はじめに
マーケターの皆さん、御社のプロダクトは本当に顧客に選ばれていますか?
多くの企業が直面する最大の課題は、自社の商品やサービスが顧客から「選ばれる理由」を明確に理解できていないことです。今回は、2024年3月に開業した「イマーシブ・フォート東京」を事例に、顧客に選ばれる仕組みを徹底解説します。
イマーシブ・フォート東京とは
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ブランド概要
イマーシブ・フォート東京は、お台場のヴィーナスフォート跡地に2024年3月1日にオープンした世界初のイマーシブ(没入型)テーマパークです。このテーマパークは以下の特徴を持っています:
- 全天候型の完全屋内型テーマパーク
- 約3万平米の広大な施設
- 10種類以上のイマーシブ体験アトラクション
- 6つの物販・飲食店舗
運営会社
株式会社刀
- 代表取締役CEO:森岡毅氏
- USJの再建で知られる森岡氏が立ち上げたマーケティング会社
売上/来場者数
イマーシブ・フォート東京の正確な売上、来場者データは公開されていませんでした。そこで各数字から推定してみたいと思います。
まずは箱のキャパを考えてみましょう。
施設全体のキャパシティ
- 1日の最大入場キャパシティ:約3,000人
- 収容客数:約1,600人
アトラクション別のキャパシティ
- 「ザ・シャーロック」:最大180人/回
- 「東京リベンジャーズ イマーシブ・エスケープ」:最大120人/回
- 「江戸花魁奇譚」:最大30人/回
全体的な1時間あたりの推定キャパシティ
- 一般アトラクション:最大500人/時
- 第五人格アトラクション:480人/時
これらの数値から、イマーシブ・フォート東京は柔軟で多様なキャパシティ設計となっていることがわかります。
続いて土日祝日と平日で来場者数を推定してみます。
来場者数の推定
土日の推計(1,700人)
- 最大同時滞在人数の内訳:
- 有料アトラクション:360人
- 第五人格:264人
- ジャックザリッパー:120人
- ストーリーズ:160人
- レストラン:200人
- ショー待ち:100人
- 移動中・休憩中:200人
- 総計: 1,404人
- 途中入場を考慮: 20%増しで1,700人と推定
平日の推計(1,000人)
- 最大同時滞在人数の内訳:
- 有料アトラクション:240人
- 第五人格:164人
- ジャックザリッパー:40人
- ストーリーズ:60人
- レストラン:150人
- ショー待ち:20人
- 移動中・休憩中:50人
- 総計: 724人
- 夕方入場を考慮: 1,000人と推定
ただし、最近のSNS情報によると、実際には「ガラガラ」「空いている」という口コミも増えており、上記の推計よりも入場者数が少ない可能性が高いです。
最後にターゲット別に平均単価をかけて推定売上を出してみましょう。
売上の推定
土日祝日の売上
- 平均来場者数:約1,700人/日
- 客単価:約12,000円
- 1日売上:約2,040万円
平日の売上
- 平均来場者数:約1,000人/日
- 客単価:約10,000円
- 1日売上:約1,000万円
ターゲット層別内訳
ターゲット | 割合 | 平均年齢 | 客単価 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
サブカル系若者 | 40% | 20-30代 | 13,000円 | アニメ・ゲーム好き |
社会人 | 35% | 30-40代 | 11,500円 | エンターテインメント志向 |
カップル | 15% | 25-35代 | 15,000円 | 特別な体験を求める |
その他 | 10% | 多様 | 8,000円 | ファミリー等 |
年間推計
- 年間来場者数:約70万人
- (土日来場者数1,700人×104日) + (平日来場者数1,000人× 261日)
- 年間売上:約84億円
- (土日売上2,040万円 × 104日) + (平日売上1,000万円 × 261日)
注意: これらの数値は推計であり、実際の数字とは異なる可能性があります。
テーマパーク市場のPOP/POD/POF分析
POP(Points of Parity):市場の基本要件
要素 | 詳細 |
---|---|
安全性 | 事故のない施設運営 |
アトラクション | 複数の乗り物・エンターテインメント |
快適性 | トイレ、休憩所、飲食施設の完備 |
顧客サービス | スタッフの接客、案内 |
チケット | オンライン予約、各種割引 |
POD(Points of Difference):差別化ポイント
ブランド | 独自の価値提案 |
---|---|
ディズニーランド | 圧倒的な世界観、キャラクター体験 |
ユニバーサル・スタジオ | 映画IP連動型アトラクション |
イマーシブ・フォート東京 | 完全没入型インタラクティブ体験 |
POF(Points of Failure):致命的な弱点
要素 | 影響 |
---|---|
長い待ち時間 | 顧客満足度低下 |
高額な入場料 | 顧客の心理的障壁 |
混雑 | 快適性の喪失 |
子供の飽きやすさ | リピート率の低下 |
天候依存 | 集客の不安定さ |
イマーシブ・フォート東京はPOPとPODを満たしつつも、ピーク時の待ち時間、高額な入場料などがPOF要素になり得る可能性があると考えます。待ち時間や高額な入場料に見合う価値、体験を感じられるかどうかが肝となります。
イマーシブ・フォート東京 オルタネイトモデル分析
続いて、イマーシブ・フォート東京に訪れる顧客の合理性についてオルタネイトモデルを用いて分析してみます。
きっかけ
観点 | 詳細 |
---|---|
何をしている時 | エンターテインメント探し、休日の計画、非日常体験への欲求 |
どこ | 東京都内、お台場エリア |
誰と | 友人、カップル、家族 |
タイミング | 週末、休日、特別な日 |
欲求
欲求の種類 | 具体的内容 |
---|---|
自己実現 | 特別な体験を通じた成長、新しい世界観の体験 |
快楽や本能的欲求 | 刺激的な没入型エンターテインメント |
変化への適応 | 日常から脱却したい |
承認欲求 | SNS映えする体験、特別な思い出づくり |
抑圧
抑圧の種類 | 具体的内容 |
---|---|
物理的抑圧 | 高額な入場料、遠い場所、混雑 |
心理的抑圧 | 長い待ち時間への不安、複雑な体験への戸惑い |
社会的抑圧 | 周囲の評価、体験の理解可能性 |
行動
行動の内容 | 詳細 |
---|---|
事前準備 | オンライン予約、チケット購入 |
来場 | イマーシブ・フォート東京への移動 |
体験 | アトラクションへの参加、没入型ストーリー体験 |
報酬
報酬の種類 | 具体的内容 |
---|---|
ポジティブ報酬 | 特別な体験、自分だけの物語、感動 |
ネガティブ報酬 | 日常からの解放、ストレス解消 |
イマーシブ・フォート東京に来場する顧客の合理性は、「日常を超える特別な体験」への強い欲求にあります。高額な料金と複雑な体験を上回る、唯一無二の価値を顧客は求めているのです。
イマーシブ・フォート東京のWho/What/Howの言語化をしてみた
Who(誰の)分析
ターゲット顧客の詳細
- 年齢層: 10代〜30代
- 性別: 男女問わず
- 属性:
- テーマパークが好きな人
- デジタル・エンターテインメントに興味がある層
- 非日常体験を求める都市部在住者
JOB(欲求)
- 自分だけの物語を生きたい
- 感情を揺さぶられる体験がしたい
- 没入感のある新しいエンターテインメント/非日常を体験したい
What(何を)分析
提供する便益
- 完全没入型の物語体験
- 個人ごとに異なるストーリー展開
- 感情を揺さぶる多様な体験
独自性
- 世界初の完全没入型テーマパーク
- 来場者が主人公になれる体験
- 10種類以上の多様なイマーシブアトラクション
Reason To Believe(RTB)
- 最新テクノロジー(VR、AR、AI)の活用
- 演劇的演出と技術の融合
- 『推しの子』『東京リベンジャーズ』などの人気IPとのコラボレーション
How(どのように)分析
コミュニケーション
- SNSを活用した体験共有
- 人気コンテンツとのコラボレーション
- 感情的アプローチによるマーケティング
プロダクト
- 12種類のイマーシブアトラクション
- 全天候型屋内テーマパーク
- 6つの物販・飲食店舗
提供方法
- お台場の旧ヴィーナスフォート跡地
- 1日フルパス形式
- 平均滞在時間約4-5時間
- チケット価格:6,800円〜
価格設定
- 高付加価値型の価格戦略
- 体験の独自性を反映した料金設定
- 複数回利用可能な設計
選ばれる理由の本質
イマーシブ・フォート東京が選ばれる本質的な理由は、「自分だけの物語を生きられる」という究極の顧客体験を提供している点にあります。
従来のテーマパークでは全員が同じ体験をしますが、ここでは一人ひとりが主人公となり、自らの選択によって物語が変化します。ここでしか体験できない独自性を提供できています。
ただ、価格や混雑状況、自らの積極的な介入が必要などテーマパーク経営としての懸念材料になりうる要素があるため今後どのように改善されているのか引き続きイマーシブ・フォート東京を見ていきたいと思います。
まとめ
イマーシブ・フォート東京から学べるマーケティングの本質:
- 顧客に「自分だけの体験」を提供する
- 没入感と個別性を徹底的に追求する
- 顧客の深層心理に響くストーリー体験を設計する
マーケターの皆さん、御社のプロダクトは本当に顧客に「自分だけの価値」を提供できていますか?日々その問いを続けて、商品やサービスが提供する価値を研ぎ澄ましていきましょう。