多くの企業で、マーケティング部門とセールス部門の連携がうまくいかず、対立が生じているケースがあります。この記事では、マーケティングとセールスの役割を明確にし、なぜ対立が起こるのか、そしてどのように解決できるのかを詳しく解説します。マーケティング担当者の皆さんが、セールス部門との関係を改善し、企業全体の成果を向上させるためのヒントを得られることを目指します。
マーケティング組織の役割
マーケティング組織は、企業の成長と顧客獲得において重要な役割を果たしています。主な役割は以下の通りです:
- 市場調査と顧客ニーズの把握
- ブランド構築とイメージ管理
- 製品・サービスの開発支援
- 広告・プロモーション戦略の立案と実行
- リードの獲得と育成
これらの役割を通じて、マーケティング組織は企業の「顔」となり、顧客との接点を作り出します。例えば、新製品のローンチ時には、市場調査を行い、ターゲット顧客のニーズを把握し、適切な広告戦略を立てて製品の認知度を高めます。
マーケティング組織の具体的な業務内容と目的を表にまとめると、以下のようになります:
業務内容 | 目的 |
---|---|
市場調査 | 顧客ニーズや競合状況の把握 |
ブランディング | 企業・製品の認知度向上と好感度アップ |
コンテンツ制作 | 顧客への情報提供と興味喚起 |
ウェブサイト運営 | オンライン上での顧客接点の創出 |
SNS運用 | 顧客とのコミュニケーションと情報拡散 |
リード獲得施策 | 見込み客の発掘と育成 |
マーケティング組織の役割は、企業全体の戦略に大きく影響を与えます。例えば、市場調査で得られた顧客ニーズの情報は、製品開発部門にフィードバックされ、より顧客志向の製品づくりにつながります。また、ブランディング活動を通じて構築された企業イメージは、セールス部門の営業活動をサポートする重要な要素となります。
ただし、多くの日本企業のマーケティング組織は広告・プロモーション戦略の立案と実行とリードの獲得の役割に特化してしまっています。そのため目先の数字に追われすぎて疲弊している組織が散見されます。
セールス組織の役割
一方、セールス組織は、企業の収益を直接的に生み出す重要な部門です。主な役割は以下の通りです:
- 顧客との直接的なコミュニケーション
- 製品・サービスの提案と販売
- 顧客ニーズの深掘りと解決策の提示
- 契約締結と売上の実現
- 顧客との長期的な関係構築
セールス組織は、マーケティング組織が獲得したリードを実際の売上に結びつける役割を担っています。例えば、マーケティングが集めた見込み客に対して、セールス担当者が直接コンタクトを取り、製品やサービスの詳細な説明を行い、顧客の具体的なニーズに合わせた提案を行います。
セールス組織の具体的な業務内容と目的を表にまとめると、以下のようになります:
業務内容 | 目的 |
---|---|
顧客訪問 | 直接的な関係構築と信頼獲得 |
製品デモンストレーション | 製品・サービスの価値の可視化 |
提案書作成 | 顧客ニーズに合わせたソリューション提示 |
価格交渉 | 適切な条件での契約締結 |
アフターフォロー | 顧客満足度の向上と継続的な取引 |
セールス組織の活動は、企業の収益に直結するため、常に数字(売上や成約率など)で評価されます。この点が、後述するマーケティング組織との対立の一因となることがあります。
マーケティング組織とセールス組織が対立する根本的な理由
マーケティング組織とセールス組織は、同じ目標(企業/事業の成長と顧客獲得)を持っているにもかかわらず、しばしば対立することがあります。その根本的な理由をいくつか挙げてみましょう。
- 目標設定の違い
- マーケティング組織は長期的な視点でブランド価値の向上や市場シェアの拡大を目指すのに対し、セールス組織は短期的な売上目標の達成を求められることが多いです。
- マーケティング組織がリード獲得数などの短期的な目標を追う組織も多いですが、数だけを追い、商談や受注につながらないケースに繋がってしまいます。
- 成果測定の指標の違い
- マーケティング組織はリード獲得数や認知度などの指標で評価されるのに対し、セールス組織は売上や成約率などの直接的な数字で評価されます。
- 顧客との接点の違い
- マーケティング組織は主に間接的な顧客接点(広告、ウェブサイトなど)を持つのに対し、セールス組織は直接的な顧客接点を持ちます。
- 時間軸の違い
- マーケティング施策は効果が表れるまでに時間がかかることが多いですが、セールス活動は即時的な結果が求められます。
- 専門用語や概念の理解の違い
マーケティングとセールスでは使用する専門用語や重視する概念が異なることがあり、コミュニケーションの齟齬が生じやすいです。
これらの違いが、両組織の対立を生み出す根本的な理由となっています。例えば、マーケティング組織が長期的なブランド構築のために高額な広告キャンペーンを実施しても、セールス組織からは「すぐに売上に結びつかない無駄な投資」と見なされることがあります。
逆に、セールス組織が短期的な売上を上げるために値引きを多用すると、マーケティング組織が築いてきたブランドイメージを損なう可能性があります。
このような対立の構造を図解すると、以下のようになります:
この図は、マーケティング組織とセールス組織の異なる視点と目標が、どのように対立を生み出す可能性があるかを示しています。
解決策
マーケティング組織とセールス組織の対立を解消し、より良い連携を実現するためには、以下のような解決策が考えられます。
① 共通のKGI(重要目標達成指標)の設定
両組織が同じ大きな目標に向かって進むことで、視点の違いを埋めることができます。例えば、「顧客生涯価値(LTV)の最大化」といった指標を共通のKGIとして設定することで、短期的な売上だけでなく、長期的な顧客関係の構築も重視されるようになります。下記表を参考にしてください。
例)
共通KGI | マーケティングのKPI | セールスのKPI |
---|---|---|
顧客生涯価値(LTV)の最大化 | ・顧客獲得コスト(CAC) ・リピート率 ・クロスセル・アップセル率 ・ブランド認知度 | ・顧客維持率 ・顧客あたりの年間売上 ・契約更新率 ・アップセル成功率 |
顧客満足度の向上 | ・NPS(Net Promoter Score) ・カスタマーエンゲージメント率 ・ソーシャルメディアでの言及数と感情分析 ・問い合わせ対応満足度 | ・顧客満足度調査スコア ・クレーム解決率 ・顧客との接触頻度 ・提案の採用率 |
市場シェアの拡大 | ・ブランド認知度 ・ウェブサイトトラフィック ・リード獲得数 ・MQL獲得数(ターゲットリード数) ・商談数 ・競合比較での選択率 | ・新規顧客獲得数 ・大口顧客数 ・競合からの乗り換え数 ・商談勝率 |
顧客獲得効率の向上 | ・リードジェネレーション数 ・マーケティング認定リード(MQL)数 ・リードからMQLへの転換率 ・コンテンツマーケティングROI | ・セールス認定リード(SQL)数 ・MQLからSQLへの転換率 ・商談化率 ・平均商談期間 |
イノベーション指数の向上 | ・新製品・サービスの認知度 ・市場調査の実施回数と質 ・顧客フィードバックの収集数 ・新製品・サービスの採用率 | ・新製品・サービスの売上比率 ・クロスセル・アップセル成功率 ・顧客からの新機能リクエスト数 ・新製品・サービスのデモ実施回数 |
②定期的な情報共有と相互理解の促進
両組織間で定期的なミーティングを設け、商談中の顧客がなぜ前進するのか、なぜ停滞するのかを常に把握をし、お互いの行動を改善していきます。また、互いが今重視している策について共有するのも良いでしょう。例えばマーケティング組織がセールス組織の商談に同行したり、セールス組織がマーケティングの企画会議に参加したりすることで、相互理解が深まります。
例)下記情報についてマーケティング組織とセールス組織で週1回のMTGを実施し互いの施策に変化をつけていく
- ターゲットリード → 商談
- なぜ商談になったのか
- なぜ商談にならなかったのか
- 商談 → 受注
- なぜ受注になったのか(どうして自社を選んだのか)
- なぜ受注にならなかったのか
③ 共通の用語定義と評価基準の確立
「リード」や「見込み客」といった用語の定義を明確にし、両組織で共有することが大切です。また、リードの質を評価する共通の基準を設けることで、マーケティングからセールスへのリード引き渡しがスムーズになります。
④ 統合的なCRM(顧客関係管理)システムの導入
両組織が同じデータベースや仕組みを使用することで、顧客情報の一元管理と共有が可能になります。これにより、マーケティング施策の効果をセールス活動に直接反映させることができます。
⑤ 経営層によるビジョンの明確化と支援
企業のトップマネジメントが、マーケティングとセールスの連携の重要性を明確に示し、両組織の協力を促進する体制づくりをサポートすることが重要です。
まとめ
マーケティング組織とセールス組織の対立は、多くの企業が直面する課題ですが、適切な戦略と取り組みによって解消することが可能です。両組織の連携を強化することで、企業全体の成果向上につながります。
Key Takeaways:
- マーケティングとセールスの役割の違いを理解する
- 共通のKGIを設定し、長期的な視点を共有する
- 定期的な情報共有と相互理解を促進する
- 共通の用語定義と評価基準を確立する
- 統合的なCRMシステムを導入し、データを共有する
- 経営層のサポートを得て、組織文化の変革を進める
これらの取り組みを通じて、マーケティングとセールスの壁を越えた協力体制を構築し、顧客満足度の向上と企業成長の実現を目指しましょう。