自社製品やサービスが市場で選ばれる理由を明確に理解することは、多くのマーケターやビジネスパーソンにとって重要な課題です。本記事では、急成長を遂げているマイクロモビリティシェアサービス「LUUP」を事例に、顧客から選ばれる理由を体系的に分析していきます。
LUUPとは
LUUPは、スマートフォンアプリを通じて電動キックボードと電動アシスト自転車のシェアリングサービスを提供する企業です。2018年の設立以来、「街じゅうを駅前化するインフラをつくる」というミッションのもと、急速に事業を拡大しています。
主なサービス特徴
- 全国1万箇所以上のポート展開
- スマートフォンで簡単に予約・利用可能
- 環境に配慮した持続可能な移動手段の提供
市場での実績
LUUPの顧客支持を示す具体的な数字を見ていきましょう:
- ユーザーの約8割が「移動が便利になった」と回答
- 9割以上のユーザーが「今後も利用したい」と回答
- 累計調達額約166億円を達成
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000137.000043250.html
市場規模と成長性
日本のシェアリングエコノミー市場全体の規模は2021年度に2兆4,198億円となり、2030年度には14兆2,799億円に拡大すると予測されています。中でもシェアサイクルを含む移動系のシェアリングエコノミー市場は今後も大きな成長が見込まれていて、30年度には2兆円近くになると予測されています。
LUUP市場のPLESTE分析
要因 | 機会 | 脅威 |
---|---|---|
政治的(Political) | ・自転車利用促進政策 ・都市計画における自転車レーン整備 | ・規制強化の可能性 ・公共交通機関との競合 |
法的(Legal) | ・シェアリングエコノミー関連法整備 | ・事故時の責任問題 ・個人情報保護法の厳格化 |
経済的(Economic) | ・移動コスト削減ニーズの増加 | ・景気後退による利用減少 |
社会的(Social) | ・健康志向の高まり ・環境意識の向上 | ・高齢化社会による利用者層の変化 |
技術的(Technological) | ・IoT技術の進化 ・電動アシスト自転車の性能向上 | ・競合他社の技術革新 |
環境的(Environmental) | ・CO2削減への貢献 ・持続可能な都市交通への需要 | ・気候変動による利用環境の変化 |
LUUPと競合のSWOT分析:シェアサイクル市場における差別化戦略
主要プレイヤー競合
- ドコモ・バイクシェア
- Hello Cycling
- LUUP
競合のSWOT分析
ドコモ・バイクシェア
SWOT | 内容 |
---|---|
強み(S) | ・大手通信会社の信頼性 ・広範囲なサービスエリア |
弱み(W) | ・システムの柔軟性不足 ・利用手続きの煩雑さ |
機会(O) | ・5G技術との連携 ・他のモビリティサービスとの統合 |
脅威(T) | ・新規参入者との競争 ・収益性の低さ |
Hello Cycling
SWOT | 内容 |
---|---|
強み(S) | ・電動アシスト自転車の提供 ・駐輪場所の多さ |
弱み(W) | ・都心部でのサービス展開の遅れ ・アプリの使いにくさ |
機会(O) | ・郊外エリアでの需要拡大 ・企業との提携拡大 |
脅威(T) | ・都市部での競争激化 ・メンテナンスコストの増加 |
LUUP
要素 | 内容 |
---|---|
強み(S) | ・独自の電動キックボードとの連携サービス ・使いやすいアプリインターフェース ・戦略的な駐輪ポイントの設置 ・環境に配慮した事業モデル ・地域自治体との強力な連携 ・迅速な顧客サポート体制 ・データ分析に基づく需要予測 |
弱み(W) | ・サービスエリアの限定性 ・初期投資の大きさ ・季節変動による利用率の変化 ・ブランド認知度の向上余地 ・メンテナンスコストの管理 ・利用者のマナー問題への対応 ・収益性の向上 |
機会(O) | ・都市のラストワンマイル需要の増加 ・環境意識の高まりによる利用促進 ・MaaSプラットフォームとの連携 ・企業向けサービスの拡大 ・観光需要の回復 ・自転車通勤の推進政策 ・新技術導入による効率化 |
脅威(T) | ・競合他社の市場参入 ・規制環境の変化 ・事故リスクと保険コストの上昇 ・公共交通機関との競合 ・経済状況の悪化による利用減少 ・技術の陳腐化 ・サイバーセキュリティリスク |
LUUPの戦略提案
戦略 | 内容 |
---|---|
SO戦略 | ・電動キックボードとの連携を活かしたマルチモーダル移動サービスの展開 ・環境配慮型事業モデルを強調したマーケティング強化 ・データ分析技術を活用した需要に応じた最適な自転車配置 |
WO戦略 | ・MaaSプラットフォームとの連携によるサービスエリア拡大 ・企業向けサービス拡大による収益性向上と季節変動の緩和 ・観光需要を取り込むための多言語対応強化 |
ST戦略 | ・地域自治体との連携強化による規制リスクの軽減 ・独自の安全教育プログラムの開発と実施 ・先進的なセキュリティ技術の導入によるリスク管理 |
WT戦略 | ・コスト効率の高いメンテナンス体制の構築 ・利用者マナー向上キャンペーンの実施 ・多様な収益源の開発(広告収入、データ販売など) |
LUUPの顧客の合理(オルタネイトモデル分析)
続いて、顧客はなぜLUUPを使うのかその合理を見ていきましょう。
ビジネス利用者の場合
要素 | 内容 |
---|---|
きっかけ | ・取引先への訪問時 ・会議間の移動時 |
欲求 | ・時間通りに目的地に到着したい ・経費を抑えたい ・効率的に移動したい |
行動 | ・LUUPで最短ルートを確認して移動 |
抑圧 | ・初めての利用に対する不安 ・アプリのダウンロードや登録の手間 ・近くにポートがあるか不安 ・目的地付近の返却場所を探す手間 ・雨天時の利用への懸念 |
報酬 | ・定時到着の実現 ・経費削減 ・移動時間の短縮 |
通勤・通学利用者の場合
要素 | 内容 |
---|---|
きっかけ | ・駅から職場までの移動時 ・終電後の帰宅時 |
欲求 | ・効率的に目的地まで移動したい ・快適に通勤通学したい |
行動 | ・LUUPを利用して最寄り駅から目的地まで移動 |
抑圧 | ・運転に不慣れな不安 ・他の通行人の目が気になる ・事故やトラブルへの不安 ・バッテリー切れの心配 ・天候による利用制限 |
報酬 | ・経済的な移動手段の確保 ・時間の節約 ・快適な移動の実現 |
レジャー利用者の場合
要素 | 内容 |
---|---|
きっかけ | ・観光地での周遊時 ・街歩き時 |
欲求 | ・効率的に観光したい ・街を自由に探索したい |
行動 | ・LUUPで観光スポット間を移動 |
抑圧 | ・利用方法がわからない不安 ・クレジットカード情報の登録への抵抗 ・交通ルールの不安 ・観光地での駐車場所の心配 ・料金システムの複雑さ |
報酬 | ・効率的な観光の実現 ・自由な経路での街歩き ・体力の温存 |
この分析から、LUUPは以下の方法で抑圧を解消していることがわかります:
- 直感的なアプリUIによる利用ハードルの低減
- 充実したヘルプ機能による不安解消
- 豊富なポート設置による利便性向上
- 安全講習やガイダンスの提供
- わかりやすい料金体系の設定
これらの施策により、顧客の行動を阻害する要因を効果的に取り除き、サービス利用を促進しています。
LUUPの顧客パターン別Who/What/How分析
通勤・通学利用者パターン
要素 | 詳細 |
---|---|
Who | ・属性:都市部在住の20-40代会社員・学生 ・JOB:駅から職場/学校までのラストワンマイルを効率的に移動したいが、混雑した電車での通勤が疲れる、定期代が高い、時間に縛られたくない |
What | ・便益:定時での到着、経済的な移動手段の確保、快適な移動体験 ・独自性:高密度なポート配置、24時間利用可能、定額プラン提供 ・RTB:国内最多のポート数、利用実績データ、顧客満足度90%以上 |
How | ・コミュニケーション:通勤・通学ルート上での広告、定期券との価格比較訴求 ・プロダクト:直感的なアプリUI、定額プラン、24時間利用可能 ・場所:主要駅周辺のポート設置 ・価格:定期券より安価な月額プラン |
ビジネス利用者パターン
要素 | 詳細 |
---|---|
Who | ・属性:都市部の営業職、ビジネスパーソン ・JOB:取引先訪問や会議間の移動を効率化したいが、タクシー代の経費削減もしたいし、渋滞による遅延リスク回避もしたい |
What | ・便益:時間効率の良い移動、経費削減、環境配慮の実践 ・独自性:法人向けプラン、ビジネス街密集地域のポート網 ・RTB:導入企業の実績、経費削減効果データ |
How | ・コミュニケーション:ビジネス媒体での広告、法人営業 ・プロダクト:法人アカウント管理機能、経費精算連携 ・場所:オフィス街中心のポート展開 ・価格:法人向け一括請求、ボリュームディスカウント |
レジャー利用者パターン
要素 | 詳細 |
---|---|
Who | ・属性:20-30代の若者、観光客 ・JOB:観光地を効率的に巡りたい、街歩きを楽しみたいが、公共交通機関の利便性低さ、観光地間の移動時間のロスに懸念を感じている |
What | ・便益:自由な観光ルート設定、効率的な観光体験 ・独自性:観光スポット網羅的なポート配置、SNS連携機能 ・RTB:観光地でのポート数、利用者の口コミ・評価 |
How | ・コミュニケーション:SNSでの情報発信、観光案内所との連携 ・プロダクト:観光スポット情報連携、写真投稿機能 ・場所:主要観光地周辺のポート ・価格:1日パス、観光パッケージ料金 |
この分析から、LUUPは各顧客セグメントの特性とニーズを的確に捉え、それぞれに最適化されたサービス提供を実現していることがわかります。
結論:LUUPは誰になぜ選ばれるのか
LUUPは主に3つの顧客セグメントから強く支持されています。
通勤・通学利用者からの支持理由
- 移動の自由度向上:時刻表に縛られない24時間利用可能なサービス提供により、従来の公共交通機関では解決できなかった移動の柔軟性を実現しています。
- 経済的メリット:定期券と比較して割安な料金設定により、経済的な負担を軽減しています。
- 快適性の提供:混雑した電車やバスを避けた、ストレスフリーな移動手段として選ばれています。
ビジネス利用者からの支持理由
- 業務効率の向上:高密度なポート配置により、ビジネス街での移動時間を大幅に短縮できます。
- コスト最適化:タクシー利用と比較して大幅な経費削減が可能です。
- 企業価値との整合:環境配慮型の移動手段として、SDGsへの取り組みにも貢献できます。
レジャー利用者からの支持理由
- 観光体験の質向上:効率的な観光地巡りが可能で、限られた時間で多くの場所を訪れることができます。
- 新しい街の楽しみ方:従来にない移動体験を提供し、街歩きに新たな魅力を付加しています。
- SNS時代との親和性:写真映えする体験として、若い世代からの支持を獲得しています。
まとめ
LUUPの成功要因は以下の3点に集約されます。
- 明確な顧客理解と課題解決
- 各セグメントの移動における痛点を的確に把握
- セグメント別の最適なソリューション提供
- 利用シーンに応じた柔軟なサービス設計
- 独自の価値提供システム
- 国内最多のポート数による利便性の確保
- 24時間利用可能な運営体制
- データ駆動による継続的なサービス改善
- 市場ニーズとの適合
- 環境配慮型モビリティへの社会的ニーズ対応
- シェアリングエコノミーの普及
- スマートフォン時代に適合したUX提供
これらの要因により、LUUPは単なる移動手段を超えて、都市生活における新しい価値を創造することに成功しています。今後も技術革新やユーザーニーズの変化に応じて、さらなる進化が期待されます。
このLUUPの事例から、成功するサービスの条件として以下の示唆が得られます:
- 顧客セグメント別の明確な価値提案
- 使用シーンに応じた柔軟なサービス設計
- 社会トレンドとの適合
- 継続的な改善サイクルの構築
これらの要素を自社のビジネスに適用することで、より強い競争優位性を構築することが可能となるでしょう。