はじめに
マーケティング担当者の皆さん、AI技術の急速な発展によって、ビジネスの在り方が根本から変わりつつあることを日々感じていませんか？生成AIの登場により、「これまでの常識が通用しなくなる」というのは誰もが理解していながらも、具体的にどのように会社を変革し、新しい戦略を立てていくべきか、道筋が見えづらいのが現状ではないでしょうか。
本記事では、DeNA代表取締役会長の南場智子氏が語るAI時代の経営戦略の動画をもとに、これからの企業が成長するための重要な視点を解説します。南場氏の「AIにオールイン」する姿勢から、私たち一人一人がどのようにAI時代の波に乗るべきなのか、具体的なヒントを得ることができるでしょう。
なお、元となっている動画はこちらから視聴できます。
AI革命の現状と会社経営のパラダイムシフト
AIの進化によって、企業は生産性を「劇的に」向上させることが可能になってきています。南場氏によると、DeNAでは「AIにオールイン」する姿勢を明確にし、一般的な企業運営におけるAIの活用を以下のように捉えています。
「AIを中心に業務を組み替えることが必要になります。半分で現状維持ではなく、半分の人員で現業を成長させ、残りの半分で新規事業をやっていきます。1つの新規事業ではなく、10人1組でユニコーンを量産する」（南場智子氏）
既に起きている生産性革命
AIの導入によって、以下の部門では既に劇的な生産性向上が実現されています。
| 部門 | AIによる生産性向上の例 |
|---|---|
| カスタマーサポート | 自動応答の精度向上、問い合わせ処理の高速化 |
| ソフトウェアエンジニアリング | コード生成の自動化、バグ検出の効率化 |
| マーケティング | パーソナライズされたコンテンツ作成、データ分析の自動化 |
そして今後は、次のような部門にもAIの波が押し寄せます。
| 今後AIが変革する部門 | 予想される変化 |
|---|---|
| 人事（HR） | 採用プロセスの効率化、従業員分析の高度化 |
| 経営企画 | 市場予測の精度向上、戦略立案の迅速化 |
| 経理 | 処理作業の自動化、財務分析の高度化 |
経営者自身のAI活用事例
南場氏は自身もAIを積極的に活用し、業務効率を大幅に向上させていると動画内で語っています。具体的な活用例を見てみましょう。
| AI活用シーン | 活用内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 会議前の情報収集 | 初めて会う人の情報をGoogle NotebookLMに入れる | 効率的な人物理解が可能に |
| 会議中 | CircleBackで会議を記録 | 正確な議事録作成が自動化 |
| 会議後 | AIによるTODOリスト自動生成 | フォローアップが迅速に |
| 投資判断 | ディープリサーチの効率化 | 意思決定の質と速度が向上 |
南場氏はこのように述べています。
「自分自身もすごく楽になった」「基本的にはAIのパワーはホワイトカラー全てに、特にAIエージェントが自動化されると劇的にホワイトカラー全般的に生産性、そして仕事の質が上がる」
AI時代のビジネスモデル転換：10人でユニコーンは現実になる
南場氏は、AIを活用した少人数での大きな事業創出が既に現実になっていると指摘します。
西海岸の事例
アメリカ西海岸のある企業の例では、CEOが朝起きてタスクリストを1つずつAIに割り当て、ソフトウェア開発を進めています。この会社は、わずか7人で3000億円の評価額を持つユニコーン企業に成長したとのことです。
日米のAI活用ギャップ
しかし、AI活用に関しては日米間で大きなギャップがあるという指摘もあります。
| 地域 | AI活用の現状 |
|---|---|
| 米国西海岸 | 「息を吸うように」AIツールを使いこなし、情報交換も活発 |
| 日本 | AIに興奮している経営者の割合が少なく、リスク面の議論が中心 |
南場氏は「危機感を感じる」と述べ、次のように提言しています。
「劇的な生産性の向上はAIを中心に業務を組み替えることが必要になります。これは場合によっては人員の削減につながることもあり、人材の入れ替えを必要とすることも。短期的にはコストが上がることもあります。基本的には痛みを伴う改革です。これはトップが引っ張らなければいけない」
DeNAのAI戦略：オールインと新規事業量産
南場氏が語るDeNAの今後の戦略について、具体的に見ていきましょう。
DeNAのAI戦略の全体像
AIの産業構造における位置取り
南場氏は、生成AIの産業構造を以下のように分析し、DeNAの強みを活かせる領域を明確にしています。
| レイヤー | 内容 | DeNAの戦略 |
|---|---|---|
| チップ | GPUなどの基盤ハードウェア | 参入せず |
| コンピューティングインフラ | クラウド、データセンターなど | 参入せず |
| ファウンデーションモデル | GPT、Claudeなどの基盤モデル | 参入せず |
| 開発ツール | AIアプリ開発のためのツール | 参入せず |
| アプリケーション | エンドユーザー向けAIサービス | ココを狙う |
このアプリケーションレイヤーについて、南場氏は次のように説明しています。
「アプリケーションレイヤーの最大の強みはエンドユーザーに直接触れる、エンドユーザーのユースケースやニーズを直接受け止められる唯一のレイヤーです。このニーズを直接受け止めて、そして付加価値に変えていく」
B2B向け戦略：バーティカルAIエージェント
DeNAはB2B向けには、特定の業界や業務に特化した「バーティカルAIエージェント」に注力します。
南場氏によると、バーティカルAIエージェント市場は急速に成長しており、「Y Combinatorのプロジェクト」などが多く立ち上がっているといいます。DeNAは自社の強みがある領域から展開し、遠い領域はM&Aも活用する方針です。
B2C向け戦略：没入感とコミュニティ
消費者向けサービスについては、没入感やコミュニティ、孤独の解消といった要素に注目しています。南場氏は、この領域では中国の動向も参考にしながら、独自の発想で面白いサービスを展開していく考えを示しています。
AI時代の経営変革の本質：創造的業務へのシフト
南場氏は、AI導入による経営変革の本質について、2021年に同社が実施した「クラウドシフト」との類似性を指摘しています。
クラウドシフトとAIシフトの類似性
| 変革 | 変革前の状況 | 変革後の成果 | 本質的な変化 |
|---|---|---|---|
| クラウドシフト | 自社インフラの運用・管理 | 運用効率化、コスト最適化 | エンジニアが創造的業務に集中 |
| AIシフト | 指示通りの反復作業 | 業務自動化、生産性向上 | 全社員が創造的業務に集中可能 |
南場氏はAIシフトの本質をこう説明します。
「クラウドシフトはエンジニアだけだったんですけれども、AIシフトは全社員にいえると思うんです。全社員が指示通りにやる仕事からどんどん解放されて、創造的な仕事にフォーカスすることができる。それがAIシフトの一番の本質かな」
インターネット革命と同様のチャンス：第二の創業
南場氏は現在のAI革命を、1990年代後半のインターネット革命と重ね合わせています。
見えている未来と現状のギャップ
「数年後、全産業にAIが行き渡る。これは確かな未来だと思います。例えば薬局。5年後10年後、AIエージェントのパワーを必ずや活用しています。ところが今、AIエージェントの力を活用している薬局はほとんどない。全普及がほぼ確定されているのに今ほとんどないというこのギャップ。これは1990年代後半のインターネットです」
DeNAは1999年に誕生し、インターネット革命の波に乗って成長しました。南場氏は、AIについても同様の姿勢で臨むことで「第二の創業」の機会にしたいと語っています。
AI時代に求められる人材像の変化
AI時代には、必要とされる人材像も変わってくると南場氏は指摘します。
エンジニアの需要は減るのか増えるのか
よく議論される「AIによってエンジニアは不要になるのか」という問いに対し、南場氏は明確な考えを示しています。
「エンジニア不要になるんじゃないかという議論がありますが、私はそれはノーだという風に思います。100年後は全然違う世界かもしれませんけれども、見える未来に関してはエンジニアに対する需要は高まる」
AI時代に重要になる人材の特性
| 人材タイプ | 重要となる理由 |
|---|---|
| AI専門家 | AIの技術的知見が全産業で必要に |
| AIサビー/AIフレンドリーな人材 | AIを用いて創造できる人材の価値が上昇 |
| 業界知識/業務知識を持つ人材 | AIと組み合わせる専門知識の重要性が増大 |
| 顧客基盤へのアクセスを持つ人材 | 顧客接点の価値が高まる |
| 「意思起点力」を持つ人材 | 物事を起こす意思、夢中になる力、欲求を持つ人の価値が上昇 |
南場氏は特に「意思起点力」の重要性を強調し、日本の教育についても言及しています。
「仕事がどんどん濃くなりますから、薄い仕事は全部コンピューターに任せるとなるので、意思起点力というものがすごく重要になる。一方で日本の教育を考えると、正解を言い当てる、一律な環境で一律なパターンで学習をしていくという教育システムがまだ変わっていない。AI時代に求められる教育に大胆に変えていく必要がある」
AI革命の波に乗るための行動指針
最後に南場氏は、AI革命の「今」が重要であることを強調します。
「78万円投資をする人だけが主役なんではありません。今ここです、日本も世界も。事業機会は階段状に上がっていきます。要は波を掴むかどうかだと思っています。主役は一般の企業、大企業に関わらず一般の企業全て、そして一般の個人全てにこの主役の可能性がある」
個人としてのAI活用の可能性
南場氏は、AIエージェントを活用することで個人の生産性も飛躍的に向上すると述べています。
「AIエージェントを使い倒して、10倍あるいはそれ以上の仕事ができる可能性が現実のものとして感じられている。100年分の仕事ができるぞと思って張り切っています」
まとめ
南場智子氏のAI時代の経営戦略からの主なポイントをまとめます。
✅ AIにオールイン: 半分の人員で現業を成長させ、残りの半分で新規事業を創出
✅ 生産性の劇的向上: AIを中心に業務を再構築することで可能に
✅ アプリケーションレイヤーに注力: エンドユーザーのニーズを直接受け止め、付加価値に変換
✅ バーティカルAIエージェント: 業界特化型のAIソリューションがビジネスチャンス
✅ AIシフトの本質: 全社員が創造的業務にフォーカスできるようになること
✅ インターネット革命と同様の機会: 普及が確定的な未来と現状のギャップに事業機会
✅ AI時代の人材: エンジニア需要は増加、「意思起点力」を持つ人材の価値が向上
✅ 今がチャンス: AIの波に乗るのは大企業も個人も今が絶好の機会
AI技術の進化はビジネスの在り方を根本から変えつつあります。南場氏の視点からも明らかなように、AIをただの業務効率化ツールとしてではなく、事業構造そのものを変革する契機として捉え、積極的に活用していくことが重要です。マーケティング担当者の皆さんも、AIをどのように自社のビジネスに組み込み、新たな価値を創出していくか、今こそ真剣に考える時期に来ているのではないでしょうか。
