生成AIブームで営業利益2.2倍!フジクラのFY2025Q1決算に学ぶ「市場トレンド活用術」 - 勝手にマーケティング分析
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生成AIブームで営業利益2.2倍!フジクラのFY2025Q1決算に学ぶ「市場トレンド活用術」

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はじめに | マーケターが決算から学ぶべき理由

「うちの商品、なかなか売上が伸びない...」「競合との差別化ができていない気がする」そんな悩みを抱えているマーケターは多いのではないでしょうか。

実は、上場企業の決算資料には、商品がなぜ売れたのか、どんな市場戦略が効果的だったのかというヒントが詰まっています。特に製造業の決算は、BtoB マーケティングや市場トレンドの読み方、製品ポートフォリオ戦略など、実践的な学びの宝庫なんです。

今回取り上げるのは、株式会社フジクラの2024年度決算および2025年度第1四半期決算です。同社は過去最高益を更新し続け、営業利益率15.3%という驚異的な数字を叩き出しています

この記事では、フジクラの決算内容から「なぜ売れたのか」「どんな戦略が成功要因だったのか」をマーケター視点で深掘りしていきます。数字の羅列ではなく、あなたの業務に活かせる具体的な戦略のエッセンスをお届けします。


フジクラとは?|企業概要とビジネスモデル

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まず、フジクラがどんな会社なのか、簡単におさらいしておきましょう。

事業概要

項目内容
会社名株式会社フジクラ
主要事業情報通信、エレクトロニクス、自動車、エネルギー、不動産
強み光ファイバー、FPC(フレキシブルプリント基板)、自動車用ワイヤーハーネス
特徴データセンタ向け製品に強み、生成AI需要の恩恵を受ける

フジクラは、ケーブルや光ファイバーなどの「つなぐ」技術を軸に、多様な産業にソリューションを提供している老舗メーカーです。近年では特にデータセンタ向けの光ファイバーやFPC(フレキシブルプリント基板)が好調で、生成AIブームの追い風を受けています。

つまり、「見えないところで社会インフラを支えている会社」と理解すればOKです。一般消費者が直接製品を目にする機会は少ないですが、データセンタやスマートフォン、自動車などの裏側でフジクラの技術が活躍しているわけです。


全体業績サマリー | 数字が物語る「勝ちパターン」

2024年度通期決算の全体像

指標2023年度実績2024年度実績増減増減率
売上高7,998億円9,794億円+1,796億円+22%
営業利益695億円1,355億円+660億円+95%
営業利益率8.7%13.8%+5.1pt-
経常利益697億円1,372億円+675億円+97%
当期純利益510億円911億円+401億円+79%

この数字を見て、マーケターとして何を読み取るべきでしょうか?

注目ポイント①:売上高22%増、営業利益95%増

売上の伸び以上に、利益の伸びが大きい。これは「ただ売上が増えただけでなく、利益率の高い商品が売れた」ことを意味します。つまり、製品ミックス(どの商品をどれだけ売るか)の戦略が成功したということです。

注目ポイント②:営業利益率が8.7%→13.8%に改善

製造業で営業利益率13.8%は相当優秀です。これは「高付加価値製品へのシフト」「コスト構造の改善」「価格転嫁の成功」のいずれか、または複数が同時に起きていることを示しています。

2025年度第1四半期の勢い

指標2024年度1Q2025年度1Q増減増減率
売上高2,183億円2,679億円+496億円+23%
営業利益245億円411億円+166億円+68%
営業利益率11.2%15.3%+4.1pt-

第1四半期だけで営業利益率が15.3%まで跳ね上がっています。これは「過去最高の第1四半期」として記録されており、勢いが持続していることがわかります。


マーケティング観点での注目点① | 生成AI需要を的確に捉えた「市場選択」

データセンタ市場への集中投資が奏功

フジクラの2024年度決算で最も目を引くのが、情報通信事業の爆発的成長です。

指標2023年度2024年度増減
売上高2,972億円4,513億円+1,541億円(+52%)
営業利益392億円922億円+530億円(+135%)
営業利益率13.2%20.4%+7.2pt

営業利益が2.4倍になっています。これは決算資料の中で「生成AIの普及・拡大を背景としたデータセンタ向けの需要が引き続き伸長」と明記されています。

なぜこの戦略が成功したのか?

理由①:市場トレンドを早期に察知

ChatGPTをはじめとする生成AIの爆発的普及は2023年から本格化しました。フジクラはこの需要を「一時的なブーム」ではなく「構造的な需要変化」と捉え、データセンタ向け製品(光ファイバー、FPC、電子部品)に経営資源を集中させました。

理由②:顧客の「困りごと」に応えた

データセンタは膨大なデータを高速で処理する必要があります。そのためには高速・大容量の通信インフラが不可欠。フジクラの光ファイバーやFPCは、まさにこのニーズに応える製品でした。

理由③:競合との差別化

データセンタ向け製品は技術力が求められる分野です。フジクラは長年培った光通信技術を武器に、高品質・高性能製品を提供することで競合との差別化に成功しました。

graph LR A[生成AIブーム] --> B[データセンタ需要増] B --> C[高速通信インフラ需要] C --> D[フジクラの光ファイバー/FPC] D --> E[売上/利益の急拡大] style E fill:#90EE90

マーケターが学べること

①市場のトレンドを「構造変化」として捉える

一時的なブームと構造的な変化を見極めることが重要です。フジクラは生成AIを一過性の流行ではなく、長期的な需要拡大の起点と判断しました。あなたの業界でも、「これは一時的なブームか、構造変化か」を見極める視点を持ちましょう。

②顧客の「次の困りごと」を先回りする

データセンタ事業者は「処理能力を上げたい」というニーズの背景に「通信速度がボトルネックになっている」という課題を抱えていました。フジクラはこの「見えにくい課題」に対して解決策を提供したのです。

③集中と選択を徹底する

全方位的に製品を売るのではなく、「伸びる市場」に経営資源を集中投下する勇気が必要です。フジクラは情報通信事業に注力し、結果として全社の収益構造を変えることに成功しました。


マーケティング観点での注目点② | 製品ミックス戦略と高採算製品へのシフト

エレクトロニクス事業の戦略転換

情報通信事業ほど派手ではありませんが、エレクトロニクス事業も注目すべき成果を上げています。

指標2023年度2024年度増減
売上高1,647億円1,859億円+212億円(+13%)
営業利益166億円229億円+63億円(+38%)
営業利益率10.1%12.3%+2.2pt

決算資料には「データセンタ向けHDD需要増や高採算製品の選択受注による品種構成の良化」と記載されています。

「選択受注」という戦略の意味

「選択受注」とは、簡単に言えば「儲かる仕事だけを選んで受ける」ということです。

従来の製造業は「とにかく受注を取る」ことを優先しがちでしたが、フジクラは利益率の低い案件を断り、高付加価値製品にリソースを集中させました。

graph TD A[全案件を受注] --> B[売上は増えるが利益率低下] C[高採算案件を選択受注] --> D[売上増加は緩やか] D --> E[利益率大幅改善] style E fill:#FFD700

自動車事業の「守りのマーケティング」

一方、自動車事業は厳しい状況が続いています。

指標2023年度2024年度増減
売上高1,795億円1,771億円-24億円(-1%)
営業利益12億円58億円+46億円(+383%)
営業利益率0.7%3.3%+2.6pt

売上は微減ですが、営業利益は大幅に改善しています。これは「生産性の改善」や「受注変動によるコストアップ分の顧客転嫁の推進」が功を奏した結果です。

つまり、売上を無理に追わず、「利益を確保できる体質への転換」を優先したわけです。これもマーケティング戦略の一環です。

Screenshot

マーケターが学べること

①すべての顧客に応える必要はない

「顧客の要望にはすべて応える」という考え方は、一見正しいようで、実は利益を圧迫する原因になります。フジクラのように「高付加価値顧客に集中する」戦略も有効です。

②製品ポートフォリオの見直しを定期的に行う

どの製品が利益を生んでいて、どの製品が足を引っ張っているのか。定期的に棚卸しをして、「選択と集中」を実行しましょう。

③価格転嫁を恐れない

コストが上がったときに、それを価格に転嫁するのは当然のことです。フジクラは自動車事業で「コストアップ分の顧客転嫁」を推進し、利益率を改善しました。「値上げ=悪」ではなく、適切な価格設定が持続可能なビジネスを支えます。


マーケティング観点での注目点③ | 外部環境への柔軟な対応力

米国関税政策への対応

2025年度第1四半期では、米国関税政策の影響が大きく取り上げられています。

決算資料によると、エレクトロニクス事業は「米国関税政策の影響で旧モデル製品を中心に出荷前倒しで増収となるも、旧モデル製品の採算が厳しく、為替の影響もあり減益」とあります。

危機をチャンスに変える発想

関税という外部環境の変化に対し、フジクラは「出荷前倒し」という戦術で対応しました。これは、関税が適用される前に駆け込み需要を取り込む戦略です。

短期的には採算が厳しくなりましたが、顧客との関係維持や市場シェア確保という意味では意義のある判断だったと言えます。

為替変動を味方につける

2024年度は為替が円安に振れたこともフジクラにとって追い風でした。

項目2023年度2024年度
為替レート(USD/JPY)144.59円152.62円

輸出比率の高いフジクラにとって、円安は売上・利益を押し上げる要因になります。ただし、2025年度は140円を前提としており、為替の逆風が予想されています。

マーケターが学べること

①外部環境変化を「所与の条件」として受け入れる

関税や為替など、自分ではコントロールできない要因は必ず存在します。重要なのは「その中でどう動くか」です。

②短期と長期のバランスを取る

出荷前倒しは短期的には採算が悪化しますが、顧客との関係維持という長期的なメリットがあります。目先の利益だけでなく、中長期的な視点を持ちましょう。

③シナリオプランニングを行う

「為替が円高に振れたらどうするか」「関税が強化されたらどうするか」といった複数のシナリオを事前に用意しておくことが重要です。


改善点と今後の課題 | マーケターが見るべき「リスク」

ここまでフジクラの成功要因を見てきましたが、当然ながら課題やリスクも存在します。マーケターとしては、「この成功はいつまで続くのか」「何がリスク要因になり得るのか」を冷静に分析する視点が必要です。

課題①:データセンタ需要への依存度が高い

フジクラの好調は、生成AI需要に支えられています。しかし、この需要が永続的に続く保証はありません

リスク要因影響
生成AIブームの終焉データセンタ投資の減速
技術革新による需要変化光ファイバー以外の技術へのシフト
競合の参入価格競争の激化

対策として考えられること

多様化戦略の推進

情報通信事業以外の柱を育てる必要があります。例えば、エネルギー事業(再生可能エネルギー関連)や自動車事業(EV向け製品)など、成長が見込める分野への投資を強化すべきでしょう。

課題②:為替・関税リスクへの脆弱性

2025年度の業績予想では、為替や米国関税の影響でやや減収減益が見込まれています。

前提条件2024年度実績2025年度予想影響
為替レート(USD/JPY)152.62円140.00円円高による減収要因
米国関税影響-36億円利益圧迫

実際に、2025年10月9日時点、高市総裁になった今、積極財政になり円安が加速しています。

対策として考えられること

為替ヘッジの強化

為替予約や通貨オプションなど、金融手法を活用してリスクを軽減することが考えられます。

現地生産の拡大

関税の影響を受けにくくするため、米国や欧州など主要市場での現地生産を拡大する戦略も有効です。

課題③:自動車事業の構造的な課題

自動車事業は「受注プログラムが端境期を迎える影響で納入数量が減少」と記載されています。これは、特定の自動車メーカーのモデルチェンジサイクルに依存していることを示しています。

リスク要因影響
特定顧客への依存顧客の減産が直撃
EV化の進展従来型ワイヤーハーネスの需要減

対策として考えられること

EV向け製品の開発加速

自動車業界はEVシフトが進んでいます。従来のエンジン車向け製品だけでなく、EV特有のニーズ(高電圧対応、軽量化など)に応える製品開発が必要です。


今後も継続的に成長する余地はあるのか?

成長の余地がある理由

理由①:データセンタ需要は中長期的に拡大

生成AIだけでなく、IoT、5G、クラウドコンピューティングなど、データセンタ需要を支える要因は複数あります。短期的な調整はあっても、構造的な需要は今後も続くでしょう。

理由②:技術力という参入障壁

光ファイバーやFPCは高度な技術が必要な分野です。簡単に競合が参入できるわけではなく、フジクラの技術力は参入障壁として機能します。

理由③:新興市場への展開余地

現在の主要市場は日本、北米、アジアですが、今後はインドや東南アジアなどの新興市場でもデータセンタ需要が拡大する見込みです。

成長を阻害するリスク

リスク①:技術革新による代替

光ファイバーに代わる新技術が登場すれば、既存事業が陳腐化するリスクがあります。

リスク②:中国企業との価格競争

中国企業が技術力を高めてくると、価格競争に巻き込まれる可能性があります。

リスク③:地政学リスク

米中対立や台湾情勢など、地政学的な不確実性が事業に影響を与える可能性があります。

結論:成長余地は「あるが、油断は禁物」

フジクラには今後も成長する余地は十分にあります。ただし、「現在の成功パターンに安住しない」「新たな柱を育てる」ことが必要です。


まとめ | マーケターが学べるKey Takeaways

フジクラ決算から得られる5つの教訓

教訓具体的なアクション
①市場トレンドを構造変化として捉える一時的なブームか、長期的な需要変化かを見極め、後者に賭ける
②製品ミックス戦略を徹底する利益率の高い製品・顧客に経営資源を集中し、低採算案件は勇気を持って断る
③顧客の「次の困りごと」を先回りする顧客が気づいていない潜在課題を発見し、解決策を提示する
④外部環境変化に柔軟に対応する為替や関税など、コントロールできない要因にも事前にシナリオを用意して対応
⑤技術力で参入障壁を築く簡単に真似できない技術・ノウハウを蓄積し、競合との差別化を図る

あなたのビジネスに活かすために

フジクラの成功は、「正しい市場を選び、そこに集中し、高付加価値で勝負する」というシンプルな戦略の勝利です。

もしあなたが今、売上や利益に悩んでいるなら、以下の問いを自分に投げかけてみてください。

  • 今、自社が戦っている市場は、構造的に成長する市場か?
  • 利益率の低い顧客・製品に無駄にリソースを割いていないか?
  • 顧客の「次の困りごと」を把握しているか?
  • 外部環境が変わったとき、どう動くか決めているか?
  • 競合が簡単に真似できない強みを持っているか?

フジクラの事例は、こうした問いに答えるヒントを与えてくれます。決算資料を「数字の羅列」ではなく、「戦略の教科書」として読み解くことで、あなたのビジネスにも必ず活かせるはずです。

参考:フジクラ 2025年度第1四半期決算、2024年度決算

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この記事を書いた人
tomihey

本ブログの著者のtomiheyです。失敗から学び続けてきたマーケターです。
BtoB、BtoC問わず、デジタルマーケティング×ブランド戦略の領域で14年間約200ブランド(分析数のみなら500ブランド以上)のマーケティングに関わり、「なぜあの商品は売れて、この商品は売れないのか」の再現性を見抜くスキルが身につきました。
本ブログでは「理論は知ってるけど、実際どうやるの?」というマーケターの悩みを解決するノウハウや、実際のブランド分析事例を紹介しています。
現在はマーケティング戦略/戦術の支援も実施していますので、詳しくは下記リンクからご確認ください。一緒に「売れる理由」を解明していきましょう!

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