はじめに:生成AIの次なるステージ「エージェント」とは?
「ChatGPTを使ってみたけど、すぐ限界を感じた」
「もっとマーケティング業務に実用的に使えないの?」
…そんな悩みを持つマーケターにとって、今注目すべきキーワードが「エージェント(Agent)」です。
単なるチャットボットではなく、自ら動き、意思決定をし、外部ツールと連携するAIの存在。
Googleが公開したホワイトペーパーでは、まさにその最新像が示されており、今後のAI時代にマーケターが押さえておくべきフレームが詰まっています。
本記事では、その内容をわかりやすく紐解き、マーケター視点で「どこがポイントか?」「何に使えるか?」を整理していきます。エージェント技術がビジネスの意思決定プロセスにどのように組み込まれていくのか、事例やアーキテクチャの構成と共に掘り下げていきましょう。
なお、実際の資料はこちらに添付しておきます。
モデルとエージェントの違い:AIは“答える”から“動く”へ
モデルとエージェントの比較表
特性 | モデル(Model) | エージェント(Agent) |
---|---|---|
役割 | 質問に答える | タスクを遂行し、意思決定まで担う |
知識源 | 学習済みのパラメータ | 外部データ(RAG)を動的に参照 |
外部連携 | 不可(原則) | APIやツール、DBと連携可能 |
状態保持 | 1ターンで完結 | 状況を記憶・更新しながら連続処理が可能 |
主な用途 | チャットボット、文章生成など | 自律的アシスタント、業務処理の代行など |
モデルは「答える人」、エージェントは「行動する人」。
同じAIでも、その能力と役割は根本的に異なります。モデルはあくまで与えられた入力に対して応答する「受動的な存在」ですが、エージェントは自ら判断し、必要に応じて複数の外部機能を呼び出して「能動的に問題解決を図る存在」です。
この違いは、特にマーケティング領域においては大きな意味を持ちます。従来のチャットボットではユーザーの質問に答えることしかできませんでしたが、エージェントであればユーザーの意図を汲み取り、適切な情報収集・分析・提案まで一気通貫で行うことができます。
エージェントのアーキテクチャ:3つの構成ブロック
Googleのホワイトペーパーでは、エージェントは以下の3つのレイヤー(階層)で構成されるとされています。
1. メモリ(Memory)
ユーザーとの過去のやりとりや状況を保持・更新する役割を果たします。これにより、1回限りの処理ではなく、文脈を維持した継続的な対話が可能となります。
2. 認知(Cognition)
現在の状況に基づき、目標の設定、最適なアクションの選択、使用するツールの判断などを行います。まさにエージェントの"頭脳"部分であり、ここで意思決定がなされます。
3. 行動(Action)
選ばれたツールを実行し、ユーザーに対して結果を返す層です。APIの呼び出しや、PDFからの情報抽出、ウェブ検索などがここで行われます。
この三層構造により、エージェントは状態を維持しながら連続的な意思決定と実行を行えるのです。これは従来のAIにはなかった、きわめて実用的な能力です。
Retrieval Augmented Generation(RAG)の詳細
RAGは、AIが自身の知識だけでなく、外部のデータベースから情報を取得してから回答を生成する仕組みです。これにより、汎用性と正確性が大幅に向上します。
RAGのメリットは以下の通りです。
- ハルシネーション(幻覚)を抑える:学習データに含まれない誤った知識の出力を減らせる。
- 情報の最新性を保てる:リアルタイムで社内資料や公開データにアクセスできるため、モデルの更新を待たずに活用可能。
- ドメイン特化が可能:自社のFAQ、製品仕様書、ナレッジベースなど、用途に応じた情報源での最適化が可能。
たとえば「過去3年間の広告効果を比較して提案して」といった依頼にも、RAGなら社内資料に基づいて答えられる可能性があります。
ツール(Tool)の役割とタイプ
ツールはエージェントの“手足”です。タスク達成に必要な操作や情報取得を行います。Googleの提案する分類は以下の通りです。
タイプ | 説明 | 例 |
---|---|---|
Extension | 外部APIなどを呼び出して結果を取得する | Google検索、地図、天気情報、翻訳APIなど |
Function | あらかじめ定義されたローカル処理を実行 | 関数的な処理(PDF要約、日付抽出など) |
Data Store | 知識ベースとして扱う構造化/非構造化データ | PDF、CSV、DB、Webページなど |
ツールが組み合わさることで、例えば「社内マニュアルPDFから返品ポリシーを見つけ出して、要約して表示」といった複雑な動作も一度の指示で実行可能になります。
ターゲット学習の3パターン:料理人のたとえ
Googleは、AIが知識をどう使うかを“料理人”のメタファーで説明しています。
学習アプローチ | たとえ | 解説 |
---|---|---|
In-context Learning | レシピを見ながらその場で料理する | プロンプトと例示のみで応答。汎用性が高いが浅めの理解 |
Retrieval-based Learning | 材料庫(パントリー)から探して作る | RAGのように外部情報を参照しながら柔軟に対応 |
Fine-tuning | 料理学校で訓練を受けてから調理 | 特定用途に特化して最適化。高コストだが精度が高い |
特にマーケターにとって重要なのは、Retrieval-based Learningです。事業ごとに異なる情報(業界レポート、商品レビュー、社内のKPI)を柔軟に使い分けられるこの方法が、コスパと実用性の両立を叶えてくれます。
応用例:マーケティング業務での活用シナリオ
シナリオ1:FAQ自動応答ボット
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 顧客対応の迅速化と品質向上 |
使用技術 | RAG + Data Store + Function |
入力 | 「返品条件を教えて」 |
出力 | マニュアルPDFから該当箇所を要約して返答 |
シナリオ2:商品比較やキャンペーン分析
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | マーケ施策の高速な意思決定 |
使用技術 | Extension(競合APIなど)+ Data Store |
入力 | 「直近の類似キャンペーンを分析して」 |
出力 | 商品情報・過去データ・Webからの抽出情報 |
シナリオ3:営業資料の自動要約と要点抽出
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 営業支援の効率化、情報共有の迅速化 |
使用技術 | Function(要約関数)+ Data Store |
入力 | 「この資料の要点をスライド案でまとめて」 |
出力 | 3〜5ページ程度の要約+図示案 |
導入ステップ:何から始めればよい?
エージェントをマーケティング業務に活用するには、いきなり高度なシステムを組むのではなく、目的と課題を明確化したうえで、段階的に設計・実装していくことが重要です。以下に実践的な導入ステップを詳しく解説します。
- 目的の明確化:
- まず、「どの業務にどのような改善を求めるのか」を明確にしましょう。
- 例:FAQ対応の自動化/営業資料の要約支援/SNS投稿案の生成など。
- ゴールが曖昧だとAI導入が“お試し”で終わってしまいます。
- データ整備:
- AIが参照する社内データ(PDF、CSV、マニュアル、ナレッジベースなど)を準備。
- 文書の正確性や最新性、検索しやすい構造(セクション、見出し等)も重要です。
- 不要な情報を除去し、対象業務に必要な情報だけに絞ると精度が上がります。
- ツール設計:
- 使用するツールの種類(Function、Extension、Data Store)を決めて設計。
- よくある処理:PDFからの抽出、カレンダー連携、フォーム作成、CRMとの連携など。
- 複雑な処理が不要な場合は、まずFunctionやシンプルなData Storeから始めるのがおすすめです。
- 評価と改善:
- エージェントの出力ログを分析し、どの質問に強いか・弱いかを把握。
- 定期的に社内レビューやフィードバックを通じて改善。
- RAGで使うデータを追加・更新していくことで、エージェントは“育つ”存在になります。
- ステークホルダーとの合意形成:
- 部署横断での活用が期待される場合、あらかじめ関係部署や上長と目的と範囲を共有。
- セキュリティ、プライバシー、運用ポリシーの整備も必要です。
- 初期段階は「パイロットプロジェクト」扱いとし、小規模からスモールスタートするのが成功の鍵です。
このように導入は単なるツール選定ではなく、「業務課題の特定」から「ナレッジ整備」「社内体制づくり」まで含めたトータルプロセスです。
まとめ:マーケターこそ、AIエージェント時代の旗手に
生成AIは“答えるだけ”の存在から、“行動する”存在へと大きな進化を遂げようとしています。従来のモデルがプロンプトへの応答にとどまっていたのに対し、エージェントは外部情報へのアクセス、ツールの利用、状態の保持を通じて、より自律的に業務の中核を担う存在になり得ます。
とくにマーケティング領域では、情報収集や競合分析、レポート作成、顧客対応など、あらゆるプロセスがエージェントによって再定義される可能性を秘めています。複雑で属人化しがちな業務こそ、エージェントによって“再現性”と“高速化”を実現できます。
「最初の一歩」は難しくありません。RAGを使ったFAQ対応や、PDF資料の要点抽出といった小さな業務から始めて、徐々にツール連携やFunctionを追加し、業務の中でのエージェント活用の幅を広げていきましょう。
Key Takeaways
- エージェントは「行動するAI」。従来の生成AIとは一線を画し、タスク達成まで担える存在
- Retrieval(検索)とTool(実行)を組み合わせることで、業務の一部ではなく“プロセス全体”を自動化できる
- マーケティング業務においては、FAQ対応、営業支援、コンテンツ生成など幅広く実用化が可能
- 小さな導入から始めてPDCAを回し、“育てる”視点でAIエージェントを活用すべし
- 将来的には「複数のエージェントが連携し合うチーム型AI」も現実に。今こそ学び始めるタイミング