星野リゾートは、日本を代表する高級リゾート運営企業です。本記事では、星野リゾートの星野リゾートのマーケティング戦略から学べる重要な洞察を提供します。ぜひマーケターの方は参考にしてみてください。
星野リゾートの基本情報

ブランド
星野リゾートは複数のブランドの施設を展開しています:
- 星のや(ラグジュアリーブランド)
- 界(温泉旅館)
- リゾナーレ
- OMO(都市型ホテル)
- BEB など
ブランド | コンセプト | ターゲット | 価格帯の目安 |
---|---|---|---|
星のや | その瞬間の特等席へ。圧倒的非日常感を追求したラグジュアリーな滞在で、地域の風土や文化を繊細に反映した体験を提供 | 高所得者層、特別な体験を求める人 | 1泊8万円以上 |
界 | 王道なのに、あたらしい。地域の風情や四季の美しさを取り入れたおもてなしを提供 | 温泉旅館を楽しみたい大人 | 1泊3-5万円 |
リゾナーレ | 大人のためのファミリーリゾート。地域や季節に応じたアクティビティや食体験が豊富 | ファミリー、アクティブな層 | 1泊3万円前後 |
OMO | 寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル | 都市観光を楽しむ旅行者 | 1万円前後 |
BEB | 居酒屋以上 旅未満 仲間とルーズに過ごすホテル | 20-30代の若者、友人グループ | 1万円以下 |
施設数
- 国内外合計:73施設(2024年時点)
- 地域展開:国内69施設、海外4施設
売上情報
- 2024年第3四半期売上:98億2,000万ドル
- 前年同期比:15%増
- 年間売上予測:約376億ドル
顧客情報
- 総会員数:2億8,272万人
- 前年同期比会員数増加:14.4%
- 日本国内会員数:約1,000万世帯
特徴
- 「旅を楽しくする」をテーマに展開
- 世界190カ国以上でサービス提供
- 多様な旅のニーズに対応するマルチブランド戦略
星野リゾートの市場分析
市場規模と成長性
日本の宿泊業市場の規模と成長率:
日本の宿泊業市場規模は2022年に225億ドルで、2022年から2032年にかけて年平均成長率1.6%で成長し、2032年には264.5億ドルに達すると予測されています。
出典:https://www.sphericalinsights.com/reports/japan-hospitality-market
宿泊業市場のPLESTE分析
要因 | 機会 | 脅威 |
---|---|---|
政治的(Political) | ・観光立国政策によるインバウンド促進 ・地方創生支援 | ・国際情勢の不安定化による観光需要の変動 |
法的(Legal) | ・民泊規制による既存ホテルの優位性 ・観光促進法の整備 | ・労働法改正による人件費増加 ・環境規制の強化 |
経済的(Economic) | ・富裕層の増加 ・インバウンド需要の回復 | ・景気変動による消費者支出の減少 ・為替変動のリスク |
社会的(Social) | ・ワーケーションの普及 ・体験重視の消費傾向 | ・少子高齢化による国内市場の縮小 ・消費者の価値観の多様化 |
技術的(Technological) | ・AI・IoTによるサービス向上 ・VR/ARを活用した新しい体験の創出 | ・テクノロジー投資の高コスト化 ・サイバーセキュリティリスク |
環境的(Environmental) | ・サステナブルツーリズムの需要増加 ・自然を活かしたリゾート開発 | ・気候変動による自然災害リスク ・環境保護と開発のバランス |
星野リゾートの自社分析:SWOT分析
強み(Strengths)
- 独自のブランドポートフォリオ(星のや、界、リゾナーレ、OMO)
- 地域の文化や自然を活かした独特のリゾート体験
- 高い顧客満足度と強いブランドロイヤルティ
- 運営に特化した効率的な運営システムと独自の人材育成プログラム
- 環境保護と地域貢献への積極的な取り組み
- 革新的なサービスコンセプト(例:「星のや東京」での都市型温泉旅館)
- 強力な予約システムと直販比率の高さ
弱み(Weaknesses)
- 国際的な知名度がグローバルチェーンに比べて低い
- 高価格帯のため、マスマーケットへのアプローチが限定的
- 施設数の制限による規模の経済の限界
- 一部地域への集中(日本国内が中心)
- 季節変動による収益の不安定性
- 高度なサービス提供のための人材確保・育成コストの高さ
- ブランド拡張に伴うブランドアイデンティティの希薄化リスク
機会(Opportunities)
- インバウンド需要の回復と拡大
- ワーケーションなど新しい旅行スタイルの普及
- サステナブルツーリズムへの関心の高まり
- アジア富裕層市場の成長
- テクノロジーを活用した新しいサービス体験の創出
- 地方創生プロジェクトとの連携による新規開発機会
- 健康志向の高まりによるウェルネスツーリズムの需要増加
脅威(Threats)
- 新型コロナウイルスなどの感染症による旅行需要の変動
- 国際的な高級ホテルチェーンの日本進出
- 為替変動によるインバウンド需要への影響
- 労働力不足と人件費の上昇
- 自然災害リスクの増加(地震、台風など)
- オンライン旅行代理店(OTA)の影響力増大による収益性の低下
- 消費者の価値観・ライフスタイルの急速な変化
戦略提案
SO戦略(強み×機会)
- インバウンド富裕層向けの日本文化体験プログラムの強化
- サステナブルツーリズムを前面に出したマーケティング展開
- ワーケーション特化型の新ブランド開発
WO戦略(弱み×機会)
- アジア市場での知名度向上のための戦略的パートナーシップ構築
- オフシーズン需要創出のためのウェルネスプログラム開発
- AI・IoTを活用したサービス効率化と人材育成コストの削減
ST戦略(強み×脅威)
- 地域密着型の防災・減災プログラムの開発によるリスク管理強化
- 直販チャネルの強化によるOTA依存度の低減
- 柔軟な価格戦略による需要変動への対応
WT戦略(弱み×脅威)
- 国内中間層向けの新ブランド開発によるリスク分散
- 海外人材の積極採用による労働力不足への対応と国際化
- バーチャルツアーなど非接触型サービスの開発
星野リゾート各ブランドのWho/What/How分析
星のや(ラグジュアリーブランド)
Who
- ターゲット:高所得者層、非日常を求める大人
- 年齢:30-60代
- JOB(解決したい課題):
- 日常からの完全な解放
- 心身のリフレッシュ
- 特別な体験への渇望
- ステータスの獲得
What
- 便益:圧倒的な非日常感、心身の養生
- 独自性:日本の文化と最高級のおもてなし
- RTB:8施設展開、洗練されたデザイン
How
- コミュニケーション:高級感のあるメディア露出
- プロダクト:地域の文化を反映した施設
- 価格:1泊8万円以上
一言で言うと:「現代の贅を知る人のための、日本文化の真髄を体験できる最高級リゾート」
界(温泉旅館ブランド)
Who
- ターゲット:日本文化と温泉を楽しむ大人
- 年齢:40-60代
- JOB(解決したい課題):
- 伝統的な日本文化体験
- ストレス解消
- 本物の温泉体験
- 季節の移ろいを感じる旅
What
- 便益:地域の魅力を凝縮した旅館体験
- 独自性:400年の日本文化を1パッケージで提供
- RTB:全国14施設、歴史ある温泉地
How
- コミュニケーション:和の魅力を強調
- プロダクト:各地域の伝統と温泉や食文化
- 価格:1泊3-5万円
一言で言うと:「日本の温泉文化を現代的に解釈した、地域密着型の上質なリゾート」
リゾナーレ(ファミリーリゾート)
Who
- ターゲット:12歳以下の子どもがいる家族
- 年齢:30-45歳の親
- JOB(解決したい課題):
- 家族の思い出づくり
- 子どもの成長を促す体験
- 家族のコミュニケーション強化
- 日常から離れた共有時間の創出
What
- 便益:家族で楽しめる多様なアクティビティ
- 独自性:西洋風デザイン、豊富な体験プログラム
- RTB:国内外の一流デザイナーによる施設
How
- コミュニケーション:家族の思い出づくりを訴求
- プロダクト:子育て層に特化したサービス
- 価格:1泊3万円前後
一言で言うと:「自然の中で多彩な体験ができる、アクティブ志向のリゾート」
OMO(都市観光ホテル)
Who
- ターゲット:都市観光・ビジネス層
- 年齢:25-50歳
- JOB(解決したい課題):
- 効率的な都市観光
- 地域の魅力発見
- ビジネス+観光の両立
- 快適な都市滞在
What
- 便益:都市観光の利便性と快適さ
- 独自性:都市観光に特化したサービス
- RTB:価格帯の異なる施設展開
How
- コミュニケーション:都市の魅力を前面に
- プロダクト:都市観光に最適な設備
- 価格:1万円前後
BEB(若者向けホテル)
Who
- ターゲット:20代の若者
- 年齢:20-29歳
- JOB(解決したい課題):
- 低コストでの旅行
- 新しい出会いと体験
- 自由で柔軟な旅のスタイル
- 仲間との交流
What
- 便益:気軽で自由な宿泊体験
- 独自性:「居酒屋以上、旅未満」のコンセプト
- RTB:若者向けの柔軟なサービス
How
- コミュニケーション:若者文化に寄り添う
- プロダクト:ルーズで自由な滞在環境
- 価格:1万円以下
星野リゾートが選ばれる5つの理由
1. 徹底的なブランドポートフォリオ戦略
星野リゾートは、多様な顧客ニーズに応える6つのブランドを展開しています:
ブランド | ターゲット | 独自の価値 |
---|---|---|
星のや | 富裕層・非日常体験希望者 | 圧倒的な日本文化の極上体験 |
界 | 温泉旅館愛好家 | 地域の風情を活かした伝統と革新 |
リゾナーレ | ファミリー層 | 自然×アクティビティの豊富な体験 |
OMO | 都市観光客 | 地域の魅力を最大化する滞在 |
BEB | 若者・友人グループ | カジュアルで自由な交流 |
2. 地域との深い共生
各施設は、その土地の文化、自然、食材を徹底的に研究し、唯一無二の体験を提供します。例えば:
- 星のや京都:平安貴族の生活を再現
- 星のや富士:五感で自然の変化を体感
3. イノベーティブなサービスデザイン
- AIによるパーソナライズされた推奨システム
- 地域密着型の「ご近所アクティビティ」
- 最新テクノロジー(Web3.0、NFT)の活用
4. 高品質な人材育成
- 運営に特化した独自の人材教育システム
- 「全社員IT人材化」戦略
- 徹底的な顧客体験へのこだわり
5. 持続可能な経営モデル
- 施設所有ではなく運営に特化することで独自の人材育成システムを構築し、一貫して高品質なサービスを提供
- フィンテック活用による柔軟な資金調達
- サステナビリティへのコミットメント
星野リゾートは、単なる宿泊施設ではなく、「体験」を売るプラットフォームとして進化し続けています。多様な顧客層のJOB(潜在的課題)を深く理解し、テクノロジーと人間性の融合により、比類のない価値を提供しているのです。
マーケターが学べる重要な洞察
- セグメンテーションの重要性:星野リゾートは、異なる顧客層に対して明確に差別化されたブランドを提供しています。これにより、幅広い顧客ニーズに対応しつつ、各ブランドの独自性を保っています。
- 地域資源の活用:地域の特性を活かしたサービス展開は、差別化と持続可能性の両面で効果的です。地域との共生は、単なるCSRを超えた戦略的優位性をもたらします。
- イノベーションの継続:既存の概念にとらわれず、常に新しい価値を創造する姿勢が重要です。「星のや東京」のような革新的なコンセプトは、市場に新たな需要を生み出しています。
- 体験価値の創造:星野リゾートは単なる宿泊施設ではなく、総合的な「体験」を提供しています。製品やサービスを超えた価値提案が、現代の消費者に求められています。
- ブランドストーリーの構築:各施設や体験プログラムに込められた思想や物語性が、顧客との強い絆を生み出しています。単なる機能的価値を超えた情緒的なつながりが、ブランドロイヤルティを高めています。
- デジタルとリアルの融合:効率的な予約システムや直販の強化など、デジタル戦略を積極的に展開しつつ、実際の体験の質を高めるバランスが取れています。
- 長期的かつ軸の通ったブランディング:短期的な利益だけでなく、環境保護や地域貢献など、長期的な持続可能性を重視した経営、ブランド戦略が、ブランド価値の向上につながっています。
星野リゾートの成功は、明確なビジョンと戦略、そして顧客ニーズへの深い理解に基づいています。マーケターは、自社の強みを活かしつつ、市場の変化に柔軟に対応し、常に新しい価値を創造し続けることの重要性を学ぶことができます。また、単なる商品やサービスの提供を超えて、顧客の人生に意味のある体験を提供することが、現代のマーケティングにおいて極めて重要であることを示しています。ぜひ参考にしてみてください。