解約・失注データから事業成長を加速させる方法:顧客傾向分析で事業を改善 - 勝手にマーケティング分析
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解約・失注データから事業成長を加速させる方法:顧客傾向分析で事業を改善

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はじめに

マーケティング担当者の皆さん、こんな経験はありませんか?せっかく獲得した顧客が次々と解約していく。営業チームが必死に提案しても、なぜか競合に負け続ける。そんな状況でどうすれば良いのか頭を抱えていませんか?

多くの企業が顧客獲得に力を入れる一方で、既存顧客の解約防止や失注分析にはあまり注力していません。しかし、新規顧客獲得のコストは既存顧客維持の5〜25倍もかかるというデータもあり、顧客の離脱を防ぐことは事業成長において極めて重要です。

本記事では、顧客の解約や失注の傾向を分析し、それを事業改善に活かす方法について詳しく解説します。データの収集方法から分析手法、実際の活用事例まで、すぐに実践できる内容をお届けします。これらの知識を身につけることで、顧客離脱の真因を突き止め、持続的な事業成長を実現しましょう。

顧客傾向分析の基礎知識

解約・失注分析とは何か?

解約・失注分析とは、自社の製品やサービスを使うのをやめた顧客(解約顧客)や、営業活動はしたものの契約に至らなかった見込み客(失注顧客)の特徴や理由を分析することです。この分析を通じて、顧客離脱の真因を特定し、製品改善やマーケティング戦略の最適化に役立てることができます。

解約分析と失注分析の違い

分析タイプ定義目的活用例
解約分析一度契約した顧客が解約した理由や傾向を調査・分析すること顧客維持率の向上、製品・サービスの改善サブスクリプションの解約理由分析、既存顧客の満足度向上
失注分析商談が発生したにもかかわらず、成約に至らなかった案件の理由や傾向を調査・分析すること受注率の向上、販売プロセスの改善競合との比較分析、提案内容や価格戦略の見直し

なぜ解約・失注分析が重要なのか?

1. 経済的メリット

既存顧客の維持は新規顧客獲得より低コスト

ハーバードビジネスレビューの研究によると、新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの5〜25倍にもなります。つまり、解約を防止することで、マーケティングコストを大幅に削減できるのです。

顧客生涯価値(LTV)の向上

顧客維持率が5%向上すると、利益は25%から95%増加するというデータもあります。これは顧客が長く関係を続けるほど、クロスセルやアップセルの機会が増え、1顧客あたりの収益性が高まるためです。

2. 製品・サービスの改善

解約・失注理由を分析することで、自社製品やサービスの弱点を特定できます。これは競合に対する差別化ポイントを見つけたり、製品開発の優先順位を決める上で貴重な情報となります。

3. 競合分析としての価値

失注分析は、競合企業の強みや自社の弱みを明らかにします。特に「何で競合に負けたのか?」という情報は、競合分析の重要な要素となります。

4. 予測分析への活用

過去の解約パターンを分析することで、将来解約しそうな顧客を予測することが可能になります。この予測に基づいて先手を打つことで、解約を未然に防止できます。

解約・失注分析の基本フレームワーク

解約・失注分析を効果的に行うためには、以下のフレームワークを活用するとよいでしょう。

5W1H分析

顧客の離脱を5W1H(Who、What、When、Where、Why、How)で整理します。

要素分析ポイント具体例
Who(誰が)どのような属性の顧客が解約/失注しているか業種、企業規模、役職、利用期間
What(何を)どの製品・サービス・プランで解約/失注が多いか特定の機能、価格帯、サービスプラン
When(いつ)いつ解約/失注が発生しているか契約直後、更新時期、特定のシーズン
Where(どこで)どの地域・チャネルで解約/失注が発生しているか地理的要因、販売チャネル、導入部門
Why(なぜ)なぜ解約/失注したのか不満点、競合選定理由、予算制約
How(どのように)どのようなプロセスで解約/失注に至ったか決裁者の変更、社内検討プロセス

カスタマージャーニーマッピング

顧客が製品・サービスを認知してから解約するまでの体験を時系列で可視化し、どの段階で問題が発生しているかを特定します。

graph LR A[認知] --> B[検討] B --> C[購入] C --> D[利用] D --> E[更新検討] E --> F[解約] style A fill:#d4f1f9,stroke:#333 style B fill:#d4f1f9,stroke:#333 style C fill:#d4f1f9,stroke:#333 style D fill:#d4f1f9,stroke:#333 style E fill:#ffcccc,stroke:#333 style F fill:#ffcccc,stroke:#333

各段階で顧客の行動、感情、課題を分析することで、解約・失注のリスクが高まるポイントを特定できます。

コホート分析

同じ時期に獲得した顧客グループ(コホート)の解約率を時系列で追跡することで、特定の要因が解約率に与える影響を分析します。

例えば、2023年1月に獲得した顧客と2023年2月に獲得した顧客の解約率を比較して、その差異から改善策を検討できます。

graph TD A[顧客獲得時期でグループ化] --> B[各コホートの解約率を追跡] B --> C[コホート間の差異を分析] C --> D[施策の効果測定] style A fill:#d4f1f9,stroke:#333 style B fill:#d4f1f9,stroke:#333 style C fill:#d4f1f9,stroke:#333 style D fill:#d4f1f9,stroke:#333

解約・失注データの収集と管理方法

必要なデータの種類と収集方法

解約・失注分析を効果的に行うためには、適切なデータ収集が不可欠です。以下に収集すべきデータの種類と収集方法を示します。

解約データ

データ種類具体例収集方法
基本情報顧客ID、会社名、契約開始日、解約日CRMシステム、契約管理システム
利用状況ログイン頻度、利用機能、利用率プロダクト分析ツール(Google Analytics、Mixpanel等)
顧客属性業種、企業規模、役職、地域契約時の情報、CRMシステム
解約理由公式な解約理由、詳細なフィードバック解約アンケート、解約インタビュー
コミュニケーションサポート問い合わせ履歴、満足度サポート管理ツール、NPS調査

失注データ

データ種類具体例収集方法
案件基本情報案件ID、企業名、商談発生日、失注日CRMシステム、営業管理ツール
見込み客情報業種、規模、役職、地域営業活動記録、CRMシステム
営業プロセス提案内容、面談回数、決裁者との接触営業活動記録、提案資料
失注理由公式な失注理由、競合情報失注報告、営業担当者からのヒアリング
予算・価格情報予算範囲、提示価格、値引き状況提案書、見積書

データ収集のポイント

1. 解約アンケートの設計

解約時のアンケートは貴重な情報源ですが、設計が重要です。

  • 選択肢と自由記述を組み合わせる
  • 解約理由の優先順位を付けてもらう
  • 必要最小限の質問に絞り、回答率を高める

実際のアンケート例:

質問タイプ具体的な質問例
選択式(主要な理由)「以下の選択肢から、解約の主な理由を選んでください」
□ 価格が高い
□ 必要な機能がない
□ 使いにくい
□ 競合製品に乗り換え
□ 予算の削減
□ その他
優先順位付け「解約の理由となった要素に順位をつけてください(1=最も重要)」
自由記述「より詳しく解約理由を教えていただけますか?」
改善点「どのような改善があれば、継続して利用いただけましたか?」

2. 失注ヒアリングシートの活用

営業担当者が失注情報を一貫した形式で報告できるよう、標準化されたヒアリングシートを作成しましょう。

失注ヒアリングシートの例:

項目内容
基本情報案件名、担当者、失注日
失注理由[選択式] 価格、機能、サポート、競合、予算、その他
決定打となった要素競合との最終的な決め手は何だったか
意思決定者最終決定を下した人物と役職
提示した価格最終提案価格、値引き率
競合情報選定された競合製品・サービス、提示価格(分かれば)
今後のアクションフォローアップの予定、再提案の可能性

3. CRMとの連携

解約・失注データを一元管理するために、CRMシステムとの連携が重要です。主要なCRMソフトとの連携方法を以下に示します。

CRMソフト解約・失注データ管理機能連携ポイント
Salesforceカスタムフィールド、解約・失注理由の選択肢設定Webフォーム連携、API連携、Salesforce Flow
HubSpotカスタムプロパティ、ライフサイクルステージ管理Webフォーム連携、API連携、ワークフロー自動化
kintoneカスタム項目、プロセス管理Webフォーム連携、API連携、プラグイン活用

データの質を高めるコツ

収集したデータの質を高めるためには、以下のポイントに注意しましょう。

データ収集の標準化

解約・失注データを収集する際の基準を統一することで、分析の精度が向上します。

  • 解約理由・失注理由のカテゴリを統一する
  • データ入力のルールやガイドラインを作成する
  • 必須入力項目を明確にする

定性データの定量化

顧客の声や営業担当者のコメントといった定性的な情報を、分析可能な定量データに変換します。

  • テキストマイニングを活用したキーワード分析
  • 感情分析による顧客の不満度測定
  • コメントのカテゴリ分類とタグ付け

データの鮮度維持

解約・失注データは、できるだけリアルタイムに収集・更新することが理想的です。

  • 解約手続き直後のアンケート実施
  • 失注確定後24時間以内の報告ルール化
  • データ入力の自動化・簡素化

解約・失注分析の手法と活用事例

定量分析の手法と実践例

解約・失注データの定量分析では、数値データに基づいたパターンや傾向を見出します。以下に主要な分析手法と具体的な実践例を紹介します。

解約率(チャーン率)分析

最も基本的な指標である解約率を様々な切り口で分析します。

計算方法

解約率 = 期間内の解約顧客数 ÷ 期間開始時の総顧客数 × 100

分析のポイント

分析切り口具体的な分析方法活用例
時系列分析月次・四半期ごとの解約率推移季節変動や特定イベントの影響把握
セグメント別顧客属性(業種、規模など)ごとの解約率比較ハイリスクセグメントの特定
コホート分析獲得時期別の解約率の推移顧客獲得方法や時期の影響評価
プラン別料金プランごとの解約率比較最適な価格・プラン設計
機能利用別特定機能の利用有無による解約率比較重要機能の特定とユーザー育成への活用

実践例:SaaS企業の解約率分析

あるSaaS企業が行った解約率分析では、以下のような興味深い発見がありました:

  • 無料トライアルから有料契約した顧客よりも、営業経由で契約した顧客の方が解約率が15%低い
  • 契約後90日以内のオンボーディング期間の利用頻度が週1回未満の顧客は、解約率が3倍高い
  • エンタープライズプランの顧客は標準プランの顧客に比べて解約率が40%低い

これらの発見から、同社はオンボーディングプロセスの改善と、標準プラン顧客へのサポート強化策を実施しました。

失注率分析

提案案件のうち、成約に至らなかった割合を分析します。

計算方法

失注率 = 期間内の失注案件数 ÷ 期間内の案件総数(成約+失注) × 100

分析のポイント

分析切り口具体的な分析方法活用例
営業担当者別担当者ごとの失注率比較成功している営業手法の特定
案件規模別金額帯ごとの失注率比較最適な案件ターゲティング
商談プロセス別商談ステージごとの失注率改善すべき商談ステージの特定
競合別競合企業ごとの失注率比較対抗すべき競合の優先順位付け
見込み客獲得経路別リード獲得チャネルごとの失注率効率的なリード獲得チャネルの特定

実践例:製造業の失注分析

ある製造業企業の失注分析では、次のような傾向が明らかになりました:

  • 初回提案から受注までに3ヶ月以上かかる案件は、失注率が50%上昇
  • 決裁者と直接面談できなかった案件の失注率は、面談できた案件の2倍
  • 既存顧客からの紹介案件は、他のリード獲得経路と比較して失注率が40%低い

この結果に基づき、同社は提案プロセスの短縮と決裁者へのアプローチ強化策を実施しました。

RFM分析による解約予測

RFM分析(Recency:最近の購入、Frequency:購入頻度、Monetary:購入金額)を応用して、解約リスクの高い顧客を特定できます。

RFM分析の解約予測への応用:

指標解約予測への応用高リスク顧客の特徴
Recency(最新性)最後のログインやシステム利用からの経過日数長期間ログインしていない
Frequency(頻度)システム利用頻度や機能の使用回数利用頻度が低い、特定機能の未使用
Monetary(金額)契約金額や追加サービス利用状況最小プランのみ、追加サービス未利用

このRFM分析を基に、顧客を解約リスクレベルでセグメント化し、適切なフォローアップを行うことができます。

定性分析の方法とインサイト抽出

定量分析だけでは見えてこない、解約・失注の「なぜ?」を明らかにするために、定性分析も重要です。以下に主要な定性分析手法とインサイト抽出方法を紹介します。

テキストマイニング

解約理由や失注報告書、顧客のフィードバックなど、テキストデータからパターンや傾向を抽出します。

実施ステップ:

  1. テキストデータの収集・整理
  2. 自然言語処理によるキーワード抽出
  3. 頻出キーワードの可視化(ワードクラウドなど)
  4. 類似のフィードバックのグルーピング
  5. インサイトの抽出と優先順位付け

活用ツール例:

ツール名特徴料金
UserLocal テキストマイニングツール日本語対応が強み、直感的なUI無料プラン〜月額25,000円
KH Coderオープンソースの日本語テキスト分析ソフト無料
Tableauデータの可視化に強み月額7,000円〜
Python(NLTK/MeCab)カスタマイズ性が高い無料(開発リソース必要)

実践例:テキストマイニングによるインサイト抽出

あるBtoB SaaS企業が、1年間の解約理由テキストデータを分析したところ、次のような洞察が得られました:

  • 「使いにくい」「複雑」というキーワードが頻出し、特に「レポート機能」と共起することが多い
  • 「競合」というキーワードと共に「価格」「安い」が頻出する一方、「機能」との共起は少ない
  • 「サポート」「遅い」「対応」が組み合わさって出現するケースが増加傾向

これらのインサイトから、同社はUIの改善、価格競争力の強化、サポート体制の見直しを行いました。

解約インタビュー

解約した顧客に直接インタビューを行い、深層的な理由や背景を探ります。

インタビューのポイント:

ポイント説明具体的な質問例
オープンな質問回答者が自由に回答できる質問「私たちのサービスをやめることになった経緯を教えていただけますか?」
掘り下げ質問表面的な回答を深掘りする質問「その機能が物足りないと感じた具体的な状況を教えていただけますか?」
代替案の探索顧客のニーズをより深く理解する質問「どのような機能があれば、より価値を感じていただけましたか?」
感情の探索感情的な側面を理解する質問「その時、どのような気持ちでしたか?」
転用可能性再利用の可能性を探る質問「どのような改善があれば、再度ご利用を検討いただけますか?」

実践例:解約インタビューの洞察

あるサブスクリプションサービスが行った解約インタビューから得られた洞察:

  • アンケートでは「価格が高い」と回答した顧客の多くが、インタビューでは「価格に見合った価値を感じられなかった」と回答
  • 「使わなくなった」と回答した顧客の背景には、「初期設定の複雑さ」があり、正しく設定できていないケースが多数
  • 競合に乗り換えた顧客の大半は、特定の1機能のために乗り換えており、全体的な機能比較ではない

これらの洞察から、同社は「価値の可視化」「オンボーディングの改善」「競合差別化機能の開発」を優先課題として設定しました。

解約・失注分析のケーススタディ

実際の企業がどのように解約・失注分析を活用して成果を上げたのか、具体的なケーススタディを紹介します。

ケース1:SaaSスタートアップの解約率削減

企業概要: 中小企業向けのマーケティング自動化ツールを提供するスタートアップ

課題: 月次解約率が7%と業界平均(3-4%)を大きく上回っている

分析アプローチ:

  1. コホート分析: 顧客獲得チャネル別、契約プラン別の解約率を分析
  2. 利用データ分析: 解約顧客と継続顧客の利用パターンを比較
  3. 解約アンケート+インタビュー: 定性的なフィードバックを収集

主な発見:

  • 無料トライアルから自動的に課金開始した顧客の解約率が特に高い(15%)
  • 契約後30日間で特定の5つの主要機能を使用していない顧客の解約率が高い
  • 「期待した成果が得られない」という解約理由が最も多く、具体的な活用方法がわからないという声が多い

実施した施策:

  1. オンボーディングプロセスの改善:契約後30日間の集中サポートプログラムを導入
  2. 成功事例の共有:業種別の活用事例と成果指標を作成・共有
  3. 利用状況に基づくフォロー:未使用主要機能がある顧客への能動的なサポート提供

結果: 約3か月の取り組みで、月次解約率を7%から4.2%に削減。年間換算で約30%の収益改善に成功。

ケース2:製造業の失注率改善

企業概要: 工場向け機械設備を製造・販売する中堅製造業

課題: 競合との価格競争が激化し、失注率が前年比10%増加

分析アプローチ:

  1. 競合別失注分析: 主要競合ごとの失注案件の特徴を分析
  2. 決裁プロセス分析: 失注案件の意思決定プロセスを追跡
  3. 営業担当者ヒアリング: 失注のパターンを質的に把握

主な発見:

  • 新規顧客案件の失注率(65%)が既存顧客の追加案件(30%)より大幅に高い
  • 技術担当者のみとの商談が中心で、経営層への価値訴求が不足
  • コスト削減効果の定量的な提示が不足している案件の失注率が高い

実施した施策:

  1. 提案内容の見直し:TCO(総所有コスト)分析と投資回収期間の明確化
  2. 営業プロセスの改善:経営層向けの価値訴求資料の開発と活用
  3. 事例集の強化:業種別・用途別の導入効果を定量的に示した事例集の作成

結果: 6か月間で失注率を15%削減し、平均受注単価を8%向上させることに成功。

解約・失注分析の活用と改善サイクル

データに基づく改善施策の立案

解約・失注分析から得られた洞察を、具体的な改善施策に落とし込むステップを解説します。

優先課題の特定と施策立案フレームワーク

限られたリソースで最大の効果を得るために、優先的に取り組むべき課題を特定し、適切な施策を立案するフレームワークを紹介します。

インパクトマトリックス:

解約・失注要因を「発生頻度」と「影響度」の2軸でマッピングし、優先的に対応すべき課題を特定します。

quadrantChart title "解約・失注要因のインパクトマトリックス" x-axis "影響度(低 → 高)" y-axis "発生頻度(低 → 高)" quadrant-1 "即時対応" quadrant-2 "モニタリング" quadrant-3 "計画的対応" quadrant-4 "詳細調査" "価格が高いと感じる": [0.8, 0.7] "競合に機能で劣る": [0.9, 0.6] "サポート対応が遅い": [0.7, 0.4] "操作が複雑/難しい": [0.6, 0.8] "期待した成果が出ない": [0.9, 0.8] "担当者の知識不足": [0.5, 0.3] "セキュリティへの懸念": [0.8, 0.2] "システム不安定": [0.7, 0.1]

このマトリックスに基づき、右上の「即時対応」象限に位置する課題(「期待した成果が出ない」「操作が複雑/難しい」「価格が高いと感じる」など)から優先的に取り組むべきです。

PDCA管理表による改善サイクル

特定した課題に対する改善施策を計画・実行・評価するためのPDCA管理表を作成します。

フェーズ内容ツール・手法
Plan(計画)課題特定、目標設定、対策立案インパクトマトリックス、5Why分析
Do(実行)施策の実施、進捗管理プロジェクト管理ツール(Trello、Asanaなど)
Check(評価)効果測定、KPI確認ダッシュボード、A/Bテスト
Act(改善)施策の見直し、標準化ふりかえりミーティング、ベストプラクティス集

PDCAサイクルの具体例:「操作が複雑/難しい」という課題に対して

フェーズ内容
Plan課題:UI/UXの複雑さによる操作困難
目標:オンボーディング完了率を現状の40%から70%に向上
施策:1) チュートリアル動画の作成、2) インターフェース簡素化、3) ウォークスルーガイド導入
Doチュートリアル動画を10本制作
主要機能のUIを簡素化
新規ユーザー向けウォークスルーガイドを実装
Checkオンボーディング完了率:65%(+25%)
主要機能の利用率:35%→52%
初月の解約率:12%→8%
Actチュートリアル動画をさらに5本追加
ウォークスルーガイドの対象機能を拡大
初期画面のカスタマイズ機能を追加

組織全体での活用方法

解約・失注分析は、マーケティング部門だけでなく、組織全体で活用することで最大の効果を発揮します。各部門での活用方法を紹介します。

部門別の活用ポイント

部門活用ポイント具体的なアクション例
製品開発製品改善の優先順位付け解約理由として挙げられた機能の改善を優先
失注理由となった機能ギャップの解消
マーケティング訴求内容・ターゲティングの最適化解約リスクの低いセグメントへの重点的アプローチ
顧客期待値の適正化
営業提案内容・プロセスの改善競合との差別化ポイントの明確化
失注パターンに基づく商談プロセスの最適化
カスタマーサクセス顧客維持施策の設計解約予兆スコアに基づく早期介入
顧客育成プログラムの改善
経営層事業戦略への反映製品ロードマップへの優先的な組み込み
価格戦略・事業方針の見直し

クロスファンクショナルな改善プロセス

組織横断的なチームを編成し、解約・失注の課題解決に取り組むプロセスを構築することが効果的です。

graph TD A[解約・失注データ収集] --> B[分析チームによる要因特定] B --> C[クロスファンクショナルミーティング] C --> D[部門別アクション計画立案] D --> E[施策実行とKPI管理] E --> F[効果測定と改善] F --> G[成功事例の共有・横展開] G --> A style A fill:#d4f1f9,stroke:#333 style B fill:#d4f1f9,stroke:#333 style C fill:#ffd700,stroke:#333 style D fill:#ffd700,stroke:#333 style E fill:#d4f1f9,stroke:#333 style F fill:#d4f1f9,stroke:#333 style G fill:#d4f1f9,stroke:#333

実践のポイント:

  1. 定期的なクロスファンクショナルミーティング:月1回など定期的に部門横断の会議を開催し、解約・失注データを共有・議論する場を設ける
  2. 共通のダッシュボード作成:全部門が解約・失注データにアクセスできるダッシュボードを構築し、情報の透明性を確保する
  3. 改善施策の責任所在の明確化:特定された課題に対して、主担当部門と協力部門を明確にし、責任を持って改善を進める体制を構築する
  4. 成功事例の共有と学習:解約防止や受注率向上に成功した事例を社内で共有し、組織全体の知見として蓄積する

解約予測モデルの構築と活用

解約・失注データの蓄積と分析が進むと、予測モデルを構築することで、解約リスクの高い顧客を事前に特定し、先手を打った対策が可能になります。

解約予測モデルの基本

項目内容
目的解約リスクの高い顧客を事前に特定し、対策を講じること
予測対象個々の顧客の解約確率(0〜100%)
主な入力データ利用データ(頻度、機能別利用状況など)
顧客属性データ(業種、規模、契約期間など)
行動データ(サポート問い合わせ、ログイン履歴など)
モデル例ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、勾配ブースティング
評価指標AUC(Area Under the Curve)、適合率、再現率

予測モデル実装のステップ

graph LR A[データ準備] --> B[特徴量エンジニアリング] B --> C[モデル構築] C --> D[精度評価とチューニング] D --> E[モデルの運用] E --> F[継続的改善] style A fill:#d4f1f9,stroke:#333 style B fill:#d4f1f9,stroke:#333 style C fill:#d4f1f9,stroke:#333 style D fill:#d4f1f9,stroke:#333 style E fill:#d4f1f9,stroke:#333 style F fill:#d4f1f9,stroke:#333

1. データ準備: 解約履歴、利用データ、顧客属性データなどを収集・統合

2. 特徴量エンジニアリング: 予測に有用な変数(特徴量)を作成

  • 利用頻度の変化率
  • 主要機能の利用率
  • サポート問い合わせ回数/内容
  • 契約更新までの残り日数
  • 業種・規模などの属性情報

3. モデル構築: 機械学習アルゴリズムを選択し、モデルを訓練

4. 精度評価とチューニング: モデルの予測精度を評価し、パラメータを最適化

5. モデルの運用: 定期的(週次/日次)に予測を実行し、高リスク顧客を特定

6. 継続的改善: 新たなデータでモデルを定期的に再訓練し、精度を向上

予測結果の活用方法

予測モデルにより特定された解約リスクの高い顧客に対して、リスクレベルに応じた介入策を実施します。

リスクレベル指標介入策
最高リスク解約確率80%以上CSマネージャーによる緊急フォローコール
値引きや特典の提案
エグゼクティブレベルでの関係強化
高リスク解約確率50-80%CSによる利用状況レビューミーティング
追加トレーニングの提案
成功事例の共有
中リスク解約確率30-50%利用促進のためのメールキャンペーン
ウェビナーへの招待
活用提案の送付
低リスク解約確率30%未満通常のフォロープログラムの継続
定期的な満足度調査
新機能の案内

実践例:SaaS企業の解約予測と介入プログラム

あるSaaS企業では、解約予測モデルを活用した「顧客維持プログラム」を実施し、以下の成果を上げました:

  • 解約確率70%以上と予測された顧客の40%を維持することに成功
  • カスタマーサクセスチームのリソース配分最適化により、対応効率が30%向上
  • 顧客維持コストが平均15%削減(効果的な介入策の選定により)

このプログラムの鍵となったのは、リスクレベルに応じた適切な介入策の設計と、予測モデルの継続的な改善サイクルの確立でした。

まとめ

解約・失注分析は、企業成長の隠れた鍵です。新規顧客獲得に注力するあまり、既存顧客の維持や失注理由の分析が後回しになっていないでしょうか?本記事で紹介した手法とフレームワークを活用し、データに基づいた改善サイクルを回すことで、持続的な事業成長を実現しましょう。

key takeaways

  • 解約・失注分析の重要性:新規顧客獲得より既存顧客維持の方がコスト効率が5〜25倍高く、解約率の5%改善が利益を25〜95%向上させる可能性がある
  • 必要なデータ収集:基本情報、利用状況、顧客属性、解約/失注理由、コミュニケーション履歴などを体系的に収集することが重要
  • 定量・定性分析の組み合わせ:解約率や失注率の数値分析だけでなく、テキストマイニングやインタビューによる定性分析も併用することで深い洞察を得られる
  • 5W1H分析とカスタマージャーニー:解約・失注を「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「なぜ」「どのように」の視点で分析し、顧客体験の流れの中で問題点を特定する
  • インパクトマトリックス活用:発生頻度と影響度の2軸で解約・失注要因を評価し、優先的に対応すべき課題を特定する
  • クロスファンクショナルな改善:マーケティング、営業、製品開発、カスタマーサクセスなど部門横断での改善活動が効果的
  • 解約予測モデルの構築:機械学習を活用して解約リスクの高い顧客を事前に特定し、リスクレベルに応じた介入策を実施することで顧客維持率を向上できる

顧客維持と獲得のバランスを取りながら、データに基づいた改善サイクルを継続的に回すことが、持続的な事業成長の鍵となります。まずは自社の解約・失注データの収集体制を整備し、小さな分析から始めてみてください。その分析から得られた洞察が、あなたのビジネスを次のレベルに引き上げるきっかけになるでしょう。

この記事を書いた人
tomihey

14年以上のマーケティング経験をもとにWho/What/Howの構築支援と啓蒙活動中です。詳しくは下記からWEBサイト、Xをご確認ください。

https://user-in.co.jp/
https://x.com/tomiheyhey

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