はじめに
商品やサービスをより多くの顧客に届けるためには、その商品がどれだけの店舗やチャネルで取り扱われているかを正しく把握し、最適化することが不可欠です。これを示す指標の一つが「配荷率」です。配荷率は流通や小売の現場で使われることが多い言葉ですが、マーケターにとっても重要なKPI(重要指標)の一つとなります。本記事では、配荷率の基本的な定義から、配荷率を高めるための戦略やメリット、注意点などを詳しく解説します。
配荷率とは
配荷率とは、取り扱っている店舗数やチャネル数を、全体の対象となる店舗数やチャネル数で割った割合を指します。たとえば、全国に1,000店舗あるコンビニチェーンを対象に「自社商品が何店舗で取り扱われているか」を調査し、500店舗で扱われていれば配荷率は50%となります。
- 分母:商品を取り扱える可能性がある全店舗数
- 分子:実際に商品が取り扱われている店舗数
この配荷率は、消費者が購入しようと思った際に「どれだけ購入しやすい環境にあるか」の指標とも言えます。
配荷率は売上の基本式の重要要素
マーケティングにおいて、以下のような要素の積によって最終的な売上が構成されるという考え方があります:
売上 = 人口 × 認知率 × 配荷率 × 該当カテゴリーの過去購入率 × エボークトセットに入る率 × 年間購入率 × 1回あたりの購入個数 × 年間購入頻度 × 購入単価
この中でも「配荷率」は、企業側の戦略や交渉によってある程度コントロールしやすい要素の一つです。配荷率が高まれば高まるほど販売機会が増え、売上全体を押し上げる効果が期待できます。
配荷率が重要な理由
- ブランド認知度の向上
- 配荷率が高いほど、消費者が店頭やオンラインショップなどで商品を目にする機会が増えます。結果的にブランド認知度や購入意欲の向上につながりやすくなります。
- 売上機会の最大化
- 配荷率を高めることで、商品の接触機会が増えるため売上が伸びる可能性が高まります。消費者が「買いたい」と思ったときにすぐ手に入らない状況は、機会損失になるため、特に日用品や食品など購入頻度の高い商品では配荷率が死活問題となることもあります。
- 競合対策
- 同じカテゴリーに競合商品が存在する場合、配荷率の差は競争力に直結します。商品特性や価格が同等の場合、最終的に消費者が目に入りやすい商品が選ばれる可能性が高いため、配荷率を確保・向上させることで競合優位性を高められます。
配荷率を高めるための戦略
1. ターゲットチャネルの明確化
一口に「店舗を増やす」「取り扱いを増やす」と言っても、全てのチャネルで最大化することは現実的に困難です。そこで、まずは自社の商品特性やターゲット顧客に合ったチャネルを特定し、重点的に配荷率を高めることが重要です。
- 顧客の購買行動を分析:どの店舗・ECサイトに顧客が多いか
- 商品特性との親和性:生鮮食品なら地域密着型スーパー、サプリメントならドラッグストアなど
2. 小売業者との関係構築
小売業者が商品を取り扱うメリットを感じてもらわなければ、配荷率向上は難しくなります。
- 販売実績データの共有:他の店舗での売上データやプロモーション効果を提示する
- 販促キャンペーンの共催:店頭イベントや共同広告などで小売側のメリットを訴求する
- 在庫リスクの軽減策:リターン保証や在庫補填のスキームなどを整備して導入ハードルを下げる
3. マーチャンダイジング戦略の最適化
商品自体が採算を取りにくい、在庫コストが高いなどの要因があると、小売業者は取り扱いを渋る傾向にあります。マーチャンダイジング戦略を最適化し、棚割りや陳列、在庫回転率などを向上させる取り組みが必要です。
- 棚割り(シェルフスペース)の設計:視認性を高めることで販売効率を上げ、小売の利益にも貢献
- SKU(在庫管理における最小の管理単位)の見直し:適切なSKU数に絞り込むことで在庫回転率を高める
4. ECチャネルの配荷率向上
実店舗だけでなく、EC(オンライン)チャネルの拡充も現代では非常に重要です。
- 大手ECサイトへの出店:Amazon、楽天などへの出品はベースカバー率を大幅に高める
- 自社ECサイトの強化:自社ブランドの世界観を表現しつつ、購入動線を最適化
- SNS連携や広告運用:流入経路を多角化し、幅広いユーザーへのリーチを狙う
5. 配荷の量と質のバランス
配荷率向上を考える際には、単に数多くの店舗へ供給する「量」だけでなく、どのように品質の高い流通環境を整えるかという「質」にも着目することが重要です。
- 量的アプローチ
- 単純に多くの店舗に商品を届けることで、知名度や接触機会を増大できます。しかし、対象外の店舗やチャネルに過剰に配荷してしまうと、在庫負担や売上不振、返品リスクなどが増大する可能性があります。自社商品のターゲット層との親和性や季節・地域特性を考慮しながら、最適な数量を設定することが大切です。
- 質的アプローチ
- 配荷の質とは、各店舗の顧客層やニーズに合ったSKUを選定したり、良い棚の位置に配置したり、理想的な価格設定を実現したりするのが質の部分です。よくメーカーの社員さんが小売店で売り場を作っている風景を見ると思います。例えば高価格帯の商品が求められる立地や店舗規模であれば、プレミアムSKUを中心に展開し、その商品の価値を的確に伝えられるようスタッフ教育や販促資材も整える必要があります。一方、低価格帯が支持される店舗であれば、コストパフォーマンスに優れたSKUを揃え、通路や目線の高さなど購買意欲を高める配置を心がけることが重要です。また、価格設定においても店舗の地域性や競合状況を踏まえ、売り場全体との整合性を考慮した上で設定を行います。
こうした店舗の特性に合わせたSKU構成・陳列・価格の最適化が進むと、商品自体の魅力が最大限に活かされ、結果として売上やブランド認知の向上につながりやすくなります。
- 配荷の質とは、各店舗の顧客層やニーズに合ったSKUを選定したり、良い棚の位置に配置したり、理想的な価格設定を実現したりするのが質の部分です。よくメーカーの社員さんが小売店で売り場を作っている風景を見ると思います。例えば高価格帯の商品が求められる立地や店舗規模であれば、プレミアムSKUを中心に展開し、その商品の価値を的確に伝えられるようスタッフ教育や販促資材も整える必要があります。一方、低価格帯が支持される店舗であれば、コストパフォーマンスに優れたSKUを揃え、通路や目線の高さなど購買意欲を高める配置を心がけることが重要です。また、価格設定においても店舗の地域性や競合状況を踏まえ、売り場全体との整合性を考慮した上で設定を行います。
- 量と質の両立
- 配荷率を伸ばすうえで、量と質の両輪をうまく機能させることが不可欠です。まずはターゲットとの親和性が高い販売チャネルを中心に配荷を拡大し、そのうえで各店舗の陳列や販売支援策を強化することで、質を維持・向上させます。多店舗への供給を目指す際は、在庫・流通管理の整備や販促施策の充実化により、店舗ごとの売上最大化を図ることがポイントです。
配荷率向上の注意点
- 無理な拡大は在庫負荷やコスト増を招く
- 配荷率を急激に拡大しようとすると、物流コストや在庫リスクが大きくなる場合があります。特に賞味期限がある商品や季節変動が大きい商品では、余剰在庫となる可能性にも気を配る必要があります。
- 取り扱い店舗が増えても販売力が追いつかない可能性
- 店舗数だけ増えても、棚の目立たない場所に置かれる、スタッフが商品の特徴を理解していないなど、実質的に売上につながらないケースもあります。小売担当者とのコミュニケーションや売場作りも重要です。
- チャネル間の競合リスク
- ECと実店舗、あるいは異なる小売チェーン間で価格競争が生じるなど、チャネル間の衝突が発生する場合があります。チャネル間の価格調整や販促のバランスを慎重にコントロールする必要があります。
- 配荷率には上限があるためプレファレンス(嗜好)向上も重要
- 配荷率は理論上100%(取り扱い可能な全店舗に配荷)を超えることができません。そのため、配荷率を最大化したとしても、商品そのものの魅力やブランドへの好意度が高まらなければ、継続的な売上拡大は期待しにくいのが現状です。商品やブランドを“選んでもらう”ためのプロモーション、品質向上、差別化要素の強化など、プレファレンス(相対的好意度)を高める取り組みこそが長期的な成長には欠かせません。
配荷率を伸ばせば一定の売上増は見込めますが、いずれ上限に達する可能性があります。そこで、限界に近づく前に、顧客の心をしっかり掴む施策を打ち出し、ブランドや商品の好意度を高めることが重要と言えます。
- 配荷率は理論上100%(取り扱い可能な全店舗に配荷)を超えることができません。そのため、配荷率を最大化したとしても、商品そのものの魅力やブランドへの好意度が高まらなければ、継続的な売上拡大は期待しにくいのが現状です。商品やブランドを“選んでもらう”ためのプロモーション、品質向上、差別化要素の強化など、プレファレンス(相対的好意度)を高める取り組みこそが長期的な成長には欠かせません。
まとめ
配荷率は商品の売上やブランド認知に直結する重要な指標です。特に競合がひしめく市場では、いかに効率的に配荷率を高めるかがマーケターの大きな課題となります。一方で、配荷率を上げるにはコストやリスク、チャネル間の調整など多くの注意点や制約が伴います。
最終的には、自社のターゲットやブランドの特性を踏まえ、優先度の高いチャネルから段階的に配荷率を拡充していくことが成功への近道です。小売業者との関係強化やマーチャンダイジング戦略の見直しを行い、消費者が「欲しいときに手に入れられる」状況を作り出すことこそが、売上最大化とブランド価値向上の鍵となります。