はじめに
2024年の「移住希望地ランキング」で群馬県が初めて全国1位に輝きました。従来、移住希望地として人気だった静岡県を抜いての首位獲得には、戦略的なマーケティング視点での取り組みがあったと考えられます。本記事では、群馬県が1位になった要因をマーケティングの観点から分析し、他の自治体や企業にも応用できるポイントを探ります。
ランキング結果について
認定NPO法人 ふるさと回帰支援センターが毎年発表している移住先ランキングで群馬県が全国1位になりました。

公式サイト:https://www.furusatokaiki.net/
ランキングのPDF:こちら
昨今、家族や仕事環境などの内部環境の変化や、経済的な面などの外部環境の変化から、群馬県に限らず地方移住の相談者自体が全国で増加し続けており、その中で2024年は過去最高の数を記録しておりました。

そんな中、ここ3年間、常に上位だった群馬県がついに1位を獲得したということで、出身が群馬県の筆者もその理由を探りたいと思い本記事を執筆しました。

では、早速その理由を深掘りしていきましょう。
群馬県の移住マーケティング戦略
ターゲットセグメンテーションの明確化
群馬県は移住希望者のターゲットを 20〜30代の若年層、子育て世代 に設定しました。実際に年代別のデータを見ると、若い世代から特に人気なのがわかります。これは、都市部から地方への移住トレンドが、リモートワークの普及によって若年層にも広がっていることを反映しています。また、地方移住に対する価値観の変化により、単なる自然志向ではなく、「仕事・生活のバランス」を求める層へのアプローチが重要となっています。

プロモーション戦略の強化
群馬県は「オールぐんま」と称し、全市町村が連携 して移住者向けの情報発信を強化しました。特に、ターゲット層が日常的に利用する Instagram・YouTube・X(旧Twitter) を活用し、視覚的に分かりやすい移住PRを実施しました。
また、以下のようなオンライン・オフラインの施策を組み合わせることで、移住希望者との接点を増やしました。
- YouTube動画 での移住者インタビューや生活の魅力発信
- Instagramストーリーズ広告 を活用した移住フェアの告知
- オフラインでの移住相談会・フェア の開催
顧客の合理的ニーズに対応
「群馬県に移住する合理的な理由」を徹底的に訴求しました。具体的には以下の3点です。
- 首都圏へのアクセスが良い(東京まで新幹線で約1時間)
- 災害リスクが低い(地震・台風被害が少ない)
- 生活コストが低い(家賃や物価が安い)
これらのポイントは、移住希望者が意思決定する際の合理的な要因(RTB:Reason to Believe)として機能しました。
特に、「首都圏との距離がちょうどよい地方都市」 というポジショニングを前面に打ち出し、「完全な田舎暮らしは不安だが、都市に近い地方なら移住しやすい」と考える層をターゲットにした点が戦略的でした。
群馬県の移住マーケティング施策の成功要因
施策名 | 目的 | 成果 |
---|---|---|
移住相談窓口の拡充 | 対面・オンライン相談を増やし、移住検討層のハードルを下げる | 2024年の移住相談件数6万件超 |
移住フェア・セミナー開催 | 都市部での移住希望者との接点を増やす | セミナー開催数前年比112%増 |
移住支援金制度の充実 | 金銭的インセンティブを強化し、移住の決断を後押し | 1人最大100万円の補助制度 |
SNS・動画プロモーション | 若年層へ向けた移住PRの強化 | 公式YouTubeの登録者数全国1位 |
オフライン施策の強化
移住フェアやセミナーでは、従来の「パンフレット配布」型から 「体験型・ワークショップ型」 へ移行。
- 現地視察ツアー を開催し、実際の生活環境を体験できるようにした。
- 先輩移住者との交流会 を実施し、リアルな移住後の生活について直接話せる機会を提供。
- マッチングイベント を通じて、仕事・住まい・子育ての情報を一括で得られる場を創出。
デジタルマーケティングの活用
移住希望者の検討段階ごとに適切なデジタル施策を展開。
- 「移住 検討中」層向け → YouTube広告、SEO対策(「群馬 移住 メリット」などの検索ワード最適化)
- 「具体的に情報収集中」層向け → Instagram広告・移住者インタビュー記事
- 「決断段階」層向け → 公式LINEで移住支援金・補助制度情報を配信
このように、オンライン×オフラインの施策を組み合わせることで、移住希望者が検討しやすい環境を整えました。
群馬県 vs 競合県(静岡・栃木)の比較
競合県の特徴と群馬県の差別化ポイント
順位 | 県名 | 強み | 課題 |
---|---|---|---|
1位 | 群馬県 | 災害が少ない・首都圏アクセス・低コスト | 移住者向けの仕事創出 |
2位 | 静岡県 | 温暖な気候・海の魅力 | 地震リスクが高い |
3位 | 栃木県 | 自然環境の良さ・日光や那須の観光資源 | 交通の利便性がやや劣る |
群馬県は、競合県が持つ「気候の良さ」「観光資源」のような感覚的な訴求点ではなく、「合理的な移住メリット」 を前面に打ち出す戦略で1位を獲得しました。
群馬県のマーケティング優位性
- 静岡県との比較
- 静岡県は温暖な気候や富士山の景観が魅力だが、地震リスクが高いため、群馬県は「災害が少ない」点を強調。
- また、静岡は海沿いのため「津波リスク」も考慮されるが、群馬県は内陸県でリスクが低い。
- 栃木県との比較
- 栃木県も自然環境が良く、日光や那須といった観光地を持つが、「移住先としてのPR」が群馬より弱い。
- 群馬県は「オールぐんま」で自治体連携の強さを打ち出し、統一的な移住プロモーションを展開。
- 群馬の方が東京へのアクセスが良く、首都圏への通勤・通学に適している。
群馬県をWho/What/Howで整理
上記でまとめた群馬県への移住希望者のターゲット(20〜30代の若年層、子育て世代)と選ばれる理由、そして実施したマーケティング施策をマーケティング戦略のフレームワークWho/What/Howに当てこむと下記のようになります。
Who(ターゲット)
ターゲット層 | JOB(解決したい課題・欲求) |
---|---|
20〜30代の若年層 | 都会の喧騒を離れ、自然の中でのびのびと暮らしたいが、仕事の機会や利便性も確保したい。 |
子育て世代 | 子どもを安心して育てられる環境を求めつつ、教育環境や医療アクセスも充実していてほしい。 |
What(提供価値)
提供便益 | 独自性(トレードオフであり、顧客が求める特徴) | RTB(根拠) |
---|---|---|
首都圏へのアクセスが良い | 自然豊かな環境と都市部への通勤・移動のバランスが取れる | 新幹線で東京まで約1時間、車移動の選択肢も充実 |
生活コストが低い | 家賃や物価が安く、都会より経済的な負担が少ない | 家賃相場が首都圏よりも大幅に低く、生活費の負担が軽減 |
災害リスクが低い | 地震や台風などの自然災害が少なく、安全な環境 | 内陸部であるため津波リスクなし、過去の震災被害も比較的少ない |
子育て支援が充実 | 保育施設の充実度や自然環境の豊かさで、子どもの成長に適した環境 | 子育て世代向け補助金・支援制度、豊富な公園や自然資源 |
How(実行施策)
施策 | 具体的な内容 |
---|---|
デジタルマーケティング施策 | YouTubeやInstagramでのPR動画発信、SEO対策で「群馬 移住」関連検索ワードの最適化 |
移住フェア・セミナー | 首都圏での対面イベント、オンラインセミナーの開催、現地見学ツアー実施 |
移住支援制度の拡充 | 1人最大100万円の移住支援金、住宅購入やリノベーション補助金の提供 |
コミュニティ形成支援 | 先輩移住者との交流イベント、地元企業とのマッチング、移住者向け相談窓口設置 |
群馬県は、単なる「地方移住」ではなく、「首都圏アクセスの良い、バランスの取れた移住先」 という合理的なポジショニングを確立することで、ターゲット層に対して強い魅力を持つ商品としての価値を提供していると言えます。
マーケティングの学びと他業種への応用
RTBを明確にする
群馬県は 「なぜ移住する価値があるのか?」 という理由(RTB)を明確にしたことで、移住希望者の合理的な選択肢となりました。
✅ 応用例
- SaaS企業 → 「なぜこのツールを導入するべきか?」を明確化
- D2Cブランド → 「なぜこの商品を選ぶ価値があるのか?」を強調
意外と、価値をHPに明記してなかったり、企業はそれが価値だと思っていたことが、消費者には価値ではないというケースも散見されます。今一度なぜ選ばれるのかを言語化し、それをシンプルに伝えていく取り組みをしていきましょう。
強みの棚卸しとターゲット層のニーズの把握
マーケティング戦略を考える上で、自社の強みを正確に把握することは極めて重要です。群馬県の移住マーケティングにおいても、「災害リスクが低い」「首都圏へのアクセスの良さ」「生活コストの低さ」「子育て環境の充実」 などの強みを明確にし、それをターゲット層のニーズと合致させた上で適切に訴求することが成功の鍵となりました。
企業や自治体が自らの強みを整理することで、競争優位性を明確にし、ターゲットに対してより説得力のあるメッセージを発信できるようになります。
例えば、
- 20〜30代の若年層 → 「リモートワーク時代に適した、都市圏に近い地方移住」
- 子育て世代 → 「教育環境が整い、安心して子育てができる場所」
このように、ターゲットが持つ「課題」や「理想のライフスタイル」とマッチするように、強みを適切に伝えることで振り向いてくれるようになるのです。
✅ 強みの棚卸しとニーズ把握が重要な理由
多くの企業や自治体は、自分たちの強みを一方的に発信するだけで、「それが誰に刺さるのか?」を深く考えていない ケースが多く見られます。強みの棚卸しとターゲット分析を並行して行うことで、次のようなメリットが生まれます。
- マーケティング施策の精度向上:強みとターゲットをマッチさせることで、効果的なプロモーションが可能。
- 競争優位性の強化:競合との差別化ポイントが明確になり、独自のポジションを築ける。
- コミュニケーションの一貫性:ターゲットの関心に合わせたメッセージを統一し、ブランドの信頼性を向上させる。
群馬県の成功事例から学べることは、強みの棚卸しと、それを誰にどう伝えるかの戦略が、マーケティングの成果を大きく左右する という点です。企業や自治体においても、このフレームワークを活用することで、より効果的なブランディングやマーケティング施策が実現できます。
ターゲットに合わせたチャネル戦略
若年層の移住希望者を狙い、SNS・動画コンテンツを活用した施策が成功しました。
✅ 応用例
- BtoCマーケティング → TikTokやInstagramでの認知施策
- BtoBマーケティング → LinkedInやYouTube、オウンドメディアでのコンテンツマーケティング
オンライン×オフラインのハイブリッド戦略
群馬県は、オンラインでの情報発信だけでなく、リアルな移住相談会やセミナー を活用して移住希望者の不安を払拭しました。
✅ 応用できる業界
- 教育業界 → オンライン説明会と対面オープンキャンパスの組み合わせ
- 小売業 → ECと実店舗での体験型施策の連携
- BtoB → 展示会出展とデジタルマーケティング
まとめ
群馬県が移住希望地ランキング1位になった背景には、明確なターゲット設定と合理的な訴求、そしてデジタルとリアルを融合させたマーケティング戦略 がありました。
これは、あらゆる業界のマーケターにとっても応用可能な成功モデルといえるでしょう。
✅ 今後の学び
- 合理的な選択理由(RTB)を明確にする
- 強みの棚卸しと消費者ニーズの把握
- ターゲットの行動に合わせたマーケティングチャネルを選ぶ
- デジタルとリアルの施策を連携させる
地方自治体に限らず、BtoCやBtoBのマーケターにも示唆に富む成功事例といえます。ぜひ学んでいきましょう。また、群馬県については、観光客を増やす取り組みも筆者が勝手に考えてみましたのでぜひこちらもご一読ください。