はじめに
マーケティング戦略を構築する際、多くのマーケターは「ターゲット設定」「差別化」「戦略実行」に注力しますが、それらを一貫性のあるフレームワークに落とし込むことが難しいと感じることが多いのではないでしょうか。本記事では、観光庁が作成した「訪日マーケティング戦略」の立案プロセスをマーケターの視点で分析し、どのように一般的なマーケティング戦略へ応用できるかを解説します。
訪日マーケティング戦略の概要

こちらから閲覧・ダウンロードできます:
https://www.jnto.go.jp/projects/overseas-promotion/marketing-strategy/marketing_strategy_all.pdf
今回分析した資料「訪日マーケティング戦略」では、日本政府および観光庁が策定した訪日外国人向けのプロモーション戦略が詳細に記されています。この戦略は、 「市場別アプローチ」 と 「市場横断的アプローチ」 の2つの視点から構築されており、特に 持続可能な観光 や 地方誘客の促進 に焦点を当てています。
資料の主な構成

訪日マーケティング戦略の全体構成
- 観光立国推進基本計画に基づいた市場別・市場横断的アプローチ
- 2023〜2025年度を対象とした3年間の戦略設計

市場別マーケティング戦略
- ショートホール市場(東アジア圏)
- 訪日リピーターをターゲットに地方誘客や高単価消費を促進
- ミドルホール市場(東南アジア・オセアニア・アメリカ)
- 新規訪問者とリピーターの両方を対象に、文化体験やラグジュアリー層向け施策を強化
- ロングホール市場(ヨーロッパ・中東・南米)
- 訪日未経験者をターゲットに、環境配慮型ツーリズムや長期滞在促進施策を実施

市場横断マーケティング戦略
- 持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)の推進
- 環境負荷を抑えた観光プランの開発
- 地域文化を活かした観光商品のPR
- MICE(ビジネスイベント)マーケティング
- 国際会議や展示会の日本開催を促進
- 大阪・関西万博との連携
- 万博を活用した訪日観光の活性化
ターゲットごとの具体的な施策
- 各市場のターゲット(年齢層、旅行目的)を細かく分類し、訴求ポイントを明確化
- SNS広告、インフルエンサー招致、旅行博の活用など、各市場に適したプロモーション戦略
KPIの設定と成果測定
- 訪日観光客数の増加
- 地方誘客率の向上
- 一人当たりの消費額増加
- サステナブル・ツーリズムの普及率
本記事では、上記の戦略構築プロセスを マーケティングの視点 で分解し、 どのように一般企業のマーケティング戦略に応用できるのか を詳しく解説していきます。
訪日マーケティング戦略のフレームワーク
今回参照した訪日マーケティング戦略は、 市場分析 → ターゲット設定 → 差別化戦略 → 戦術の実行 という流れで構築されています。これは、あらゆるマーケティング戦略に応用できるため、各要素をマーケター向けに整理していきます。
1. 市場分析:ターゲット市場のセグメンテーション
訪日マーケティング戦略では、ターゲット市場を以下のように分類しています。
- ショートホール市場(東アジア圏)
- 既存訪問者が多く、リピーター獲得が重要。
- 地方誘客や高単価消費を促進する施策が中心。
- ミドルホール市場(東南アジア・オセアニア・アメリカ)
- 新規訪問者とリピーターの両方を狙う必要あり。
- 文化体験やラグジュアリー層向けの施策を強化。
- ロングホール市場(ヨーロッパ・中東・南米)
- 未訪問者が多く、認知向上と訪問意欲の喚起が鍵。
- 環境配慮型ツーリズムや長期滞在促進施策を強化。
📌 マーケターへの示唆
➡ ターゲットを既存ユーザーと新規ユーザーに分類し、それぞれの動機や行動パターンに合わせたアプローチを設計することが重要。
➡ 既存市場と新規市場で施策を分けることで、ROIを最大化できる。
2. Who/What/Howの整理
訪日マーケティング戦略では、ターゲットごとに「Who(誰が)」「What(何を求める)」「How(どのように提供する)」を明確にしています。
Who(ターゲットの定義)
例:
- 40代以上の訪日リピーター → 温泉・歴史・ローカルフードに関心
- 20〜30代の女性旅行者 → SNS映え・ショッピング・カフェ文化
What(提供価値)
例:
- 「本物の日本文化体験」(差別化要素)
- 「都市+地方のセット体験」(ゴールデンルート+αの施策)
How(提供手法)
- インフルエンサー招致
- SNS広告(Instagram、WeChat)
- 旅行博やセミナーの開催
- OTA(オンライン旅行代理店)との連携
📌 マーケターへの示唆
➡ ターゲットごとに提供価値をカスタマイズし、最適なチャネルで情報発信することが成功の鍵。
➡ 特にデジタルとリアルの施策を組み合わせることが重要。
3. 戦略の差別化:競争優位性の構築
訪日マーケティング戦略では、競争優位性の確立のために 「POP(業界標準)」と「POD(独自性)」を整理 しています。
POP(業界標準)
- 旅行先としての安全性
- 交通網の整備
- 文化体験の多様性
POD(独自性要素)
- 「サステナブル・ツーリズム」:環境配慮型の宿泊施設や観光プラン
- 「アニメ・映画ロケ地巡り」:訪日外国人向けのエンタメ訴求
- 「地域ごとの特化型体験」:都市部以外の魅力発信
📌 マーケターへの示唆
➡ 競争優位性を「業界標準+独自性」で設計することで、ブランディングと集客のバランスを取る。
➡ 特に「消費者が求めているが、競合が提供できていない価値」にフォーカスすると強い差別化が可能。
4. 施策の実行とKPI設計
訪日マーケティング戦略では、具体的な施策の実行と効果測定のために BtoBとBtoCの両方のアプローチ を組み合わせています。
BtoB施策
- 旅行会社・航空会社との共同広告
- 地方自治体との連携によるキャンペーン
BtoC施策
- デジタル広告(SNS、Google、WeChat、YouTube)
- インフルエンサー招致とUGC(User Generated Content)の活用
📌 マーケターへの示唆
➡ BtoB施策とBtoC施策を組み合わせることで、認知から購買行動まで一貫したマーケティングが可能になる。
➡ KPI(Key Performance Indicator)として、以下のような指標を設定するとよい。
- 訪日者数の増加率
- 地方誘客の比率
- SNSでのエンゲージメント率
- 旅行関連商品の売上向上
まとめ:マーケターが学ぶべき戦略の立て方
今回の訪日マーケティング戦略を分析した結果、マーケターが学ぶべきポイントは以下の通りです。
✅ ターゲット市場を細分化し、セグメントごとに施策を最適化する
➡ 既存市場 vs. 新規市場の違いを理解し、それぞれに合ったアプローチを設計する。
✅ Who/What/Howを整理し、提供価値を明確にする
➡ 誰が(Who)、何を求めていて(What)、どのように提供するのか(How)を明確にすることで、戦略の一貫性を担保する。
✅ POP(業界標準)とPOD(独自性)を整理する
➡ 差別化戦略を立てる際、業界標準+独自の強み(POD)を定義する。
✅ BtoBとBtoCの施策を組み合わせ、効果的なマーケティングを実施する
➡ 旅行代理店や航空会社との協業(BtoB)+SNSやインフルエンサー施策(BtoC)を連動させる。
このように 訪日マーケティング戦略の立て方は、あらゆる業界のマーケターが活用できる普遍的なフレームワーク になっています。この資料自体非常に参考になると思いますので、皆様のマーケティング施策の設計時に、ぜひこのアプローチを活用してみてください!
こちらから閲覧・ダウンロードできます:
https://www.jnto.go.jp/projects/overseas-promotion/marketing-strategy/marketing_strategy_all.pdf