機能を売るな、価値を売れ!顧客の「ありたい姿」を実現する価値提案の作り方 - 勝手にマーケティング分析
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機能を売るな、価値を売れ!顧客の「ありたい姿」を実現する価値提案の作り方

機能を売るな、価値を売れ! 顧客の「ありたい姿」を実現する価値提案の作り方 マーケの応用を学ぶ
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はじめに

「うちの商品は他社より高機能なのに、なぜ売れないんだろう?」

こんな悩みを抱えているマーケターの方、多いのではないでしょうか。実は、現代の消費者は機能そのものを買っているのではありません。彼らが本当に求めているのは、その商品やサービスを使って実現できる「ありたい姿」や「理想の状態」なのです。

多くの企業が犯している間違いは、商品の機能や特徴ばかりを前面に押し出してしまうことです。しかし、顧客は機能を買うのではなく、その機能がもたらす価値を買っています。そして、その価値の先にある「自分がなりたい姿」を実現したいと思っているのです。

本記事では、有名な「ドリルの穴」の話を出発点に、機能→便益→価値という3段階の価値提案フレームワークを詳しく解説します。さらに、実際の企業事例を交えながら、顧客の本当の欲求を理解し、それに応える価値提案を作る具体的な方法をお伝えします。

「ドリルの穴」から学ぶ価値提案の本質

有名な格言の真の意味

ハーバード・ビジネス・スクールのセオドア・レヴィット教授の有名な言葉があります。

「人々はドリルが欲しいのではない。穴が欲しいのだ」

この言葉は、マーケティングの世界では非常に有名ですが、実はここにはさらに深い洞察が隠されています。顧客は本当に「穴」が欲しいのでしょうか?

価値提案の3つの段階

実際のところ、顧客の欲求はもっと複雑で段階的です。ドリルの例で考えてみましょう:

段階内容具体例
機能レベル商品・サービスの機能や特徴高回転数、軽量設計、長寿命バッテリー
便益レベル機能がもたらす直接的な利益効率的に穴を開けられる、疲れにくい
価値レベル顧客のありたい姿・理想の状態DIYを楽しむ生活、自分らしい空間の実現

多くの企業は「機能レベル」で止まってしまいがちですが、顧客が本当に求めているのは「価値レベル」なのです。

顧客の本当の欲求を探る

例えば、壁に穴を開けたい人の真の欲求を深掘りしてみると:

graph TD A[ドリルで穴を開ける] --> B[壁に棚を取り付ける] B --> C[本や小物を整理する] C --> D[部屋がスッキリ片付く] D --> E[快適で居心地の良い空間] E --> F[リラックスできる理想の生活]

このように、顧客の欲求には 因果関係の連鎖 があります。ドリルを売る企業は、最終的な「リラックスできる理想の生活」という価値を提案できれば、はるかに強いメッセージを伝えることができるのです。

機能・便益・価値の3段階フレームワーク

フレームワークの概要

顧客の価値提案を段階的に整理するために、以下の3段階フレームワークを活用しましょう:

段階定義顧客の関心度アプローチ方法
機能(Features)商品・サービスの具体的な機能や特徴スペック説明、技術的優位性
便益(Benefits)機能から生まれる直接的な利益や効果使用効果、問題解決能力
価値(Value)顧客のありたい姿や理想的な状態感情的共感、ライフスタイル提案

各段階の詳細解説

1. 機能(Features)段階

特徴: 商品やサービスの「何ができるか」を説明する段階です。

例:

  • スマートフォン:「4Kカメラ搭載」「大容量バッテリー」
  • 洗剤:「99.9%除菌」「漂白剤不要」
  • 車:「燃費30km/L」「自動運転機能」

問題点: 機能だけでは顧客の心に響きにくく、競合との差別化も困難です。

2. 便益(Benefits)段階

特徴: 機能が顧客にもたらす直接的な利益を説明する段階です。

例:

  • スマートフォン:「美しい写真が撮れる」「一日中使える安心感」
  • 洗剤:「除菌で家族の健康を守る」「色物も安心して洗える」
  • 車:「燃料費を節約できる」「安全で快適な移動」

改善点: 便益は機能よりも顧客に響きますが、まだ表面的な価値に留まっています。

3. 価値(Value)段階

特徴: 顧客の感情や理想のライフスタイルに訴えかける段階です。

例:

  • スマートフォン:「大切な瞬間を美しく記録し、家族との絆を深める」
  • 洗剤:「家族の笑顔あふれる清潔で安心な生活」
  • 車:「環境に優しく、家族との時間を大切にするライフスタイル」

段階を上がるほど強くなる訴求力

graph LR A[機能] --> B[便益] --> C[価値] A --> A1[論理的訴求] B --> B1[実用的訴求] C --> C1[感情的訴求] A1 --> A2[弱い] B1 --> B2[中程度] C1 --> C2[強い]

顧客の購買決定において、感情的な要素は論理的な要素よりもはるかに強い影響力を持ちます。そのため、価値段階での訴求が最も効果的なのです。

顧客のJOB理論と価値提案の関係

JOB理論とは

クレイトン・クリステンセン教授が提唱した「JOB理論」によると、顧客は商品を「雇用」して、自分の「JOB(仕事・課題)」を解決しようとします。この理論を価値提案に活用することで、より深い顧客理解が可能になります。

オルタネイトモデルによる顧客理解

株式会社コレクシアが開発したオルタネイトモデルを使って、顧客のJOBを構造化してみましょう:

要素説明価値提案への活用
きっかけ何をしている時、どこで、誰と、いつ適切なタイミングでの価値提案
欲求達成したいこと、解決したい課題価値レベルでの訴求ポイント
抑圧欲求実現を妨げる物理的・心理的・社会的要因障害を取り除く便益の提案
報酬欲求が満たされた時の良い状態理想のありたい姿の明確化

実践例:コーヒーチェーンの価値提案

あるコーヒーチェーンの顧客分析を例に見てみましょう:

段階分析内容価値提案
きっかけ朝の通勤前、自宅近く、一人で、出勤時間忙しい朝の時間帯に合わせたサービス
欲求一日を気持ちよくスタートしたい「素晴らしい一日の始まり」を提案
抑圧時間がない、価格が気になる短時間での提供、手頃な価格設定
報酬エネルギーに満ちた充実した一日「あなたらしい最高の一日」というメッセージ

このように分析することで、単なる「美味しいコーヒー」ではなく、「理想的な一日のスタート」という価値を提案できるようになります。

実際の企業事例から学ぶ価値提案

事例1:Apple iPhone

Appleは機能ではなく、価値で勝負している代表例です。

段階内容
機能高性能カメラ、Face ID、A17 Proチップ
便益美しい写真撮影、セキュア認証、スムーズな操作
価値「Think Different」創造性を解放し、自分らしさを表現する

Appleの広告を見ると、スペックの説明はほとんどありません。代わりに、iPhoneを使って創造的な作品を作る人々の姿や、家族との大切な瞬間を記録する様子が描かれています。

事例2:Nike

Screenshot

Nikeのブランドメッセージ「Just Do It」も価値提案の好例です。

段階内容
機能軽量素材、衝撃吸収、グリップ力
便益快適な走り、疲労軽減、パフォーマンス向上
価値「限界を超えて成長する自分」「夢を実現する挑戦者」

Nikeの広告では、商品の機能説明よりも、アスリートが困難を乗り越えて成功を掴む物語が中心となっています。

事例3:Starbucks

Starbucksは「第三の場所」という価値を提案しています。

段階内容
機能高品質コーヒー、快適な座席、Wi-Fi
便益美味しいコーヒー、作業環境、リラックス空間
価値「家でも職場でもない、自分らしくいられる特別な場所」

実際に、Starbucksの店舗設計やサービスは、顧客が理想とするライフスタイルを実現できるように緻密に計算されています。

事例4:Tesla

Screenshot

Teslaは単なる電気自動車メーカーではありません。

段階内容
機能電気駆動、自動運転、高速充電
便益環境負荷軽減、運転負担軽減、燃料費削減
価値「持続可能な未来を創る先駆者」「テクノロジーで社会を変える」

Teslaを購入する顧客の多くは、単に車が欲しいのではなく、環境意識の高い革新的な自分を表現したいと考えています。

価値提案を作るための具体的手法

ステップ1:顧客のJOBを深掘りする

Why思考の活用

顧客の行動や欲求に対して、5回「なぜ?」を繰り返してみましょう。

例:フィットネスジムの場合

graph TD A[ジムに通いたい] --> B[なぜ? 運動したいから] B --> C[なぜ? 健康になりたいから] C --> D[なぜ? 長く元気でいたいから] D --> E[なぜ? 家族との時間を大切にしたいから] E --> F[なぜ? 愛する人との幸せな人生を送りたいから]

この分析により、ジムは「筋肉を鍛える場所」ではなく、「愛する人との幸せな人生を実現する場所」として価値提案できます。

ステップ2:顧客の感情マップを作成する

顧客が商品・サービスを利用する前後の感情の変化を可視化します。

フェーズ課題・不安理想・期待感情
利用前時間がない、方法がわからない効率的に解決したい不安、焦り
利用中うまくいくか心配スムーズに進めたい緊張、期待
利用後本当に効果があったか満足感を得たい安心、達成感

ステップ3:価値提案キャンバスの作成

以下のテンプレートを使って、包括的な価値提案を設計します。

項目内容
顧客のJOB顧客が達成したい根本的な目標
ペイン(痛み)目標達成を阻む障害や不安
ゲイン(利得)目標達成時に得られる価値
ペインリリーバー痛みを和らげる機能・サービス
ゲインクリエイター利得を最大化する機能・サービス
プロダクト・サービス具体的な提供内容

ステップ4:価値提案ステートメントの作成

最終的に、以下の形式で価値提案をまとめます:

「(ターゲット顧客)のために、(根本的なJOB)を、(独自の方法)で実現し、(理想のありたい姿)を提供します」

例:

  • 「忙しいビジネスパーソンのために、健康的なライフスタイルを、短時間で効率的なトレーニングで実現し、エネルギッシュで充実した毎日を提供します」

ステップ5:価値提案の検証と改善

A/Bテストでの検証

異なる段階の価値提案でA/Bテストを実施し、効果を測定します。

テストパターン訴求内容測定指標
パターンA機能中心のメッセージクリック率、コンバージョン率
パターンB便益中心のメッセージエンゲージメント率、滞在時間
パターンC価値中心のメッセージブランド認知度、口コミ

顧客インタビューによる深掘り

定期的に顧客インタビューを実施し、価値提案が実際の欲求に合致しているかを確認します。

重要な質問例:

  • 「この商品/サービスを使う前と後で、どんな変化がありましたか?」
  • 「理想の状態を実現するために、他にどんな障害がありますか?」
  • 「最終的に、どんな自分になりたいですか?」

組織全体で価値思考を浸透させる方法

価値思考の文化づくり

1. 経営陣のコミットメント

価値提案の重要性を経営陣が理解し、組織全体にメッセージを発信することが重要です。

2. 部門横断的なワークショップ

マーケティング部門だけでなく、営業、開発、カスタマーサポートなど、すべての部門が価値思考を共有する場を設けます。

3. 顧客の声を共有する仕組み

定期的に顧客の生の声を社内で共有し、価値提案の効果を実感できる環境を作ります。

価値思考の評価指標

従来の売上や利益だけでなく、以下の指標も重視します:

指標説明測定方法
顧客満足度提供価値への満足度NPS、CSAT調査
ブランド愛着度感情的なつながりの強さブランド調査
口コミ・紹介率自発的な推奨行動紹介経由売上比率
リピート率継続的な価値提供の証明再購入率、継続率

継続的改善のサイクル

graph LR A[顧客理解] --> B[価値提案設計] B --> C[実行・測定] C --> D[分析・改善] D --> A A --> A1[インタビュー・調査] B --> B1[価値提案キャンバス] C --> C1[A/Bテスト] D --> D1[データ分析]

この継続的改善サイクルを回すことで、常に顧客のニーズに合った価値提案を提供し続けることができます。

業界別・価値提案のポイント

BtoB企業の場合

特徴: 論理的な判断が重視されがちですが、最終的には感情的な要素も重要です。

価値提案のポイント:

  • 業務効率化→時間創出→戦略的業務への集中→事業成長
  • コスト削減→利益改善→投資余力→新たなチャレンジ

例: CRMシステム

  • 機能:顧客データの一元管理
  • 便益:営業効率の向上
  • 価値:「データドリブンで顧客に愛される会社への変革」

BtoC企業の場合

特徴: 感情的な要素がより強く影響します。

価値提案のポイント:

  • ライフスタイルや自己実現との関連付け
  • 社会的なステータスや所属感
  • 感情的な共感やストーリー

例: 高級化粧品

  • 機能:保湿、美白、エイジングケア
  • 便益:肌の改善、美しさの向上
  • 価値:「自信に満ちた魅力的な自分らしさの表現」

サービス業の場合

特徴: 体験や感情的価値が中心となります。

価値提案のポイント:

  • 顧客体験全体の設計
  • 感情的な満足度
  • 思い出や関係性の創出

例: ホテル

  • 機能:宿泊、食事、会議室
  • 便益:快適な滞在、効率的な出張
  • 価値:「特別な時間と忘れられない体験の提供」

まとめ

現代のマーケティングにおいて、機能や便益だけでは顧客の心を動かすことは困難です。真に顧客に響く価値提案を作るためには、顧客の「ありたい姿」や「理想の状態」を深く理解し、それを実現するための価値を提供する必要があります。

Key Takeaways

  • 機能から価値への転換: 商品・サービスの機能ではなく、顧客のありたい姿を実現する価値を提案する
  • 3段階フレームワーク: 機能→便益→価値の順で段階的に価値提案を深める
  • JOB理論の活用: 顧客が本当に解決したい根本的なJOBを理解する
  • 感情的訴求の重要性: 論理的な便益よりも感情的な価値の方が強い購買動機となる
  • Why思考の実践: 「なぜ?」を5回繰り返して顧客の真の欲求を探る
  • 継続的改善: 顧客理解→価値提案設計→実行測定→分析改善のサイクルを回す
  • 組織全体での共有: マーケティング部門だけでなく全社で価値思考を浸透させる

ドリルの例に戻ると、顧客が本当に求めているのは「ドリル」でも「穴」でもなく、「自分らしい理想的な生活空間の実現」なのです。この深い洞察を得ることで、競合他社との差別化を図り、顧客から選ばれ続けるブランドを構築することができるでしょう。

今日から、あなたの商品・サービスも「機能」ではなく「価値」で語ってみませんか?きっと顧客との関係性が大きく変わるはずです。

この記事を書いた人
tomihey

本ブログの著者のtomiheyです。失敗から学び続けてきたマーケターです。
BtoB、BtoC問わず、デジタルマーケティング×ブランド戦略の領域で14年間約200ブランド(分析数のみなら500ブランド以上)のマーケティングに関わり、「なぜあの商品は売れて、この商品は売れないのか」の再現性を見抜くスキルが身につきました。
本ブログでは「理論は知ってるけど、実際どうやるの?」というマーケターの悩みを解決するノウハウや、実際のブランド分析事例を紹介しています。
現在はマーケティング戦略/戦術の支援も実施していますので、詳しくは下記リンクからご確認ください。一緒に「売れる理由」を解明していきましょう!

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