ビジネスの成功には、KPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせません。しかし、適切なKPIの設定方法やその活用法に悩む方も多いでしょう。本記事では、KPI設定の基本から具体的な設定手順、さらには成功のためのコツまでを詳しく解説します。
KPIとは何か?
KPIの基本概念
KPI(重要業績評価指標)は、ビジネス目標の達成状況を測定するための具体的な指標です。それは経営やマーケティング活動のパフォーマンスを測るための中間目標と言えます。KPIは、企業が設定した目標達成に向けた進捗状況を把握し、必要な改善策を講じるために不可欠な要素です。
例)
売上目標達成のために、ウェブサイトへの訪問者数、問い合わせ件数、成約率などをKPIとして設定し、これらの指標を分析することで、マーケティング施策の効果を測定し、改善につなげることができます。
KGIとKPIの違い
KGIとKPIの違いとその例を表形式でまとめました。
項目 | KGI (Key Goal Indicator) | KPI (Key Performance Indicator) |
---|---|---|
定義 | 最終的に達成すべき目標指標 | KGI達成のための中間指標 |
特徴 | 長期的、具体的 | 短期的、具体的、KGIに相関 |
数 | 少数(通常1〜3個) | 複数(KGIごとに複数設定) |
設定期間 | 年間や中期経営計画期間など | 月次や四半期など |
例(EC) | 年間売上高10億円 | ・月間ユニークビジター数 ・コンバージョン率 ・平均購入単価 |
例(SaaS) | 年間経常利益5億円 | ・月間アクティブユーザー数 ・解約率 ・顧客獲得コスト |
例(製造業) | 市場シェア30%獲得 | ・生産性 ・不良品率 ・納期遵守率 |
KGIは組織の最終目標を示し、KPIはその目標達成のための具体的な指標を示します。KPIを適切に設定・管理することで、KGIの達成を目指します。
KPIとKSFの関係
KSF(重要成功要因)は、KPIを設定するための前提となる、KGIに影響力が高い要素のことです。これらの要因を明確にすることで、効果的なKPIの設計が可能になります。
例)
KGI:新規顧客獲得
KSF:「ウェブサイトのSEO対策」「SNS広告による認知度向上」「顧客満足度の向上」など
これらのKSFを踏まえて、ウェブサイトへの訪問者数、SNSでのフォロワー数、顧客満足度などのKPIを設定することで、目標達成に繋がる具体的な施策を立てることができます。
良いKPIとは
KPI(Key Performance Indicator)を設定する際の良い条件について、以下にまとめます。
- SMART基準に従うこと
- Specific(具体的)
- Measurable(測定可能)
- Achievable(達成可能)
- Relevant(関連性がある)
- Time-bound(期限がある)
- 組織の目標と整合性があること
- 全体の戦略や目標に直接関連していること
- 定量的であること
- 数値で測定できること
- アクション可能であること
- KPIの結果に基づいて具体的な行動が取れること
- シンプルで理解しやすいこと
- 関係者全員が容易に理解できること
- タイムリーに測定できること
- リアルタイムまたは短期間で測定可能であること
- 影響力があること
- 重要な成果や進捗を示すものであること
- 努力でコントロール可能であること
- 行動者の努力でコントロール可能な指標であること
- 改善可能であること
- 継続的な改善が可能な指標であること
- 責任の所在が明確であること
- 誰がその指標に責任を持つのか明確であること
これらの条件を満たすKPIを設定することで、より効果的な業績管理と改善が可能になります。
KPI設定の手順
ステップ1:KGIの設定
まずは、最終的な目標(KGI)を設定しましょう。この目標が明確であることで、その達成に向けた具体的な指標(KPI)が定めやすくなります。KGIは、企業全体の目標、部門目標、プロジェクト目標など、様々なレベルで設定されます。目標設定の際には、SMART(明確、測定可能、達成可能、関連性、適時性)の原則を意識することが重要です。
ステップ2:目標の分解
KGIを達成するためには、そのプロセスを分解して理解することが重要です。これにより、各プロセスにおける具体的なKPIを設定することが可能となります。例えば、売上10億円達成というKGIを、製品開発、マーケティング、営業、顧客サポートといったプロセスに分解し、それぞれのプロセスにおけるKPIを設定することで、目標達成に向けた具体的な行動計画を立てることができます。
KPIツリーの作成
KPIツリーを用いて、各目標とそれに関連するKPIを視覚的に整理することをお勧めします。これにより、全体像を把握しやすくなります。KPIツリーは、KGIを頂点とし、その下に関連するKPIを階層的に配置した図です。各KPIの関連性を明確にすることで、目標達成に向けた取り組みを体系的に把握し、効率的な管理を行うことができます。
(例)
売上高(5億円)
├── 顧客数の増加
│ ├── 新規顧客数
│ │ ├── 月次新規顧客獲得数
│ │ └── 新規顧客獲得コスト(CAC)
│ └── 既存顧客の維持
│ ├── 月次解約率(Churn Rate)
│ └── 顧客満足度(NPS)
├── 客単価の向上
│ ├── 平均購入単価
│ │ └── 平均購入単価(月次・四半期・年間)
│ ├── アップセル・クロスセル
│ │ ├── アップセル率
│ │ └── クロスセル率
├── 購入頻度の増加
│ ├── リピート率
│ │ └── 月次リピート購入率
│ └── 顧客あたりの年間購入回数
│ └── 顧客あたりの年間購入回数
マーケティング活動
├── デジタルマーケティング
│ ├── ウェブサイトトラフィック
│ │ ├── 月間ユニークビジター数
│ │ └── 平均セッション時間
│ ├── コンバージョン率
│ │ └── ウェブサイト訪問から購入へのコンバージョン率
│ └── ソーシャルメディアエンゲージメント
│ ├── フォロワー増加率
│ └── 投稿エンゲージメント率
├── オフラインマーケティング
│ ├── イベント参加
│ │ ├── イベント参加者数
│ │ └── イベント後のリード数
│ └── 広告効果
│ └── 広告からの新規顧客獲得数
セールス活動
├── 営業パフォーマンス
│ ├── 営業チームの月次売上
│ │ └── 営業担当者ごとの月次売上
│ └── リードコンバージョン率
│ └── リードから商談へのコンバージョン率
├── 顧客対応
│ ├── 問い合わせ対応時間
│ │ └── 平均問い合わせ対応時間
│ └── クレーム解決率
│ └── クレーム解決までの平均時間
プロダクト戦略
├── 新商品開発
│ ├── 新商品の売上貢献度
│ │ └── 新商品の売上比率
│ └── 市場投入までの時間
│ └── 新商品の市場投入までの平均期間
├── 既存商品の改良
│ └── 顧客フィードバック反映率
│ └── 顧客フィードバックに基づく商品改良の実施率
コスト管理
├── コスト削減
│ ├── 製造コスト削減
│ │ └── 製造コスト削減率
│ └── マーケティングコスト削減
│ └── マーケティングコスト削減率
├── 効率化
│ ├── 在庫回転率
│ │ └── 在庫回転率(Inventory Turnover)
│ └── 物流コスト
│ └── 物流コスト削減率
その他のKPI
├── 顧客ロイヤルティプログラム
│ ├── ロイヤルティプログラム参加率
│ │ ├── プログラム参加者数
│ │ └── プログラム参加者の平均購入額
├── 従業員満足度
│ ├── 従業員エンゲージメントスコア
│ │ └── 年次従業員エンゲージメント調査スコア
│ └── 従業員離職率
│ └── 年次従業員離職率
ステップ3:KPIの中でKSFを特定
リストアップしたKPIの中でKSFを特定します。そのためにはまた、前のステップで作成したKPIツリーに数字を当てはめることで、KGIに対して影響しているKPIが特定できます。限られたリソースや予算をどこにかければ最大効果が出せるのかビジネスの成功において重要なファクターとなります。
適切にKSFを特定するためには回帰分析も有効的な手段です。ぜひご覧ください。


ステップ4:KPIの設定と目標値の決定
設定したKPIに対して具体的な数値目標を定めます。この目標はSMART(明確、測定可能、達成可能、関連性、適時性)の原則に基づいて設定しましょう。目標値は、過去のデータや市場調査などを参考に、現実的で達成可能なレベルに設定することが重要です。目標値が高すぎると達成が困難になり、モチベーション低下に繋がる可能性があります。逆に、目標値が低すぎると、成長の機会を逃してしまう可能性があります。
KPI設定のコツ
シンプルな指標を選ぶ
KPIは多すぎると管理が難しくなります。最も重要な指標に絞り込むことで、効果的な管理が可能です。KPIは、ビジネス目標達成に最も貢献する指標に絞り込み、シンプルで分かりやすい指標を選ぶようにしましょう。複雑な指標は、理解しにくく、管理が煩雑になるため、避けるべきです。
MECEフレームワークの活用
MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)を使ってKPIを整理しましょう。これにより、重複や漏れのない体系的な指標設計が可能です。MECEとは、要素が重複することなく、かつ漏れなく全体を網羅している状態のことです。KPIをMECEに則って設定することで、指標間の関連性を明確にし、全体像を把握しやすくなります。
適切なツールを活用する
Excelや専用のKPI管理ツールを用いることで、効率よくKPIの追跡と分析ができます。Excelは、基本的なKPI管理には十分な機能を備えています。一方、専用のKPI管理ツールは、より高度な分析機能や可視化機能を提供しており、より効率的なKPI管理を実現できます。
また、ChatGPTのこちらのGPTsを利用するのもおすすめです。
KPI設定の失敗例とその回避法
KPIが多すぎる場合
設定するKPIが多すぎると運用が複雑になり、結局どれも追いきれなくなってしまいます。重要な指標を2〜3個に絞りましょう。KPIは、ビジネス目標達成に最も貢献する指標に絞り込み、シンプルで分かりやすい指標を選ぶようにしましょう。複雑な指標は、理解しにくく、管理が煩雑になるため、避けるべきです。
プロセスに偏ってしまう場合
プロセスばかりに注目しすぎると、最終目標達成に結びつかないKPIになってしまいます。バランスを取りましょう。KPIは、最終目標達成に繋がる指標であることを意識し、プロセス指標だけでなく、結果指標も設定するようにしましょう。
目的を見失う場合
KPIを設定する本来の目的を見失わないようにするためには、定期的に目標と指標の関連性を見直しましょう。KPIは、あくまでも目標達成のための手段であり、目的ではありません。定期的に目標と指標の関連性を確認し、必要に応じて修正することで、目的を見失わずにKPIを活用することができます。
具体的なKPI設定の事例
事例1: 新製品ローンチ
目標
新製品の市場認知度と初期販売数を最大化する。
KGI
- 新製品の初月売上:10,000ユニット販売
KPI
- 市場認知度:製品に関するソーシャルメディアの言及数、ウェブサイトの訪問者数
- リード獲得数:新規メール登録者数、問い合わせ件数
- 初期販売数:ローンチ後の初月の販売数、予約注文数
具体的な数値目標
- ソーシャルメディアの言及数:ローンチ1ヶ月で1,000件以上
- ウェブサイトの訪問者数:ローンチ1ヶ月で50,000人
- 新規メール登録者数:ローンチ1ヶ月で5,000人
- 問い合わせ件数:ローンチ1ヶ月で200件
- 初月の販売数:10,000ユニット
- 予約注文数:ローンチ前に5,000ユニット
事例2: コンテンツマーケティングキャンペーン
目標
ウェブサイトへのトラフィックとリードジェネレーションを増やす。
KGI
- 月間リード数:5,000件
KPI
- ウェブサイトトラフィック:ページビュー数、ユニークビジター数
- コンテンツエンゲージメント:記事の平均閲覧時間、ソーシャルシェア数
- リード獲得数:ホワイトペーパーのダウンロード数、ウェビナー登録者数
具体的な数値目標
- ページビュー数:月間100,000ビュー
- ユニークビジター数:月間50,000人
- 記事の平均閲覧時間:3分以上
- ソーシャルシェア数:月間500シェア
- ホワイトペーパーのダウンロード数:月間1,000ダウンロード
- ウェビナー登録者数:500人
事例3: ソーシャルメディアマーケティング
目標
ブランド認知度を高め、フォロワーエンゲージメントを促進する。
KGI
- 月間エンゲージメント数:20,000件
KPI
- フォロワー数:各ソーシャルメディアプラットフォームのフォロワー増加数
- エンゲージメント率:投稿のいいね、コメント、シェアの数
- ブランドメンション:ブランド名の言及数、ハッシュタグの使用数
具体的な数値目標
- フォロワー数:月間10,000人の増加
- エンゲージメント率:投稿あたり平均5%のエンゲージメント
- ブランドメンション:月間2,000件の言及
- ハッシュタグの使用数:月間1,500回
事例のまとめ
事例 | 目標 | KGI | KPI | 具体的な数値目標 |
---|---|---|---|---|
新製品ローンチ | 市場認知度と初期販売数を最大化する | 初月売上:10,000ユニット販売 | 市場認知度、リード獲得数、初期販売数 | 言及数:1,000件、訪問者数:50,000人、販売数:10,000ユニット |
コンテンツマーケ | ウェブサイトトラフィックとリードジェネレーションを増やす | 月間リード数:5,000件 | トラフィック、エンゲージメント、リード獲得数 | ページビュー:100,000、平均閲覧時間:3分、ダウンロード:1,000 |
ソーシャルメディア | ブランド認知度を高め、フォロワーエンゲージメントを促進する | 月間エンゲージメント数:20,000件 | フォロワー数、エンゲージメント率、ブランドメンション | フォロワー:10,000人、エンゲージメント:5%、言及:2,000件 |
このように、KGIとKPIを明確に設定することで、マーケティング施策の効果をより具体的に評価し、改善するための指標を確立できます。
まとめ:適切なKPI設定が成功の鍵
KPIを適切に設定することは、ビジネスの成功における重要なステップです。しかし、KPI設定を間違えてしまうとその個人、組織の行動がKGIに影響しない形になってしまい、リソースや予算だけを失っていきます。具体的な手順とコツを押さえ、効果的なKPIを設計・運用しましょう。KPIは、ビジネス目標達成のための羅針盤です。適切なKPIを設定し、その達成状況を継続的にモニタリングすることで、ビジネスを成功に導くことができます。