はじめに
デジタル時代において、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応は企業存続のカギを握っています。単なる業務効率化にとどまらず、ビジネスモデルや企業文化そのものを変革していくこの取り組みは、顧客接点を担うマーケティング部門にとっても重要なテーマです。
経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「DX銘柄」は、そうした構造的な変革を実践する企業の象徴的存在。2024年版では、回答企業344社の中から、特に中長期的な企業価値の向上に結びつく変革を実践する企業が厳選されました。
本記事では、DX銘柄2024の評価基準や選定プロセスを詳しく紹介するとともに、選ばれた企業に共通するポイントや成功の背景を紐解き、マーケターが今後のDX戦略にどのように取り入れるべきかを解説します。
DX銘柄2024とは?
項目 | 内容 |
---|---|
名称 | DX銘柄2024(デジタルトランスフォーメーション銘柄) |
主催 | 経済産業省・東京証券取引所・IPA(情報処理推進機構) |
目的 | DXにより中長期的な企業価値向上を実現する企業の選定・可視化 |
初年度 | 2020年(旧「攻めのIT経営銘柄」は2015年〜) |
DX銘柄とは、単なるIT導入企業ではなく、ビジネスモデル、組織変革、企業文化、そしてガバナンスに至るまでを統合的にDX化している企業を評価・選定する制度です。従来のIT投資評価とは異なり、DXが経営と一体化しているかどうか、またそれが企業価値向上につながっているかという視点で評価される点が特徴です。
DX銘柄2024の選定プロセス
以下のステップで評価・選定されます。
詳細
フェーズ | 内容 |
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DX調査2024 | 上場企業約3,800社に調査票を送付。344社が回答。 |
一次評価 | 「選択式項目」および財務指標(ROE・PBR)を基にスコアリング |
二次評価 | 「記述回答(企業価値貢献、DX実現能力、開示状況)」を有識者委員会が精査・評価 |
特別選定 | 上記評価の結果を踏まえ、「DX注目企業」「DXグランプリ」「DXプラチナ企業」等を表彰 |
このプロセスを通じて、単なる取り組み姿勢ではなく、DXによる成果創出力と企業文化としての根付き度が問われることになります。
評価項目と着眼点(一次・二次)
一次評価:デジタルガバナンス・コード2.0をベースに構成
カテゴリー | 主な項目 |
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Ⅰ. ビジョン・ビジネスモデル | 経営戦略へのDX統合度、事業構造改革との一貫性 |
Ⅱ. 戦略 | 組織体制の整備、人材育成方針、IT基盤・データ戦略の実装 |
Ⅲ. 成果 | KPI設計、顧客・事業・収益への貢献度、エビデンス提示 |
Ⅳ. ガバナンス | 経営層の関与、推進体制の継続性、説明責任の履行 |
二次評価のポイント
- 企業価値貢献:業態変革、新規事業創出、収益モデルの革新性
- DX実現能力:経営陣のリーダーシップ、変革を牽引する組織文化
- 情報開示姿勢:積極的なIR、社外への透明性、他社への波及性
DX銘柄2024 選定企業とその傾向
DX銘柄2024において選定された企業群は、単なるIT投資ではなく「企業の根本的な変革」に取り組み、明確な成果を出していることが共通点です。評価の観点は「企業価値貢献」「DX実現能力」「情報開示姿勢」の3つですが、それを体現する企業は業種を問わず広がりを見せています。
選定企業の類型と代表例
区分 | 説明 | 代表企業 | 主な特徴 |
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DX銘柄 | 業界を代表する先進的DX推進企業 | 日立製作所、アシックス、KDDI、ニチレイ、住友化学など | サプライチェーンや顧客接点の全体最適化、サービスモデルへの転換などが顕著 |
DXグランプリ | DX銘柄の中でも特に卓越した成果と実行力を持つ企業 | LIXIL、三菱重工業 | 住宅・産業領域でのデータ活用と新規事業創出、DX文化の全社浸透 |
DX注目企業 | グランプリ・銘柄に届かないが革新的な事例を持つ企業 | 富士フイルムHD、ヤマトHD、商船三井、塩野義製薬 | 製薬物流、医療、海運領域などでのリアルアセットとデジタル融合による革新 |
DXプラチナ企業 | 3年連続選定+過去にグランプリ受賞歴あり | トプコン、中外製薬 | 持続的変革と業界への影響力、DX人材の育成と仕組み化が進む |
各企業のDXの詳しい取り組みについては、こちらからご確認ください。
業種別の傾向
- 製造業(重工・化学・電子):IoT・AIを活用したスマートファクトリー構想、CO2可視化やサプライチェーン全体改革が顕著。
- サービス業(流通・物流・通信):データを活用したUX改善や価格最適化、リアルとデジタルの融合による新規事業開発が進む。
- 医療・製薬・食品:BtoC/BtoB問わず、消費者データや臨床データを使ったパーソナライズが推進され、競争力に。
2024年版の特徴的トレンド
- 社会課題解決型DX(Social DX):脱炭素、地域課題、労働力不足などに直結するビジネスモデルの転換
- 生成AI/大規模データ活用:生成AIの業務適用や、社内ナレッジの構造化など「攻めと守り」のバランス
- GXとの連動:環境とデジタルを一体化した事業運営(エネルギーの需給最適化、エコ商品の普及など)
マーケターが学ぶべきポイント
DX銘柄2024の企業の取り組みからは、マーケティング実務に直接転用できるヒントが多数見られます。特に次の4点が重要です。
1. 明確なDXビジョンと顧客視点の統合
選定企業の多くが掲げるDXビジョンは、単なる「業務の効率化」ではなく、
- 顧客体験(CX)の質向上
- 新しい価値提供(たとえば"売る"から"使わせる"へ)
- データによる予測・改善型の組織
など、顧客起点での発想と戦略に立脚しています。
これはマーケターでも同様に、「自社の提供価値は何か」「顧客の行動変容にどうつながるか」を問い直す必要性を示唆します。
2. KPI設計とその可視化
DXの成否は測定可能でなければなりません。
- 売上や利益だけでなく、NPS、MAU、LTV、解約率など、非財務KPIも重視
- 社内外に向けた開示でコミットメントを強化
マーケティングでも、キャンペーンの効果を「受注数」だけでなく、行動データや接点数などで可視化する重要性が増しています。
3. 経営層と現場の接続構造
DXが成功している企業は、CDO(Chief Digital Officer)やCMOなど、役員レベルの意思決定と、データドリブンな現場運用が一体となっています。
マーケターにとっては、経営レイヤーの戦略と現場の施策をブリッジする力が重要です。たとえば:
- 市場開拓戦略に基づく顧客セグメンテーション
- 商品開発とメディア戦略の連動
などはその好例です。
4. 試行錯誤を許容する組織文化
- 多くのDX銘柄企業ではPoC(概念実証)を数多く行い、うち数割のみを本格実装する構造になっています。
- 小さく始めて検証し、うまくいったら横展開(スケール)する「実験→学習→拡張」のサイクルが組織に根づいています。
これはマーケターにとって、「失敗を学びに変える文化」の重要性を意味します。PDCAではなく、L→E→A→R(Learn→Experiment→Adjust→Repeat)がキーワードです。
これらの知見を活かすことで、マーケターは「デジタルツールの導入者」ではなく「変革のエンジン」としての役割を果たすことができます。
まとめ|Key Takeaways
DX銘柄2024から得られる教訓は、単に「優良企業を知ること」にとどまらず、変化を自ら起こし、成果につなげる組織文化と構造をいかに創るかという視点にあります。以下に、マーケターをはじめとしたビジネス実務者が活かすべきポイントを体系的にまとめます。
✅ DX銘柄2024の意義
- DX銘柄とは「単なるIT導入企業」ではなく、事業・組織・文化の構造的変革を実行し、かつ成果を出している企業群である。
- 経済産業省と東京証券取引所が主導し、DXによる企業価値向上のロールモデルを可視化・共有することが目的。
✅ 評価の仕組みとプロセス
- スコアリング(定量)×記述審査(定性)のハイブリッド評価。
- DXガバナンス、KPI設計、ビジョン、ガバナンス体制が統合的に見られる。
- 単なる「導入」や「実施」にとどまらず、「実装し、成果を生み出している」ことが評価される。
✅ 選定企業の共通点
- 明確なDXビジョンと事業戦略の接続
- KPIの可視化・社外発信(IR・ESGレポート連動)
- 経営主導で全社一体のDX実行体制
- PoC(概念実証)を許容する組織文化と、学習・拡張プロセスの内製化
✅ マーケターが今すぐ応用すべき示唆
領域 | 応用視点 |
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顧客理解 | オルタネイトモデルや6R分析で本質的欲求に迫る |
戦略設計 | データ起点で顧客体験を設計し直す(CX改革) |
成果検証 | LTVやNPSなど、非財務指標を交えた指標設計 |
組織運営 | 小さな実験→フィードバック→横展開の文化を醸成 |
✅ 今後の競争力の鍵は「再現性と変革力」
- DXはもはや「差別化の道具」ではなく「生存に必須の土台」である。
- 技術導入よりも「経営意思と文化変革」が問われる時代に入っている。
- マーケターもまた、単なる施策担当者ではなく、“顧客を起点とした変革のリーダー”になることが求められる。
こうした視点を日々の業務に落とし込み、仮説→実践→改善のループを高速で回すことが、DXを現場レベルで体現する最短ルートとなるでしょう。
参考:DX銘柄2024