はじめに
多くのマーケターやビジネスパーソンが直面する課題の一つに、自社製品やサービスが顧客から選ばれる理由を明確に理解し、その成功を再現することがあります。この記事では、日本を代表するウイスキーブランド「サントリー角瓶」を例に、長年にわたり顧客から選ばれ続ける理由を分析し、そこから得られるビジネス成功のヒントを探ります。
角瓶の成功戦略を紐解くことで、以下のような疑問に答えを見出すことができるでしょう:
- なぜ特定の製品やブランドが長期にわたって支持されるのか?
 - 顧客の深層心理をどのように理解し、マーケティングに活かすべきか?
 - 競合との差別化をどのように図り、独自のポジションを確立するか?
 
これらの洞察は、自社製品やサービスの改善、マーケティング戦略の立案、そして持続的な顧客獲得に役立つはずです。それでは、角瓶の成功の秘密に迫っていきましょう。
サントリー角瓶とは

サントリー角瓶は、1937年に発売された日本を代表するウイスキーブランドです。サントリーホールディングス株式会社が製造・販売を行っており、その特徴的な四角いボトルデザインから「角瓶」の愛称で親しまれています。
公式サイト:https://www.suntory.co.jp/whisky/kakubin/product/kaku.html
角瓶は、山崎蒸溜所と白州蒸溜所で製造されたモルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドして作られるブレンデッドウイスキーです。その味わいは、甘やかな香りと厚みのあるコク、ドライな後口が特徴とされています。
角瓶の市場での位置づけ
角瓶は日本国内のウイスキー市場において、長年にわたりトップシェアを維持していると思われます。
2022年度のサントリーの決算データによると、スピリッツ事業の売上高は3,776億円でした。ただし、この数字には角瓶以外のウイスキーブランドや他のスピリッツも含まれているため、角瓶単体の正確な売上は不明です。
出典:https://www.suntory.co.jp/company/financial/pdf/results_202212.pdf
角瓶は、日本国内で高い人気を誇るブランドです。2020年のデータによれば、角瓶の年間販売量は約520万ケース(1ケース=9リットル換算)で、世界のウイスキーブランドの中で第18位にランクインしています。
出典:https://liquorpage.com/whiskey-world-sales-ranking-2020/
また、サントリーはウイスキーの品質向上と生産能力の強化を目的として、2024年までに山崎蒸溜所と白州蒸溜所に約100億円を投資する計画を発表しています。
出典:https://www.suntory.co.jp/news/article/14314.html
これらの取り組みから、サントリーは国内外でのウイスキー需要の高まりに対応し、特に「角瓶」ブランドのさらなる成長を目指していることが伺えます。
これらの数字から、角瓶の売上を以下のように推測してみました:
この推計は非常に大まかなものですが、角瓶が日本のウイスキー市場において極めて重要な位置を占めていることがわかります。
続いては、角瓶が戦うウィスキー市場のPOP/POD/POFについて見ていきましょう。
ウィスキー市場のPOP/POD/POF
POP(Points of Parity)、POD(Points of Difference)、POF(Points of Failure)の観点から、角瓶が戦うウイスキー市場を分析してみましょう。
POP(Points of Parity):業界標準
| 項目 | 説明 | 
|---|---|
| アルコール度数 | 40度前後が標準 | 
| 原料 | 大麦、とうもろこし、水など | 
| 製法 | 蒸留、熟成、ブレンドのプロセス | 
| 販売チャネル | 酒販店、スーパー、コンビニなど | 
| 価格帯 | 中価格帯(2,000円前後/700ml) | 
POD(Points of Difference):差別化要素
| 項目 | 角瓶の特徴 | 
|---|---|
| ブランド歴史、認知 | 80年以上の歴史と認知による信頼 | 
| 独自のブレンド | 山崎・白州蒸溜所の原酒使用 | 
| ボトルデザイン | 特徴的な四角いボトル | 
| 飲み方提案 | 「角ハイボール」の普及 | 
| 価格戦略 | 高品質でありながら手頃な価格 | 
POF(Points of Failure):失敗のリスク
| 項目 | リスク | 
|---|---|
| 品質管理 | 製造過程での品質のばらつき | 
| 原料調達 | 原料価格の変動や供給不安 | 
| ブランドイメージ | 大衆的イメージによる高級感の欠如 | 
| 環境対応 | 製造過程での環境負荷 | 
| 健康志向 | アルコール消費減少トレンド | 
この分析から、角瓶は業界標準を満たしつつ、圧倒的な歴史と認知、独自のブレンドやデザイン、飲み方提案などで差別化を図っていることがわかります。一方で、品質管理や環境対応、健康志向への対応などが今後の課題となる可能性があります。
次に、角瓶の購入者の心理を深掘りするために、オルタネイトモデルを使って分析してみましょう。
角瓶の購入者の合理(オルタネイトモデル)
オルタネイトモデルを使用して、角瓶購入者の行動、きっかけ、欲求、抑圧、報酬を分析します。
行動
角瓶を購入し、家飲みやパーティーなどで楽しむ
きっかけ
- 何を:仕事帰りや週末のリラックスタイム
 - どこで:スーパーやコンビニ、自宅
 - 誰と:一人で、または家族・友人と
 - いつ:夕方~夜、週末
 
欲求
- リラックスしたい
 - 美味しいお酒を楽しみたい
 - 友人や家族と楽しい時間を過ごしたい
 - 手頃な価格で質の良いウイスキーを飲みたい
 
抑圧
- 健康への懸念
 - 価格の高さ(他の酒類と比較して)
 - ウイスキーの複雑さや敷居の高さ
 - 翌日の仕事や予定への影響
 
報酬
- リラックス効果
 - 美味しさによる満足感
 - 社交の円滑化
 - コストパフォーマンスの良さ
 - ステータス(良質なウイスキーを飲んでいるという自己満足)
 
この分析から、角瓶の購入者は日常生活の中でリラックスや社交を求めており、その欲求を手頃な価格で満たせる角瓶を選択していることがわかります。また、健康への懸念やウイスキーの複雑さといった抑圧要因を、角瓶の親しみやすさや「角ハイボール」などの飲み方提案によって解消していると考えられます。
続いて、角瓶のWho/What/Howを分析し、より具体的なマーケティング戦略を見ていきましょう。
角瓶のWho/What/How
角瓶のマーケティング戦略をWho/What/Howの観点から分析します。
Who(ターゲット顧客)
- 20代後半~50代の働く男女
 - 日常的にお酒を楽しむ人
 - コストパフォーマンスを重視する人
 - ウイスキーに興味はあるが、敷居の高さを感じている人
 
What(提供価値)
- 便益:
- 手頃な価格で本格的なウイスキーを楽しめる
 - 様々な飲み方(ストレート、ハイボール、水割りなど)で楽しめる
 - 日本人の味覚に合わせたまろやかな味わい
 
 - 独自性:
- 80年以上の歴史と信頼
 - 特徴的な四角いボトルデザイン
 - 「角ハイボール」というブランド内カテゴリーの確立
 
 - RTB(Reason To Believe):
- サントリーの技術力と品質管理
 - 山崎・白州蒸溜所の原酒使用
 - 長年のベストセラーとしての実績
 
 
How(提供方法)
- コミュニケーション:
- テレビCMや雑誌広告での認知度向上
 - 「角ハイボール」を中心とした飲み方提案
 - SNSを活用した若年層へのアプローチ
 
 - プロダクト:
- 様々なサイズ展開(180ml、700ml、4Lなど)
 - 「角ハイボール」缶の展開
 - 季節限定商品の発売
 
 - 場所:
- スーパー、コンビニ、酒販店など幅広い販売チャネル
 - オンラインショップでの販売
 - 飲食店でのメニュー展開
 
 - 価格:
- 中価格帯のポジショニング(700mlで2,000円前後)
 - 量り売りや大容量ボトルでの価格メリット提供
 
 
この分析から、角瓶は幅広い年齢層の日常的な飲酒シーンをターゲットに、手頃な価格で本格的なウイスキーを提供し、特に「角ハイボール」を通じて親しみやすさを演出していることがわかります。また、長年の歴史と信頼、特徴的なボトルデザインなどで独自性を出しつつ、幅広い販売チャネルと価格戦略で顧客にアプローチしています。
これらの分析を踏まえ、角瓶が誰になぜ選ばれるのかについて、結論を導き出してみましょう。
結論:角瓶は誰になぜ選ばれるのか
角瓶が長年にわたって多くの消費者から選ばれ続けている理由は、以下のようにまとめることができます:
- ターゲット顧客の明確化:
- 角瓶は、20代後半から50代の幅広い年齢層の働く男女をターゲットとしています。特に、日常的にお酒を楽しみたいが、コストパフォーマンスも重視する層に強くアピールしています。
 
 - 価値提案の的確さ:
- 手頃な価格で本格的なウイスキーを楽しめるという価値提案は、ターゲット顧客のニーズに合致しています。また、「角ハイボール」という飲み方提案により、ウイスキーに馴染みのない層にも親しみやすさを提供しています。
 
 - ブランドの信頼性:
- 80年以上の歴史と、サントリーという大手メーカーの技術力が背景にあることで、品質への信頼感が醸成されています。
 
 - 独自性の確立:
- 特徴的な四角いボトルデザインや「角ハイボール」というブランド内カテゴリーの確立により、競合他社との差別化に成功しています。
 
 - 多様な販売戦略:
- スーパーやコンビニなど幅広い販売チャネルでの展開、様々なサイズ展開、「角ハイボール」缶の販売など、顧客の多様なニーズに応える販売戦略を採用しています。
 
 - 継続的なブランド進化:
- 長年のベストセラーでありながら、「角ハイボール」の提案や若年層へのアプローチなど、時代に合わせたブランド戦略の更新を行っています。
 
 - 日本人の味覚への適合:
- 日本人の繊細な味覚に合わせたまろやかな味わいを実現し、日本市場に特化した製品開発を行っています。
 
 - 価格戦略の適切さ:
- 中価格帯のポジショニングにより、高級感を維持しつつも手の届きやすい価格設定を実現しています。これにより、日常的な飲酒シーンから特別な機会まで幅広く対応できています。
 
 - 飲み方の多様性:
- ストレート、ロック、水割り、ハイボールなど、様々な飲み方を提案することで、顧客の好みや場面に応じた柔軟な楽しみ方を可能にしています。
 
 - 社会的認知度:
- 長年のマーケティング活動により、「角瓶」という名称が日本のウイスキーの代名詞として定着しています。この高い認知度が新規顧客の獲得にも寄与しています。
 
 
これらの要因が複合的に作用することで、角瓶は幅広い層から支持を得続けています。特に、品質と価格のバランス、ブランドの信頼性、飲み方の提案力が、顧客の継続的な選択につながっていると言えるでしょう。
まとめ
サントリー角瓶の成功から、マーケターやビジネスパーソンが学べるポイントを箇条書きでまとめます:
- 明確なターゲット設定:幅広い年齢層をカバーしつつ、具体的なニーズを持つ顧客層を特定する
 - 価値提案の最適化:顧客ニーズに合致した明確な価値(品質と価格のバランス)を提供する
 - ブランドの信頼性構築:長年の実績と技術力をアピールし、顧客の信頼を獲得する
 - 独自性の確立:デザインや製品カテゴリーで競合との差別化を図る
 - 多様な販売戦略:様々な販売チャネルと製品サイズで顧客の利便性を高める
 - 継続的なブランド進化:時代のニーズに合わせて、新しい提案や顧客層の開拓を行う
 - 市場特性への適応:対象市場の文化や嗜好に合わせた製品開発を行う
 - 適切な価格戦略:ターゲット顧客の購買力に合わせた価格設定を行う
 - 使用シーンの多様化:製品の多様な活用方法を提案し、顧客の選択肢を増やす
 - 社会的認知度の向上:長期的なマーケティング活動により、ブランドの認知度と信頼性を高める
 
これらの戦略を自社のビジネスに適用することで、長期的な顧客獲得と市場での競争力強化につながる可能性があります。ただし、各企業や製品の特性に合わせて、これらの戦略を適切にカスタマイズすることが重要です。
角瓶の成功事例は、ブランド構築、製品開発、マーケティング戦略の重要性を示しています。長期的な視点を持ち、顧客ニーズの変化に柔軟に対応しながら、一貫したブランド価値を提供し続けることが、持続的な成功の鍵となるでしょう。

  
  
  
  