はじめに
マーケティング担当者の皆さん、企業の盛衰を理解することは、自社の戦略立案に不可欠です。日産自動車の現在の苦境は、市場変化への対応の重要性を如実に物語っています。本稿では、日産の業績悪化の根本原因を深掘りし、あなたのビジネスに活かせる戦略的示唆を提供します。
日産の概要と特徴
日産の歴史的背景
日産自動車は1933年に設立された、日本を代表する自動車メーカーです。かつては「技術の日産」と呼ばれ、革新的な車づくりで知られてきました。
ブランドの主な特徴
特徴 | 詳細 |
---|---|
グローバル展開 | 世界各国で自動車を販売 |
ブランドポートフォリオ | リーフ、ノート、エクストレイル、スカイラインなど |
技術的特徴 | 電気自動車(EV)分野で先駆的 |
日産の現状:最新決算から見る経営状況
2024年度中間決算の衝撃的な数字
2024年9月中間決算において、日産は驚くべき業績悪化を報告しました。
指標 | 数値 | 前年同期比 |
---|---|---|
売上高 | 5兆9842億円 | 1.3%減 |
営業利益 | 329億円 | 90.2%減 |
グローバル販売台数 | 159.6万台 | 1.6%減 |
出典元:2024年度 上期 決算報告
業績悪化の根本的な原因
全体像
2023年度上期の3,367億円から2024年度上期は329億円へと、営業利益が約90%減少しています。
増益要因
- 為替効果: +280億円の好影響
- 原材料: +212億円のプラス効果
主要な減益要因
項目 | 金額(億円) | 主な内訳 |
---|---|---|
販売パフォーマンス | -1,945 | 台数/構成: -960億円 販売費用/価格改定: -1,027億円 |
モノづくりコスト | -427 | 研究開発費: -138億円 その他: -324億円 |
インフレ影響 | -713 | モノづくり: -586億円 その他: -127億円 |
その他 | -445 | リマーケティング: -339億円 販売金融: -103億円 |
- 販売面の深刻な課題:販売台数の減少と価格政策の影響が最も大きな減益要因
- コスト増加の圧力:インフレによる製造コストの上昇が収益を圧迫
- 構造的な課題:研究開発費の増加やリマーケティング費用(米国を中心としたリース車両の残存価値低下に伴う費用)の増大が見られる
この結果は、日産が直面している市場競争の激化と、事業構造の根本的な見直しの必要性を示唆していると言えます。
業績悪化の根本原因
市場環境の変化による影響
- 中国市場での新エネ車シフトと合弁メーカー(ノンプレミアム)の市場縮小
- 中国メーカーの輸出による競争激化
- 米国におけるHEV/PHEV需要の増大への対応遅れ
日産固有の課題
- 収益上の課題
- タイムリーにお客様ニーズを満たす商品力の不足
- コスト競争力とブランド力の低下
- 販売目標と実績の乖離
ここから読み取れることとしては、消費者が求める商品が作れていないことが根本的な原因だということです。海外メーカーの台頭や海外市場でのニーズへの対応ができていないことから、自社の独自性のある商品を作れていないのが今の日産の現状です。
対応策
短期的施策:事業の安定化と適正化
施策 | 目標値 |
---|---|
生産能力削減 | グローバルで20% |
人員削減 | 9,000人 |
固定費削減 | 3,000億円(2024年度比) |
変動費削減 | 1,000億円(2024年度比) |
中長期的施策(商品力の強化)
商品ポートフォリオの強化
- 中国への新エネ車、米国へのPHEVとe-POWER投入の加速
- 車種当たりの販売台数増加
- ブランド力の強化
競争力向上
- 開発期間(市場投入期間)を30ヶ月へ短縮
- アライアンス、Hondaとのパートナーシップ最大活用
- 技術やソフトウェア分野でのスマートパートナーシップ構築
目標設定
2026年度までに年間350万台の販売で持続可能な収益性とキャッシュを確保し、スリムで迅速、強靭な事業構造への転換を目指すと発表しています。
マーケターが学ぶべき重要な教訓
キーテイクアウェイ
- 市場変化への迅速な対応の重要性
- 市場や消費者のニーズがどう変化しているのかを日々認識をアップデートしていかないとビジネスは後手後手になり他社に台頭される可能性が高まってしまいます。
- 顧客ニーズを常に最優先する姿勢
- ビジネスは顧客のJOBを解決することで対価を得られる構造であることを再認識し、そのためには顧客のJOBは何か、競合や代替手段がある中で独自の価値を提供できているかを問い続けてアジャストし続ける姿勢が重要と言えます。
- 技術革新と商品開発への継続的な投資
- 独自性を出すためには継続的な技術革新と商品開発が必要です。グローバルな総合自動車メーカーとしてこれなしにはブランドは衰退してしまいます。
- グローバル市場での柔軟な戦略立案
- 各市場の消費者ニーズと競合を把握した上で、唯一無二の商品を作り市場に投下していくことが求められます。
まとめ
日産の苦境は、マーケティング戦略における「適応と革新」の重要性を示す生きた教訓です。市場環境の急激な変化に対して、柔軟かつ迅速に対応できる組織能力が、今日のビジネスサバイバルの鍵となっています。この市場環境の変化は自動車市場だけではなく、あなたがビジネスを展開している市場でも少なからず起きている事象ではないでしょうか。日々の外部、内部の環境の変化を察知し、消費者ニーズに応える商品を作り、マーケティング、販売をしていけるように我々は他社の事例から学んでいきましょう。
出典元:2024年度 上期 決算報告