はじめに
マーケターの皆さん、こんにちは。突然ですが、皆さんは最近の選挙に行きましたか?
実は今、日本では深刻な問題が起きています。それは「若者の投票率低下」です。でも今回は、この問題を単なる政治的な課題として捉えるのではなく、私たちマーケターの専門分野である「なぜ商品が売れないのか?」という視点から徹底的に分析してみたいと思います。
つまり、「政治という商品」が若者というターゲット層に全く売れていない現象として捉え直すのです。
この記事を読めば、投票率低下の根本原因をマーケティングフレームワークで理解でき、さらに自分たちのビジネスにも応用できる「顧客離れを防ぐ思考法」を身につけることができます。
政治の話に見えて、実はマーケティングの本質が詰まった興味深いケーススタディになっているんです。早速、データから見ていきましょう。
深刻すぎる現状|データで見る若者の投票率
圧倒的な世代間格差
まず、現実を数字で把握してみましょう。総務省が発表している最新の選挙データを見ると、その深刻さがよくわかります。
世代 | 第50回衆院選(令和6年10月) | 第26回参院選(令和4年7月) | 全体投票率との差 |
---|---|---|---|
10歳代 | 39.43% | 35.42% | -14.4ポイント |
20歳代 | 34.62% | 33.99% | -19.2ポイント |
30歳代 | 45.66% | 44.80% | -8.2ポイント |
40歳代 | 52.66% | 52.61% | -1.2ポイント |
50歳代 | 59.16% | 59.70% | +5.3ポイント |
60歳代 | 68.02% | 69.20% | +14.2ポイント |
70歳代以上 | 60.42% | 63.33% | +6.6ポイント |
全体 | 53.85% | 52.05% | 基準値 |
この表を見ると、もう一目瞭然ですね。20歳代の投票率は全体平均より約19ポイントも低いという、驚愕の数字が並んでいます。これは、マーケティングで言うところの「ターゲット層での商品認知・購買率の極端な低下」そのものです。
実際の投票者数で見るとさらに深刻
投票率だけでは見えない、さらに深刻な問題があります。それは絶対的な投票者数の差です。
京都産業大学の調査によると、2017年総選挙での概算では、30歳代以下と60歳代以上の実際の投票者数を比較すると、なんと約2.4倍もの差があることが明らかになっています。
これは単純に考えて、「若者の声が政治に届きにくい構造」が出来上がってしまっているということです。
出典:京都産業大学「若者の投票率と『行けたら行くわ』の受け止め方について」
若者の社会貢献意欲は高いのに投票しない矛盾
ここで興味深いデータをご紹介します。第一生命経済研究所の調査によると、Z世代の約9割が「社会のために役立ちたい」と考えているんです。
また、日本総合研究所の調査では、中高・大学生の半数以上が環境問題や社会課題への解決意欲を示している一方で、実際に社会貢献活動を行っているのは2割程度という結果が出ています。
つまり、「調査をすると意欲はあると答えるのに、実際に行動には移らない」という、マーケターが最も頭を悩ませる問題と全く同じ構造なんです。調査では、周りに良いように思われたい心情が働き、本音ではない回答をしてしまう背景や、意欲はあるけど、他のやるべきことを犠牲にしてまで行動するほどの意欲ではないことが想像できます。
出典:第一生命経済研究所「シリーズZ世代考(1)『なぜZ世代の投票率は低いのか』」
投票に行かない理由トップ7
公益財団法人明るい選挙推進協会による第50回衆議院議員総選挙(令和6年10月27日)における調査によると、若者が選挙に行かない理由のランキングは以下の通りです:
順位 | 理由 | 割合 ※複数回答あり | マーケティング用語で言うと | 解決策の例 |
---|---|---|---|---|
1位 | 適当な候補者も政党もなかったから | 26.5% | 商品の提供価値の訴求ズレ | 現代の人が抱える根本課題を調査して提供価値と訴求を再考する |
2位 | 選挙にあまり関心がなかったから | 24.3% | 関心喚起の失敗 | メリット、デメリット、サクセス、ホラーストーリーをわかりやすい形で提示 |
3位 | 体調がすぐれなかったから | 18.4% | アクセス障壁 | マイナンバー認証によるネット選挙 |
4位 | 仕事があったから | 18.0% | 優先順位の低さ | 選挙に行くこと短期、中期のメリットを創造 |
5位 | 選挙によって政治は良くならないと思ったから | 17.3% | 商品の提供価値の訴求ズレ 商品への期待の欠如 | ・現代の人が抱える根本課題を調査して提供価値と訴求を再考する ・政治の透明性(お金の流れ、制作によるbefore afterの効果可視化)の確保と一定の審査性を担保 |
6位 | 政党の政策や候補者の人物像など、違いがよくわからなかったから | 15.6% | 商品の提供価値の訴求ズレ 伝え方のズレ | ・現代の人が抱える根本課題を調査して提供価値と訴求を再考する ・有権者への伝え方のセグメント化、パーソナライズ化 |
こう整理してみると、商品の価値創造と訴求の失敗が根本にあると筆者は考えています。
この理由を見ると、まさに「商品が売れない典型的なパターン」と言えます。顧客のニーズを満たせていない、価値が伝わっていない、使いにくい...これら全てが投票行動を阻害しているわけです。
また、本当にこれらは根本の理由なのか、さらに深掘りする必要もあると考えます。例えば、なぜ関心が薄いのか、なぜ優先順位が低いのか、を考えてみると、そもそもさほど困っていない可能性もあります。
現代の暮らしは高望みをしなければ、ITによる低コストの暮らしを実現でき、目の前の満足を得ることができます。例えば動画視聴サービスは月に1,000円ほどで様々な動画を視聴し放題ですし、食事も豪華なものを求めなければ非常に安価な食事で生きていけます。そういった高望みをしない生活を送れていることから差し迫った生存に関わるような課題を持ち合わせていないという根本的理由もあるのではないでしょうか。これはあくまでも筆者の想像ですので、一度選挙に行かなかった人へデプスインタビューをしてみたいものです。
マーケティング視点で分析する根本原因
森岡毅氏の売上方程式で投票率を分解してみる
ここからが本題です。売上方程式を投票行動に当てはめて、どこに問題があるのかを分析してみましょう。
マーケティングでよく使われる方程式は以下の通りです: 売上 = 人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率 × エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入個数 × 年間購入頻度 × 購入単価
これを「投票行動」に置き換えると:
この図からわかることは、ファネル上部のそもそも投票可能環境を提供すること、そして政治への関心を高めることがまずは必要であり、それらが改善されなければ投票数が大きくは増えないことがわかります。
Who/What/How分析で問題を特定
次に、マーケティングの基本フレームワークWho/What/How分析で現状を整理してみましょう。
項目 | 現状の政治マーケティング | 問題点 |
---|---|---|
Who(誰に) | 全年代を対象とした画一的なアプローチ | 若者の特性を無視したターゲティング |
What(何を) | 政策の詳細説明、政党の歴史 | 若者の生活に直結する価値提案の欠如 |
How(どのように) | テレビ、新聞、演説会、ポスター | 若者が情報を得るチャネルとの乖離 |
顧客ジャーニー分析:若者の政治参加プロセス
若者の政治参加における顧客ジャーニーを分析してみると、各段階での離脱ポイントが明確になります。
フェーズ | 若者の心理状態 | 障壁となる要因 | 改善の必要性 |
---|---|---|---|
認知段階 | 「選挙があるらしい」 | 情報が届かない、関心が低い | △ |
関心段階 | 「自分に関係あるの?」 | 政策と生活の関連性が不明 | ◎ |
検討段階 | 「誰に投票すればいい?」 | 判断材料の不足、比較の困難さ | ◎ |
行動段階 | 「投票に行こうかな」 | アクセスの悪さ、手続きの複雑さ | ○ |
継続段階 | 「また投票するか」 | 効果実感の欠如、期待と現実のギャップ | ◎ |
プレファレンス(選好度)が致命的に低い
「プレファレンス(選好度)」の観点から見ると、若者の政治に対する選好度は極めて低い状況です。
なぜプレファレンスが低いのか?
- ベネフィットが不明確
- 投票によって自分の生活がどう変わるかが見えない
- 短期的なメリットを感じられない
- 競合する選択肢の多さ
- 余暇時間という限られたリソースの奪い合い
- 動画視聴サービス、SNS、ゲーム、友人との時間etc.
- ブランド(政治家・政党)への不信
- 公約違反への失望
- 政治家の不祥事による信頼失墜
- カテゴリー自体への無関心
- 「政治」というカテゴリー全体の魅力度低下
- 若者文化とのかい離
解決策:マーケティング手法を活用した投票率向上戦略
1. ターゲティングの精緻化
現在の問題: 全年代への画一的なアプローチ
解決策: 若者セグメントの細分化とペルソナ設定
セグメント | 特徴 | アプローチ方法 |
---|---|---|
社会課題関心層 | SDGs、環境問題に関心が高い | 政策と社会課題の関連性を明確化 |
キャリア重視層 | 就職、転職、スキルアップに関心 | 雇用政策、教育政策との連動 |
エンタメ重視層 | SNS、ゲーム、アニメが中心 | エンタメ要素を取り入れた情報発信 |
地方在住層 | 地元愛が強い、コミュニティ重視 | 地域密着型の政策説明 |
2. 価値提案の再設計
従来の価値提案: 「国民の義務だから投票しよう」
新しい価値提案: 「あなたの生活を変えることに直結する具体的手段」
具体的な価値提案例
分野 | 従来の説明 | 若者向け価値提案 |
---|---|---|
教育政策 | 「教育制度の充実を図る」 | 「奨学金返済の負担軽減で月2万円浮く」 |
雇用政策 | 「雇用の安定化を推進」 | 「リモートワーク推進で通勤ストレス解消」 |
税制 | 「税制の見直しを検討」 | 「若者向け税制優遇で年間10万円節税」 |
住宅政策 | 「住宅政策の充実」 | 「家賃補助で都市部に住みやすく」 |
3. コミュニケーション戦略の刷新
チャネル戦略の見直し
従来のチャネル | 若者向けチャネル | 期待される効果 |
---|---|---|
テレビCM | TikTok・Instagram動画 | リーチ率向上 |
新聞広告 | Twitter・YouTube | エンゲージメント向上 |
街頭演説 | ライブ配信・Podcast | 親近感向上 |
ポスター | インフルエンサーコラボ | 信頼度向上 |
コンテンツ戦略
1. ストーリーテリングの活用
- 政策の背景にある人間ドラマを発信
- 「なぜその政策が必要なのか」の物語化
2. インタラクティブコンテンツ
- 政策マッチング診断ツール
- VRでの政治体験コンテンツ
3. マイクロコンテンツ
- 15秒で分かる政策解説動画
- インフォグラフィックでの政策比較
4. カスタマーエクスペリエンス(CX)の改善
投票体験の劇的改善
改善ポイント | 具体的施策 | 期待される効果 |
---|---|---|
アクセシビリティ | 駅ナカ・商業施設での投票所設置 | 利便性向上 |
利用体験 | スマホでの事前情報確認システム | 不安解消 |
待ち時間 | 時間指定予約制の導入 | ストレス軽減 |
情報提供 | QRコードでの候補者情報提供 | 判断支援 |
オンライン投票の検討
エストニアの事例を参考に、段階的なデジタル化を推進:
5. エンゲージメント向上施策
ゲーミフィケーション要素の導入
要素 | 具体例 | 効果 |
---|---|---|
ポイント制 | 投票で地域ポイント獲得 | 継続的参加の動機付け |
バッジ・称号 | 「政治参加マスター」認定 | 承認欲求の満足 |
ランキング | 地域別投票率ランキング | 競争心の活用 |
コミュニティ | 同世代の政治議論プラットフォーム | 社会的つながり |
インフルエンサーマーケティング
段階的なインフルエンサー活用戦略:
- マイクロインフルエンサー(フォロワー1万〜10万人)
- 地域密着型の情報発信
- 親近感のある政治解説
- ミドルインフルエンサー(フォロワー10万〜100万人)
- 政策解説コンテンツの制作
- 若者向け政治番組の企画
- メガインフルエンサー(フォロワー100万人以上)
- 投票啓発キャンペーンのアンバサダー
- 大規模なイベント企画
6. データドリブンな改善サイクル
KPI設定とモニタリング
カテゴリ | KPI | 目標値 | 測定頻度 |
---|---|---|---|
認知度 | 政策認知率(18-29歳) | 80% | 月次 |
関心度 | 政治コンテンツエンゲージメント率 | 5% | 週次 |
行動 | 投票率(18-29歳) | 50% | 選挙毎 |
継続 | 連続投票率 | 70% | 選挙毎 |
A/Bテストによる最適化
テスト例:
- メッセージング:感情訴求 vs 論理訴求
- クリエイティブ:アニメ調 vs 実写
- チャネル:TikTok vs Instagram
- タイミング:平日夜 vs 週末昼
海外事例に学ぶ成功パターン
エストニアのデジタル民主主義
エストニアの取り組み:
- 2005年から世界初のオンライン投票を実施
- オンライン投票率が40%を超える水準
- 若者の政治参加率が大幅に向上
日本への応用ポイント:
- 段階的なデジタル化戦略
- セキュリティとユーザビリティのバランス
- デジタルネイティブ世代への対応
出典:第一生命経済研究所 投票率向上に向けたインターネット投票の導入 ~ネット投票率50%超のエストニアから考える日本の選挙制度改革~
韓国の若者向け政治コミュニケーション
韓国の成功要因:
- KPOPアイドルによる投票啓発
- SNSを活用した政治家の発信
- 若者向け政治バラエティ番組
日本への応用可能性:
- 日本のエンタメ文化との連携
- YouTubeでの政治コンテンツ制作
- バラエティ要素を取り入れた政治番組
企業のマーケティングへの応用ポイント
この投票率問題の分析から、企業マーケティングに活かせるポイントを整理してみましょう。
1. 顧客離れを防ぐ早期警戒システム
政治の場合: 若者の投票率低下という明確な指標
企業の場合: 若年層の購買率、NPS、リピート率の監視
2. 世代別マーケティングの重要性
政治の失敗例: 全世代への画一的アプローチ
企業への教訓: 世代ごとの価値観、行動様式の理解と対応
3. 価値提案の具体化
政治の問題: 抽象的で実生活との関連が不明
企業への応用: 商品・サービスの具体的ベネフィットの明確化
4. チャネル戦略の時代適応
政治の課題: 従来メディア中心のコミュニケーション
企業への示唆: ターゲット層の情報接触行動に合わせたチャネル選択
5. エクスペリエンスデザインの重要性
政治の改善点: 投票体験の使いにくさ
企業への教訓: カスタマージャーニー全体の体験設計
まとめ
今回、若者の投票率低下問題をマーケティング視点で分析してみると、実は私たちが日々直面している「商品が売れない」「顧客が離れる」問題と全く同じ構造だということが分かりました。
Key Takeaways
- データ分析の重要性: 若者の投票率34.62%という数字の裏にある具体的な要因を分解して理解する
- ターゲティングの精緻化: 若者を一括りにせず、関心・価値観別にセグメント化してアプローチする
- 価値提案の具体化: 抽象的なメッセージではなく、ターゲットの生活に直結する具体的ベネフィットを提示する
- チャネル戦略の最適化: ターゲットが実際に情報を得ているチャネルでコミュニケーションを行う
- エクスペリエンスの改善: 顧客接点での体験を徹底的に見直し、ストレスフリーな環境を提供する
- 継続的な改善サイクル: KPI設定とA/Bテストによる定量的な改善を継続する
- エンゲージメント向上: ゲーミフィケーションやコミュニティ形成により、長期的な関係性を構築する
これらの学びは、政治だけでなく、あらゆるビジネスにおける顧客獲得・維持戦略に直接応用できます。
若者の投票率問題は、単なる政治的課題ではなく、現代マーケティングが抱える根本的な課題を映し出す鏡だったのかもしれません。
私たちマーケターは、この分析を自社のビジネスに置き換えて考えてみることで、顧客との関係性をより深く理解し、効果的な戦略を立案できるはずです。
最後に、一つ質問です: あなたの商品・サービスは、「若者の投票行動」と同じような課題を抱えていませんか?もしそうなら、今回紹介した手法を試してみることをお勧めします。