はじめに
製造業のマーケティング担当者の皆さん、急速に変化する市場環境に対応するのに苦労していませんか?デジタルトランスフォーメーション(DX)やカーボンニュートラルへの対応など、新たな課題が次々と現れる中で、従来のマーケティング手法だけでは十分な効果が得られないと感じているかもしれません。
本記事では、経済産業省が発表した「令和4年度ものづくり基盤技術の振興施策」を基に、製造業のマーケティングの最新トレンドと効果的な戦略について解説します。DXやカーボンニュートラルへの対応を中心に、製造業のマーケティングがどのように変化しているのか、そしてどのような取り組みが求められているのかを具体的に見ていきましょう。
ものづくり基盤技術の振興施策の概要
「令和4年度 ものづくり基盤技術の振興施策」は、日本の製造業を中心としたものづくり産業に関する振興施策の概要をまとめた報告書です。以下に主なポイントを簡潔にまとめます:
- 背景と目的:
- この報告書は、ものづくり基盤技術振興基本法に基づき、製造業を含む基盤技術の振興施策を取りまとめたもの。
- 製造業がGDPの約20%を占める日本経済の中心的産業としての役割を果たしていることを強調。
- 内容の構成:
- 第1部: 製造業の現状と課題を分析し、業績動向や生産拠点の移転、DX(デジタルトランスフォーメーション)、カーボンニュートラルに関する取り組みを詳細に記載。
- 第2部: 具体的な振興施策として、研究開発、人材育成、中小企業支援、環境対応、災害復興支援、国際展開などの内容を網羅。
- 重要施策:
- DX推進: デジタル技術を活用した製造業の効率化。
- カーボンニュートラル: 脱炭素化への取り組みとして、GX実行会議やカーボンフットプリントの検証などを実施。
- 中小企業支援: SBIR制度や経営革新促進など、中小企業の成長をサポート。
- 研究開発と教育:
- 次世代AI、量子技術、材料開発などの重点分野への投資。
- 理数教育や職業訓練を通じた人材育成の強化。
- 課題と今後の方向性:
- 国際競争力の向上やデジタル化の遅れなどの課題。
- 持続可能な経済と社会実現に向けた産学官連携や革新的技術開発の必要性。
この報告書は、日本のものづくり産業の現状を把握し、将来の政策立案に役立つ情報を提供する重要な文書です。特に、DXやカーボンニュートラルといった現代的な課題に焦点を当てている点が特徴です。
製造業のマーケティングの重要性
製造業のマーケティングは、単に製品を販売するだけでなく、顧客のニーズを的確に捉え、それに応える製品やサービスを開発・提供することで、企業の持続的な成長を実現する重要な役割を担っています。特に近年は、以下の要因により、その重要性がさらに高まっています。
- グローバル競争の激化
- 技術革新のスピードアップ
- 顧客ニーズの多様化・高度化
- 商品のコモディティ化
- 環境問題への対応の必要性
これらの要因に対応するため、製造業のマーケティングは従来の手法から大きく変化しつつあります。
製造業のマーケティングの流れ
製造業のマーケティングは、以下のような流れで進められます。
- 市場調査と顧客ニーズの把握
- 製品開発と設計
- 生産体制の構築
- プロモーションと販売
- アフターサービスと顧客フィードバック
しかし、近年の外部環境の変化により、この流れにも大きな変化が生じています。
世の中の変化
- デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展:
- 各国でDXの重要性が高まっており、デジタル技術の活用が競争力の鍵となっている。
- 製造現場での「見える化」や自動化が進むと同時に、データ駆動型の意思決定が求められている。
- DXは単なる効率化ではなく、付加価値創出の手段として位置づけられている。
- カーボンニュートラルの加速:
- 国際的に脱炭素化の動きが進んでおり、製造業もカーボンフットプリント削減やグリーンエネルギーの採用が求められている。
- GX(グリーントランスフォーメーション)推進に伴い、サプライチェーン全体での環境負荷軽減が必要。
- 国際競争環境の変化:
- 生産拠点の移転やサプライチェーンの再編が進んでおり、地域間の競争が激化。
- 特にASEAN諸国や新興国が製造拠点として台頭している。
- 人材の変化と不足:
- デジタル人材やカーボンニュートラル対応技術者の需要が増加している。
- 高齢化や労働力不足を背景に、既存の労働者のスキルアップやリスキリングが必要。
- 顧客のニーズの多様化:
- 環境意識の高まりや個別ニーズに応える製品・サービスが求められている。
- ただ単に製品を売るだけでなく、体験やソリューション提供が重視されている。
製造業のマーケティングが変わる必要性
- 顧客との接点強化(DXを活用したマーケティング):
- データドリブン型マーケティングが必要。顧客データを収集・分析し、個別ニーズに応じたプロモーションを行う。
- デジタルチャネル(Web、SNS、メールなど)を活用し、リードの育成やエンゲージメントを向上。
- 環境価値を訴求:
- 環境負荷を低減する製品やプロセスの透明性をアピール。
- 「エコ」「カーボンニュートラル」といった環境価値をRTB(Reason to Believe)として活用。
- 新興市場へのアプローチ:
- ASEAN諸国や新興国の成長市場に適応したマーケティング戦略を展開。
- 現地ニーズに応じた製品開発やローカライズ戦略が重要。
- ブランド価値の再構築:
- 伝統的な製造業から、「付加価値を提供するソリューション企業」への転換を図る。
- ブランドメッセージを「品質」だけでなく、「技術革新」「社会的責任」など多面的に広げる。
- パートナーシップの重視:
- 産学官連携やオープンイノベーションを活用し、新たな価値を創出。
- 単独でのマーケティングだけでなく、エコシステムの中での役割を強調。
- リスキリングによる価値提案の多様化:
- 営業担当者やマーケターも技術的なバックグラウンドを持つことが求められる。
- 製品の機能訴求だけでなく、使用方法や効果の具体例を提案できるスキルを強化。
具体的なアクションプラン
領域 | 現在の課題 | マーケティング戦略の変化 |
---|---|---|
DX対応 | 顧客データ活用が不十分 | 顧客行動データをもとにしたパーソナライズドマーケティング。 |
環境価値訴求 | カーボンニュートラルの情報不足 | 製造プロセスや製品の環境負荷削減を具体的なデータで証明し、訴求。 |
新興市場戦略 | グローバル展開のノウハウ不足 | ローカルパートナーとの協業や現地化したマーケティングキャンペーンの実施。 |
人材育成 | 技術とマーケティングの連携不足 | 営業・マーケターのリスキリングによる専門的な提案力の強化。 |
これらの変化に対応することで、製造業は市場での競争優位性を保ちながら、新たな成長機会をつかむことが期待されます。
実際の企業の成功事例
ここでは、DXとカーボンニュートラルへの対応を通じて、マーケティングに成功している製造業の事例を紹介します。
事例1:株式会社デンソー

デンソーは、自動車部品メーカーとして、DXを活用した新たな顧客価値の創出に取り組んでいます。具体的には、車載センサーから得られるデータを活用し、予防保全サービスや運転支援サービスを展開しています。これにより、従来のハードウェア販売だけでなく、ソフトウェアやサービスを含めた総合的なソリューション提供へとビジネスモデルを転換しています。
参考:https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/career-life/ishikawa_0519/
事例2:コマツ

建設機械メーカーのコマツは、IoTを活用した「スマートコンストラクション」を展開しています。建設現場全体をデジタル化し、施工の効率化と安全性向上を実現するとともに、CO2排出量の削減にも貢献しています。この取り組みにより、単なる機械の販売から、建設現場のトータルソリューション提供へとビジネスを拡大しています。
参考:https://kcsj.komatsu/ict/smartconstruction/whats
事例3:ダイキン工業

ダイキン工業は、グローバル展開と現地適応戦略を巧みに組み合わせ、世界市場でのシェア拡大に成功しています。成功のポイント:
- 各国・地域のニーズに合わせた製品開発と販売戦略
- 強力な販売網の構築と技術サポート体制の確立
- 環境負荷低減を訴求点としたブランディング戦略
結果:
- 2023年度の海外売上高比率が80%を突破
- 世界130カ国以上で事業を展開し、多くの国でトップシェアを獲得
出典:ダイキン工業株式会社「統合報告書2023」
https://www.daikin.co.jp/investor/library/annual/
事例4:オムロン

オムロンは、製造業向けのファクトリーオートメーション(FA)事業において、i-Automation!(アイ・オートメーション)というコンセプトを打ち出し、顧客の生産性向上と技能伝承の課題解決に貢献しています。成功のポイント:
- 顧客の課題に深く入り込み、共創型のソリューション開発を実施
- AIやIoTを活用した先進的な製品・サービスの提供
- 技術セミナーやデモンストレーションを通じた顧客教育の実施
結果:
- FA事業の売上高が2023年度に過去最高を更新
- 顧客満足度調査で業界トップクラスの評価を獲得
出典:オムロン株式会社「統合レポート2023」
https://www.omron.com/jp/ja/integrated_report/
https://www.fa.omron.co.jp/our-value/i-automation/
これらの事例から、DXとカーボンニュートラルへの対応を通じて、製造業のマーケティングが大きく変化していることがわかります。単なる製品販売から、顧客に対する総合的な価値提供へと、ビジネスモデルそのものが進化しているのです。
まとめ
製造業のマーケティングは、DXとカーボンニュートラルなどへの対応を軸に大きく変革しています。以下に、本記事のkey takeawaysをまとめます:
- DXの活用により、データ駆動型マーケティングやカスタマイズ生産が可能になっている
- カーボンニュートラルへの対応は、新たな顧客価値の創出と新ビジネスモデルの構築につながっている
- 先進企業は、製品販売からソリューション提供へとビジネスモデルを転換している
- IoTやAIの活用により、アフターサービスや予防保全など、新たな付加価値サービスが生まれている
- 環境配慮型製品の開発や循環型ビジネスモデルの構築が、競争力の源泉となっている
製造業のマーケティング担当者は、これらのトレンドを踏まえ、自社のビジネスモデルを見直し、新たな価値創出に取り組むことが求められています。DXとカーボンニュートラルへの対応は、課題であると同時に、大きなビジネスチャンスでもあるのです。