イマーシブ・フォート東京閉園の敗因分析|「マーケティングの神様」でも読み違えた需要予測と、そこから学ぶ5つの教訓 - 勝手にマーケティング分析
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イマーシブ・フォート東京閉園の敗因分析|「マーケティングの神様」でも読み違えた需要予測と、そこから学ぶ5つの教訓

イマーシブ・フォート東京 閉園の敗因とは 商品を勝手に分析
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はじめに

「マーケティングの神様」と呼ばれる森岡毅氏率いる株式会社刀が手がけた、世界初のイマーシブ・テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」が、2026年2月28日をもって閉園することが発表されました。2024年3月のオープンからわずか2年での幕引きです。

「あのUSJをV字回復させた森岡氏がなぜ?」「熱狂的なファンがいたのになぜ閉園?」

多くのマーケターやビジネスパーソンが抱くこの疑問に、本記事では財務データと公式コメント、そして評判分析から徹底的に答えていきます。

実はこの閉園劇には、「人気であること」と「ビジネスとして成功すること」は全く別物であるという、私たちマーケターが絶対に忘れてはいけない教訓が詰まっています。


イマーシブ・フォート東京とは?概要を整理

Screenshot

まずは基本情報を整理しておきましょう。

項目内容
施設名イマーシブ・フォート東京(IMMERSIVE FORT TOKYO)
運営会社刀イマーシブ合同会社(株式会社刀の子会社)
所在地東京都江東区青海1丁目3-15(旧ヴィーナスフォート跡地)
開業日2024年3月1日
閉園日2026年2月28日(予定)
施設面積約3万㎡(国内最大級の屋内型テーマパーク)
コンセプト「さぁ、感動の最前列へ」(完全没入体験)
主要アトラクションザ・シャーロック、江戸花魁奇譚、東京リベンジャーズ イマーシブ・エスケープなど

「イマーシブ」とは「没入」を意味し、来場者が単なる観客ではなく、物語の登場人物の一人として参加できる新しい形態のエンターテインメントです。これは欧米で「イマーシブシアター」として人気を博していた体験型演劇を、テーマパーク規模に拡大した世界初の試みでした。


評判はどうだった?熱狂と困惑が入り混じる口コミ

イマーシブ・フォート東京の評判は、極端な二極化が特徴でした。

熱狂的ファンの声

評価ポイント具体的な声
リピート率50%超一度体験すると病みつきになる人が続出
10回以上来場者が20%全チケットの2割は10回以上リピートした人が購入
200回以上の猛者も一部のファンは200回以上来場
江戸花魁奇譚の稼働率94%2年間、平日も含めて常に完売状態

特に「江戸花魁奇譚」や「ザ・シャーロック」といったディープな体験型アトラクションは、14,800円という高額チケットにもかかわらず、チケット完売率97%を記録するほどの人気でした。

困惑・不満の声

一方で、以下のような批判的な口コミも多く見られました。

不満ポイント具体的な声
楽しみ方がわからない「受け身で楽しめると思っていたのに、能動的に参加しないと面白くない」
価格と体験のギャップ「料金に見合っておらず、大変がっかりした」
日本人には合わない?「積極的に話しかけるのが恥ずかしい」
施設が広すぎて空虚「シャッター街のショッピングモールを歩いているだけ」
飲食が高すぎる「軽食で2,800円は負担が大きい」

この評判の二極化こそが、イマーシブ・フォート東京の構造的問題を象徴していました。熱狂的に支持する人は一定数いるが、万人向けではないという事実です。

出典:Google/Youtubeの口コミ


業績データ:決算から見える「数字の真実」

次に、株式会社刀の決算公告から、イマーシブ・フォート東京の財務インパクトを見てみましょう。

刀社の決算推移

決算期最終損益備考
第7期(2023年11月期)赤字1億8,300万円イマーシブ開業前
第8期(2024年11月期)赤字55億4,600万円当初24億円から下方修正
第9期(2025年6月期)赤字13億700万円7ヶ月の変則決算

第8期の赤字は当初24億3,600万円と公表されていましたが、55億4,600万円へと大幅に下方修正されました。これはイマーシブ・フォート東京の事業計画変更を反映したものです。

財務構造の問題点

決算公告から読み取れる構造的な課題は以下の通りです。

項目金額示唆すること
総資産約212億円大規模な投資を実行
固定資産約174億円資産の82%が「箱」への投資
流動資産約37億円キャッシュが限定的
債務保証損失引当金26億円将来損失を見込んでいる
事業損失引当金20億円撤退コストを織り込み済み

刀社は「イマーシブ・フォート東京への投資による影響は自己資本の範囲内」と説明しており、会社全体の経営危機には至っていません。しかし、約70億円の累積赤字は、同社にとって決して小さくない痛手と想像できます。


撤退の根本原因:需要予測の「質的な読み違え」

森岡CEO自身が語った「最大の誤算」

森岡毅CEOは、閉園発表時のテレビ東京のインタビューで以下のように語っています。

「当初の事業計画では大人数を対象に広い施設面積を要する『ライトな体験』が大半を占めると想定しておりましたが、実際は人数を限定した『ディープな体験』に需要が強く偏ることがわかりました」

この「予測と現実のズレ」を具体的な数字で見てみましょう。

需要予測の逆転:7対3が3対7に

体験タイプ事前予測実際の結果特徴
ライトな体験7割3割短時間・大人数・低単価
ディープな体験3割7割長時間・少人数・高単価

なぜこの誤算が「致命的」だったのか

この予測のズレが致命的だった理由は、施設設計そのものが間違った予測に基づいていたからです。

森岡氏は「7割がライト層」と予測し、3万㎡という巨大施設を用意しました。大人数を回転させて収益を上げるビジネスモデルです。

しかし、実際に人気だったのは1回30人〜200人限定のディープな体験。どんなに連日完売しても、売上には絶対的な上限がありました。

森岡氏自身、この状況を以下のように例えています。

「超人気のラーメン店だけど、東京ドームを借りて営業している」ような状態

いくらラーメンが売れても、東京ドームの家賃(固定費)は払いきれません。収益構造と施設規模のミスマッチが、閉園の直接的な原因でした。

なぜ「マーケティングの神様」が予測を外したのか

ここで疑問が浮かびます。USJをV字回復させ、丸亀製麺や西武園ゆうえんちを成功に導いたと言われている森岡氏が、なぜ需要予測を外したのでしょうか?

答えは、イマーシブ・フォート東京が「New-to-the-World(世界にまだない)」プロダクトだったことにあります。

過去の成功事例イマーシブ・フォート東京
USJ、丸亀製麺など既存事業の再生世界初の大規模イマーシブ・テーマパーク
比較対象(ベンチマーク)が存在比較対象が世界中に存在しない
過去データから需要予測が可能事前調査の限界がある

森岡氏は著書『確率思考の戦略論』で、消費者の選択行動を数学的に予測する手法を提唱しています。しかし、消費者自身が「想像がつかない」体験については、調査段階で正確な回答を得ることが困難なのです。

「調査段階で、消費者が聞かれた質問に対してある程度正しく『想像がつく』ものに対する需要予測は、かなりの精度が発揮できます。しかし、イマーシブ・フォート東京のように、まだこの世界に存在しない『ニュー・トゥー・ザ・ワールド・プロダクト』の需要予測は、ベンチマークにできるデータが存在しないので予測が難しく、たいてい想定外は起こるものです」(森岡氏インタビューより)


その他の失敗要因:複合的な課題

需要予測の失敗以外にも、複数の要因が重なっていました。

1. 立地の課題

イマーシブ・フォート東京が入居した旧ヴィーナスフォートの建物があるお台場・臨海副都心エリアでは、近年大型集客施設の閉館が相次いでいました

施設名閉館時期
大江戸温泉物語2021年9月
MEGA WEB2021年12月
Zepp Tokyo2022年1月
ヴィーナスフォート2022年3月
パレットタウン大観覧車2022年8月

これらの施設閉館により、エリア全体の回遊性が弱まっていたことは否めません。

一方で、同じ臨海エリアでもチームラボプラネッツ(豊洲)はインバウンド観光客から高い人気を維持しています。このことから、立地そのものよりもコンテンツの訴求力やターゲット設計に課題があった可能性も考えられます。

2. 日本人の国民性との相性

イマーシブ体験は、来場者が能動的に参加することで価値が最大化されます。しかし、日本人の多くは「見知らぬ人に話しかける」「目立つ行動を取る」ことに抵抗感があります。

口コミでも「恥ずかしくて積極的に参加できなかった」「楽しみ方がわからなかった」という声が多く見られ、体験価値を十分に引き出せない来場者が多かった可能性があります。

3. 期間限定という制約

イマーシブ・フォート東京は、旧ヴィーナスフォートの建物を森ビルから賃借して運営していました。もともと再開発までの「期間限定」を前提とした事業であり、長期的な投資回収を見込んだ設計ではありませんでした。ただしこれに関しては元々わかっていたことです。想定の中で事業を組み立てていたでしょう。


この事例から学べる5つのマーケティング教訓

イマーシブ・フォート東京の閉園から、私たちマーケターが学ぶべき教訓をまとめます。

教訓1:人気≠収益性|ビジネスモデルの設計が命

ポイント:「売れている」と「儲かっている」は別の話

江戸花魁奇譚は稼働率94%、リピーター率50%以上という驚異的な数字を記録しました。しかし、1回30人という収容限界がある以上、どんなに人気でも売上の天井は決まっています。

確認すべきこと質問例
収益の天井はどこか最大稼働でも固定費をカバーできるか?
固定費と変動費のバランス需要変動に耐えられる構造か?
スケーラビリティ人気が出たときに供給を増やせるか?

教訓2:New-to-the-Worldプロダクトの需要予測は「外れる前提」で設計せよ

ポイント:未知の市場では、小さく始めて検証する

森岡氏自身が「想定外は起こるもの」と認めているように、世界初の事業で完璧な予測は不可能です。

推奨アプローチ具体例
MVP(最小限の製品)でテスト小規模施設で週末限定営業から始める
仮説検証のサイクルを短く3ヶ月ごとに需要を再評価
柔軟に方向転換できる設計大規模投資は需要確認後に

正直、イマーシブ・フォート東京の取り組みでもこれはできたと思っています。つまりあのような大きな箱を借りて最初からリスクを高めるのではなく、小さな箱でテストしてみる取り組みです。小さく始めなかったのは何かその時は勝算があったのかもしれません。

教訓3:「損切り」は失敗ではなく経営判断

ポイント:撤退の決断は、未来への投資を守る行為

森岡氏は「苦渋の決断」としながらも、3年の予定を2年に繰り上げて閉園を決断しました。

「最も大切なことのために、2番目に大切なことを諦めなければいけない瞬間」(森岡氏)

これは、次の事業(ジャングリア沖縄など)への投資余力を確保するための戦略的撤退です。

損切りの判断基準チェックポイント
構造的な問題か一時的不調と構造的欠陥を区別する
回復の見込み追加投資で好転する根拠があるか
機会コストこのリソースを他に回せばどうなるか

同社は現在、ジャングリア沖縄というテーマパークをオープンさせその成長をさせている最中です。ここへのさらなる投資をしていくためにも赤字を拡大させるイマーシブ・フォート東京の事業を畳むという選択に至ったのでしょう。

教訓4:実験から得られた「知見」こそが本当の資産

ポイント:失敗から学んだデータは、競合にはない独自の武器

刀社は、この「ものすごい高い授業料」を通じて、世界で唯一の知見を手に入れました。

獲得した知見価値
イマーシブ体験の正確な需要データ適正な施設規模が算出可能に
大規模制作のノウハウ次の展開で活用できる
収益化できる最適モデルディープ体験中心の設計

教訓5:「投資<需要」の原則を守る

ポイント:投資が需要を上回ると、テーマパークは必ず失敗する

森岡氏はUSJ時代に廃業した遊園地を約50カ所調査し、投資が需要を上回ったケースが100%だったと明かしています。

成功の方程式失敗の方程式
需要 > 投資投資 > 需要
小さな箱で高回転大きな箱で低稼働
あるものを活用ゼロから建設

このシンプルな成功の法則である「需要 > 投資」であることは、どのビジネスでも成り立ちます。マーケターは需要を予測して、それ以下の投資で集客し続ける必要がありますので、需要を予測するスキルというものが最も重宝されるものとなります。


まとめ:Key Takeaways

No.学び実践へのヒント
1人気と収益性は別物ビジネスモデルの「天井」を事前に計算する
2新規事業の予測は外れる前提でMVPで検証し、大規模投資は後から
3損切りは戦略的判断撤退基準を事前に決めておく
4失敗からの学びは資産実験で得た知見を次に活かす
5需要>投資の原則を守る「あるものを活用」が鉄則

Next Action:明日から取るべき行動

あなたのビジネスで、以下の問いを自問してみてください。

  1. 今の事業に「人気だけど儲からない」部門はないか?
  2. 新規事業の需要予測は、何を根拠にしているか?
  3. 撤退の判断基準を、事前に決めているか?
  4. 失敗から得た学びを、組織の資産として蓄積しているか?
  5. 投資の規模は、需要の実績に見合っているか?

イマーシブ・フォート東京は閉園しますが、刀社が得た知見は次の「ジャングリア沖縄」や将来の海外展開に活かされていきます。失敗を「終わり」ではなく「学びの始まり」と捉えられるかどうか。それこそが、真のマーケターの資質なのかもしれません。


出典、参考情報:

イマーシブ・フォート東京 公式サイト
イマーシブ・フォート閉園の理由/刀・森岡毅CEO単独インタビュー ジャングリア沖縄への影響は?【WBS未公開】
株式会社刀 公式サイト
株式会社刀 決算公告3年分


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この記事を書いた人
tomihey

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