はじめに
「シニア向け商品を作ったのに売れない」「高齢者マーケティングがうまくいかない」――こんな悩みを抱えていませんか?
2025年、日本のシニア市場は100兆円を超える巨大市場へと成長しました。しかし多くの企業が、従来の「高齢者像」に基づいたアプローチで失敗を重ねています。なぜなら、今のシニアは「節約志向」でも「保守的」でもなく、むしろ「時間もお金もキャンセルせず、自分のために使う」積極的な消費者層だからです。
ハルメク生きかた上手研究所が発表した「2025-2026ハルメク シニアトレンド」は、この新しいシニア像を5つのキーワードで明確化しました。本記事では、このトレンドレポートを実務で使えるマーケティング戦略に落とし込み、明日から実践できる具体的なアプローチをご紹介します。
2025年シニア市場の全体像
市場規模と成長性

2025年、団塊の世代が全員75歳以上となる「2025年問題」を迎え、日本は3人に1人が65歳以上という超高齢社会に突入しました。しかし注目すべきは、この世代が持つ圧倒的な購買力です。
戦後の高度経済成長期を経験した団塊世代は、豊富な貯蓄と年金を持ち、若年層と比較して可処分所得が多い層です。2040年予測だとシニア層の各種支出が2023年対比で0.5%以上増加すると言われています。

従来のシニアマーケティングはなぜ失敗したのか
2000年代前半、多くの企業が「アクティブシニア」をターゲットにしたマーケティングを展開しましたが、その多くは期待通りの成果を上げられませんでした。
失敗の3大要因:
| 失敗パターン | 問題点 | シニアの本音 |
|---|---|---|
| 年齢を強調しすぎ | 「シニア向け」のラベリング | 「自分は若いつもり」と感じる抵抗感 |
| 画一的なアプローチ | 60代も80代も同じ扱い | 20年の年齢差=多様なニーズ |
| 機能重視の商品開発 | 使いやすさだけを訴求 | 情緒的価値や自己実現を求めている |
ハルメクのトレンドレポートは、こうした従来の失敗を踏まえ、「自分を取り戻すためのキャンセル」という新しい視点を提示しています。
2025-2026ハルメク シニアトレンド5選

1. イマ活:元気な今を楽しむ体験消費

トレンドの本質
「いつか時間ができたら」を先延ばしにせず、「元気なうちに、今を楽しもう」という価値観が広がっています。ハルメクのイベントでは、12万円を超えるプレミアムチケットが即完売するなど、高額でも価値ある体験への投資意欲が高まっています。
消費行動の特徴
| 体験カテゴリ | 具体例 | 価格帯 | 人気の理由 |
|---|---|---|---|
| 豪華クルーズ | 地中海周遊、アラスカクルーズ | 30万円〜100万円 | 非日常の特別感 |
| 上質なランチ | ホテルラウンジ、名店のコース | 1万円〜3万円 | 日常の中の贅沢 |
| 文化体験 | オペラ鑑賞、大相撲観戦 | 1万円〜15万円 | 知的好奇心の充足 |
マーケティングへの応用
Who(誰に): 60代後半〜70代前半、時間的・経済的余裕のある層
What(何を): 「今しかできない」特別な体験価値
How(どのように):
- 限定性の強調: 「今年最後の」「残席わずか」で緊急性を創出
- ストーリーテリング: 体験者の生の声と感動を伝える
- 段階的な提案: 低価格の体験から高額ツアーへの導線設計
オルタネイトモデル分析:
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| きっかけ | 「体力があるうちに」という時間的制約の認識 |
| 欲求 | 人生を豊かにする特別な経験、自己実現 |
| 抑圧 | 高額への躊躇、周囲の目、体力への不安 |
| 報酬 | 満足感、達成感、友人への話のネタ、SNS映え |
2. ご自愛消費:自分を大切にする質重視の買い物

トレンドの本質
節約疲れからのリバウンドと、「頑張った自分をいたわりたい」という心理が合わさり、「理由があるなら高くても納得して上質なものを買いたい」という消費が増加しています。
ハルメクの10万円超のカシミヤコートが支持されるのも、素材や縫製という確かな根拠(RTB: Reason To Believe)があるからです。
購買基準の変化

成功商品の特徴
| カテゴリ | 商品例 | 価格 | 選ばれる理由 |
|---|---|---|---|
| ファッション | カシミヤコート | 10万円超 | 素材・縫製の確かさ |
| 健康ケア | リカバリーウェア | 2万円〜5万円 | 快眠・健康という価値実感 |
| 美容 | 高機能化粧品 | 1万円〜3万円 | 自分の肌に合う、効果実感 |
| インテリア | 姿勢サポート製品 | 3万円〜10万円 | 健康への投資、毎日の使用 |
マーケティング戦略
Who(誰に): 50代後半〜60代女性、品質重視で経済的余裕あり
What(何を): 価格以上の価値を実感できる上質な商品
How(どのように):
プロダクト戦略:
- 素材・製法を詳細に説明(RTBの明確化)
- 長期使用を前提とした品質保証
- パーソナライズされた提案
コミュニケーション戦略:
- 「自分へのご褒美」というメッセージング
- 使用者の体験談(Before/After)
- 専門家による品質の裏付け
3. 戦力シニア:仕事が人生の一部になる新しい働き方

トレンドの本質
従来の「再雇用」や「副業」とは異なり、好奇心で始めたことが気づけば周囲から頼られる"戦力"になっているという新しいワークスタイルが登場しています。
「おてつたび(リゾートワーク)」「タイミー(スポットワーク)」など、場所や時間に縛られない自由な働き方が、シニアの間で急速に広がっています。
働くシニアの実態
| 調査項目 | データ | 出典 |
|---|---|---|
| 働く意欲 | 44.9%が収入を伴う仕事をしたい(先進国で最高) | 内閣府国際比較調査 |
| 希望年齢 | 「働けるうちはいつまでも」約3割 | 内閣府高齢社会白書 |
| 動機 | 収入よりも「社会とのつながり」「自己実現」 | ハルメク調査 |
新しい働き方の特徴
| 働き方 | 特徴 | 報酬形態 | シニアに人気の理由 |
|---|---|---|---|
| おてつたび | 旅行先でお手伝い | 宿泊費+謝礼 | 旅行と仕事の融合 |
| タイミー | スポット単位の仕事 | 時給制 | 自分のペースで働ける |
| 地域活動 | まちづくり、観光ガイド | ボランティア〜有償 | 経験・知識を活かせる |
マーケティングへの応用
Who(誰に): 60代前半〜70代、健康で活動的、社会貢献意欲高い
What(何を): 柔軟に働ける場の提供、スキル・経験が活きる機会
How(どのように):
サービス設計:
- 短時間・短期間から始められる仕組み
- 専門性や経験を活かせるマッチング
- コミュニティ形成の支援
コミュニケーション:
- 「もう一度自分の好奇心で働く」というメッセージ
- 実際に活躍するシニアの事例紹介
- 「戦力」として認められる喜びの可視化
4. 再点火メイク:自分の魅力を更新する美容へ

トレンドの本質
「今を生きる私に似合う」を美容に求める動きが拡大しています。シニア向け美容教室の出現、50代以上の美容系YouTuberの増加、高市早苗首相のメイク変化が話題になるなど、メイクを「自分の個性を引き出す武器」として捉え直すトレンドが顕著です。
美容意識の変化

市場機会
| カテゴリ | 市場規模/成長性 | 注目ポイント |
|---|---|---|
| シニア美容教室 | 急成長中 | パーソナライズされた指導 |
| 美容系YouTube | 50代以上の配信者急増 | リアルなロールモデル |
| エイジングケア化粧品 | 年率5%成長 | 機能+情緒価値 |
マーケティング戦略
Who(誰に): 50代〜70代女性、自己表現に積極的
What(何を): 年齢に応じた美しさを引き出す商品・サービス
How(どのように):
商品開発:
- 年齢特有の肌悩みに対応した機能性
- 「隠す」より「引き出す」というコンセプト
- 使いやすさと仕上がりの両立
プロモーション:
- 同世代のロールモデル起用
- Before/Afterではなく「今の自分」を肯定
- メイク教室・ワークショップの開催
5. ならわし卒業:過去のしがらみを手放す解放トレンド

トレンドの本質
若者の「キャンセル界隈」が社会規範への拒否だとすれば、シニアのキャンセルは「自分を取り戻すための手放し」です。「年賀状じまい」「墓じまい」「お中元・歳暮じまい」など、過去の形式に縛られず、自分らしい関係性や生きかたを再構築する動きが広がっています。
「じまい」の実態
| じまいの種類 | 実施率(推定) | 理由 | 代替行動 |
|---|---|---|---|
| 年賀状じまい | 増加傾向 | 形式的な義理、体力的負担 | LINEや電話での連絡 |
| 墓じまい | 近年増加 | 管理負担、承継者不在 | 永代供養、散骨 |
| お中元・歳暮じまい | 徐々に増加 | 形式的な付き合い、経済的負担 | 本当に大切な人への贈り物 |
マーケティングへの応用
この「ならわし卒業」トレンドは、一見ネガティブに見えますが、実は新しい関係性や価値観への移行を示しています。
ビジネスチャンス:
| 従来のビジネス | 新しいビジネス機会 |
|---|---|
| 年賀状印刷 | デジタルグリーティング、動画メッセージサービス |
| お中元・歳暮 | 「本当に喜ばれるギフト」のパーソナライズ提案 |
| 墓石販売 | 永代供養サービス、思い出のデジタル保存 |
Who(誰に): 60代後半以上、形式より本質を重視
What(何を): 新しい形の関係性や供養の選択肢
How(どのように):
サービス設計:
- 簡略化・効率化の提案
- 個人の価値観に合わせたカスタマイズ
- 「卒業」を前向きに捉えるメッセージング
5つのトレンドから読み解くシニアマーケティング成功の法則
共通する3つのインサイト

マーケティング戦略への統合フレームワーク
Who/What/How分析:全トレンド共通パターン
| 要素 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| Who(誰) | アクティブシニア(60〜75歳)、経済的・時間的余裕あり、自己実現志向 | 元気で好奇心旺盛、デジタルツール活用可能 |
| Who(JOB) | 「今を楽しみたい」「自分を大切にしたい」「社会とつながりたい」 | きっかけ:時間的余裕、欲求:充実した人生、抑圧:体力不安・周囲の目 |
| What(便益) | 心の満足、自己肯定感の向上、特別な体験 | 機能的価値+情緒的価値+社会的価値の三位一体 |
| What(独自性) | シニアを「高齢者」扱いしない、個別性の尊重 | 年齢ではなく価値観でセグメント |
| How(商品) | 上質、パーソナライズ、簡便性 | 10万円のコート、個別美容指導、柔軟な働き方 |
| How(コミュニケーション) | 同世代ロールモデル、ストーリーテリング、体験の可視化 | いとうまい子さん、化け子さんなど |
| How(場所) | オンライン+リアルのハイブリッド | デジタル情報収集→リアル体験 |
| How(価格) | 価値重視、「理由があれば納得」 | 安さより納得感 |
8つの欲望で分析するシニア消費
ハルメクのトレンドを「8つの根源的欲望」フレームワークで分析すると、以下のような戦略的示唆が得られます。
| トレンド | 主な欲望 | 副次的欲望 | マーケティングポイント |
|---|---|---|---|
| イマ活 | 進める(Advance) | 高める(Elevate) | 「今しかできない」成長体験の提案 |
| ご自愛消費 | 安らぐ(Rest) | 高める(Elevate) | 「自分をいたわる」上質な回復体験 |
| 戦力シニア | 属する(Belong) | 伝える(Communicate) | 「社会に貢献」できるつながりの提供 |
| 再点火メイク | 高める(Elevate) | 伝える(Communicate) | 「自己表現」の更新をサポート |
| ならわし卒業 | 決する(Decide) | 進める(Advance) | 「自己決定権」の尊重と後押し |
実践的アクションプラン
ステップ1:自社ターゲットの再定義(1週間)
| タスク | 具体的アクション | 確認事項 |
|---|---|---|
| 年齢層の細分化 | 60代前半/後半、70代前半/後半で分ける | 各層の消費行動の違いを把握 |
| 価値観のセグメント | アクティブ度、デジタル活用度で分類 | 年齢より価値観でグルーピング |
| JOBの特定 | オルタネイトモデルで顧客理解 | きっかけ・欲求・抑圧・報酬を明確化 |
ステップ2:商品・サービスの再構築(2〜4週間)
チェックリスト:
- [ ] 「シニア向け」というラベリングを外せるか?
- [ ] 上質さの根拠(RTB)を明確に説明できるか?
- [ ] 機能だけでなく情緒的価値を提供しているか?
- [ ] パーソナライズの余地があるか?
- [ ] 簡便性と品質を両立しているか?
ステップ3:コミュニケーション戦略の最適化(継続)
Before/After比較:
| 要素 | NG例(従来型) | OK例(新シニア型) |
|---|---|---|
| ビジュアル | 笑顔のシニア集団 | 個性的な同世代モデル1人 |
| コピー | 「シニアの皆様へ」 | 「もう一度、自分の好きを」 |
| 訴求 | 「使いやすい」「安全」 | 「あなたらしさを引き出す」 |
| チャネル | 新聞広告のみ | デジタル+リアルのハイブリッド |
業界別:5つのトレンド活用法
1. 旅行業界
| トレンド | 活用戦略 | 具体例 |
|---|---|---|
| イマ活 | プレミアム体験ツアー | 12万円超の「特別な旅」パッケージ |
| 戦力シニア | おてつたび連携 | 地方での仕事+観光プラン |
2. 美容・化粧品業界
| トレンド | 活用戦略 | 具体例 |
|---|---|---|
| 再点火メイク | パーソナル美容レッスン | 50代以上限定のメイク教室 |
| ご自愛消費 | プレミアムスキンケア | エビデンスベースの高機能化粧品 |
3. 人材サービス業界
| トレンド | 活用戦略 | 具体例 |
|---|---|---|
| 戦力シニア | シニア特化マッチング | スキル・経験を活かせる仕事紹介 |
| ならわし卒業 | 新しい働き方の提案 | 週2日、短時間勤務など柔軟な選択肢 |
4. 小売・EC業界
| トレンド | 活用戦略 | 具体例 |
|---|---|---|
| ご自愛消費 | 上質な一点物の提案 | 10万円超の商品の丁寧な説明 |
| ならわし卒業 | パーソナライズギフト | 形式的な贈答から本当に喜ばれるギフトへ |
5. 住宅・不動産業界
| トレンド | 活用戦略 | 具体例 |
|---|---|---|
| ご自愛消費 | リノベーション提案 | 「自分のための」快適空間づくり |
| ならわし卒業 | 終活支援サービス | 墓じまい、生前整理のコンサルティング |
よくある失敗パターンと対策
失敗パターン1:年齢で一括りにする
NG例: 「60歳以上の皆様へ、シニア向け商品のご案内」
問題点:
- 60代と80代では20歳の年齢差=ニーズが全く異なる
- 「シニア向け」というラベルに抵抗感
対策:
- 年齢ではなく価値観・ライフスタイルでセグメント
- 「50代からの〜」など具体的な年代で訴求
- 年齢に触れず「新しい人生のステージ」として提案
失敗パターン2:安さだけを訴求する
NG例: 「シニア割引で20%オフ!」
問題点:
- 今のシニアは「安いから買う」ではなく「価値があるから買う」
- 割引=低品質のイメージ
対策:
- 上質さの根拠を明確に
- 「お得」より「納得」を重視
- 長期的な価値(長く使える、健康への投資)を提示
失敗パターン3:機能だけを強調する
NG例: 「使いやすい大きなボタン!」
問題点:
- 機能性の強調=「高齢者扱い」の不快感
- 情緒的価値の欠如
対策:
- 機能性は当然として、その先の価値を提示
- 「これを使うことで何が実現できるか」を語る
- ストーリーと体験を重視
Key Takeaways:明日から使える5つの実践ポイント
| # | ポイント | 具体的アクション | 期待効果 |
|---|---|---|---|
| 1 | 「シニア」ではなく「価値観」でセグメント | 年齢軸ではなくライフスタイル・志向で顧客を分類し直す | ターゲティング精度の向上 |
| 2 | 「今を楽しむ」を後押しする | 「いつか」ではなく「今」の体験価値を訴求 | 購買意欲の喚起 |
| 3 | 上質さの根拠(RTB)を明確に | 素材・製法・効果のエビデンスを丁寧に説明 | 高単価商品の成約率向上 |
| 4 | 同世代ロールモデルを活用 | 50代以上の実際の顧客事例、インフルエンサー起用 | 共感と信頼の獲得 |
| 5 | デジタル+リアルのハイブリッド戦略 | オンライン情報収集→リアル体験の導線設計 | 顧客接点の最大化 |
Next Action:今週から始める3ステップ
【今日】自社の現状チェック
以下の質問に答えてみてください:
- □ 自社商品・サービスを「シニア向け」と呼んでいますか?
- □ ターゲットを年齢だけで定義していませんか?
- □ 「安さ」「使いやすさ」だけを訴求していませんか?
- □ 同世代のロールモデルを活用していますか?
- □ デジタルとリアルの両方で接点を持っていますか?
1つでもNoがあれば改善の余地があります。
【今週】オルタネイトモデルで顧客理解
既存顧客3名に簡単なインタビューを実施:
- きっかけ: どんな状況で購入を検討しましたか?
- 欲求: 何を実現したかったですか?
- 抑圧: 購入を躊躇した理由は?
- 報酬: 使ってみてどんな良いことがありましたか?
【今月】小さく試して改善
最小の工数で検証可能な施策を1つ選んで実行:
- ランディングページのコピーを「価値訴求型」に変更
- SNSで同世代モデルの体験談を発信
- 高単価商品の「上質さの根拠」を詳細に説明するページ作成
まとめ:100兆円市場を動かす新しいシニア像
2025年、日本のシニアは「節約志向」でも「保守的」でもありません。彼らは時間もお金もキャンセルせず、自分のために使う積極的な消費者です。
ハルメクが提示した5つのトレンド――イマ活、ご自愛消費、戦力シニア、再点火メイク、ならわし卒業――は、すべて「自分らしく生きる」という共通のテーマでつながっています。
成功のカギは、年齢ではなく価値観でアプローチし、上質な体験と確かな根拠を提供することです。従来の「高齢者マーケティング」の常識を捨て、一人ひとりの人生の物語に寄り添うマーケティングを実践しましょう。
100兆円を超える巨大市場は、もう目の前にあります。あとは、あなたが一歩を踏み出すだけです。
出典情報:





