はじめに
マーケティング担当者の皆さん、こんな経験はありませんか?
- 商品の差別化ポイントを一生懸命考えたのに、消費者の反応がイマイチ
- 競合他社との違いを強調しても、売上が伸びない
- 消費者が何を求めているのか、よくわからない
もしこれらの悩みに心当たりがあるなら、あなたは間違いなく正しい記事にたどり着きました。
この記事では、「消費者は本当に商品の差別化に興味があるのか」という根本的な疑問に答えていきます。そして、消費者が本当に求めているものは何か、マーケターとしてどのようなアプローチをすべきかを、具体的な事例やデータを交えながら解説していきます。
消費者は本当に商品の差別化に興味がないのか?
差別化戦略の限界
多くのマーケターは、自社商品を競合他社と差別化することが重要だと考えています。しかし、実際のところ、消費者は本当にその「違い」に興味を持っているのでしょうか?
コレクシア執行役員の芹澤連氏は、著書『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』の中で、次のように述べています。
差別化はマージン面での成長要因としては大きいですが、ボリューム面の成長要因としては控えめなようです。
つまり、差別化戦略は利益率を上げるには効果的かもしれませんが、売上を大きく伸ばすには限界があるということです。
実際、カンターの調査によると、ブランドの成長要因は以下のような割合になっています。
成長要因 | ボリューム面 | マージン面 |
---|---|---|
想起性 | 42% | 6% |
意義性 | 38% | 45% |
差別性 | 20% | 49% |
(出典:https://webtan.impress.co.jp/e/2022/08/23/43194)
この結果から、差別化(差別性)は売上を増やすよりも、利益率を上げるのに効果的であることがわかります。
消費者の本音:「違い」よりも「解決」
では、消費者は何に興味があるのでしょうか?答えは意外にシンプルです。
消費者が本当に求めているのは、自分の問題や欲求を解決してくれる商品やサービスです。
マーケティングの世界では、これを「ジョブ理論」と呼びます。ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱したこの理論によると、消費者は特定の「ジョブ(仕事)」を達成するために商品やサービスを「雇う」のだと考えます。
例えば、人々がミルクシェイクを買う理由を調査したところ、朝の通勤時に「退屈しのぎ」と「空腹を満たす」という2つのジョブを同時に達成するために購入していることがわかりました。
つまり、消費者にとって重要なのは、商品の特徴や他社との違いではなく、その商品が自分の生活の中で果たす役割なのです。
消費者は何に興味があるのか
自分のジョブを解決すること
前述のジョブ理論に基づくと、消費者が本当に興味を持つのは、自分の抱える問題や欲求(ジョブ)を解決してくれる商品やサービスです。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 時間の節約
- ストレスの軽減
- 社会的地位の向上
- 健康の維持・改善
- 楽しさや喜びの獲得
例えば、忙しい現代人にとって「時間の節約」は重要なジョブの一つです。この観点から見ると、インスタント食品や配食サービスの人気が理解できます。これらの商品やサービスは、「調理時間の短縮」というジョブを解決してくれるからです。
経験価値と共感
近年の消費者トレンドとして、「モノ」よりも「コト」、つまり経験価値を重視する傾向が強まっています。
経済産業省の「消費インテリジェンス研究会」の報告書によると、以下のような消費者の変化が見られます:
- 消費する対象が所有価値(モノ)から体験価値(コト)に変化
- 消費者自身が単に消費するだけでなく、自ら商品を作り、提供者になるなどの変化
(出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/shokeishin/tokutei_shotorihiki/pdf/h29_001_s00_00.pdf)
このような変化は、消費者が単なる商品の機能や特徴ではなく、その商品を通じて得られる経験や感情に価値を見出していることを示しています。
また、ブランドや企業の価値観に共感できるかどうかも、消費者の興味を引く重要な要素となっています。例えば、環境に配慮した商品を選ぶ消費者が増えているのは、その商品を通じて自分の価値観を表現したいという欲求の表れと言えるでしょう。
口コミと信頼性
消費者庁の「消費者意識基本調査」によると、若者が商品やサービスの購入を検討する際に重視する情報源として、以下のものが上位に挙げられています:
- SNSでの口コミ・評価(約50%)
- 友人・知人(約30%)
- 公式サイト(約30%)
(出典:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2022/white_paper_131.html)
この結果は、消費者が企業からの一方的な情報よりも、実際に使用した人の声や信頼できる人からの推薦を重視していることを示しています。
つまり、消費者は単に商品の特徴や差別化ポイントに興味があるのではなく、その商品が実際に役立つのか、信頼できるのかという点に関心を持っているのです。
マーケターは差別化ではなく何をするべきか
1. ジョブ視点でのマーケティング
商品の特徴や競合との違いを強調するのではなく、その商品が解決する「ジョブ」に焦点を当てたマーケティングを行いましょう。
具体的なアプローチ:
- 顧客インタビューやアンケートを通じて、ターゲット層が抱える問題や欲求を深掘りする
- 自社商品がどのようにそれらの問題を解決するか、具体的なシナリオを描く
- マーケティングメッセージを「機能」ではなく「解決できること」にフォーカスして構築する
例えば、掃除機のマーケティングを考えてみましょう。
- 従来の差別化アプローチ:「業界最強の吸引力!」「他社にはない独自のフィルター技術」
- ジョブ視点のアプローチ:「忙しい毎日でも、10分で部屋中ピカピカに」「アレルギーの心配なく、快適な空間を」
後者のアプローチの方が、消費者の実際の悩みや欲求に直接訴えかけることができます。
2. 経験価値の創出
商品やサービスそのものだけでなく、それを通じて得られる経験や感情に注目しましょう。
具体的なアプローチ:
- 商品やサービスを通じて得られる「体験」をストーリー化する
- SNSなどを活用し、ユーザーの実際の使用シーンや感想を共有する
- オフライン・オンラインでのイベントやコミュニティを通じて、ブランドとの接点を増やす
例えば、コーヒーショップのマーケティングを考えてみましょう。
- 従来の差別化アプローチ:「最高品質の豆を使用」「独自のロースト技術」
- 経験価値重視のアプローチ:「忙しい朝に、ほっと一息つける贅沢な時間」「仲間と語り合う、居心地の良い空間」
後者のアプローチは、単にコーヒーを飲むという行為を超えた価値を提供することで、消費者の心に響くメッセージを発信できます。
3. 信頼性の構築とコミュニティ形成
商品の特徴を一方的に伝えるのではなく、実際のユーザーの声や体験を中心に据えたマーケティングを展開しましょう。
具体的なアプローチ:
- ユーザーレビューやテスティモニアルを積極的に活用する
- インフルエンサーマーケティングを効果的に取り入れる
- ブランドコミュニティを形成し、ユーザー同士の交流を促進する
例えば、スキンケア商品のマーケティングを考えてみましょう。
- 従来の差別化アプローチ:「独自の美容成分配合」「特許取得の技術」
- 信頼性重視のアプローチ:「実際に使用した1000人の before/after」「美容のプロが選ぶ、本当に効く商品」
後者のアプローチは、第三者の評価や実際の効果を示すことで、消費者の信頼を獲得しやすくなります。
4. 顧客との共創
消費者を単なる「買い手」ではなく、価値創造のパートナーとして捉えるアプローチも効果的です。
具体的なアプローチ:
- 商品開発段階から顧客の意見を取り入れる
- カスタマイズやパーソナライゼーションの要素を取り入れる
- ユーザー投稿型のコンテンツを活用する
例えば、スニーカーブランドのマーケティングを考えてみましょう。
- 従来の差別化アプローチ:「最新のクッション技術搭載」「デザイナーコラボレーションモデル」
- 共創重視のアプローチ:「あなたのアイデアが次の限定モデルに」「自分だけのカスタムデザインを作ろう」
後者のアプローチは、消費者に主体性を持たせることで、より深い engagement を生み出すことができます。
まとめ
本記事の key takeaways は以下の通りです。
- 消費者は商品の「差別化」そのものには大きな興味を持っていない
- 消費者が本当に求めているのは、自分の問題や欲求(ジョブ)を解決してくれる商品やサービス
- 経験価値、共感、信頼性が消費者の興味を引く重要な要素となっている
- マーケターは差別化ではなく、ジョブ視点でのマーケティング、経験価値の創出、信頼性の構築、顧客との共創に注力すべき
これらの点を踏まえ、消費者の本当のニーズに寄り添ったマーケティング戦略を展開することで、より効果的なアプローチが可能になるでしょう。
最後に、マーケティングの世界は常に変化しています。消費者の声に耳を傾け、柔軟に戦略を調整していくことが、長期的な成功につながる鍵となるでしょう。