2025年7月末、沖縄に新たに誕生した大型テーマパーク「ジャングリア沖縄」。開業当初から大きな話題を呼びましたが、SNSや口コミサイトでは「期待外れ」「もう失敗では?」というネガティブな声が目立っています。果たして本当に失敗なのでしょうか。
筆者はジャングリア沖縄を手がけた森岡氏の考えや行動力に非常に尊敬の念を抱いております。1人のマーケターとして日々参考にさせていただいております。ぜひご興味あればこちらもご覧ください。
それが故に大きな期待を背負ってオープンしたジャングリア沖縄の悪い評価が散見されることに対して残念な気持ちを持っています。本記事では、実際に寄せられている主な口コミをピックアップして紹介しながら、ポジティブ視点とネガティブ視点の両面からどういう戦略が想像できるのかを考察してみました。
主な口コミの紹介
まずは、実際にGoogleマップの口コミ、YotubeやXなどのSNSやレビューサイトに寄せられている主な口コミを、良いものと悪いものに分けて整理してみました。一部ニュアンスは変えていますが、以下のような口コミがあることを確認しています。

良い口コミ
- 「スパ最高!」「レストラン美味しい」「ショップは賑わってる」
- 「リゾート感があって癒やされる」
- 「スタッフの対応が丁寧」
- 「体験できたアトラクションは楽しい!」
悪い口コミ
以下の声が多く寄せられています。
- レビュー・信頼性に関する声:
- 「レビューが一気に消えた」「運営が操作してる?」
- 待ち時間・運営面:
- 「200分以上待つ」「アトラクションにほとんど乗れなかった」「炎天下での長時間待機がきつい」「案内や運営が不慣れ」
- アトラクション内容:
- 「アトラクションが少ない」「天候条件が合わず気球は飛ばない」「雨や雷雨で休止になるアトラクションが多い」
- 環境・設備:
- 「日陰が全然ない」「雨の日は逃げ場がない」「屋根不足」「座ってランチができるところが少ない」
- 広告・期待値:
- 「プロモーション動画とのギャップがある」「インフルエンサーが言っていることとのギャップがある」
- 料金体系:
- 「入場料だけではほぼ体験できない」「整理券すぐなくなる」「プレミアム買わないと何もできない」「入園料に見合わない」
- アクセス:
- 「空港から2時間20分とアクセスが悪い」
- 「駐車場が足りない」
総じて見ると、悪い口コミは「長時間待ち」「天候に弱い」「設備や導線の不足」「料金に見合わない」「アクセスが悪い」といった声が特に多く、全体的に体験価値の低さやコストパフォーマンスへの不満が目立っているといえます。
ぜひ「ジャングリア沖縄」とGoogle検索をして実際の口コミを見てみてください。8/21時点では下記のように604件の口コミが集まっており、5点満点中2.5の評価です。なお、今回はYoutubeやじゃらん、他媒体がまとめた口コミも参考にしています。

ジャングリア沖縄の評価は、他のテーマパークや施設のGoogle口コミと比較しても現状はかなり低評価が多くなっていることがわかります。

一体、何が起こってしまったのでしょうか。悪い口コミから考察していきます。
口コミに対しての考察
ご紹介した悪い口コミを中心に、ポジティブ視点/ネガティブ視点/考えられる背景 を整理してみます。
テーマ | 口コミ例 | ポジティブ視点 | ネガティブ視点 | 考えられる背景 |
---|---|---|---|---|
レビュー・信頼性 | 「レビューが一気に消えた」「運営が操作してる?」 | Google規約に基づく削除で、今後は透明性強化につながる可能性 | 運営は自らの削除を否定している。しかしその情報が適切に広がらないと疑惑が広まり信頼失墜。ブランドに長期的悪影響になる恐れ | 炎上リスク管理の甘さ、透明性施策不足 |
待ち時間・運営 | 「220分待ち」「炎天下での長時間待機」「案内が不慣れ」 | 人気の裏返しで需要の高さを示す。改善すれば満足度アップ | コスパ悪い印象が拡散、リピーター離れの恐れ | キャパ設計不足、人員教育不足、混雑対策の欠如 |
アトラクション内容 | 「少ない」「気球が飛ばない」「雨天で休止多数」 | 新規アトラクション追加余地がある。天候リスクを逆手に取れば差別化可能 | 目玉不足で「しょぼい」印象、天候依存で体験機会が失われる | 投資不足、天候リスク軽視、開業準備の甘さ |
環境・設備 | 「日陰がない」「屋根不足」「雨の日に逃げ場がない」「ランチ座席不足」 | 改善点が明確。快適性を強化すれば評価反転可能 | 気候配慮不足は致命的で来園意欲を削ぐ | 沖縄特有の環境を軽視、インフラ整備の不十分さ |
広告・期待値 | 「広告はすごそうなのに、実際はしょぼい」「期待外れ」 | 広告戦略で注目を集めた成功例。体験を広告に近づければ成長可能 | 誇大広告と受け止められ、期待外れ感が定着 | 広告と実態の乖離、期待値コントロール不足 |
料金体系 | 「入場料だけでは体験が難しい」「プレミアム買わないと無理」「入園料に見合わない」 | プレミアム需要がある証拠。多層料金戦略で収益性UP余地 | 通常券で満足できず「金次第の施設」印象拡散 | 料金設計のバランス不足、収益偏重 |
アクセス | 「アクセスが悪い」 | 地域連携や交通施策強化の余地。今後改善余地が大きい | 不便さが来園障壁となりリピーター獲得を阻害 | 那覇からの距離、交通インフラ未整備 |
ここから見えるのは、どの口コミにもポジティブに捉えれば改善の伸びしろがあり、ネガティブに捉えて放置すれば致命的な欠点にもなり得るということです。ジャングリア沖縄は「人気の裏返し」「強みの芽」が存在する一方で、設計や戦略の甘さが随所に見られるというのが私の正直な感想です。あの森岡さんが??と疑問を持っています。また、課題は偶発的なものではなく、計画段階で比較的容易に想定可能だった要素が多いのが特に疑問を持つところですが、改善の方向性は比較的明確です。したがって、今の低評価は必ずしも失敗の証明ではなく、改善によって成長する余地を十二分に示していると言えるのではないでしょうか。
運営会社の戦略は?
これらの口コミから見える課題は、運営会社であるマーケティングプロ集団の刀や、関連会社のジャパンエンターテイメントであれば容易に予測できたのではないでしょうか。
- ネガティブ口コミ拡散のリスクの理解
- アトラクションのキャパ不足や気候リスクも事前シミュレーションで分かる。
- 広告と体験のギャップが不満を生むのリスクの理解
それでも口コミにあるような課題が発生してしまった背景には、予測ができなかった=スキル不足の可能性というのは刀ほどのマーケティングプロ集団が集まる企業ではあまり考えられないとみています。それよりも予測はできていたが優先事項にしなかった可能性が高いのではないでしょうか。つまり、
- 短期回収や話題先行を優先した可能性
- これは、初期の集客バズを狙い「とにかく早く開業して注目を集める」ことを重視した可能性です。長期的な体験価値より短期の話題性を優先する戦略は、投資家や地域からの大きな期待に応える一方で、オペレーション不備や顧客不満を招きやすいのは当然です。結果として口コミにネガティブが溢れる構造は予測可能であり、「短期回収」と「長期ブランド構築」の間にあるトレードオフが顕在化したのではないでしょうか。
- 十分な資金が確保できず理想を実現できなかった可能性
- 初期投資の制約により一貫かつ満足のいく顧客体験を作り出すのに必要なアトラクション数や全天候型設備を整備できなかった可能性もあります。資金不足は改善投資のスピードも鈍らせ、口コミで顕在化した課題に迅速に対応できない要因にもなりえます。資金繰りの状況は我々からは見えない部分ですが、ジャングリア沖縄への投資額は700億円と言われています。一方、USJのハリーポッターエリアは450億円ディズニーシーのファンタジースプリングスは3,200億円の投資が1つのエリアにかけられているほどです。コンセプトも地域も異なるため一概に比較はできませんが、テーマパークを作るのには相当な資金が必要ということがわかります。
- メインターゲットを「プレミアムパスを買える層」にしている可能性
- プレミアム志向セグメント重視の戦略です。この前提だとしたら、通常チケットの体験は意図的に“ミニマム設計”になり、価値(待ち時間短縮・確約枠・屋内ラウンジ等)をプレミアムに集中させるティア設計が初期戦略だった可能性もあります。
- この場合のメリットは ARPPU/LTVの最大化 と 高粗利プレミアム収益→改善投資 への資金循環が作れる点です。一方で、大量の一般層には不公平感が残り NPS低下やネガティブな口コミ拡散 のリスクが高くなります。
- 鍵となるKPIは、①プレミアム販売比率、②ARPPU(客単価)と顧客構成、③ティア別NPS、④リピート率(プレミアム/通常)、⑤返金・クレーム率などでしょう。
- コミュニケーションでは 「通常券でできること/できないこと」を事前明示 し、プレミアム特典(確約搭乗枠、全天候型ラウンジ、気候対策特典、スパ/食事のバンドル等)を具体化する必要もあるのではないでしょうか。
他にも、オープン時の混雑が落ち着けば想定通りの運営ができる可能性なども考えられます。どういった戦略であるにせよ、今の顕在化した課題を放置するわけにはいきません。その上で重要なのは、調達した資金が現時点でどれだけ残っているか、そしてオープン後に消費者から得られた収益をどれだけ改善投資に回せるかという点です。資金余力が十分であれば、改善施策を早期に実行し立て直すことは可能ですし、不足していれば改善の絵を見せてさらなる調達も必要になってきます。どちらにしても、現状の低評価は偶発的な事故ではなく、戦略上の判断の可能性を筆者はみています。
今後の改善プラン例
課題が明確だからこそ改善の余地も大きいのが現状です。運営会社がどのように舵を切るかで評価は大きく変わるでしょう。実際に刀の森岡さんも消費者からいただいている評価は改善の貴重な源であると述べていますので、今後大きく改善の舵が切られるのは間違い無いです。その際に、誰向けのどういう独自価値を提供できる施設なのかを明確にした上で改善をしていくことが重要です。
- アクセス改善
- シャトルバス増便や直行便導入でレンタカー依存を軽減。
- 他観光地と連動した「ツアー型動線」の設計。
- 気候対策の強化
- 日陰・ミスト設備・雨天対応型屋内施設の整備。
- 「沖縄の気候でも快適に楽しめる」設計へ。
- 体験価値の磨き込み
- 広告と実際の体験を一致させるためにアトラクションを改善。
- 通常チケットでも満足できる体験を最低限担保し、それを明記。
- アトラクションを体験できる人数効率を改善。
- 強みの拡張
- 高評価のスタッフの接客や飲食の質をより打ち出す。
- マーケティングプロ集団の刀による継続的かつスピード感のある改善反映
結論
ここまでの考察を踏まえると、ジャングリア沖縄を「失敗」と断じるのはやはり時期尚早だと言えます。確かに現状の低評価は偶発的なトラブルではなく、戦略上の判断や準備不足が引き起こした面が大きいでしょう。しかし、課題がこれほど明確に可視化されたこと自体が、改善への出発点でもあります。
沖縄特有のアクセス課題、気候への適応、体験設計の見直し、そして「沖縄ならでは」の魅力の活かし方を丁寧に整えていけば、ジャングリア沖縄はまだ「沖縄観光の新しい柱」となり得る可能性を秘めています。筆者自身、沖縄という土地に何度も訪れてその魅力を実感してきたからこそ、この挑戦に敬意を表したいと強く思います。
大切なのは、批判で終わらせるのではなく、課題を改善し成長していく過程を応援する姿勢です。我々消費者もまた、体験や声を通じてパークをより良く育てていく役割を担っています。ジャングリア沖縄が、この課題をきっかけに「真の観光資源」へと進化していくことを期待したいと思います。