資に回すという一連の流れにあるのです。
受注高についても触れておきましょう。受注高は2兆7,497億円で、前年同期から2,492億円増加しました。これは国内外で大型案件を獲得できたことを示しており、将来の売上を約束する「受注残高」も7兆1,036億円と積み上がっています。この受注残高の増加は、今後の安定成長を支える基盤となります。
マーケティング観点での注目点① ー 「アセットライト戦略」で資金を生み出す知恵
今回の決算で最も象徴的だったのは、データセンター資産6拠点をNTT DC REITという不動産投資信託に譲渡し、1,295億円という大きな譲渡益を得たことです。これは単なる「資産売却」ではなく、「アセットライト戦略」と呼ばれる高度な経営判断です。
アセットライト戦略とは、固定資産を保有せずに事業を運営することで、資本効率を高める手法です。データセンターのような施設は、建設に巨額の投資が必要で、償却期間も長くなります。これを外部に売却することで、多額のキャッシュを手に入れつつ、運営は引き続き自社で行うという「いいとこ取り」が可能になるのです。
実際、NTTデータは譲渡したデータセンターを継続して運用しており、サービス提供には影響がありません。つまり、「所有はしないが、コントロールは維持する」という賢い選択をしたわけです。このキャッシュは、AI事業への投資や海外事業の統合費用など、より収益性の高い分野に振り向けられています。
この戦略から学べるのは、「資産を持つことが必ずしも強さではない」という現代的な経営観です。特にデジタル時代においては、物理的な資産よりも、技術力や顧客基盤、パートナーシップといった「見えない資産」の価値が高まっています。自社のビジネスでも、「本当に保有すべき資産は何か」を見直すきっかけになるでしょう。
マーケティング観点での注目点② ー パートナーエコシステムで「フルスタック」の価値提供
NTTデータの成長戦略で注目すべき2つ目のポイントは、パートナーエコシステムの構築です。決算資料には、OpenAI、Google Cloud、Mistral AI、DataRobot、NVIDIAなど、錚々たるテクノロジー企業のロゴが並んでいます。

特に印象的なのは、2025年5月にOpenAIと締結したグローバル戦略的業務提携です。NTTデータは日本初のOpenAI販売代理店となり、2027年度末までに累計1,000億円規模の売上を目指すとしています。また、8月にはGoogle Cloudとグローバルパートナーシップを締結し、業界特化型のエージェント型AI導入を加速させています。

これらの提携が意味するのは、「自社だけで全てを開発する時代は終わった」ということです。AIのような急速に進化する技術分野では、最先端の技術を持つパートナーと組み、それを自社の業界知見やコンサルティング力と組み合わせることで、顧客により大きな価値を提供できます。
NTTデータが掲げる「フルスタック」という概念も重要です。これは、AIプラットフォーム、クラウドプラットフォーム、データプラットフォーム、サイバーセキュリティ、ビジネスアプリケーションという技術レイヤーと、銀行、保険、自動車、製造、公共、通信といった業界特化の知見を掛け合わせることで、顧客の課題を包括的に解決するアプローチです。
この戦略から学べるのは、「オープンイノベーション」の重要性です。自社の強みを明確にしつつ、足りない部分は最良のパートナーと組む。そして、顧客に対しては「ワンストップ」で価値を提供する。この考え方は、どんな業界でも応用できるマーケティングの基本原則です。
マーケティング観点での注目点③ ー グローバル統合による「規模の経済」の追求
3つ目の注目点は、海外事業の統合への継続的な投資です。NTTデータは2025年度に230億円の事業統合費用を計画しており、第2四半期までに102億円を支出しました。

この投資の目的は、グローバル全体での業務プロセスの高度化と事業運営の最適化です。具体的には、ERPシステム(基幹業務システム)のグローバル統合、コーポレート機能の最適化、ITシステムの統合などを進めています。一見すると「コスト」に見えるこれらの投資ですが、実は将来の収益性を大きく左右する戦略的な先行投資なのです。
なぜこうした統合が重要なのでしょうか。それは「規模の経済」を実現するためです。NTTデータは過去にNTT Ltd.をはじめとする海外企業を買収し、グローバル展開を加速させてきました。しかし、買収した企業がバラバラのシステムやプロセスで動いていては、グループ全体としての効率は上がりません。
例えば、各地域でバラバラの会計システムを使っていれば、グループ全体の数字を把握するだけでも時間がかかります。調達業務が地域ごとに分散していれば、大量発注による価格交渉力も発揮できません。これらを統合することで、意思決定のスピードアップ、コスト削減、そしてグループ横断でのナレッジ共有が可能になります。
NTTデータは統合によって、2026年度以降に300億円規模のシナジー効果(相乗効果による利益増加)を見込んでいます。この考え方は、M&A(企業買収)を行う際の基本中の基本です。「買うこと」がゴールではなく、「買った後にどう統合するか」こそが価値を生むのです。
なぜNTTデータが選ばれるのか ー 競合との差別化ポイント
ここまでの分析を踏まえて、NTTデータがなぜ顧客から選ばれるのかを考えてみましょう。
最大の強みは「業界知見の深さとグローバルリーチの両立」です。日本国内では、公共・金融・法人という3分野で長年培ってきた実績があり、中央府省や大手金融機関といったミッションクリティカルな領域で信頼を獲得しています。一方で海外でも、50カ国以上での事業展開により、グローバル企業の多様なニーズに応えられる体制を持っています。
二つ目の強みは「技術パートナーシップの広さ」です。OpenAI、Google Cloud、Microsoft Azure、AWS、Salesforce、SAPといった主要なテクノロジーベンダーとのパートナーシップにより、顧客は特定のベンダーに縛られることなく、最適なソリューションを選択できます。これは、特定企業の製品に偏らない「マルチベンダー対応力」として評価されます。
三つ目は「コンサルティングからシステム運用まで一貫対応できる総合力」です。戦略立案、システム設計・開発、インフラ構築、運用保守まで、ITライフサイクル全体をカバーできる企業は限られています。顧客にとっては、複数のベンダーと調整する手間が省け、責任の所在も明確になるというメリットがあります。
NTTデータの決算から学べる良い点 ー あなたのビジネスに応用できる3つの視点
それでは、今回の決算から私たちビジネスパーソンが学べる具体的なポイントを整理しましょう。
第一に、「キャッシュを生む資産と投資すべき領域を見極める」という財務戦略です。 NTTデータはデータセンター資産を売却して得たキャッシュを、AI事業や海外統合といった成長領域に振り向けました。これは「選択と集中」の良い事例です。自社のビジネスでも、「利益を生んでいるが、資本効率が悪い事業」がないか見直してみる価値があります。
第二に、「エコシステム思考でパートナーを巻き込む」という協業戦略です。 特にテクノロジーの進化が速い領域では、自社開発にこだわるよりも、最高のパートナーと組んで価値を届ける方が合理的です。「誰と組めば、顧客により大きな価値を提供できるか」という視点は、製品開発だけでなく、マーケティングや販売戦略でも重要です。
第三に、「先行投資を恐れない」という成長マインドです。 海外事業統合に230億円という巨額を投じることは、短期的には利益を圧迫します。しかし、NTTデータは将来のシナジー効果を見据えて投資を続けています。目先の利益だけでなく、中長期的な競争力強化のために何が必要かを考える姿勢は、どんな規模の企業でも持つべきものです。
考えられる改善点 ー 課題と今後の注視ポイント
もちろん、良い点ばかりではありません。今回の決算からは、いくつかの課題も見えてきます。
最大の懸念は、日本セグメントの収益性低下です。 日本セグメントの営業利益は前年同期比で55億円減少し、営業利益率も9.7%から8.5%に低下しました。特に公共・社会基盤分野では、前年にあった高収益案件の剥落と販売管理費の増加により、利益率が大きく下がっています(営業利益率12.3%→8.8%)。国内市場は成熟しているため、単価の引き上げや生産性向上による利益率改善が課題となります。

二つ目は、海外事業の一部ユニットでの減益傾向です。 海外セグメント全体では増益ですが、データセンター譲渡益を除いた実態ベースで見ると、North America、EMEAL、APACの3ユニットは減益となっています。これらの地域では、競争激化による価格圧力や、案件獲得競争の厳しさが影響していると推測されます。グローバル市場での差別化をどう強化するかが問われています。

三つ目は、今回の好決算がデータセンター譲渡という「一時的な要因」に依存している点です。 営業利益の増加分1,200億円のうち、譲渡益だけで1,295億円ですから、それを除けば実質的には減益だったことになります。この一時的な利益を、どれだけ持続的な成長投資に転換できるかが今後の鍵となります。
四つ目は、為替変動のリスクです。 海外売上が全体の約6割を占めるNTTデータにとって、為替レートの変動は業績に大きな影響を与えます。今回も円安により一定の押し上げ効果がありましたが、逆に円高に振れれば業績の下押し圧力となります。為替リスクをどうヘッジするかは、グローバル企業共通の課題です。
今後も継続的に成長する余地はあるのか ー 3つの成長ドライバーと期待できる理由
それでは、NTTデータは今後も成長を続けられるのでしょうか。結論から言えば、「Yes」です。その理由を3つの成長ドライバーから説明します。
第一の成長ドライバーは、「生成AI市場の拡大」です。 NTTデータは2025年11月に、シリコンバレーに新会社を設立し、AIビジネスの創出を加速させています。OpenAIやGoogle Cloudとの戦略的提携により、最先端のAI技術へのアクセスを確保しました。生成AI市場は今後数年で数十兆円規模に成長すると予測されており、この波に乗ることで大きな成長機会が見込めます。
特に注目すべきは、「業界特化型AI」への取り組みです。汎用的なAIツールではなく、金融、製造、公共といった特定業界の業務に最適化されたAIソリューションは、高い付加価値と差別化をもたらします。NTTデータは長年の業界知見を武器に、この分野でリーダーシップを取れる可能性があります。
第二の成長ドライバーは、「データセンター事業の継続的な需要」です。 今回、一部のデータセンター資産は売却しましたが、事業そのものは継続しており、むしろ新規の投資も続けています。第2四半期までの投資実績は962百万ドル(約1,404億円)で、順調に進捗しています。
データセンター需要は、クラウドサービスの普及、AI処理の増加、動画配信の拡大などにより、今後も高い成長が見込まれます。特にAIの学習や推論には大量の計算リソースが必要となるため、データセンター事業はAIブームの「インフラ」として重要性を増しています。NTTデータは約1,510MWの提供能力を持ち、さらに約795MWの計画中案件を抱えており、市場拡大の恩恵を享受できる立場にあります。
第三の成長ドライバーは、「グローバル統合によるシナジー効果の顕在化」です。 現在進めている海外事業統合が完了すれば、2026年度以降に年間300億円規模のシナジー効果が期待されています。これは、重複コストの削減だけでなく、グループ横断での案件獲得力強化、調達コストの削減、ベストプラクティスの共有などが実現することを意味します。
また、統合によってグローバルでの提案力も高まります。例えば、グローバル展開する製造業の顧客に対して、日本、欧州、米国、アジアの各拠点が連携してサービスを提供できれば、競合との差別化になります。この「グローバルワンストップ」の実現は、中長期的な競争優位性の源泉となるでしょう。
加えて、受注残高が7兆円を超えているという事実も見逃せません。これは今後約2年分の売上に相当する規模であり、短期的な業績の安定性を示しています。大型案件の受注も続いており、トップラインの成長基調は維持されると見られます。
まとめ ー NTTデータ決算から学ぶ「質の高い成長」を実現する5つのポイント
ここまでNTTデータの決算内容を深掘りしてきました。最後に、マーケターやビジネスパーソンが自分の仕事に活かせる学びを5つのポイントにまとめます。
| 学びのポイント | 具体的な内容 | あなたのビジネスへの応用 |
|---|---|---|
| 資産の最適配置 | データセンター資産を売却してキャッシュを生み出し、成長分野(AI、海外統合)に再投資する「アセットライト戦略」を実践した | 自社の保有資産を見直し、資本効率の低い資産は売却や外部化を検討。生まれた資金を成長投資に振り向ける |
| パートナーエコシステム | OpenAI、Google Cloudなど最先端技術を持つ企業と戦略的提携を結び、フルスタックでの価値提供を実現 | 自社の強みを明確にしつつ、足りない部分は最良のパートナーと協業。顧客にワンストップの価値を届ける |
| 業界特化型の差別化 | 金融、製造、公共など業界ごとの深い知見とAI技術を組み合わせ、汎用ソリューションとの差別化を図る | 特定の業界や顧客セグメントに特化することで、高い付加価値と競争優位性を確立する |
| 先行投資への覚悟 | 短期的には利益を圧迫する海外事業統合に230億円を投資。中長期のシナジー効果(300億円)を見据えた経営判断 | 目先の利益だけでなく、3~5年後の競争力強化のための投資を躊躇しない。ROI(投資対効果)を明確にして実行する |
| 成長市場への集中 | 生成AI、データセンターという成長市場に経営資源を集中。成熟市場では効率化を追求し、成長市場では積極投資 | 自社の事業ポートフォリオを見直し、成長市場と成熟市場で異なる戦略を取る。リソース配分の最適化が鍵 |
NTTデータの決算が示しているのは、単なる「売上拡大」ではなく、「Quality Growth(質の高い成長)」を追求する姿勢です。それは、収益性を維持しながら規模を拡大し、短期的な利益と中長期的な投資のバランスを取り、グローバルと国内の両方で競争力を高めるという、難度の高い経営を実践することを意味します。
私たちがこの決算から学ぶべきは、「戦略的な意思決定の重要性」です。何に投資し、何を手放すのか。誰と組み、どの市場に集中するのか。これらの判断が、5年後、10年後の企業の姿を決定づけます。
あなたが担当するマーケティング施策、事業戦略、プロダクト開発においても、「今この意思決定が、3年後の自社の競争力にどう影響するか」という視点を持つことが大切です。NTTデータの決算は、その思考のヒントを豊富に提供してくれています。
明日からのビジネスに、この学びを活かしていきましょう。
【参考資料】

