はじめに
新規事業を立ち上げる際、多くの企業が「どうやって売るか(How)」を先に考えがちですが、実際には「誰に(Who)」と「どんな価値を(What)」を明確にした上で、それに沿ったHowをスモールな形で実行していくことが成功のカギです。本記事では、新規事業におけるWho/What/Howの仮説を立て、それをABM(アカウント・ベースド・マーケティング)や広告を活用してテストセールスする方法について重要性やその具体的ステップを解説します。
Who/What/Howとは
まずWho/What/Howのフレームを押さえておきましょう。Who/What/Howは、マーケティング戦略を立てる上で不可欠なフレームワークです。
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Who(誰に):
- どのようなターゲット顧客に向けて
- どんな課題や欲求(JOB)を持っているのか
What(何を):
- 顧客の課題を解決するために
- どのような価値や独自性(便益)を提供するのか
How(どのように):
- どのような手法やチャネルを使って
- どのように伝え、販売するのか
この3つを明確にすることで、ターゲット顧客に最適なマーケティングと販売戦略を構築できます。詳細はこちらの記事で解説していますので、ぜひご確認ください。
なぜ新規事業においてWho/What/Howの仮説構築とテストセールスが重要なのか
1. リスクを最小限に抑えられる
新規事業では、いきなり大規模な展開を行うと、多大なコストがかかるだけでなく、ターゲット顧客に刺さらなかった場合の損失も大きくなります。Who/What/Howの仮説を立て、小規模なテストセールスを通じて仮説検証を行うことで、リスクを最小限に抑えることができます。
2. 効率的なリソース配分が可能
事業の成功には、人的・金銭的リソースの最適な配分が不可欠です。Who/What/Howを明確にすることで、限られたリソースを最も効果的なWho(コアターゲット)や施策に集中でき、無駄なコストを削減することができます。
3. データドリブンな意思決定ができる
テストセールスを行うことで、広告のクリック率、コンバージョン率、商談成功率などのデータを取得できます。これにより、感覚ではなくデータに基づいた戦略的な意思決定が可能になります。
4. スケールアップの基盤を作れる
テストセールスで効果のあった施策を見極め、スケールアップすることで、無駄のない成長が可能になります。成功したターゲットやメッセージを拡大適用することで、効果的な市場展開が実現できます。
テストセールスに向いている5つの手法
では、新規事業におけるスモールステップの仮説検証はどのような手法が有効なのでしょうか。筆者は5つあると考えています。
1. ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)
- 特定の企業やターゲット顧客に絞ったマーケティング手法
- 企業ごとにカスタマイズしたコンテンツや広告を展開
- リード獲得の精度を高められる
2. デジタル広告(SNS・Google広告)
- 仮説を元にターゲティングを行い、広告を配信
- クリック率やコンバージョン率を測定し、ターゲットの反応を確認
- A/Bテストを行い、最適な訴求を見極める
3. LP(ランディングページ)を活用したコンバージョンテスト
- LPを作成し、ターゲット顧客の反応を測定
- フォームや問い合わせを通じてニーズを把握
- 顧客のインサイトを得ることが可能
4. インサイドセールス
- ABMでターゲティングした企業に直接アプローチ
- 営業チームが直接ヒアリングを行い、課題を深掘り
- 商談の成功率を測定し、仮説を検証
5. SNSでの拡散
- SNSでつながりのある人への商品の紹介
- ただし、つながりのある人が定めたWhoではない場合が多いため、拡散されその人に届けられるかどうかが重要
- 一定のフォロワー数が必要
テストセールスの結果から分かる5つのこと
テストセールスを実施すると、仮説で立てたWho/What/Howのどこが正しかったのか、どこに修正が必要なのかが明確になります。こちらも5つあると考えています。
1. Who(ターゲット顧客)の見直し
- 想定したターゲットよりも反応が良かったセグメントはどこか?
- 逆に、仮説としたターゲットで成果が出なかった場合、どのような属性や課題が異なっていたのか?
例: 初めは「スタートアップ企業のマーケティング責任者」をターゲットにしたが、実際には「中堅企業の営業責任者」のほうが反応が良かった。
2. Who(ターゲット顧客のJOB)の見直し
- 想定したJOBは数、深さ(解決したいという優先度の高さ)ともにビジネスが成り立つほどあったか?
- JOBの数や深さは今後増えていきそうか?
例: 「営業効率の改善」をJOBと想定していたが、テストセールスの結果、「効率よりも実際の売上を上げる」JOBのほうが優先度が高かった。
3. What(提供価値)の見直し
- 顧客が本当に求めていた価値は何か?
- 仮説で設定した便益や独自性は、ターゲットにとって魅力的だったか?
- 刺さるメッセージと刺さらないメッセージの違いは何か?
例: 「ROIの可視化」を強調した訴求ではなく、「営業成果の最大化」をアピールした方が顧客の関心を引いた。
4. How(提供方法)の見直し
- どの広告チャネルや手法が最も効果的だったか?
- LPのデザインや訴求点を変えた場合、コンバージョン率はどう変わったか?
- どの販促手法(広告、メール、セミナーなど)がより成果を生んだか?
例: LinkedIn広告よりもFacebook広告の方がCVR(コンバージョン率)が高かったため、広告予算の配分を変更。
5. How(プロダクト)の見直し
- Whatの便益を生み出す想定機能はWhoに刺さっていたか?
- 想定機能以外に必要そうな機能が見えたか?
- すでに代替手段があるか?
例: リストを効率的に作成できる機能よりもリストに対して自動で営業をかけてくれる機能の方がJOBを解決できる。
具体的な進め方
1. Who/What/Howの仮説を立てる
まず、ターゲット顧客(Who)、提供価値(What)、販売手法(How)を明確にし、仮説を作成します。
項目 | 仮説例 |
---|---|
Who | 30代のBtoBマーケター、SaaS企業のCMO |
What | リード獲得と顧客ナーチャリングを効率化する |
How | プロダクト:MA(シナリオ、誰でも使えるUIUXなど) コミュニケーション:ABM施策・SNS広告・ウェビナーでリード獲得 |
2. スモールテストを実施
- 仮説を基に、少額の広告予算を使ってターゲット層にアプローチ
- ABMで特定企業へのターゲティングを実施
- LPを作成し、CVR(コンバージョン率)を測定
3. データを分析し仮説を修正
- どのターゲットが最も反応したかを分析
- 訴求メッセージや提供価値を調整
- 反応の良いチャネルに重点を置く
4. スケールアップ
- ある程度の確度が見えたら、広告予算を増やして拡大
- インサイドセールスやウェビナーを活用してリード育成
- 商談数や受注数を増やす
とある企業のテストセールス事例
事例:BtoB向けSaaSツールのテストセールス
仮説の設定
Who | What | How |
---|---|---|
中堅企業のマーケティング担当者 | マーケティング施策の効果を可視化するツール | ABM×広告でターゲット企業を狙う |
テストセールスの実施
- ABMターゲティング
- 特定の業種・企業規模のリストを作成し、パーソナライズしたメールを送付
- SNS広告
- LinkedIn広告で「マーケティングROIを可視化」のメッセージを訴求
- LPでリード獲得
- LPに誘導し、無料トライアル申し込みを促す
- 分析と改善
- クリック率、コンバージョン率を分析し、ターゲットとメッセージを最適化
結果、以下のような学びを得ることができた。
- マーケターよりも営業部門のほうが興味を持ちやすい
- 「ROIの可視化」よりも「営業成果の最大化」の訴求が刺さる
- LinkedInよりもFacebook広告のほうがCVRが高い
改善とスケールアップ
- ターゲットを営業部門に変更
- 訴求メッセージを「営業成果を最大化」に変更
- Facebook広告の予算を増加
結果として、CVRが向上し、スケールアップが可能になった。
Q&A
最後に、本取り組みにおいてのQ&Aをご紹介します。
Q1: すでに顧客がいる既存事業でもこの流れをとるのは効果があるか?
A: はい、既存事業においてもWho/What/Howの仮説を明確にし、テストセールスを行うことで新たなターゲットの発掘や、より効果的なマーケティング施策を見つけることができます。また、現在の顧客がどの要素に価値を感じているのかを再確認することで、商品やサービスの改善にもつながります。
Q2: テストセールスの効果をどのように測定すればよいか?
A: 広告のクリック率、コンバージョン率(CVR)、商談成功率、獲得したリードの質などを指標として測定すると効果が分かりやすくなります。特にABテストを活用し、異なる訴求メッセージやターゲットで比較することが重要です。
Q3: 低予算でもテストセールスを行うことは可能か?
A: 可能です。少額のSNS広告を活用したり、既存の営業リストからターゲットに直接アプローチすることで、コストを抑えながら検証できます。特にABMを活用することで、ピンポイントで適切なターゲットにリーチできます。
Q4: どれくらいのテストセールス数、そして予算が必要か?
A: BtoCとBtoB、そして業種やターゲット数、リーチできる手法によって、テストセールスの規模や予算の考え方が異なります。下記1つの目安として捉えてください。
- BtoC:
- テストセールス数: 500〜1,000人以上のユーザーに対して実施するのが理想
- 予算: 10万円〜100万円(SNS広告、Google広告などを活用)
- 目的: 広告のクリック率やコンバージョン率を測定し、ターゲットの反応を確認
- BtoB:
- テストセールス数: 50〜200社へのアプローチが一般的
- 予算: 50万円〜300万円(ABM、インサイドセールス、展示会参加など)
- 目的: 商談の成功率やリード獲得の質を検証し、ターゲット企業を絞り込む
まとめ
新規事業では、Who/What/Howの仮説を立てた上で、ABMや広告を活用しながら小規模なテストセールスを行うことが重要です。
成功のポイント
- Who/What/Howを明確にする
- スモールテストで仮説を検証する
- データを分析し、仮説を修正する
- 確度の高い施策に集中し、スケールアップする
このプロセスを適切に回すことで、無駄なコストを抑えながら、新規事業を成功に導くことができるでしょう。新規事業の立ち上げのリスクを最小限にしながら、スピード感を持って検証していくこの取り組みはどの企業、組織でも求められる活動になると考えています。マーケターの皆様は本活動をぜひ主導してみてください。