はじめに
マーケターやビジネスパーソンの皆さん、自社製品やサービスが市場で選ばれる理由がわからず、成功の再現性に悩んでいませんか?本記事では、世界的に愛されるアイスクリームブランド「ハーゲンダッツ」を例に、なぜ顧客に選ばれ続けるのかを多角的に分析します。ハーゲンダッツの成功戦略を紐解くことで、あなたの製品やサービスを成長させるためのヒントが得られるはずです。
ハーゲンダッツとは

ハーゲンダッツは、1961年にアメリカで誕生した高級アイスクリームブランドです。日本では、ハーゲンダッツジャパン株式会社が1984年に設立され、以来日本市場で展開しています。
公式サイト:https://www.haagen-dazs.co.jp/
ハーゲンダッツジャパン株式会社は、ゼネラル・ミルズのオランダ法人ハーゲンダッツ・ネザーランド、サントリーホールディングス、タカナシ乳業の3社による合弁会社です。高品質な原材料と独自の製法にこだわり、「完璧なおいしさを提供する」というスローガンのもと、プレミアムアイスクリーム市場で長年トップブランドの地位を確立しています。
ハーゲンダッツの売上分析
ハーゲンダッツジャパンの2023年の売上は517億円でした。この情報をもとに売上の方程式に分解してみましょう。
出典:https://www.haagen-dazs.co.jp/company/aboutus/overview/
売上 = 人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率 × エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入個数 × 年間購入頻度 × 購入単価
以下、各要素を推定し、計算してみましょう:
ハーゲンダッツジャパンの年間売上517億円をもとに、各要素を推定してみましょう。
- 人口:約1億2500万人
- 認知率:90%(ハーゲンダッツの高い認知度を考慮)
- 配荷率:80%(コンビニやスーパーでの広範な販売網を考慮)
- 該当カテゴリーの過去購入率:16%(プレミアムアイスクリーム市場の一般的な普及率を想定)
- エボークトセットに入る率:50%(プレミアムアイスクリームとしての位置づけを考慮)
- 年間購入率:0.1%(リピート購入を考慮)
- 1回あたりの購入個数:2個
- 年間購入頻度:12回(1ヶ月に1回程度の購入を想定)
- 購入単価:300円
これらの推定値を用いて計算すると:
517億円 =125,000,000×0.9×0.8×0.16×0.5×0.1×2×12×300
この推定では、ハーゲンダッツの高い認知度と、プレミアムアイスクリームとしての位置づけを反映しています。また、配荷率の高さや、定期的な新商品の投入による購買意欲の喚起も考慮しています。
ただし、これらの数値は推定であり、実際の値とは異なる可能性があります。特に、エボークトセットに入る率や年間購入率、購入頻度などは個人の嗜好や経済状況によって大きく変動する可能性があります。
ハーゲンダッツが戦う市場のPOP/POD/POF
ハーゲンダッツが戦うプレミアムアイスクリーム市場において、以下のようなPOP(Point of Parity)、POD(Point of Difference)、POF(Point of Failure)が考えられます。
要素 | 内容 |
---|---|
POP(最低限必要な要素) | - 高品質な原材料の使用 - クリーミーな食感 - 豊富なフレーバーの展開 - 適切な温度管理 |
POD(競争優位な差別的要素) | - 「完璧なおいしさ」というブランド哲学 - 厳選された原材料へのこだわり - 独自の製法による濃厚な味わい - 高級感のあるブランドイメージ - 季節限定商品による話題性 |
POF(存在すると選ばれない要素) | - 品質の低下 - 不適切な温度管理による品質劣化 - 過度な値上げ - 食品安全性の問題 - ブランドイメージを損なう販売方法 |
ハーゲンダッツは、POPを確実に満たしつつ、PODを強化することで市場での優位性を確立しています。同時に、POFを徹底的に排除することで、ブランド価値を維持しています。
ハーゲンダッツが戦う市場のPESTEL分析
PESTEL分析を用いて、ハーゲンダッツが直面する外部環境を分析します。
要素 | 機会 | 脅威 |
---|---|---|
Political(政治的要因) | - 食品安全基準の厳格化による品質重視の傾向 | - 貿易規制による原材料調達の困難化 |
Economic(経済的要因) | - 経済回復による高級品需要の増加 | - インフレーションによる原材料コストの上昇 |
Social(社会的要因) | - 健康志向の高まりによる高品質食品への注目 | - 若年層の甘味離れ |
Technological(技術的要因) | - 新しい製造技術による品質向上や新商品開発 | - 競合他社の技術革新 |
Environmental(環境的要因) | - 環境に配慮した包装材の開発 | - 気候変動による原材料調達の不安定化 |
Legal(法的要因) | - 食品表示法の改正による差別化の機会 | - 食品添加物規制の強化 |
この分析から、ハーゲンダッツは品質重視の傾向や高級品需要の増加といった機会を活かしつつ、原材料コストの上昇や若年層の甘味離れといった脅威に対応する必要があることがわかります。
ハーゲンダッツのSWOT分析と取るべき戦略
続いて、ハーゲンダッツのSWOT分析を行い、それに基づいた戦略を考えてみましょう。
内部要因 | 外部要因 |
---|---|
強み(S) - 高品質な原材料と製法 - 強力なブランドイメージ - 豊富な商品ラインナップ - 効果的なマーケティング戦略 | 機会(O) - 健康志向の高まり - 高級品需要の増加 - SNSを活用した新たな販促機会 - 海外市場の拡大 |
弱み(W) - 高価格帯による購買障壁 - 季節変動の影響を受けやすい - 保存・流通の難しさ - 若年層への訴求力不足 | 脅威(T) - 競合他社の台頭 - 原材料コストの上昇 - 健康意識の高まりによる甘味離れ - 環境規制の強化 |
これらの要素を踏まえ、以下の戦略が考えられます:
- SO戦略(強みを活かして機会を活用)
- 高品質・高級路線を維持しつつ、健康志向に合わせた新商品開発
- SNSを活用した効果的なブランディングと販促活動の強化
- 海外市場への積極的な展開
- WO戦略(弱みを克服して機会を活用)
- 若年層向けの新ブランドや商品ラインの開発
- オンライン販売の強化による購買機会の拡大
- 健康志向に合わせた低カロリー商品の開発
- ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)
- ブランド力を活かした価格戦略の維持
- 環境に配慮した包装材や製造プロセスの導入
- 品質へのこだわりを強調したマーケティング展開
- WT戦略(弱みを最小化し脅威を回避)
- 生産効率の向上によるコスト削減
- オールシーズン商品の開発による季節変動の影響軽減
- 健康的な側面を強調した商品開発と販促活動
これらの戦略を適切に組み合わせることで、ハーゲンダッツは市場での優位性を維持し、さらなる成長を目指すことができるでしょう。
ハーゲンダッツの購入者の合理(オルタネイトモデル)
次に、ハーゲンダッツの購入者の行動パターンを、オルタネイトモデルを用いて分析します。
パターン1:自分へのご褒美購入
- 行動:仕事や勉強の後、コンビニでハーゲンダッツを購入
- きっかけ:疲れや達成感
- 欲求:自己報酬、リラックス
- 抑圧:カロリーや価格への懸念
- 報酬:贅沢な味わい、満足感
パターン2:特別な日のデザート
- 行動:誕生日や記念日にスーパーでハーゲンダッツを購入
- きっかけ:特別な日の到来
- 欲求:祝福、思い出作り
- 抑圧:他のデザートとの比較
- 報酬:高級感、特別感
パターン3:季節限定フレーバーの体験
- 行動:新商品発売時にコンビニやスーパーで購入
- きっかけ:広告や口コミ
- 欲求:新しい味の体験、話題性
- 抑圧:定番フレーバーへの愛着
- 報酬:新鮮な驚き、季節感の享受
これらのパターンから、ハーゲンダッツの購入者は単なる味の満足だけでなく、自己報酬や特別感、新しい体験といった心理的な満足を求めていることがわかります。
ハーゲンダッツのWho/What/How
ハーゲンダッツのWho(誰に)、What(何を)、How(どのように)を複数のパターンで分析します。
パターン1:自己へのご褒美派
Who
- 対象:20代後半〜30代前半の独身女性
- JOB:
- きっかけ:仕事や勉強で疲れた時、ストレスを感じた時
- 欲求:自分へのご褒美として、贅沢な時間を過ごしたい
- 抑圧:カロリーや価格への罪悪感
- 報酬:至福の時間、ストレス解消、自己肯定感の向上
What
- 便益:プレミアムな味わいで、特別な自分時間を演出
- 独自性:厳選された高品質な原材料と独自の製法による濃厚な味わい
- RTB:創業以来変わらない品質へのこだわり、有名シェフとのコラボレーション
How
- コミュニケーション:SNSでの「#ハーゲンダッツ時間」キャンペーン
- プロダクト:季節限定フレーバーの展開、小容量パックの提供
- 場所:コンビニエンスストア、スーパーマーケット
- 価格:プレミアム価格帯(300円〜500円)
パターン2:特別な日のデザート派
Who
- 対象:30代〜40代の既婚者、特に子育て世代
- JOB:
- きっかけ:家族の誕生日や記念日
- 欲求:特別な日を演出し、家族との絆を深めたい
- 抑圧:日常的な出費への罪悪感
- 報酬:家族との幸せな時間、思い出作り
What
- 便益:家庭で楽しめる高級アイスクリームで、特別な日を演出
- 独自性:豊富なフレーバーラインナップと高級感のあるパッケージ
- RTB:長年の実績、食品安全性への厳格な取り組み
How
- コミュニケーション:テレビCMでの家族団欒シーンの演出
- プロダクト:パーティーサイズの商品展開、ギフトボックスの提供
- 場所:スーパーマーケット、百貨店
- 価格:中〜高価格帯(500円〜2000円)
パターン3:健康志向のデザート派
Who
- 対象:40代〜50代の健康意識の高い男女
- JOB:
- きっかけ:健康を意識しつつも甘いものを食べたい時
- 欲求:罪悪感なく贅沢な味わいを楽しみたい
- 抑圧:カロリーや糖質への懸念
- 報酬:健康的な生活と贅沢の両立
What
- 便益:健康に配慮しつつ、プレミアムな味わいを楽しめる
- 独自性:低カロリー・低糖質でありながら、本格的な味わいを実現
- RTB:栄養士との共同開発、原材料へのこだわり
How
- コミュニケーション:健康雑誌とのタイアップ、栄養成分の詳細な表示
- プロダクト:低カロリー・低糖質シリーズの展開、植物性原料の使用
- 場所:オーガニックスーパー、ドラッグストア
- 価格:プレミアム価格帯(400円〜600円)
これらのパターンは、ハーゲンダッツの多様な顧客層とそれぞれのニーズに対応した戦略を示しています。各パターンで、Who(ターゲット顧客とそのJOB)、What(提供する価値と独自性)、How(具体的な提供方法)を明確に定義することで、より効果的なマーケティング戦略を立案・実行することが可能となります。
結論:ハーゲンダッツは誰になぜ選ばれるのか
ハーゲンダッツは、以下の理由で幅広い層に選ばれています:
- 品質にこだわる大人:厳選された原材料と独自の製法による高品質な味わいが、自分へのご褒美や特別な時間を求める大人に支持されています。
- 特別な日を演出したい人々:高級感のあるブランドイメージと豊富なフレーバーラインナップが、記念日や特別な日を演出したい人々に選ばれています。
- トレンドに敏感な若者:季節限定商品や新フレーバーの展開が、新しい体験を求める若者の興味を引き付けています。
- 健康志向の消費者:高品質な原材料の使用と適度な甘さのバランスが、健康を意識しつつも贅沢を楽しみたい消費者に支持されています。
- ギフト需要:高級感と品質の高さから、贈答品としても広く選ばれています。
ハーゲンダッツが選ばれる共通の理由は以下の通りです:
- 品質へのこだわり:厳選された原材料と独自の製法による濃厚な味わいが、他のアイスクリームとの差別化を図っています。
- ブランド力:長年培ってきた高級アイスクリームとしてのブランドイメージが、消費者の信頼を獲得しています。
- 多様な商品展開:定番商品から季節限定商品まで、幅広いラインナップが様々な消費者ニーズに応えています。
- 適切な価格戦略:高すぎず、かつ手の届く贅沢品としての価格設定が、日常的な購入と特別感の両立を可能にしています。
- 効果的なマーケティング:季節に合わせた商品展開やSNSを活用したプロモーションが、常に消費者の関心を引き付けています。
- 入手のしやすさ:コンビニエンスストアやスーパーマーケットでの広範な販売網が、購入機会を最大化しています。
- 食体験の提供:単なる食品ではなく、贅沢な時間や特別な瞬間を演出する「体験」を提供しています。
これらの要因が複合的に作用し、ハーゲンダッツは幅広い消費者層から継続的に選ばれるブランドとなっています。
まとめ(マーケター向けに)
ハーゲンダッツの成功事例から、マーケターやビジネスパーソンが学べる重要なポイントは以下の通りです:
- 品質へのこだわり:妥協のない品質追求が、長期的なブランド価値の構築につながります。
- 明確なブランドポジショニング:「プレミアム」というポジションを一貫して維持することで、消費者の心に強く印象付けることができます。
- 顧客セグメンテーションと適切な価値提案:異なる顧客層に対して、それぞれのニーズに合わせた価値提案を行うことが重要です。
- 継続的なイノベーション:定番商品を維持しつつ、新商品や限定商品を展開することで、常に消費者の興味を引き付けることができます。
- 効果的なマーケティングコミュニケーション:ブランドの世界観を一貫して伝えつつ、時代に合わせた販促手法を取り入れることが重要です。
- 流通戦略の最適化:商品の特性に合わせた適切な販売チャネルの選択と、十分な配荷率の確保が売上に直結します。
- 顧客体験の重視:商品そのものだけでなく、購入から消費までの一連の体験を設計することで、より深い顧客満足を生み出すことができます。
- 環境変化への適応:PESTEL分析で見たように、外部環境の変化に柔軟に対応することが、持続的な成功につながります。
- 強みの最大化と弱みの最小化:SWOT分析を通じて自社の状況を客観的に把握し、適切な戦略を立てることが重要です。
- データに基づく意思決定:売上の構成要素を細分化して分析することで、より精緻な戦略立案が可能になります。
これらの要素を自社のビジネスに適用することで、ハーゲンダッツのような強力なブランドの構築と、持続的な成長を実現する可能性が高まります。ただし、各企業の状況や市場環境は異なるため、これらの要素を参考にしつつ、自社の特性に合わせたカスタマイズが必要不可欠です。
最後に、ブランド構築は一朝一夕には成し得ません。ハーゲンダッツの事例が示すように、長期的な視点を持ち、一貫したブランド戦略を維持しつつ、時代の変化に柔軟に対応していくことが、真に強力なブランドを築く鍵となるでしょう。