はじめに
多くのマーケターや事業開発担当者が直面する課題のひとつに、「なぜ消費者は特定のブランドを選ぶのか」という問いがあります。消費者の選択理由を深く理解することは、自社製品やサービスが市場で選ばれる確率を高めるための重要な鍵となります。
本記事では、日本の菓子市場で長年愛され続けている「ロッテのチョコパイ」を例に、このブランドが消費者から選ばれる理由を多角的に分析していきます。この分析を通じて、以下のメリットを得ることができます:
- 持続的な人気を維持する製品開発の方法論を学べる
- 顧客の深層心理に訴求する効果的なブランディング戦略を理解できる
- 既存市場でのポジショニングを強化するための具体的な施策を発見できる
老若男女に愛されるチョコパイの成功要因を紐解きながら、あなたのビジネスにも応用できる実践的な知見を提供していきます。
1. ロッテのチョコパイの基本情報
ロッテのチョコパイは、株式会社ロッテが製造・販売している人気菓子商品です。ふわふわのマシュマロをしっとりとしたケーキ生地で包み、チョコレートでコーティングした独特の食感と味わいが特徴です。
企業情報

- 企業名:株式会社ロッテ
- 創業:1948年(日本での設立)
- 本社所在地:東京都新宿区
- 従業員数:7,375名(海外拠点・グループ会社含む)(2023年時点)
- 年間売上高:約3,000億円(2023年度)
- URL:https://www.lotte.co.jp/
チョコパイの歴史と発展

公式サイト:https://www.lotte.co.jp/products/brand/chocopie/
チョコパイは1979年に韓国のロッテ製菓によって初めて発売され、1983年に日本でも販売が開始されました。発売以来40年以上にわたり、安定した人気を誇る定番商品として市場に定着しています。
製品ラインナップ
- チョコパイ(オリジナル)
- チョコパイパーティーパック
- 季節限定フレーバー(いちご、抹茶など)
- 地域限定フレーバー
業績データ
チョコパイの正確な売上高は公開されていませんが、フェルミ推定だと年間売上高は約180億円程度と推測できます。
項目 | 仮定・数値 | 計算結果 |
---|---|---|
日本の人口 | 約1.2億人 | |
世帯数 | 約5000万世帯 | |
チョコパイを購入する世帯の割合 | 30% | |
購入世帯数 | 5000万世帯 × 30% | 1500万世帯 |
1世帯あたりの年間購入回数 | 4回 | |
1回の購入量 | 1箱(6個入り) | |
1世帯あたりの年間購入数 | 4箱(24個) | |
総購入数(年間) | 1500万世帯 × 4箱 | 6000万箱 |
1箱の価格 | 300円(税抜) | |
年間売上 | 6000万箱 × 300円 | 約180億円 |
この推定は仮定に基づく概算ですが、大きくは外れていないと考えられます。
2. 市場環境分析
そんなチョコパイに関する分析ですが、まずはチョコパイが属する菓子市場を分析することで、この製品が解決する顧客ニーズと市場での立ち位置を理解します。
市場定義:消費者のジョブ(Jobs to be Done)
チョコパイが解決する主な顧客のジョブは以下の通りです:
- お手頃価格で手軽に甘いものを楽しみたい
- ちょっとした休憩時間に小腹を満たしたい
- 子どもから大人まで家族全員で楽しめるおやつが欲しい
- 日常的な小さな贅沢を味わいたい
- 懐かしい味で心を癒したい
競合状況
日本の菓子市場、特にチョコレートケーキ菓子のカテゴリーにおける主要競合は以下の通りです:
- 森永製菓「エンゼルパイ」
- 江崎グリコ「バンホーテンチョコレートケーキ」
- 不二家「カントリーマアム ケーキ」
- 明治「プチケーキ」
- 各社のプライベートブランド商品
POP/POD/POF分析
POP (Points of Parity):業界標準として必須の要素
- 手頃な価格設定(100円台)
- 個包装による持ち運びやすさ
- 適度な甘さと満足感
- 安定した品質
- 全国的な流通網
POD (Points of Difference):差別化要素 ※チョコパイの独自性
- 独特のふわふわマシュマロとしっとりケーキの食感のバランス
- 40年以上の長い歴史に裏付けられたブランド認知
- 豊富な季節限定・地域限定フレーバー展開
- 「箱買い」できる多様なパッケージ形態
- 韓国発祥の国際的なブランドという独自性
POF (Points of Failure):市場参入の失敗要因
- 品質のばらつき(特に食感のバランス)
- 賞味期限の短さ
- 高温下での製品劣化
- 価格競争による収益性の低下
- 健康志向の高まりによる需要減
PESTEL分析
チョコパイを取り巻く市場環境をPESTEL分析で整理します。
要因 | 機会 | 脅威 |
---|---|---|
政治的(Political) | 日韓関係の改善による韓国発ブランドへの好感度向上 | 輸入原材料への関税率変更による原価上昇リスク |
経済的(Economic) | インフレ環境下での「小さな贅沢」需要の増加 | 原材料(カカオ、小麦粉、砂糖)価格の上昇 |
社会的(Social) | 「昭和レトロ」ブームによるノスタルジー消費 | 健康志向、糖質制限志向の高まり |
技術的(Technological) | 新たな保存技術による賞味期限延長 | SNSでのトレンド変化の加速化 |
環境的(Environmental) | 環境配慮型パッケージへの移行 | プラスチック包装削減の社会的圧力 |
法的(Legal) | アレルギー表示の明確化による安全性訴求 | 食品表示法の厳格化による対応コスト増加 |
この分析から、チョコパイは社会的・経済的要因による「ノスタルジー消費」や「小さな贅沢」需要の恩恵を受ける一方で、健康志向の高まりや原材料高騰といった課題にも直面していることがわかります。
3. ブランド競争力分析
SWOT分析
続いて、ロッテのチョコパイの強み、弱み、機会、脅威について詳細に分析します。
強み(Strengths)
- 40年以上の長い歴史による高いブランド認知
- 独特の食感と味わいの再現性の高さ
- 幅広い年齢層に訴求できる普遍的な味わい
- グローバル展開(特にアジア圏)による規模の経済
- 強力な流通ネットワーク
- 季節限定商品による話題性の創出力
弱み(Weaknesses)
- 健康志向の高まりに対応した商品ラインナップの不足
- 若年層における「レトロ」イメージによるトレンド感の欠如
- コモディティ化による価格競争の激化
- 高温多湿の環境下での品質維持の難しさ
- オンライン販売チャネルの活用度の低さ
機会(Opportunities)
- 国際的な日本食ブームによる海外市場の拡大
- SNS映えするコラボレーション商品の開発
- 低糖質版など健康志向に対応した派生商品の展開
- ノスタルジーマーケティングによる中高年層へのアプローチ強化
- ECサイトを活用した直接販売モデルの構築
脅威(Threats)
- 原材料価格の高騰による利益率の圧迫
- プライベートブランド商品の品質向上と価格競争
- 消費者の健康意識の向上による菓子離れ
- 次世代の消費者(Z世代以降)の嗜好変化
- デジタルマーケティングへの対応遅れによる競争力低下
クロスSWOT戦略
各象限の要素を掛け合わせた戦略を考えます。
SO戦略(強み×機会)
- 高いブランド認知を活かしたコラボ商品の展開でSNS拡散を促進
- 海外市場における「日本の定番お菓子」としてのポジショニング強化
- ノスタルジーを感じる中高年層向けの限定パッケージの展開
WO戦略(弱み×機会)
- 健康志向に対応した低糖質・低カロリーバージョンの開発
- 若年層向けにSNS活用したデジタルキャンペーンの強化
- Eコマース専用商品の開発と直販モデルの構築
ST戦略(強み×脅威)
- 原材料の一括大量購入による価格変動リスクのヘッジ
- 高品質なチョコレート使用による差別化でプライベートブランドとの競争回避
- 長年の顧客との信頼関係を活かした顧客ロイヤルティプログラムの導入
WT戦略(弱み×脅威)
- 製造工程の効率化による原価低減
- 環境に配慮したパッケージへの移行による社会的価値の訴求
- Z世代向けの新ブランドラインの開発
SWOT分析からは、チョコパイが長年の実績に基づく強いブランド力を持ちながらも、健康志向や若年層のトレンド変化に対応するための進化が必要であることが明らかになりました。特に、ノスタルジーという強みを活かしつつ、新たな消費者層を開拓するためのイノベーションが今後の課題と言えるでしょう。
4. 消費者心理と購買意思決定プロセス
チョコパイを購入する消費者の心理と行動パターンを、オルタネイトモデルを用いて分析します。以下に代表的な3つのパターンを整理してみます。
パターン1:日常的なおやつとしての購入
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | スーパーやコンビニで家族のおやつとしてチョコパイを購入する |
きっかけ | 日常の買い物、子どもからのおやつのリクエスト |
欲求 | 家族全員が満足する、コストパフォーマンスの高いお菓子を提供したい |
抑圧 | 健康への配慮、出費への罪悪感 |
報酬 | 子どもの笑顔、自分も一緒に楽しめる満足感、「良い親」という自己認識 |
このパターンでは、「家族全員が楽しめる」「コスパが良い」という要素が消費者の主な動機となっています。チョコパイは比較的安価でありながら、それなりの満足感を提供するため、日常的なおやつとして選ばれています。
パターン2:懐かしさを求める中高年の購入
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 自分へのご褒美として、チョコパイを購入する |
きっかけ | 広告や店頭での商品との遭遇、昔の記憶の想起 |
欲求 | 懐かしい味わいで心を癒したい、過去の良い記憶を追体験したい |
抑圧 | 年齢的に甘いものを控えるべきという意識、カロリー摂取への罪悪感 |
報酬 | ノスタルジーによる心理的満足感、ストレス解消、「自分へのご褒美」という許容 |
このパターンでは、「懐かしさ」「記憶の追体験」がキーとなっています。チョコパイは中高年層にとって青春時代の記憶と結びついており、その味わいは単なる味覚的満足を超えた心理的安らぎをもたらしています。
パターン3:季節限定品コレクターの購入
要素 | 内容 |
---|---|
行動 | 発売されたばかりの季節限定フレーバーを探して購入する |
きっかけ | SNSでの新商品情報、店頭POPや広告 |
欲求 | 新しい味わいを体験したい、トレンドに乗り遅れたくない |
抑圧 | 出費への懸念、食べ過ぎへの自制心 |
報酬 | 新鮮な体験による好奇心の充足、SNSでの共有による承認欲求の満足 |
このパターンでは、「新規性」「希少性」「トレンド性」が購入動機となっています。ロッテは定期的に季節限定フレーバーを発売することで、コレクター的な心理を刺激し、継続的な購入を促しています。
本能的動機分析
消費者の購買行動を本能的な動機から分析すると、チョコパイは以下のような本能に訴求していることがわかります:
- 生存本能に関連する訴求
- 砂糖やカカオによる即時的なエネルギー供給
- ムテ「安心・安全」感(長年の信頼)
- 適度なカロリーによる満足感
- 繁殖本能(社会的・家族的)に関連する訴求
- 子どもに喜ばれることによる養育本能の満足
- 共有できる食べ物としての社会的結合の促進
- 家族全員で楽しめる普遍性
- ドーパミン回路を刺激する要素
- 新フレーバー発売による期待と予測不可能性
- 食べた瞬間の甘さと食感による報酬
- 限定品を手に入れた際の達成感
これらの本能的動機に訴求することで、チョコパイは消費者の深層心理に訴え、単なる理性的判断を超えた感情的なつながりを構築しています。
この感情の旅(カスタマージャーニー)から、チョコパイは特に「購入決定」と「開封・喫食」時点で最も高い感情的満足を提供しており、これが再購入意欲につながっていることがわかります。
5. ブランド戦略の解剖
Who/What/How分析
チョコパイのマーケティング戦略を対象顧客層ごとに分析します。
パターン1:家族層向け戦略
要素 | 内容 |
---|---|
Who(誰に) | 小学生の子どもを持つ30〜40代の親(主に母親) |
Who(JOB) | 家族全員が満足するおやつを手軽に提供したい |
What(便益) | 個包装で衛生的、価格が手頃、子どもから大人まで好まれる味わい |
What(独自性) | ふわふわマシュマロとしっとりケーキの独特の食感バランス |
How(プロダクト) | 6〜12個入りの箱タイプ、家庭内での保存と取り分けに最適なサイズ |
How(コミュニケーション) | テレビCMでの家族団らんシーン、スーパーのチラシ広告 |
How(場所) | スーパーマーケット、量販店、ディスカウントストア |
How(価格) | ボリュームディスカウント(まとめ買いでお得)戦略 |
パターン2:中高年向けノスタルジー戦略
要素 | 内容 |
---|---|
Who(誰に) | 40〜60代の男女、特に学生時代にチョコパイを食べていた世代 |
Who(JOB) | 懐かしい味わいでホッとする瞬間が欲しい、昔を思い出したい |
What(便益) | 変わらない味と食感による記憶の追体験、心理的な安らぎ |
What(独自性) | 40年以上続く伝統的なレシピと変わらぬ味わい |
How(プロダクト) | 昔ながらのパッケージデザイン、オリジナルフレーバー |
How(コミュニケーション) | 過去の広告を彷彿とさせるノスタルジックな訴求、大人向けの上質な広告表現 |
How(場所) | コンビニエンスストア、デパ地下、駅売店 |
How(価格) | 単品での適正価格設定(小さな贅沢として許容される価格帯) |
パターン3:若年層向け季節限定戦略
要素 | 内容 |
---|---|
Who(誰に) | 10〜20代の若年層、SNSアクティブユーザー |
Who(JOB) | 新しい味を体験したい、SNSでシェアできる話題性が欲しい |
What(便益) | インスタ映えする見た目、限定感による特別体験 |
What(独自性) | 季節ごとに変わる限定フレーバー、地域限定品の希少性 |
How(プロダクト) | 鮮やかなパッケージ、季節感のあるデザイン、フォトジェニックな見た目 |
How(コミュニケーション) | SNS広告、インフルエンサーマーケティング、ハッシュタグキャンペーン |
How(場所) | コンビニエンスストア、大学生協、エンタメ施設 |
How(価格) | プレミアム価格設定(限定品としての価値付け) |
成功要因の分解
チョコパイの長期的な成功を支える要因を詳細に分析します。
ブランドポジショニングの特徴
- 「手の届く贅沢」としてのポジショニング:高級感がありながらも手頃な価格
- 「全世代共通のおやつ」としての普遍性:子どもから高齢者まで楽しめる汎用性
- 「進化しながらも変わらない」という二面性:基本的な味わいを守りながらも季節限定品で新鮮さを提供
コミュニケーション戦略の特徴
- 情緒的価値の訴求:単なる機能的価値(味、食感)ではなく、「幸せな時間」「懐かしさ」などの情緒的価値を前面に
- 世代ごとに異なるメッセージ:同じ商品でも、ターゲット層によって訴求ポイントを変える柔軟性
- 継続性と一貫性:長期にわたり一貫したブランドメッセージを維持
価格戦略と価値提案の整合性
- 価格帯の安定性:急激な値上げを避け、緩やかな価格調整で消費者の信頼を維持
- パッケージサイズの多様化:1個入り、6個入り、12個入りなど、購入シーンに応じた選択肢
- 限定品における価値ベースの価格設定:通常品より高めの価格設定でも、「限定」「特別」という価値で正当化
カスタマージャーニー上の差別化ポイント
- 認知段階:テレビCMと店頭POPの連動による認知拡大
- 考慮段階:パッケージデザインによる瞬間的な訴求力
- 購入段階:陳列位置の最適化(レジ前、目線の高さなど)
- 使用段階:開封後のビジュアルと食感のギャップ(予想を超える満足感)
- 推奨段階:家族内での共有体験、SNSでのシェア促進
顧客体験(CX)設計の特徴
- 五感への訴求:視覚(パッケージ)、触覚(食感)、味覚(味わい)、嗅覚(チョコレートの香り)を統合した体験設計
- アンボクシング体験:個包装を開封する際の期待感とその満足
- 共有体験の促進:複数個入りのパッケージにより、他者との共有を促進
この図からわかるように、チョコパイは単なる食品ではなく、複数の感覚を統合した「体験」として設計されています。特に「触覚体験」における食感の3層構造(チョコレート、マシュマロ、ケーキ)のバランスは、他の商品が簡単に模倣できない独自の価値となっています。
6. 結論:選ばれる理由の統合的理解
ロッテのチョコパイが長年にわたり消費者から選ばれ続ける理由を統合的に理解すると、以下のような要素が浮かび上がります。
消費者にとっての選択理由
機能的側面
- 味と食感のバランス:3層構造(チョコレート、マシュマロ、ケーキ)による独特の食感と味わい
- 適切なサイズ感:一度に食べきれる適量設計
- 個包装による利便性:持ち運びやすく、鮮度を保ちやすい
- コストパフォーマンス:提供価値に対して適正な価格設定
感情的側面
- ノスタルジー効果:長年愛され続けてきた歴史による「懐かしさ」の訴求
- 小さな贅沢感:手頃な価格ながら「ちょっと特別」な満足感
- 安心感:長い歴史と大手企業の品質保証による信頼
- 共有の喜び:家族や友人と分け合える社会的価値
社会的側面
- 世代を超えた普遍性:若年層から高齢層まで受け入れられる汎用性
- ギフト性:小さなお礼や気持ちを伝えるツールとしての機能
- 話題性:季節限定品によるSNS投稿の誘発
- 韓国文化との結びつき:近年の韓国ブームによる付加価値
市場構造におけるブランドの独自ポジション
チョコパイは、チョコレート菓子市場において以下のようなユニークなポジションを確立しています:
- 「高級でも低価格でもない中間層」としてのポジション:プレミアムチョコレートほど高級でなく、一般的なチョコレート菓子よりも少し特別感がある中間的な立ち位置
- 「子どもも大人も楽しめる」というクロスジェネレーション訴求:年齢を問わず受け入れられる普遍的な味わい
- 「定番でありながら常に新しい」という二面性:基本的な味わいを守りながらも、季節限定品や地域限定品で新鮮さを提供
- 「日常的なおやつでありながら、ちょっとした贅沢」というバランス:日常使いでありながら、ごほうびとしても機能する価値提案
競合との明確な差別化要素
チョコパイが競合商品と比較して持つ明確な差別化要素は以下の通りです:
- 食感の複層性:チョコレート、マシュマロ、ケーキの3層構造による独特の食感バランス
- ブランドの歴史的価値:40年以上の長い歴史による信頼感と懐かしさ
- 季節限定戦略の徹底:年間を通じた多様な限定フレーバーによる継続的な話題性の創出
- グローバルブランドとしての展開:韓国を含むアジア全域での展開による国際的なブランド認知
- 価格と価値のバランス:競合と比較して、提供する価値に対する価格設定の妥当性
持続的な競争優位性の源泉
チョコパイが長年にわたり競争優位性を維持できている根本的な理由は、以下のような要素にあると考えられます:
- 独自の製造技術とレシピ:特にマシュマロとケーキの食感を長期間維持する技術
- 強固なブランド資産:長年の広告投資によって構築された消費者の記憶の中のポジティブなイメージ
- 世代を超えた顧客基盤:親から子へと受け継がれる消費習慣の構築
- 変化と伝統のバランス:基本的な価値は守りながらも、新しい要素を取り入れ続ける柔軟性
- 規模の経済による価格競争力:大量生産による原価低減と適正価格の維持
これらの要素を総合すると、チョコパイの成功は単一の要因ではなく、製品特性、ブランディング、価格戦略、流通戦略が絶妙にバランスした結果であることがわかります。特に「変わらない価値」と「常に新しい体験」という一見矛盾する要素を両立させる戦略が、長期的な競争優位性の源泉となっています。
7. マーケターへの示唆
最後に、チョコパイの成功から学べる知見を、他業界・他商品にも応用可能な形で整理します。
再現可能な成功パターン
- 3S戦略(Simple, Stable, Special)の実践
- Simple:複雑すぎない、わかりやすい商品コンセプト
- Stable:安定した品質とブランドメッセージの一貫性
- Special:定期的な特別感の演出(限定品、季節商品など)
- 世代間循環モデルの構築
- 子ども時代に親と共に体験→大人になって自分の子どもに提供するというサイクル
- 懐かしさと新しさの両立による複数世代への同時アプローチ
- 親子で楽しめる共有体験の設計
- 価格-価値バランスの最適化
- 極端な低価格でも高価格でもない「適正価格帯」の設定
- 量や個数のバリエーションによる価格レンジの拡大
- 限定品における価値ベースの価格戦略
- 五感満足設計
- 視覚、触覚、味覚、嗅覚など複数の感覚に訴える製品設計
- 「期待以上」の体験を生み出す感覚的なギャップの演出
- パッケージから実際の商品まで一貫した体験設計
業界・カテゴリーを超えて応用できる原則
- ノスタルジーマーケティングの活用
- 長い歴史を持つブランド資産を積極的に活用
- 「変わらない価値」を前面に打ち出す
- 過去の良い記憶を呼び起こす感情的訴求
- 基本と変化のバランス管理
- コア製品の基本価値は変えず、周辺要素で新鮮さを演出
- 「守るべきもの」と「変えるべきもの」の明確な区分け
- 消費者の期待を裏切らない範囲での革新
- 顧客セグメントごとの異なる価値訴求
- 同一製品でも、セグメントによって訴求ポイントを変える
- 機能的価値、情緒的価値、社会的価値の使い分け
- 各セグメントに最適化されたコミュニケーション戦略
- 共有体験のデザイン
- 一人で楽しむだけでなく、複数人で共有できる体験の設計
- 「贈る」「分け合う」といった社会的行為の促進
- SNSなどでシェアしたくなる話題性の創出
実践のためのアクションプラン
- 自社製品・サービスの選ばれる理由の棚卸し
- 現状の顧客からのフィードバック分析
- 競合比較による差別化要素の明確化
- 機能的・情緒的・社会的価値の3軸でのマッピング
- WHO/WHAT/HOW戦略の再構築
- 各顧客セグメントごとのJOBの明確化
- 提供価値(便益・独自性)の再定義
- 各セグメントに最適なコミュニケーション手段の選定
- 体験設計の見直し
- カスタマージャーニー全体を通した体験の一貫性確保
- 期待値と実体験のギャップによる「期待以上」の体験設計
- 共有・推奨を促進する仕掛けの組み込み
- 変化と伝統のバランス再調整
- 自社製品・サービスにおける「変えてはいけない核」の特定
- 定期的な新鮮さを提供する仕組みの確立
- 長期・短期の両視点でのブランド管理体制の構築
成功指標の設定方法
チョコパイの成功要素を自社に応用する際の評価指標として、以下のKPIを設定するとよいでしょう。
評価軸 | 指標例 | 測定方法 |
---|---|---|
機能的価値の評価 | 顧客満足度、再購入率 | 顧客アンケート、リピート率分析 |
情緒的価値の評価 | ブランド好感度、愛着度 | 定性調査、NPS(推奨度) |
社会的価値の評価 | 共有率、SNS言及率 | SNS分析、クチコミ調査 |
世代間普及率 | 年齢層別浸透率 | 顧客属性分析 |
価格-価値バランス | 価格妥当性評価 | 価格感度調査、価格テスト |
マーケティング効率 | ROAS、顧客獲得コスト | 広告効果測定、財務分析 |
まとめ
ロッテのチョコパイの成功事例からは、以下のようなマーケティングの重要な原則が浮かび上がってきます:
- 消費者の心理と行動を深く理解することの重要性:単なる嗜好やニーズだけでなく、JOBや欲求、抑圧、報酬などの複合的要素の把握
- 長期的なブランド構築と短期的な話題性創出のバランス:伝統的価値を守りながらも、常に新鮮さを提供する二面性
- 機能的価値、情緒的価値、社会的価値の統合:複数の価値次元を組み合わせることによる競争優位性の確立
- 世代を超えた普遍的訴求力の設計:異なる世代にも受け入れられる製品特性とコミュニケーション戦略
- 価格と価値のバランス最適化:コストパフォーマンスの高さと「小さな贅沢」というポジショニングの両立
- 五感に訴える統合的な顧客体験の創出:パッケージから食感、味わいまで一貫した体験設計
- 共有体験の促進:個人消費だけでなく、家族や友人との共有を促す製品設計とコミュニケーション
これらの原則は、チョコパイという菓子製品に限らず、多くの業界やカテゴリーにおいても応用可能です。成功するブランドに共通するのは、顧客の表面的なニーズだけでなく、深層心理や社会的文脈を理解し、それに適応し続ける能力にあると言えるでしょう。
貴社のブランド戦略においても、こうした多次元的な視点を取り入れることで、単なる機能的優位性を超えた、持続的な競争優位性を構築していくことが可能になります。