ディズニープラスが選ばれる理由:エンターテイメント業界のサブスクリプションブランドの戦略 - 勝手にマーケティング分析
商品を勝手に分析

ディズニープラスが選ばれる理由:エンターテイメント業界のサブスクリプションブランドの戦略

ディズニープラスが選ばれる理由: エンターテイメント業界のサブスクリプションブランドの戦略 商品を勝手に分析
この記事は約25分で読めます。

はじめに

今日のデジタルエンターテイメント市場において、消費者は多数の動画配信サービスから選択できる状況にあります。このような競争の激しい環境で、なぜ特定のサービスが他より選ばれるのでしょうか?消費者の選択の背後にある心理を理解することは、どのビジネスにとっても成功への重要な鍵となります。

本記事では、急速に成長している動画配信サービス「ディズニープラス」が消費者から選ばれる理由を多角的に分析し、以下のメリットを提供します:

  1. 強力なブランド資産を活用した顧客獲得戦略を学べる
  2. 差別化されたコンテンツ戦略と顧客体験設計の手法を理解できる
  3. 既存市場での競争優位性を構築するための具体的なアプローチを発見できる

ディズニープラスの成功要因を紐解きながら、あなたのビジネスにも応用できる実践的な知見を提供していきます。

1. ディズニープラスの基本情報

Screenshot

ブランド概要

ディズニープラスは、ウォルト・ディズニー・カンパニーが提供する定額制動画配信サービス(SVOD)です。2019年11月に米国で開始され、日本では2020年6月にサービスを開始しました。「ディズニー」「ピクサー」「マーベル」「スター・ウォーズ」「ナショナル・ジオグラフィック」などの強力なコンテンツブランドを擁し、家族向けエンターテイメントのリーダーとしての地位を確立しています。

ディズニープラスのビジョンは「魔法と夢を世界中に届ける」という伝統的なディズニーの価値観を継承しつつ、デジタル時代のエンターテイメント体験を提供することです。

企業情報

  • 企業名:The Walt Disney Company(ウォルト・ディズニー・カンパニー)
  • 設立年:1923年(ディズニープラス:2019年開始)
  • CEO:ボブ・アイガー
  • 本社所在地:米国カリフォルニア州バーバンク
  • 従業員数:約20万人(ディズニー全体、2023年時点)
  • URL:https://www.disneyplus.com

主要サービスラインナップ

  • ディズニープラス単体サブスクリプション
  • Hulu | Disney+ セットプラン(日本)
  • Disney Bundle(Disney+, Hulu, ESPN+を含む、米国)

業績データ

ディズニープラスの公表データと市場情報から推計される業績は以下の通りです:

  • 全世界の加入者数:1億5,000万人以上(2023年時点)
  • 日本市場でのシェア:約6.0%(2021年、前年比4.1ポイント増)
  • 月額料金:990円(日本、標準プラン、2023年時点)
  • 年間売上⾼(推定):約1兆4,000億円(ディズニーのDTCセグメント全体)

フェルミ推定による日本市場の売上:

  • 日本の世帯数:約5,200万世帯
  • 動画配信サービス利用率:約60%
  • ディズニープラス普及率:約6%
  • 年間契約価格:9,900円(月額990円×12か月)
  • 日本国内での年間売上:約3,000億円(5,200万×60%×6%×9,900円)

出典:動画配信(VOD)市場5年間予測(2022-2026年)レポート

2. 市場環境分析

まずは所属しているカテゴリーは顧客の何を解決しているのかを考えてみましょう。

市場定義:消費者のジョブ(Jobs to be Done)

ディズニープラスが所属するサブスクリプション型動画配信(SVOD)カテゴリーは、以下の顧客ジョブを解決しています:

  1. エンターテイメントジョブ:「退屈な時間を楽しく過ごしたい」「リラックスしてストレスを解消したい」
    • 量:日常的に発生(高)
    • 優先度:生活の質向上のため重要(中~高)
  2. 社会的ジョブ:「家族や友人と共通の話題や体験を共有したい」「流行に乗り遅れたくない」
    • 量:社会的交流の場で頻繁に発生(中~高)
    • 優先度:所属感の醸成に寄与(中)
  3. 感情的ジョブ:「子供時代の思い出や懐かしさを再体験したい」「非日常の世界に没入したい」
    • 量:特定の状況で発生(中)
    • 優先度:感情的充足として重要(高)
  4. 機能的ジョブ:「いつでもどこでも好きなコンテンツを視聴したい」「子供に安全な視聴環境を提供したい」
    • 量:デジタルライフスタイルの一部として常時(高)
    • 優先度:特に家族層にとって重要(高)

競合状況

日本の動画配信市場における主要プレイヤーとその特徴は以下の通りです:

  1. Netflix
    • 特徴:オリジナルコンテンツの強化、国際的な作品の豊富さ
    • 市場シェア:約23%(2021年)
  2. Amazon Prime Video
    • 特徴:Amazonプライム会員特典、ショッピングとの連携
    • 市場シェア:約33%(2021年)
  3. Hulu
    • 特徴:日本のテレビ番組・ドラマに強み、ディズニーとの連携
    • 市場シェア:約10%(2021年)
  4. U-NEXT
    • 特徴:作品数の多さ、大人向けコンテンツも含む幅広いラインナップ
    • 市場シェア:約5%(2021年)

出典:動画配信(VOD)市場5年間予測(2022-2026年)レポート

POP/POD/POF分析

次に、このカテゴリーで戦って勝っていくために必要な要素を整理していきましょう。

POP(Points of Parity):業界標準として必須の要素

  • 使いやすいユーザーインターフェース
  • 複数デバイス対応(スマートフォン、タブレット、テレビなど)
  • HD以上の高画質配信
  • ダウンロード機能(オフライン視聴)
  • 検索・レコメンデーション機能
  • 月額定額制モデル
  • コンテンツのカテゴリ分類

POD(Points of Difference):差別化要素

  • 独占配信の人気コンテンツ(ディズニー作品、Marvel、Star Wars等)
  • 世代を超えた認知度と信頼感を持つブランド資産
  • 家族全員で楽しめる安全なコンテンツ環境
  • 強力なフランチャイズIPのクロスメディア展開
  • テーマパークなど他のディズニー体験との連携

POF(Points of Failure):市場参入の失敗要因

  • コンテンツの更新頻度の低さ
  • ユーザーインターフェースの複雑さ
  • セキュリティやプライバシーへの配慮不足
  • カスタマーサポートの質の低さ
  • 大人向けコンテンツの不足(特定層のニーズに応えられない)
  • 価格と価値のバランスの不均衡

PESTEL分析

次に、このカテゴリーは各視点で見たときに追い風なのか、向かい風なのかを見ていきましょう。

Political(政治的要因)

  • 機会: 日韓関係改善によるアジアコンテンツ交流の活性化
  • 脅威: 各国の文化保護政策(現地制作コンテンツ比率規制など)

Economic(経済的要因)

  • 機会: サブスクリプションモデルの普及による安定収益基盤
  • 脅威: インフレや不況による消費者の選択的節約(サブスク解約)

Social(社会的要因)

  • 機会: ステイホーム需要の定着、ノスタルジャ文化の高まり
  • 脅威: 若年層の動画視聴行動の変化(ショートコンテンツへの移行)

Technological(技術的要因)

  • 機会: 5G普及によるモバイル視聴環境の向上、AR/VR技術の発展
  • 脅威: 海賊版・違法ストリーミングサイトの技術的進化

Environmental(環境的要因)

  • 機会: デジタルコンテンツへの移行による物理的資源消費の減少
  • 脅威: データセンター運用に伴う環境負荷への批判

Legal(法的要因)

  • 機会: 著作権保護の国際的枠組み強化
  • 脅威: データプライバシー関連法規制の厳格化

この市場は技術的に、社会的にな追い風が吹いている一方で、追い風の市場だからこそ競合も参入してきて市場がレッドオーシャン化していると思われます。

3. ブランド競争力分析

続いて、ディズニープラス自体の強み、弱みは何で、それらが今の外部環境の中でどう活かしていけるのか、いくべきなのかを見ていきましょう。

SWOT分析

強み(Strengths)

  • 世界的に認知された強力なブランド資産とキャラクター群
  • ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズなど独占的高品質コンテンツ
  • 40年以上の歴史を持つ映像制作のノウハウと人材
  • 全世代に訴求できる豊富なコンテンツライブラリ
  • テーマパークや商品販売などとの相乗効果を生むエコシステム
  • 親子で共有できる世代間コンテンツの豊富さ

弱み(Weaknesses)

  • 成人向けや刺激的なコンテンツの不足
  • 日本オリジナルコンテンツの少なさ(日本市場に特化した場合)
  • 新規IPの開発速度が競合と比較して遅い傾向
  • スポーツコンテンツの弱さ(日本市場)
  • 月額料金の値上げによる価格競争力の低下リスク
  • 独自にローカライズしたコンテンツ開発の遅れ

機会(Opportunities)

  • 日本のアニメ制作会社との戦略的提携強化
  • 教育コンテンツ市場への本格参入
  • AR/VRなど次世代技術を活用した新形態のエンターテイメント開発
  • ローカルコンテンツへの投資拡大による市場シェア拡大
  • テーマパーク連動型のデジタル体験の創出
  • ゲーム領域との融合によるIPの横展開

脅威(Threats)

  • Netflixなど競合の日本オリジナルコンテンツ強化
  • 消費者のサブスクリプション疲れによる解約増加
  • TikTokなどショート動画プラットフォームへの若年層の移行
  • 高品質コンテンツ制作コストの継続的な上昇
  • 既存IPへの過度な依存によるブランド疲労
  • コンテンツのグローバル化と現地化のバランス維持の難しさ

クロスSWOT戦略

SO戦略(強みを活かして機会を最大化)

  • ディズニーの強力なIPを活用した日本のアニメ制作会社とのコラボレーション作品の開発
  • テーマパーク体験と連動したAR/VRコンテンツの開発および配信
  • 世代を超えた人気キャラクターを活用した教育コンテンツの展開

WO戦略(弱みを克服して機会を活用)

  • 日本の制作会社との協業による日本オリジナルコンテンツの拡充
  • 教育コンテンツ開発を通じた新規IPの創出と育成
  • ローカルコンテンツへの投資により地域別のコンテンツバランスを改善

ST戦略(強みを活かして脅威に対抗)

  • 競合にない独占コンテンツの定期的リリースによる解約防止
  • 世代間で共有できるコンテンツの強化でショート動画と差別化
  • 複数IPを横断したクロスオーバー企画でブランド疲労を防止

WT戦略(弱みと脅威の両方を最小化)

  • 継続的なUI/UX改善による利用者満足度の向上と解約率低下
  • コンテンツ制作費の効率化と収益モデルの多様化
  • モバイルファーストの視聴体験強化による若年層の取り込み

4. 消費者心理と購買意思決定プロセス

続いて、ディズニープラスの顧客はなぜサービスを選ぶのか、その購買行動の構造を複数パターンで見ていきましょう。

オルタネイトモデル分析

パターン1:家族層の選択(家族との共有体験)

  • 行動: 家族全員で楽しめる動画配信サービスとしてディズニープラスを契約する
  • きっかけ: 子どもの「アナと雪の女王が見たい」というリクエスト、テレビCMやSNSでの広告
  • 欲求: 子どもに安全で教育的なコンテンツを提供したい、家族で共通の話題や体験を共有したい
  • 抑圧: 他の動画サービスにおける有害コンテンツへの懸念、複数サービスへの出費への罪悪感
  • 報酬: 子どもの笑顔、親子で共有する時間の質向上、「良い親」としての自己認識の強化

パターン2:大人のファン層の選択(ノスタルジーと熱量)

  • 行動: 好きなフランチャイズの新作を見るためにディズニープラスを契約する
  • きっかけ: 「スター・ウォーズ」や「マーベル」の新シリーズ発表、SNSでの話題
  • 欲求: 好きなフランチャイズの最新作をリアルタイムで視聴したい、ファンコミュニティと体験を共有したい
  • 抑圧: 複数サブスクリプションの費用負担、時間的制約
  • 報酬: ファンとしてのアイデンティティ強化、コミュニティへの所属感、「乗り遅れていない」安心感

パターン3:ノスタルジー層の選択(思い出の再体験)

  • 行動: 子ども時代に親しんだディズニー作品を再視聴するためにサービスを契約する
  • きっかけ: 懐かしいディズニーキャラクターとの偶然の再会、ライフイベント(子どもの誕生など)
  • 欲求: 子ども時代の良い思い出を再体験したい、当時の感情を再び味わいたい
  • 抑圧: 現代のコンテンツへの違和感、「子どもっぽい」と思われることへの懸念
  • 報酬: 温かい感情の想起、ストレス解消、過去と現在をつなぐ心理的連続性の確保

本能的動機

ディズニープラスの利用に関わる本能的動機を、2つの本能と8つの欲望の観点から分析します。

生存本能に関連する動機

  • 安らぐ欲望: 仕事や学校での緊張から解放され、ディズニー作品の温かい雰囲気に包まれることでリラックスする
  • 決する欲望: どの作品を見るか、どのようなペースで視聴するかを自分で決定することで自律性を満足させる
  • 有する欲望: 膨大なコンテンツライブラリへのアクセス権を得ることで、資源の確保に関連する満足感を得る

生殖本能に関連する動機

  • 進める欲望: 子どもの教育や成長をサポートする良質なコンテンツを提供することで、親としての役割を果たす
  • 属する欲望: ディズニーファンとしてのアイデンティティを強化し、コミュニティに所属する感覚を得る
  • 高める欲望: 流行の作品を視聴し、文化的な会話に参加できることで社会的地位を維持・向上させる
  • 伝える欲望: 親世代が子どもに自分が親しんだ作品を共有し、価値観や思い出を伝達する
  • 物語る欲望: ディズニー作品の物語や世界観を通じて、自身の経験や感情を理解・整理する

ドーパミン回路を刺激する要素

  • 予測と報酬のギャップ: 新作の公開や限定コンテンツの発表による期待と予測不可能性
  • アチーブメント感: シリーズ作品を完走する達成感、コレクション完成の満足感
  • 社会的承認: 流行作品の視聴によるSNSでの会話参加、共有体験から生まれる所属感
  • 新奇性: 定期的に追加される新コンテンツによる好奇心の刺激

5. ブランド戦略の解剖

これまで整理した情報をもとに結局、ディズニープラスはどういう人のどういうジョブに対して、なぜ選ばれているのか、そしてどうその価値を届けているのかをまとめていきます。

Who/What/How分析

パターン1: 家族層向け戦略

  • Who(誰に): 3〜12歳の子どもを持つ30〜40代の親
  • Who(JOB): 子どもに安全で良質なエンターテイメントを提供しながら、家族で共有できる体験を創出したい
  • What(便益): 安全な視聴環境、教育的価値を持つコンテンツ、複数世代で楽しめる作品選択
  • What(独自性): 世界最高水準の家族向けコンテンツライブラリ、親世代が子ども時代に親しんだ作品へのアクセス
  • What(RTB): 100年近い家族向けコンテンツ制作の歴史、厳格なコンテンツガイドライン
  • How(プロダクト): ペアレンタルコントロール機能、複数デバイス対応、ダウンロード機能
  • How(コミュニケーション): 「家族の時間」を強調するCM、親子のつながりを描いた情緒的訴求
  • How(場所): スマートフォン、タブレット、スマートTV等での視聴
  • How(価格): 家族で共有できる複数プロフィール設定による費用対効果の高さを訴求

この戦略は家族層の「安全かつ質の高いエンターテイメントへのアクセス」というジョブに直接訴求しています。特に、親世代が自身の子ども時代に親しんだディズニー作品を次の世代に伝える「継承」という感情的価値が強く響いています。

パターン2: ファン層向け戦略

  • Who(誰に): マーベル、スター・ウォーズなどのフランチャイズのコアファン(18〜35歳)
  • Who(JOB): 好きなフランチャイズの最新情報や作品にリアルタイムでアクセスし、ファンコミュニティの一員として体験を共有したい
  • What(便益): 独占配信の新作へのアクセス、過去作品を含めた包括的なコンテンツライブラリ
  • What(独自性): 他では視聴できない独占オリジナルコンテンツ、映画とテレビシリーズが連動した世界観
  • What(RTB): 正式なライセンスを持つ唯一の配信プラットフォーム、MCUやスター・ウォーズ世界観の公式拡張
  • How(プロダクト): リリース日の発表イベント、関連作品の推奨機能、高画質配信
  • How(コミュニケーション): ファン向けイースターエッグの仕込み、SNSでのコミュニティ育成
  • How(場所): ファンイベントとの連動、公式SNSアカウント
  • How(価格): 映画館で見るより経済的であることの訴求

この戦略は、フランチャイズのコアファンに対して「最新作へのアクセス」と「ファンとしてのアイデンティティ強化」というジョブに焦点を当てています。熱心なファンの「見逃したくない」という心理と「コミュニティの一員である」という所属欲求を満たしています。

パターン3: ノスタルジー層向け戦略

  • Who(誰に): ディズニー作品に思い出を持つ30〜50代の大人
  • Who(JOB): 子ども時代に親しんだ作品を再体験し、当時の感情や記憶を呼び起こしたい
  • What(便益): 過去の名作への無制限アクセス、高画質でリマスターされた思い出の作品
  • What(独自性): ディズニーヴォルトと呼ばれる過去作品の完全アーカイブ、時代を超えた作品の魅力
  • What(RTB): オリジナル作品の制作元による正統な復刻、追加コンテンツ(メイキングなど)の提供
  • How(プロダクト): デジタルリマスター版の提供、関連コンテンツのキュレーション
  • How(コミュニケーション): 「思い出のあの作品が、いつでもどこでも」というメッセージング
  • How(場所): パーソナルデバイス(スマートフォン、タブレット)での個人視聴
  • How(価格): DVD/BDコレクションよりも経済的で場所を取らない利点の訴求

この戦略は、消費者の「懐かしさを感じたい」「過去の良い思い出を再体験したい」というノスタルジーに訴えかけるジョブに応えています。特に成人してからもディズニー作品に愛着を持ち続ける層に対して、子ども時代の作品を現代の環境で楽しめる機会を提供しています。

成功要因の分解

ブランドポジショニングの特徴

ディズニープラスは「家族エンターテイメントの王者」としての明確なポジショニングを確立しています。このポジショニングの特徴は以下の通りです:

  1. 世代を超えた普遍性: 子どもから大人まで、複数世代が楽しめるコンテンツの提供
  2. 非日常的な魔法体験の提供: 日常から離れた特別な世界への没入体験
  3. 安全性と信頼感: 家族で安心して視聴できる環境の保証
  4. 強力なIPの集合体: ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズなど複数の人気ブランドの統合
  5. 所有から体験へ: 物理的な所有ではなく、ストリーミングによる体験価値の提供

このポジショニングにより、競合他社と明確に差別化しながら、幅広い顧客層にアピールすることに成功しています。

コミュニケーション戦略の特徴

ディズニープラスのコミュニケーション戦略には以下の特徴があります:

  1. 感情に訴える物語性: 製品機能ではなく、視聴体験がもたらす感情的価値を中心に据えた訴求
  2. キャラクターの活用: 親しみのあるキャラクターを活用したメッセージング
  3. IPの横断的活用: 複数のIPを組み合わせたクロスプロモーション
  4. ファンコミュニティとの対話: SNSを活用したファンエンゲージメントの強化
  5. オムニチャネル展開: テーマパーク、商品、イベントなど様々なタッチポイントでの一貫したメッセージ

これらの特徴により、ただの情報伝達ではなく、顧客との感情的なつながりを構築することに成功しています。

価格戦略と価値提案の整合性

ディズニープラスの価格戦略は、以下のような特徴を持っています:

  1. 競争力のある月額料金: 990円という比較的手頃な価格で豊富なコンテンツへのアクセスを提供
  2. バンドル戦略: Huluとのセットプランなど、複数サービスの組み合わせによる価値向上
  3. 年間プランによる割引: 長期契約を促進する料金体系
  4. 段階的な価格改定: サービス・コンテンツの拡充に合わせた計画的な価格調整
  5. 単一プラン構造: 複雑なプラン分けではなく、シンプルな料金体系を維持

この価格戦略により、「高品質なエンターテイメントへの手頃なアクセス」という価値提案が明確に顧客に伝わっています。

カスタマージャーニー上の差別化ポイント

顧客体験の各段階における差別化ポイントは以下の通りです:

  1. 認知段階: 強力なディズニーブランドと既存IPの認知度による信頼感の醸成
  2. 検討段階: 独占コンテンツの訴求と無料トライアル提供による低リスク体験
  3. 購入段階: シンプルな登録プロセスと複数デバイス対応による利便性
  4. 利用段階: パーソナライズされたレコメンデーションと使いやすいインターフェース
  5. 継続段階: 定期的な新コンテンツの追加と予告によるエンゲージメント維持
  6. 推奨段階: 家族や友人との共有機能によるバイラル効果の促進

特に「認知」と「利用」の段階での体験が優れており、顧客満足度と継続率の向上に貢献しています。

顧客体験(CX)設計の特徴

ディズニープラスの顧客体験設計には、以下の特徴があります:

  1. シームレスなマルチデバイス体験: スマートフォン、タブレット、テレビなど異なるデバイス間での一貫した体験
  2. パーソナライズされた推奨: 視聴履歴に基づくコンテンツのパーソナライズ
  3. 直感的なナビゲーション: IPブランドに基づいた明確なカテゴリ分類と検索機能
  4. ダウンロード機能: オフライン視聴によるモバイル環境での利便性向上
  5. 複数プロフィール設定: 家族でのサービス共有を容易にするユーザー管理
  6. 高画質視聴: 4K HDR対応などの高品質視聴環境の提供

これらの特徴により、技術的な複雑さを感じさせることなく、コンテンツの魅力を最大限に引き出す体験設計を実現しています。

見えてきた課題

外部環境からくる課題と対策

  1. 課題: 競合サービスとの差別化の維持
    • 対策: 独占コンテンツの継続的開発と提供、IPの強みを活かした横断的体験の創出
    • 対策: 競合が手薄な教育コンテンツの強化によるファミリー層の囲い込み
  2. 課題: 若年層の視聴行動の変化への対応
    • 対策: ショートフォーム動画など新しい形式のコンテンツ開発
    • 対策: ソーシャルメディアとの連携強化によるコミュニティ形成
  3. 課題: コンテンツ制作コストの上昇
    • 対策: 複数IPを活用したクロスオーバー企画による効率的なコンテンツ制作
    • 対策: ユーザーデータを活用した制作投資の最適化
  4. 課題: サブスクリプション疲れへの対応
    • 対策: バンドル戦略の強化(Hulu、ESPN+などとの組み合わせ)
    • 対策: 会員限定特典の拡充によるロイヤルティ向上

内部環境からくる課題と対策

  1. 課題: 大人向けコンテンツの不足
    • 対策: Starブランドを活用した大人向けコンテンツの拡充
    • 対策: 第三者制作会社との協業による多様なジャンルの開拓
  2. 課題: 日本オリジナルコンテンツの少なさ
    • 対策: 日本のアニメ制作会社やコンテンツホルダーとの戦略的提携強化
    • 対策: 日本市場向けオリジナルコンテンツへの投資増加
  3. 課題: 新規IPの開発速度
    • 対策: 既存IPのスピンオフ展開による効率的な新コンテンツ創出
    • 対策: 中小規模の実験的プロジェクトによる新IP発掘の仕組み構築
  4. 課題: 価格値上げによる競争力低下リスク
    • 対策: 段階的な価格改定と同時期の価値提供強化
    • 対策: 複数の料金プランの導入による柔軟な選択肢の提供

6. 結論:選ばれる理由の統合的理解

これまで整理した情報をもとに、総合的に見て、競合や代替手段がある中でディズニープラスがなぜ選ばれるのでしょうか。

消費者にとっての選択理由

機能的側面

  1. コンテンツの独自性と量: ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズなど他では視聴できない独占コンテンツの豊富さ
  2. 使いやすいインターフェース: 直感的に操作できるUI/UXと明確なブランドカテゴリによる整理
  3. 視聴体験の質: 4K HDR対応やダウンロード機能など、高品質で便利な視聴環境
  4. 複数デバイス対応: スマートフォン、タブレット、PCなど様々なデバイスでシームレスに視聴可能
  5. ペアレンタルコントロール: 家族で安全に使用できる視聴管理機能

感情的側面

  1. ノスタルジー体験: 子ども時代の思い出と結びついた作品への感情的つながり
  2. 魔法と夢の世界: 日常から切り離された特別な世界観への没入体験
  3. 継承の喜び: 自分が愛した作品を次世代に伝える感情的満足感
  4. ファンとしてのアイデンティティ: 好きなフランチャイズの熱心なファンとしての自己認識の強化
  5. 安心と信頼: 長年にわたるディズニーブランドの高品質コンテンツへの信頼感

社会的側面

  1. 家族の絆づくり: 世代を超えて共有できるコンテンツを通じた家族の結びつき強化
  2. コミュニティへの所属: ファンコミュニティの一員としての所属感
  3. 文化的会話への参加: 社会的に話題になる作品についていける安心感
  4. 社会的承認: 流行のコンテンツを視聴することによる文化的資本の獲得
  5. 共有体験の創出: 友人や家族と一緒に楽しむ共有体験の場の提供

市場構造におけるブランドの独自ポジション

ディズニープラスは、以下のような独自のポジションを確立しています:

  1. エンターテイメントとテクノロジーの融合: 伝統的なエンターテイメント企業でありながら、最新のストリーミング技術を活用
  2. 全世代型エンターテイメントの王者: 子どもから大人まで楽しめる幅広い層に訴求するポジション
  3. 家族の信頼を獲得したブランド: 安全性と品質で家族層からの強い信頼を獲得
  4. IPの統合プラットフォーム: 複数の強力なIPを一つのプラットフォームに統合した唯一のサービス
  5. エコシステムの中心: テーマパーク、商品、デジタルコンテンツを結ぶエコシステムのハブとしての役割

競合との明確な差別化要素

ディズニープラスを競合から差別化する主な要素は以下の通りです:

  1. 独占的IPポートフォリオ: ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズなど強力なIPの独占所有
  2. マルチブランド戦略: 個別ブランドの強みを活かした明確なカテゴリ分類とターゲティング
  3. クロスメディア展開: テーマパーク、商品、イベントなど多様なタッチポイントとの連携
  4. 家族向けコンテンツの中心地: 安全で教育的価値のある家族向けコンテンツの充実度
  5. 世代間共有価値: 親世代と子世代が共に楽しめるコンテンツの豊富さ

持続的な競争優位性の源泉

ディズニープラスの持続的な競争優位性は、以下の要素から生み出されています:

  1. IP保有と開発能力: 魅力的なIPを所有・開発し続ける能力と長年の制作ノウハウ
  2. ブランド資産: 100年近い歴史で築き上げた強力なブランド価値と信頼性
  3. 垂直統合モデル: コンテンツの制作から配信までを一貫してコントロールできる構造
  4. エコシステム連携: テーマパーク、商品、配信など多角的事業の相乗効果
  5. データ活用能力: 顧客データを活用したパーソナライズと効率的なコンテンツ制作

7. マーケターへの示唆

我々マーケターはディズニープラスの成功例から何を学べるのでしょうか。

再現可能な成功パターン

  1. ブランド資産の戦略的活用
    • 手法: 既存のブランド資産やIPを棚卸し、新しいプラットフォームやフォーマットでの活用を検討する
    • 実践例: 自社の過去の製品やサービスをノスタルジーマーケティングに活用、レトロデザインの復活
    • メリット: 新規顧客獲得コストの低減、ブランドの継続性の確保
  2. 顧客体験の統合設計
    • 手法: 製品やサービスの個別機能ではなく、顧客のジャーニー全体を設計する
    • 実践例: オンラインとオフラインの体験を連携させたオムニチャネル戦略の構築
    • メリット: 顧客満足度の向上、競合との差別化、顧客生涯価値の増大
  3. 世代間をつなぐ価値提案
    • 手法: 複数世代にまたがる顧客層を想定した製品・サービス設計
    • 実践例: 親子で共有できる体験の提供、世代を超えたコミュニケーションツールの開発
    • メリット: 市場の拡大、口コミの促進、長期的な顧客基盤の構築
  4. 感情的価値の重視
    • 手法: 機能面だけでなく、製品・サービスがもたらす感情的価値を明確に訴求する
    • 実践例: ブランドストーリーの構築、ユーザーの感情体験に焦点を当てたコミュニケーション
    • メリット: プレミアム価格の正当化、顧客ロイヤルティの向上
  5. エコシステム思考
    • 手法: 個別製品・サービスではなく、相互に連携した体験の総体を設計する
    • 実践例: メインプロダクトと周辺サービスの連携、プラットフォーム化
    • メリット: 顧客のスイッチングコスト増加、顧客接点の多様化

業界・カテゴリーを超えて応用できる原則

  1. 感情に基づく消費者理解
    • 表面的なニーズだけでなく、本能的動機や感情的ジョブまで掘り下げた顧客理解
    • 「なぜ」の連鎖を追求し、行動の根源的動機を把握する
    • 消費者が言語化できない欲求に着目した製品・サービス開発
  2. コンテンツマーケティングの戦略的活用
    • 製品・サービスを中心にするのではなく、顧客の関心事やライフスタイルに関連したコンテンツを提供
    • ストーリーテリングを通じた感情的つながりの構築
    • コンテンツを通じたコミュニティ形成と顧客エンゲージメントの向上
  3. マルチブランド戦略
    • 複数の顧客セグメントに効果的にアプローチするための個別ブランドの展開
    • 各ブランドの強みを活かしつつ、全体としての一貫性を維持
    • ブランド間のシナジー効果を最大化するポートフォリオ管理
  4. サブスクリプションモデルの最適化
    • 継続的な価値提供と顧客関係の構築を重視
    • ユーザーデータの活用による体験のパーソナライズと進化
    • 解約率低減のための定期的な新価値の提供
  5. デジタル体験とリアル体験の融合
    • オンラインとオフラインの顧客体験を有機的に連携
    • デジタルとフィジカルの両方の強みを活かした体験設計
    • テクノロジーを活用した新しい体験価値の創造

まとめ

ディズニープラスの成功分析から学べる主要ポイントは以下の通りです:

  • 強力なブランド資産が競争優位性の源泉: ディズニーは100年近い歴史で築いた強力なブランド資産と魅力的なIPポートフォリオを活かし、他では得られない独自の視聴体験を提供しています。
  • 感情的・社会的価値が差別化の鍵: 機能的優位性だけでなく、ノスタルジーや家族の絆といった感情的価値、ファンコミュニティへの所属感といった社会的価値の提供が重要な差別化ポイントになっています。
  • 多世代型アプローチによる市場拡大: 子どもから大人まで複数の世代にまたがるターゲティングにより、単一世代よりも広い市場をカバーし、家族単位での契約を促進しています。
  • エコシステム戦略による相乗効果: ストリーミングサービスをテーマパーク、商品、イベントなど他のビジネスと連携させることで、顧客体験を強化し、複合的な価値を創出しています。
  • コンテンツの質と量のバランス: 高品質なオリジナルコンテンツの開発と豊富なライブラリの提供の両方を重視し、新規顧客の獲得と既存顧客の維持を両立しています。
  • 顧客体験の統合的設計: UIからコンテンツ、推奨アルゴリズムまで、一貫した体験設計により、技術的な複雑さを感じさせることなく魅力的なサービスを提供しています。
  • データ活用による継続的進化: 視聴データの分析に基づいたパーソナライズと新コンテンツ開発により、顧客ニーズに合わせたサービスの継続的な進化を実現しています。

ディズニープラスの成功は、単なる技術的優位性や価格競争ではなく、顧客の深層心理に響く価値提案と一貫した体験設計の結果です。この事例から学ぶべきは、強力なブランドを構築し、顧客との感情的つながりを育み、複数のタッチポイントで一貫した体験を提供することの重要性です。

あなたのビジネスでも、表面的なニーズだけでなく顧客の根源的欲求に応える価値提案を構築し、感情的な絆を育む戦略を考えてみてはいかがでしょうか。

出典:https://disneyplus.disney.co.jp/

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

https://user-in.co.jp/
https://x.com/tomiheyhey

tomiheyをフォローする
シェアする
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました