モンベルが選ばれる理由:アウトドアブランドに学ぶ持続的競争優位性の構築 - 勝手にマーケティング分析
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モンベルが選ばれる理由:アウトドアブランドに学ぶ持続的競争優位性の構築

モンベルが選ばれる理由: アウトドアブランドに学ぶ持続的競争優位性の構築 商品を勝手に分析
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はじめに

マーケティング担当者として、「なぜ消費者は特定のブランドを選ぶのか」という問いは常に重要な課題です。消費者の選択理由を深く理解することは、自社製品やサービスが市場で選ばれる確率を高めるための重要な鍵となります。

本記事では、日本のアウトドア市場で長年愛され続けている「モンベル」を例に、このブランドが消費者から選ばれる理由を多角的に分析していきます。この分析を通じて、以下のメリットを得ることができます:

  1. 高品質と機能性を両立しながら持続的な人気を維持する製品開発の方法論を学べる
  2. 顧客の深層心理に訴求する効果的なブランディング戦略を理解できる
  3. 競争の激しい市場での独自ポジショニングを構築するための具体的な施策を発見できる

1975年に辰野勇氏によって創業され、「機能は美である(Function is Beauty)」という理念を掲げるモンベルの成功要因を紐解きながら、あなたのビジネスにも応用できる実践的な知見を提供していきます。

1. モンベルの基本情報

Screenshot

ブランド概要

モンベル(mont-bell)は1975年に登山家の辰野勇氏によって大阪で創業された日本のアウトドアブランドです。「機能は美である(Function is Beauty)」と「Light & Fast(軽量かつ機能的)」という二つの理念を掲げ、高品質なアウトドア用品を提供しています。辰野氏自身の登山家としての経験を活かし、機能性と軽量性を両立させた製品開発に注力してきました。

企業データ

  • 企業名:株式会社モンベル
  • 設立年:1975年
  • 創業者:辰野勇
  • 本社所在地:大阪府大阪市西区
  • 従業員数:1,280名
  • 年間売上高:約840億円(2022年度)
  • URL:https://www.montbell.jp/

主要製品・サービスラインナップ

モンベルは以下のようなアウトドア用品を幅広く展開しています:

  • アパレル:ダウンジャケット、レインウェア、フリース、アンダーウェアなど
  • バックパック・バッグ類:登山用バックパック、デイパック、トラベルバッグなど
  • キャンプ用品:テント、シュラフ(寝袋)、マット、調理器具など
  • 登山・トレッキング用品:登山靴、トレッキングポールなど
  • 水辺のアクティビティ用品:カヤック、パドルボード、ウェットスーツなど

特に軽量ダウンジャケットやレインウェア、テントなどの高機能製品が市場で高い評価を得ています。また「モンベルクラブ」という会員制度を運営し、会員に特別なイベントやサービスを提供しています。

業績データ

モンベルは日本国内の登山用品市場において大きなシェアを持っており、2022年の売上高は約840億円に達しています。全国に130店舗以上の直営店を展開し、ECサイトを通じて100カ国以上への出荷に対応しています。

競合のノースフェイスやパタゴニアと比較しても、国内市場において強固な地位を築いています。また、「Gorpcore(ゴープコア)」と呼ばれるアウトドアウェアをタウンユースで着用するトレンドの恩恵も受け、月間売上が1億円を超える店舗も出てきています。

また、注目すべきはその会員基盤です。2023年時点で115万人で、年会費は1,500円です。毎年17億円の収入が会員から見込めます。

2. 市場環境分析

市場定義:消費者のジョブ(Jobs to be Done)

続いて、モンベルが属するアウトドア用品市場が解決する顧客のジョブを考えてみましょう。アウトドア用品は以下のような顧客のジョブ(課題や欲求)を解決しています:

  1. 自然環境の中で快適に活動したい(登山、キャンプ、トレッキングなど)
  2. 変わりやすい天候や環境から身を守りたい(雨、風、寒さなど)
  3. アクティビティに必要な道具を効率的に運びたい
  4. アウトドア活動を通じて自己実現や達成感を得たい
  5. 日常生活においてもアウトドアの機能性や快適さを享受したい

これらのジョブは消費者の生活の質に直結するものであり、近年のアウトドアブームやコロナ禍での自然志向の高まりから、そのジョブの量と優先度は増加傾向にあります。

競合状況

日本のアウトドア用品市場における主要プレイヤーと特徴は以下の通りです:

  • ザ・ノース・フェイス:アメリカ発の高級アウトドアブランド。ファッション性と機能性を両立
  • パタゴニア:環境保護活動に力を入れる米国ブランド。持続可能性を重視
  • コロンビア:アメリカ発のアウトドアブランド。比較的リーズナブルな価格設定
  • スノーピーク:日本発のキャンプ用品ブランド。デザイン性の高さが特徴
  • ゴールドウイン:スポーツアパレルメーカー。ノースフェイスの日本国内ライセンス

モンベルはこれらの競合の中で、「機能性」「軽量性」「コストパフォーマンス」を強みとし、特に登山愛好者から高い支持を得ています。

POP/POD/POF分析

続いて、アウトドア用品市場で戦って勝っていくために必要な要素を整理していきましょう。

POP (Points of Parity):業界標準として必須の要素

  • 耐久性と信頼性の高い製品
  • 悪天候に対応できる防水・防風性能
  • 幅広い製品ラインナップ
  • オフライン(店舗)・オンラインの両方での購入チャネル
  • 製品の機能や使用方法に関する十分な情報提供

POD (Points of Difference):差別化要素

  • モンベルの場合:
    • 「Function is Beauty」と「Light & Fast」という明確な製品哲学
    • 登山家である創業者の経験に基づく実用的な製品設計
    • 日本の気候や体型に合わせた製品開発
    • 直営店による一貫したブランド体験の提供
    • 競合と比較して魅力的な価格帯(コストパフォーマンスの高さ)
    • 「モンベルクラブ」による顧客コミュニティの形成

POF (Points of Failure):市場参入の失敗要因

  • 製品の品質や耐久性の欠如
  • 日本の気候や地形に適さない製品設計
  • アフターサービスやサポートの不足
  • 適切な販売チャネルの欠如
  • 不十分な在庫管理による品切れの発生
  • 環境への配慮や持続可能性への取り組み不足

PESTEL分析

次に、アウトドア用品市場を各視点で見たときの追い風と向かい風を分析しましょう。

Political(政治的要因)

  • 機会:観光促進政策によるアウトドア活動の奨励
  • 脅威:国際情勢の不安定化による原材料調達リスク

Economic(経済的要因)

  • 機会:アウトドアレジャー市場の成長(年平均成長率3.8%)
  • 脅威:原材料価格の上昇、円安によるコスト増加

Social(社会的要因)

  • 機会:
    • コロナ禍以降のアウトドア活動への関心増加
    • 健康志向の高まり
    • ワークライフバランスの重視によるレジャー時間の増加
    • Gorpcoreトレンドによるアウトドアウェアの日常使用
  • 脅威:少子高齢化による将来的な市場縮小リスク

Technological(技術的要因)

  • 機会:
    • 新素材の開発による製品性能の向上
    • デジタル技術の活用によるカスタマーエクスペリエンスの向上
  • 脅威:技術革新のスピードに対応するための継続的な投資の必要性

Environmental(環境的要因)

  • 機会:環境意識の高まりによる持続可能な製品への需要増加
  • 脅威:気候変動による従来のアウトドア活動パターンの変化

Legal(法的要因)

  • 機会:製品安全基準の厳格化による高品質製品の価値向上
  • 脅威:化学物質規制(PFASなど)の強化によるコスト増加や製品開発の制約

この分析から、アウトドア用品市場は社会的要因や技術的要因による追い風を受ける一方で、経済的要因や環境的要因による向かい風も存在することがわかります。モンベルはこれらの環境変化に対応しながら、自社の強みを活かした戦略を展開しています。

3. ブランド競争力分析

続いて、モンベル自体の強み、弱みは何で、それらが今の外部環境の中でどう活かしていけるのか、いくべきなのかを見ていきましょう。

SWOT分析

Strengths(強み)

  • 高機能で軽量な製品開発力(特に1000フィルパワーのダウンジャケットなど)
  • 「機能は美である」というシンプルで明確なデザイン哲学
  • 登山家である創業者のストーリーと専門知識による信頼性
  • 全国140店舗以上の直営店ネットワーク
  • 顧客の声を反映した実用的な製品設計
  • 110万人以上のモンベルクラブ会員による安定した顧客基盤
  • 環境保護活動への積極的な取り組みによるブランド信頼性

Weaknesses(弱み)

  • 競合他社と比較した際の国際的なブランド認知度の低さ
  • 高品質製品を提供する一方で、価格競争力に課題がある場合も
  • デジタルマーケティングやEコマース分野での遅れ
  • 変化の速いファッショントレンドへの対応力

Opportunities(機会)

  • アウトドア市場の継続的な成長(年平均成長率3.8%)
  • 海外市場への進出拡大(ECサイトを通じた国際販売の強化)
  • MZ世代(ミレニアル世代とZ世代)をターゲットにしたブランドイメージの再構築
  • Gorpcoreトレンドによるアウトドアウェアの日常使用の増加
  • 環境意識の高まりによる持続可能な製品への需要増加
  • デジタル技術を活用した顧客体験の向上

Threats(脅威)

  • ザ・ノース・フェイスやパタゴニアなどのグローバルブランドとの競争激化
  • 原材料価格の上昇や為替変動によるコスト増加
  • ECプラットフォームの台頭による価格競争の激化
  • 消費者の嗜好や消費行動の急速な変化
  • 化学物質規制の強化による製品開発の制約
  • 経済的不確実性による消費意欲の減退

クロスSWOT戦略

SO戦略(強みを活かして機会を最大化)

  • 高機能・軽量製品の開発力を活かし、成長するアウトドア市場でのシェア拡大
  • 直営店ネットワークを活用したMZ世代向けの体験型マーケティングの強化
  • モンベルクラブの会員基盤を活用したコミュニティ形成と顧客ロイヤルティの向上
  • 環境保護への取り組みをアピールし、環境意識の高い消費者の支持獲得

WO戦略(弱みを克服して機会を活用)

  • デジタルマーケティングの強化による若年層の取り込み
  • 組織文化の革新により若手社員の創造性を促進し、新しいアイデアを取り入れる
  • SNSやインフルエンサーを活用した国際的なブランド認知度の向上
  • 価格帯の多様化による幅広い顧客層へのアプローチ

ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)

  • 高品質・高機能製品の強みを活かした差別化で価格競争から脱却
  • 直営店での顧客体験の質向上による競合との差別化
  • 環境に配慮した製品開発による化学物質規制への先手対応
  • モンベルクラブを通じた顧客との関係強化による競合からの顧客流出防止

WT戦略(弱みと脅威の両方を最小化)

  • デジタル技術の活用による業務効率化とコスト削減
  • 組織の柔軟性を高め、市場変化への対応力強化
  • 価格戦略の見直しによる競争力の向上
  • 効果的なサプライチェーン管理による原材料コスト上昇の影響緩和

このSWOT分析から、モンベルは直営店ネットワークやモンベルクラブといった強みを活かしながら、デジタルマーケティングの強化や組織文化の革新といった課題に取り組むことで、競争の激しいアウトドア市場での地位をさらに強化できることがわかります。

4. 消費者心理と購買意思決定プロセス

続いて、モンベルの顧客はなぜこのブランドを選ぶのか、その購買行動の構造を複数のパターンで見ていきましょう。

オルタネイトモデル分析

パターン1:登山・トレッキング愛好者

要素内容
行動登山やトレッキングのため、モンベルのレインウェアやバックパックを購入する
きっかけ登山計画を立てる際の装備の見直し、天候への備え
欲求軽量で機能的な装備で安全に山行を楽しみたい
抑圧予算の制約、高額な装備への投資に対する躊躇
報酬厳しい環境下でも性能を発揮する装備による安心感と達成感

このパターンでは、「安全性」「機能性」「信頼性」が主要な選択理由となっています。モンベルは登山家の創業者による実用的な製品設計と長年の信頼性で、この顧客層の深い欲求に応えています。

パターン2:アウトドア初心者

要素内容
行動キャンプ初心者がモンベルでテントや寝袋を購入する
きっかけSNSでのキャンプの投稿に触発される、友人からの勧誘
欲求手軽に始められる初心者向けの信頼できる装備を揃えたい
抑圧アウトドアの知識不足、失敗への不安、高額な初期投資への躊躇
報酬専門家のアドバイスによる安心感、初めてのアウトドア体験の成功

このパターンでは、「アクセスのしやすさ」「スタッフからの適切なアドバイス」「入門しやすい製品ラインナップ」が重要です。モンベルの直営店ネットワークとスタッフのサポートが、初心者の不安を解消する役割を果たしています。

パターン3:日常使いをするタウンユーザー

要素内容
行動街中での着用を目的に、モンベルのダウンジャケットやフリースを購入する
きっかけGorpcoreトレンドの認知、ファッションSNSでの流行
欲求機能的でありながらスタイリッシュなアイテムを日常に取り入れたい
抑圧アウトドアブランドを普段着として着用することへの抵抗感
報酬日常でも高機能な服を着ることによる実用性と周囲との差別化

このパターンでは、「ファッション性」「ブランドイメージ」「機能性と日常性の両立」が選択の鍵となります。モンベルの「Function is Beauty」の理念が、機能性とデザイン性を両立させる製品として、この欲求に応えています。

本能的動機

モンベル製品の購入における本能的動機を分析すると、以下のような要素が影響していることがわかります:

生存本能に関連する要素

  • 過酷な環境から身を守るための高機能ウェア(レインウェア、ダウンジャケットなど)
  • 気温変化に対応できる機能性(透湿性、保温性)
  • 安全性を高める装備(ヘッドライト、ホイッスルなど)

繁殖本能に関連する要素

  • グループ内での差別化(アウトドア愛好家としてのアイデンティティ表現)
  • ステータスの表示(高品質・専門的な装備の所有)
  • 社会的つながりの形成(モンベルクラブを通じた同好の士との交流)

8つの欲望との関連

  • 安らぐ:自然の中でのリラックスをサポートする快適な装備
  • 進める:アウトドアスキルの向上、新しい体験への挑戦をサポート
  • 決する:豊富な製品の中から自分に最適な選択をする主体性
  • 有する:高機能装備の所有による安心感と満足感
  • 属する:モンベルユーザーというコミュニティへの帰属意識
  • 高める:アウトドア活動の達成感、自己実現
  • 伝える:アウトドア体験の共有、SNSでの発信
  • 物語る:自分の冒険や挑戦の物語づくり

特にモンベルは「安らぐ」「進める」「有する」「属する」の欲望に強く訴求しています。安全で信頼性の高い装備を提供することで「安らぐ」欲望を満たし、様々なレベルのアウトドア活動をサポートすることで「進める」欲望に応えています。また、高品質な装備の所有による満足感(「有する」)と、モンベルクラブを通じたコミュニティへの帰属(「属する」)も重要な動機となっています。

このように本能と欲望に訴求する製品設計とブランディングが、モンベルの深い顧客ロイヤルティにつながっていると考えられます。

5. ブランド戦略の解剖

これまで整理した情報をもとに、モンベルはどういう人のどういうジョブに対して、なぜ選ばれているのか、そしてどうその価値を届けているのかをまとめていきます。

Who/What/How分析

パターン1:コア登山家向け戦略

要素内容
Who(誰に)本格的な登山やトレッキングを行う30代〜50代の中上級者
Who(JOB)厳しい環境下でも安全かつ効率的に行動したい
What(便益)軽量性と機能性の両立、過酷な条件下での信頼性
What(独自性)登山家である創業者の視点から生まれた実践的な機能設計
What(RTB)1000フィルパワーのダウンなど高品質素材、実際の使用環境テスト
How(プロダクト)超軽量ダウンシリーズ、高性能レインウェア、機能的なバックパック
How(コミュニケーション)専門誌への広告、技術的特徴の詳細説明、モンベルクラブのイベント
How(場所)直営店、専門アウトドアショップ、公式ECサイト
How(価格)プレミアム価格帯(品質と機能を重視した適正価格)

モンベルのコアとなる登山家向け戦略では、製品の機能性と信頼性を最大限に訴求しています。開発者自身が登山家であるという点を強調し、実際の使用状況を想定した製品設計が独自の価値となっています。

パターン2:カジュアルアウトドア層向け戦略

要素内容
Who(誰に)キャンプやハイキングを楽しむ20代〜40代のファミリー層
Who(JOB)家族や友人と気軽に自然を楽しみたい
What(便益)扱いやすく、初心者でも失敗しにくい装備
What(独自性)機能性と使いやすさの両立、コストパフォーマンスの高さ
What(RTB)豊富な製品ラインナップ、専門スタッフによるアドバイス
How(プロダクト)エントリーモデルのテント、コンパクトな寝袋、カジュアルウェア
How(コミュニケーション)ライフスタイル誌、SNS、店頭での実演やワークショップ
How(場所)ショッピングモール内の店舗、郊外の大型店、公式ECサイト
How(価格)ミドルレンジ(入門しやすい価格設定)

カジュアルアウトドア層に対しては、入門のハードルを下げる戦略を展開しています。製品の使いやすさと失敗しにくさを強調し、アウトドア初心者でも安心して活動できる環境を提供しています。

パターン3:日常使い層向け戦略

要素内容
Who(誰に)アウトドアテイストを日常に取り入れたい20代〜30代の若年層
Who(JOB)機能的でありながらスタイリッシュなアイテムを日常で活用したい
What(便益)日常生活での実用性、シンプルなデザイン、耐久性
What(独自性)「Function is Beauty」の理念に基づく機能美
What(RTB)高品質素材、シンプルで飽きのこないデザイン
How(プロダクト)タウンユース可能なダウンジャケット、バッグ、ライフスタイルウェア
How(コミュニケーション)SNS、インフルエンサーとのコラボ、ファッション誌
How(場所)都市部の直営店、ポップアップストア、公式ECサイト
How(価格)プレミアムカジュアル(高機能製品の日常使い版)

日常使い層に対しては、機能性とデザイン性の両立を訴求しています。「Function is Beauty」の理念を具現化し、アウトドアの要素を取り入れたスタイリッシュな日常着として、特にMZ世代をターゲットにしています。

成功要因の分解

ブランドポジショニングの特徴

  • 「機能性と美しさの融合」という明確なポジショニング
  • 登山家である創業者のストーリーによる専門性と信頼性の担保
  • 日本の気候や体型に合わせた製品開発による国内市場での強み
  • 高機能かつ適正価格という「コストパフォーマンス」の強調

コミュニケーション戦略の特徴

  • 製品の機能性を重視した情報提供(使用素材や技術の詳細説明)
  • モンベルクラブを通じたコミュニティ形成とダイレクトコミュニケーション
  • 直営店スタッフによる専門的なアドバイスの提供
  • SNSやインフルエンサーを活用した若年層へのアプローチ

価格戦略と価値提案の整合性

  • 品質と機能に見合った適正価格の設定
  • 幅広い価格帯の製品ラインナップによる多様な顧客層へのアプローチ
  • プレミアム製品(Plasma 1000シリーズなど)と入門製品の明確な差別化
  • セールやプロモーションによる購入ハードルの低減

カスタマージャーニー上の差別化ポイント

  • 認知段階:専門誌とSNSの両方を活用したターゲット別コミュニケーション
  • 検討段階:詳細な製品情報と使用シーンの提示
  • 購入段階:直営店での専門的なアドバイスとサポート
  • 使用段階:期待を超える機能性と耐久性の提供
  • 推奨段階:モンベルクラブイベントを通じたコミュニティ形成

顧客体験(CX)設計の特徴

顧客体験(CX)設計の特徴

  • 専門知識豊富なスタッフによる店舗体験の質の向上
  • モンベルクラブを通じた会員特典やイベント提供による継続的な関係構築
  • アウトドアフィールドでの製品パフォーマンスによる期待を超える体験
  • オンラインとオフラインの一貫した顧客体験の統合
  • 環境保護活動への参加機会の提供によるブランド価値との共感創出

これらの分析から、モンベルは単に製品を販売するだけでなく、ユーザーのアウトドア体験全体をサポートする包括的なアプローチを取っていることがわかります。特に直営店ネットワークを生かした専門的なアドバイスの提供と、モンベルクラブを通じたコミュニティ形成が、他のアウトドアブランドとの差別化要因となっています。

見えてきた課題

外部環境からくる課題と対策

  1. グローバル競合との競争激化
    • 対策:日本市場での強みをさらに強化しつつ、日本発のアウトドアブランドとしての独自性をグローバル市場でアピール
    • 対策:ECサイトを通じた国際展開の強化と現地のニーズに合わせた製品開発
  2. 原材料価格の上昇と供給リスク
    • 対策:サプライチェーンの多様化と長期的なサプライヤーとの関係構築
    • 対策:価格転嫁を最小限に抑えながらも品質は維持するバランス戦略
  3. 環境規制の強化
    • 対策:PFASフリーなど環境に配慮した素材への先行的な移行
    • 対策:サステナビリティを中核に据えた製品開発とマーケティング

内部環境からくる課題と対策

  1. 組織文化と革新性のバランス
    • 対策:若手社員の意見を積極的に取り入れる仕組みの構築
    • 対策:伝統的な価値観を維持しながらも新しいアイデアを育む組織風土の醸成
  2. デジタルマーケティングの強化
    • 対策:デジタル人材の積極採用とリスキリング
    • 対策:顧客データの活用によるパーソナライズドマーケティングの展開
  3. 製品ラインの複雑化と在庫管理
    • 対策:データに基づく需要予測の精度向上
    • 対策:製品ラインの合理化と重点カテゴリーへの集中

これらの課題に適切に対応していくことで、モンベルは変化する市場環境においても持続的な成長を実現できるでしょう。

6. 結論:選ばれる理由の統合的理解

総合的に見て、競合や代替手段がある中でモンベルはなぜ選ばれるのでしょうか。

消費者にとっての選択理由

機能的側面

  • 軽量性と高機能性の両立(「Light & Fast」の理念の実現)
  • 日本の気候や体型に適した製品設計
  • 耐久性と信頼性の高さ
  • コストパフォーマンスの良さ(機能に対する適正価格)

感情的側面

  • 登山家である創業者のストーリーによる共感と信頼
  • アウトドア活動を通じた自己実現や達成感との結びつき
  • 「機能は美である」という美意識への共感
  • 製品を使用する過程での期待を超える体験

社会的側面

  • モンベルユーザーというコミュニティへの帰属意識
  • 環境保護活動との結びつきによる社会的価値の共有
  • アウトドア愛好家としてのアイデンティティ表現
  • 日本生まれのブランドとしての親近感と誇り

市場構造におけるブランドの独自ポジション

モンベルは、アウトドア用品市場において以下のような独自のポジションを確立しています:

  1. 「機能美」の体現者:単なる機能性やデザイン性ではなく、「Function is Beauty」という理念に基づく機能と美の融合を実現するブランドとしてのポジション
  2. 日本発グローバルブランド:海外ブランドが優勢なアウトドア市場において、日本の気候や体型に合わせた製品開発を行う国産ブランドとしての独自性
  3. 幅広い顧客層をカバー:本格的な登山家から初心者、日常使い層まで、様々なレベルのユーザーに適した製品を提供する包括的なブランド
  4. 直営店ネットワークによる体験提供:全国200店舗以上の直営店を通じて、専門的なアドバイスと一貫したブランド体験を提供できる強み
  5. コミュニティ形成の促進者:モンベルクラブを通じた会員同士の交流やイベントにより、単なる製品提供を超えたコミュニティ形成を促進する役割

競合との明確な差別化要素

モンベルが競合他社と比較して持つ明確な差別化要素は以下の通りです:

  1. 「Light & Fast」の徹底:特に軽量性を追求した製品開発は、同様の機能性を持つ競合製品と比較しても優位性を持つ
  2. 創業者の専門性:登山家である辰野勇氏の経験と専門知識に基づく製品開発は、使用者視点を徹底した設計につながる
  3. 日本市場への最適化:日本の気候条件や体型に特化した製品設計により、グローバルブランドと差別化
  4. 価格と機能のバランス:高機能でありながら競合他社と比較して手頃な価格帯を実現し、コストパフォーマンスの高さを訴求
  5. 直営店による一貫したブランド体験:全国の直営店ネットワークを通じて、製品知識豊富なスタッフによる専門的なアドバイスを提供

持続的な競争優位性の源泉

モンベルの持続的な競争優位性の源泉として、以下の要素が挙げられます:

  1. 明確なブランド哲学:「Function is Beauty」と「Light & Fast」という簡潔で力強い理念が、すべての製品開発とマーケティング活動の基盤となっている
  2. 創業者のストーリーと専門性:登山家としての経験と実績を持つ辰野氏のストーリーが、ブランドの信頼性と専門性を強化している
  3. 顧客との強い関係性:モンベルクラブを通じた会員コミュニティの形成と、直営店ネットワークによる顧客との直接的な接点が、顧客ロイヤルティを高めている
  4. 機能とデザインの融合:単なる機能性や価格訴求ではなく、機能美という概念で差別化し、模倣しにくい価値を創出している
  5. 顧客理解に基づく製品開発:実際のユーザーの声を製品開発に反映させる体制が、顧客ニーズに適合した製品を生み出し続けている

これらの要素が相互に補強し合うことで、モンベルは単なる製品の機能や価格を超えた価値を顧客に提供し、持続的な競争優位性を構築しています。

graph TD A[モンベルが選ばれる理由] --> B[機能的価値] A --> C[感情的価値] A --> D[社会的価値] B --> B1[軽量性と高機能性] B --> B2[日本市場への最適化] B --> B3[耐久性と信頼性] B --> B4[コストパフォーマンス] C --> C1[創業者のストーリー] C --> C2[機能美への共感] C --> C3[期待を超える体験] D --> D1[コミュニティ帰属] D --> D2[環境保護活動] D --> D3[アイデンティティ表現]

7. マーケターへの示唆

我々マーケターはモンベルの成功例から何を学べるのでしょうか。

再現可能な成功パターン

  1. 明確な理念に基づくブランド構築
    • シンプルかつ力強いブランド哲学を確立し、それを全ての活動の中心に据える
    • 「Function is Beauty」のように、一見対立するように見える価値(機能性と美しさ)を融合させる独自の視点を提供する
  2. 創業者・経営者のストーリーの活用
    • 創業者の専門性や経験を製品開発やブランディングに積極的に活用する
    • 「なぜこの製品を作るのか」という根源的な動機をストーリーとして伝える
  3. 直営店を通じた顧客体験のコントロール
    • 可能な限り自社でタッチポイントをコントロールし、一貫したブランド体験を提供する
    • 専門知識を持つスタッフを通じて、単なる販売を超えた価値(適切なアドバイスや提案)を提供する
  4. 会員組織を通じたコミュニティ形成
    • 単一の購買関係を超えた長期的な顧客関係を構築する
    • 会員同士の交流やイベント参加を通じて、ブランドを中心としたコミュニティの形成を促進する
  5. 顧客セグメントの段階的拡大
    • コア顧客(モンベルの場合は登山家)の支持を固めた上で、周辺層(カジュアルアウトドア層、日常使い層)へと段階的に拡大する
    • 各セグメントに合わせた製品ラインと訴求ポイントを最適化する

業界・カテゴリーを超えて応用できる原則

  1. 「機能は美である」原則
    • どのような業界でも、製品やサービスの本質的な機能を美しく実現することが付加価値となる
    • 例:飲食業でシンプルながらも完成度の高いメニュー、IT業界でシンプルながら直感的なUI/UXなど
  2. 「専門家が自ら使うために作る」原則
    • 実際に使用する専門家や愛好家が製品開発に関わることで、本当に必要な機能や使いやすさが実現される
    • 例:医師が開発に関わる医療機器、プロのシェフが監修する調理器具など
  3. 「体験を中心としたコミュニティ形成」原則
    • 製品やサービスを通じた体験を共有するコミュニティを形成することで、顧客ロイヤルティが高まる
    • 例:スポーツブランドのランニングクラブ、自動車メーカーのオーナーズクラブなど
  4. 「理念とビジネスの一致」原則
    • 企業理念が実際のビジネス活動や製品に明確に反映されることで、ブランドの一貫性と信頼性が高まる
    • 例:環境に配慮したポリシーと実際の製品開発や生産活動の一致
  5. 「直接的な顧客タッチポイント」原則
    • できる限り直接顧客と接点を持つことで、顧客理解が深まり、フィードバックを迅速に取り入れることができる
    • 例:D2Cブランドの公式ECサイト運営、メーカー直営店の展開など

これらの原則は、アウトドア業界に限らず、様々な業種・業態に応用可能な普遍的な成功要因といえます。自社のビジネスの文脈に合わせてこれらの原則を適用することで、持続的な競争優位性の構築につながるでしょう。

graph LR A[ブランド強化の基本原則] --> B[明確な理念の確立] A --> C[創業者ストーリーの活用] A --> D[顧客体験のコントロール] A --> E[コミュニティ形成] A --> F[顧客セグメントの段階的拡大] B --> G[一貫性のある行動] C --> H[信頼性と専門性の確立] D --> I[記憶に残る体験の創出] E --> J[長期的な顧客関係の構築] F --> K[持続的な成長基盤の確保]

モンベルの事例から学ぶ最も重要な教訓は、製品やサービスそのものの機能的価値を高めることはもちろん、その背後にある理念や創業者のストーリー、顧客コミュニティの形成を通じて、感情的・社会的価値を統合的に提供することの重要性です。単なる機能や価格の競争ではなく、顧客の深層心理に訴求する多層的な価値提案こそが、持続的な競争優位性の源泉となります。

自社のビジネスにおいても、「何を売るか」だけでなく「なぜそれを提供するのか」「どのような体験や価値を届けるのか」を今一度考え直し、顧客の本能的欲求に応える価値提案を構築していくことが、長期的な成功への道と言えるでしょう。

まとめ

モンベルが市場で選ばれ続ける理由の分析から、以下のキーポイントが明らかになりました:

  • モンベルは「Function is Beauty」と「Light & Fast」という明確な理念に基づき、機能性と美しさを融合させた製品開発を行っている
  • 登山家である創業者のストーリーと専門性が、ブランドの信頼性と専門知識の象徴となっている
  • 直営店ネットワークとモンベルクラブを通じた顧客との直接的な関係構築が、強いブランドロイヤルティにつながっている
  • 本格的な登山家からカジュアルユーザー、タウンユースまで幅広い顧客層に対応した製品ラインナップが、市場の拡大を支えている
  • 日本の気候や体型に適した製品設計により、グローバルブランドとの差別化を図っている
  • 機能性とコストパフォーマンスのバランスが、幅広い顧客層からの支持を獲得している

これらの成功要因は、アウトドア業界に限らず様々なビジネスに応用可能な普遍的な原則を示しています。自社のビジネスに置き換えて考えると、以下のような問いかけが有益でしょう:

  1. あなたのブランドを一言で表現できる明確な理念はあるか?
  2. 創業者や経営者のストーリーをブランド価値の一部として活用できているか?
  3. 顧客との直接的な接点を持ち、一貫したブランド体験を提供できているか?
  4. 単なる製品販売を超えた、顧客コミュニティの形成に取り組んでいるか?
  5. 顧客セグメントの段階的な拡大戦略を持っているか?

モンベルの事例は、単なる製品機能や価格戦略を超えた、統合的なブランド価値の構築が持続的な競争優位性につながることを示しています。これからのブランド構築においては、顧客の深層心理に訴求する多層的な価値提案と、それを一貫して実現する組織的な取り組みが不可欠であると言えるでしょう。

出典:https://www.montbell.jp/

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tomihey

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